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勝利の対価。残った後遺症..


「ふわぁ~ん~~」


 私は起き上がった。フカフカのベットに大きな広い部屋。私を閉じ込めるだけに用意された寝室の風景に懐かしく感じる。「寒かった時期も終わりか~」と思いつつ。背伸びする。窓の外等を見ると昼頃らしい。


 ジクッ!!


「つぅうううううううう!?」


 背伸びした瞬間。全身に皮膚の内から針で刺された痛みがして私は叫んでしまう。


「魔力使いすぎたツケね………まぁ大丈夫。生きてる。ちょっと周りもボヤけてるけど大丈夫………トキヤどこぉおおおお!!」


 生まれたての雛のように旦那の名前を私は叫んだ。扉の前で物音がして、慌てる雰囲気がする。待っていれば大丈夫だろう。


ドタドタドタドタ!!


「ネフィア!?」


「おおお、3分ぐらいで来た」


「起きたか!? 痛いところは!?」


「あーまだ。全身が少しピリッとする」


「……そうか。まぁ血だらけで回復魔法も薬も効かなかった程。重症だったからな」


 攻撃を受けた訳じゃなくても重症だった。魔法と言うのは諸刃の剣とは思っていたけどここまでとは思わなかった。いや……気にする暇は無かったのだろう。それだけ奴は強い竜だった。


「……皆は?」


「皆は一部竜化できないほど弱まり、そのままナスティに乗って都市に帰した。グランドも何故か力を失い。ドレイクの姿だ」


「ふーん!! まぁいいの!! トキヤさん~ぎゅうしてぇ~なでぇ~も」


「起きていきなりそれか………」


 私は呆れるトキヤさんに触れようとした瞬間……伸ばした手が空を切った。


「あれ?」


 何度も何度も。空を切る。ブンブンと振り回しても掴めない。


「ね、ネフィアお前……」


「おかしいなぁ……」


「……ネフィアそのまま」


 トキヤが私の空を切る手を掴む。暖かく逞しい手にドキッとした。


「トキヤの手~大きい」


「お前……自分で気が付いていないのか?」


「ん?」


「左目隠すぞ」


 そう言って私の左目を手で隠す。彼は繋いだ手を痛いほど強く握り締めながら。


「………どうだ」


「手しか見えない」


 そう、私の目の前が完全に塞がる。


「ネフィア……」


 手を退かしたトキヤが手鏡を持ってくる。


「右目が……青い」


 左目と右目で色が違い。右目が青く。左目は金色だ。


「ああ、お前の目はコロコロ色が変わる。だが……両目同時だったし、今のお前がまるで『距離感を掴めてない』と思い。もしかしたらと思ったが……」


「右目……見えてないね」


 左目を閉じると左目だけほんの少し瞼の裏が明るい。それ以外で……全体的に左寄りに見える。ボヤけていたのがおさまり。右側が見え……にくい事に気が付く。


「ネフィア……気をしっかり持て」


 優しく抱き締めれらながら、頭を撫でられる。


「トキヤ……優しい。大丈夫……こうやって触れられるし。足もある。手もある。あんな事やったあとだもん。右目だけ。見えなくなったのでよかったよ」


「わからない……右目だけか……立てるか?」


 私はトキヤに手を添えてもらいながら立とうとして……力が入らず。トキヤに抱き締められる。


「あっ……うっ………ちょっとまだ。力が入らない。それと……なんだろ。足……あるよね?」


「ネフィア……医者を呼ぶ」


 結局……私は一人では立てなかった。





「うむ………」


「先生どうですか?」


「姫様の具合は?」


「………はぁ」


 先生と呼ばれる白衣を着た牙と角を持ったオーガ族の首都の医者は首を振る。最近、増えたエルフ以外の多種族の医者である。


「魔法で確認したが目は完全に失明。足に関しては……少し痛覚などの感覚が薄い。全くない訳じゃないが『感じにくい』と言うことだと思う」


 色々とさわりながら私に質問し受け答えての判断だ。


「感じにくいのやだ!! 行為するときどうするの!!」


「……ネフィア。軽く空気を和ませようとするのはいい。もう少し休んどけ」


「えっ?」


 いや、本心なのに。皆が顔を背ける。痛々しい物を見るように。


「ちょ、ちょっと空気重たいよ!?」


「トキヤ殿、話があります」


「ああ、先生。ありがとう」


「いいえ。ワシは何も出来なかったからの……」


「いえ……いえ……では姫様……安静にお願いします」


「ネフィア。寝とけよ……大人しくな」


「今は安静が一番です。一応痛み止めの劇薬は置いております。苦しくなったらお飲みください」


「あ、ありがとう」


 皆が優しすぎるのが少し怖い。ぞろぞろと部屋を出ていく。


「……何を隠しているんだろうか?」


 私は天井を仰ぎ。体を抱き締める。


「はぁ。歪んでる」


 天井は歪んで見える。まだ本調子じゃないらしい。痛みも耐えられるぐらいだが……痛覚を戻すと皮膚を抉られる程度で問題ない。


「………んぅ。寝よ」


 私は横になった。モヤモヤとした心の状態で目を閉じる。





 私はエルフ族長独断で止めるのが正解だったのではと悩みながら、執務室でトキヤ殿と椅子に座り話をする。フィアには席を外してもらい。誰も居ないことを確認して話を始める。


「姫様が目覚めるまで1ヶ月……動きが速い」


「連絡は寝ずに早足で1週間前だとしても商品の流れと噂を加味しても……やはり現実味が出てきたな。帝国に物資が集まり続けている」


 トキヤ殿が帝国内部の情報を纏めている。やはり元帝国騎士。それも黒騎士であったために詳しく。帝国内の偵察者も素晴らしいほどに情報をいただけている。


「……北伐の計画は多かった。そうだな……帝国の最大の敵は我らの旧名、魔族だったな」


「……何故。この時期と思われます? 私めはまるで……ネフィア様が弱い時を狙ったように見えます」


「今が全て丁度いいのと………時間がないためだな」


「時間がない?」


「北伐が見送られたのは魔国は烏合の集と思われていた。それよりも隣国に危険因子が多く。東は連合。南は魔法国家。西はマクシミリアン騎士団があり。全方位敵だった訳だ。皇帝が生きている間に中央は帝国の物となり非常に強権だったために今がある」


 私は生まれてから、今の帝国を知っているだけで昔はしらない。エルフでは若造である。まぁ森を出た種族では古参だが。


「北伐するよりも……他を倒すべきですか?」


「全面戦争は大変だ。だからこそ勝手に滅んだマクシミリアン王国は帝国にとっちゃ運が良かった。現状は帝国領マクシミリアン自治国。味方に与してる。そして、最近。二つほど懸念事項が減った」


 それは……どういう事か私にもわかった。時代の奔流が速い。まるで姫様が生まれてからの数年で世界がこうまで変わるとは誰が予想出来ただろうか。


「一つは……連合国の敗北。第二回東伐で決着した」


「なぜ第一回は失敗したのにもですか?」


「失敗した? 有能な騎士、魔法使いは全部消した。白騎士団は壊滅したが帝国の被害は兵士のみが多い」


「……どういう事ですか?」


「連合国騎士団壊滅。将と呼べる騎士は皆、俺達が斬り伏せた。第二回、第三回と何回にも分けて国を疲弊させ。そして……」


「抵抗余力を全て消し去るのですね」


「そう。降伏するまで続ける。それが出来る国力なんだよ……そして。今回」


「今回は何か?」


「南側、魔法を主とする帝国領の危険因子が消えた」


「あれは帝国の領土では?」


「帝国の奪った領土だ。チマチマ暴動も水面下で色々といざこざがある国だった。南騎士団は平和のようで非常に屈強なのが多い理由だな」


 風竜と言う天災がそれを全て消し去ってしまった。結局、帝国の益だった訳だ。それも折り込み済みなのだろう。


「四方で最後に残ったのは……我々」


「ああ。もう北に行く準備が揃った。そして、今………俺達は英魔族で手を握ってしまった」


「……脅威と見なされましたか」


「烏合の集が手を組んでひとつになる前に手を打つのがいいが。手を組んでいる間の今も攻めるのは丁度いいともとれる。出る釘は打たれるからな………」


「……内政志向でしたが。そこを狙われた訳ですね」


「ああ。今から軍の編制。国境に配備は厳しい。国境も広くなった」


 私は大きくため息を吐く。今から……そう、今からやっと纏まり、国を栄えさそうとしている時に横槍を入れられ。いや、刺されている気分だ。逆にチャンスでもある。


「ネフィアが弱い今だとも……言えるし……悲しいかな。俺達は弱い」


「……どうしてそうと?」


「あっちは何年も戦争している。こっちは族長同士の喧嘩だけ……経験が違いすぎる」


「……敗北濃厚と?」


「今の俺にはそうとしか思えない」


「挙兵はいつでしょうか?」


「いつでもいい。冬を念頭に長期間戦うならな。いや、長期間になるだろう。物量で目一杯攻めるべきだ」


 ガタッ!!


「だ、だれだ!!」


 私は扉が開けられ驚く。トキヤ殿もナイフを構えた。しかし、その現れた人物に息を飲む。


「はぁ……はぁ……一ヶ月ぐらい寝ていたのね……」


「姫様!?」


「ネフィア!?」


 ズリュ


 扉の前で崩れる姫様に私たちは駆け寄った。トキヤ殿が抱き締めながら怒声を発する。


「ネフィア!! どうしてここに!!」


「衛兵に開けて貰ったの……でっ……一人で来たけど。ふふ………笑っちゃう……いっぱいぶつかちゃったし転けちゃった」


「姫様……安静に」


「安静に? 今、すごく大変な事があるんでしょ? 寝てなんか居られない」


 息が荒いまま。姫様は顔をあげる。その顔は恐ろしく青い。


「しかし、姫様……その体では」


「手も足も動く。目は方目は見えるし……言葉も出る。生きている……それに……」


 私は跪き姫様の左目を覗いた。オッドアイとなった姫様の澄んだ瞳に強い意思を感じとる。


「私は英魔の女王でしょ?」


 私は唇を噛む。私が無理矢理用意した席に女王は応えようしていた。身を犠牲にしながら。


「……はい。姫様……いいえ、女王陛下」


「ネフィア。本当に大丈夫か?」


「トキヤ……大丈夫っていうのは大丈夫じゃない。でもね、トキヤとの日々を護らなくちゃ。ついでに……」


 涙が出そうだった。こんな痛々しいお姿でも「動けるなら」という姫様は笑顔で頷くのだから。


 私は拳を握り、頭を振る。自己犠牲で帝国を護った彼女に。私は決心する。


「姫様……一緒に会議に参加して貰えないでしょうか?」


「もちろん……休む暇ないね……だから嫌だったの魔王は………」


 クスクスと姫様はトキヤ殿の腕の中で笑うのだった。

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