風竜王と英魔王..
「私の目の前で………悲愛は認めない!!」
声を響かせる。私の信念に近い物を叫び現れた。
黒い槍の雨が横凪ぎの嵐を何十、何百の爆発で吹き飛ばした。赤く………青く………そして白く輝きながら燃える鳥を風竜の目の前に出現させ、ナスティを包み込み。風竜から引き剥がす。
風竜の手の鱗が剥がれ落ちている。私の攻撃が通る事がそれでわかった。
「何だ!?」
風竜がこちらを見る。貪欲な黒い雲の中で隠れながら様子を伺っていた私は風によって雲を凪ぎ払い姿を晒す。大きな大きな白い翼を広げてやつを見た。
歌声を響かせる。魔力を伝え、回復呪文を唱えた。魔力は最大出力だ。
「お前は………誰だ。いったい………地竜の姿もだが……」
風竜が狼狽えていた。その目には確かに覚えがあるのだろう。私の羽根の姿に。
「名を名乗れ!! 王の面前であるぞ!!」
ワン・グランドと共に皆が黙り私を注視していた。自分を鼓舞するために頭の中で覚えのある荘厳な音楽とともにその場の雰囲気を変える。敗色濃厚な空気を振り払うつもりで胸をはる。
ザッ!!
大きなドラゴンが描かれた旗がはためき……それを地面に突き刺した。陛下から戴いた宝具。ただの旗が多くの英雄とともにあり。いつしか力を持った皇帝旗だ。
「………人間?」
「いいえ、英魔族……そう!!」
帝国皇帝陛下の旗の隣で私は名乗る。初めてな気がする。ここまで本気に叫ぶのは。
「我は英魔共栄国!! 初代女王!! ネフィア・ネロリリスなりや!!」
堂々と宣言した。そう私は魔王様だ。
「お前が……魔王。あの女神が言っていた。そうかそうか、長き眠りの間に出会った女神だが。奴が嫌がるのも面白い……我が最初に」
「金竜ウロ程度にやられた竜がなんですって? えらそうに」
ピクッ
「胸張って堂々としてても理性は生まれなかったようですね。まぁ~あの金竜が見捨てるのですからそうでしょうね」
ピクピク
私は風竜の周りの風があわだたしく荒れ始めるのに笑みを溢した。最高に挑発が効く。
「最弱のエルダードラゴンさま? どうされました?」
がああああああああ!!
暴風が私を凪ぎ払おうとするが私は1回転し翼で追い返す。風を弾く事が出来た。
「そよ風が通ったかしら?」
「小さき者よ!! その蛮勇後悔させてやる!!」
「……いいでしょう。かかってきなさい!!」
私は本当に心の底から愚かと評し。視線を私に向けることが出来た。頭の中で……勝利への道を考える。
「何分で行けるのでしょうね?」
バサッ!!
私の隣にボルケーノが降り立ち。こっそり耳で伝えていた。「囮作戦があるから来て」と。
「ネフィア……怒り狂ってるじゃない。奴」
「……背中乗せてくださいね。作戦通りに囮をやりますよ」
「本当に……数分持つの?」
「持たせるのです……何としてでも」
火竜に乗り、彼女は土竜から手綱を受けとる。
「本当に……ボルケーノ。昔に比べて……」
「なに!? いきなりなによ!?」
「いいえ、行きますよ!!」
私は大きく叫んだ。倒すために。
「旧き竜よ!! 私に力を貸して!!」
旧き竜たちは私の問いに咆哮で答え………新しい血筋の竜は私に「切り札となれ」と伝えられてその場を去った。
*
僕は……ネフィア姉さんから一つ託された。壁の上で陽光差す中で……僕の耳元で囁かれる。
「空、見たいですか?」
「……あっ。あっ!? あっ!!」
僕は……姉さんの手の暖かみと力強く引っ張られているのを思い出した。
僕は……理解した。いや、思い出した。あの日の光景を。あの日出会っていた事を。
一度、故郷に顔を出した。生まれ変わる前のあの日。そう、天使を見たのは覚えていた。ただ誰か……声も顔もボヤけていたのが今はっきりと思い出す。死神だったような気もするがそんなわけではなかった。
「あなたの空で……彼を倒しなさい」
「ぼ、ぼくが?」
「もちろん……時間は稼ぐ。誰よりも越えている物があるでしょう」
「ネフィア姉さん……」
「さぁ!! 早く!! あなたが切り札となれ」
僕は小さい翼を広げ飛び。くるっと回って都市から離れていく。
「……痛いだろうなぁ」
思い出したかのように僕は……劣種ワイバーンの力で竜に挑もうと思っている。空はどんよりした雲で覆われ、それが嫌なのでそれを切り裂きながら。ゆっくりと速度をあげる。
空は青く、何処までも続いている。
「あの、初めて飛んだ日もずっと夜になるまで飛んで……竜姉に怒られたっけ」
過去を思い出しながら。目を閉じた。あの日窓を飛び出した日を思い出しながら。
*
飛んだ。彼は何をするかはわからない。だけど彼ならきっと何かするだろうという直感だけで。最後の攻撃を任した。
「加速速い」
「そうだろう!! あいつは私が育てた!!」
「はいはい、ボルケーノ。彼は凄いね」
「ふふふ」
「しねぇ!! カトンボ!!」
ヒョイヒョイ!! ガン!!
黒槍の猛攻を避けながら、私は炎弾で撃ち落とす。ワイバーンデラスティの攻撃がどんなのになるか……少し予想がつくのでそのまま時間を稼ぐ。
「……逃げ惑って何もしないか!!」
「……」
逃げ惑っているが。槍の本数が増えていくのを見るとジリ貧になることがわかる。そして……あまり風竜を動かさないのも重要である。
「ボルケーノ……今から。護りはやめよ」
「……ネフィア?」
「攻め続けるわ。防御だけさせ続ければ……」
火竜の背中で大きく翼を広げ。私の炎の鳥が分離する。翼を維持したまま……同時に。
「うぐっ!?」
「ネフィア!?」
「大丈夫……ちょっと頭痛がするだけよ。最大出力で魔力を放出するから」
ジュクジュクと頭が痛み。背中や体の内から抉られるような痛みが私を苛む。魔法行使の対価。負荷が体に出ている。回復魔法を越えた体の悲鳴だ。
「………!?」
風竜が黒槍を止め、何か感じ竜巻を生んで、身を隠す。竜巻に小さな刃が混じり、突っ込めば切り刻まれるだろう事が予測できた。風竜なりに金竜の突貫を許さない方法を考えたのだろう。封印されているときに。
「ボルケーノ……暴れるの好きでしょ? ヘルカイトより」
「……まぁ、ヘルカイトより好きじゃないけど?」
「素直じゃないね」
「うっさい……昔を思い出すような発言すな」
白い炎の鳥が竜巻に突っ込んで爆発を続ける。何度も、何度も爆発を繰り返して竜巻を消そうともがく。
「くぅ……まだよ、まだ!! 同時詠唱!!」
「「爆炎の二重翼!!」」
魔力がボルケーノと私から霧散し、大気に混じる。それが竜巻に巻き込まれ。幾多の爆発を産み、破壊を撒き散らしたら。黒い刃が砕け、竜巻は捻れ、歪む。魔力片が滅んでいく都市に撒き散らされ都市で役割を終えた筈の魔方陣が息を吹き返す。それを利用させて貰う。
「迫撃砲!!」
「|迫撃砲!!《全て吹き飛びなさい!!》」
再度、魔力をもらった魔方陣から大きな炎の弾が上空の竜巻に向かう。
「がぁああああああ!!絶対なる風壁」
竜巻が紅く膨大な熱を巻き込み、炎の渦になる。中の竜が蒸し焼きになるほどの熱量を蓄える。
「ボルケーノ……もう1回行くよ」
「ま、まて魔力がない………」
「まだ、ある!!」
私は魔力をボルケーノのに流し込んだ。何故、そんな事が出来るかわからない。でも私の魔力は竜を越えていた。体が痛むが我慢して対応する。
「ま、まちな!! 私は竜だから連発しても……そんなことにはならないけど。お前は持たないぞ!?」
「ツベコベ言うな!! 余は魔王ぞ!! 無理を通してこそだ!!」
「わ、わかったわよ!!」
私は痛みと何処から流れている血をなめとりながら魔力をだし続ける。手綱を持つ右手の感覚が一切ないのを気にもせずに。いや、痛覚がゆっくり死んでいきながら楽になる。
*
「地獄の業火!!」
「火の玉!!」
私はヘルカイトのそばで竜巻にブレスを吐き続ける。一応ドラゴンの発熱器官も持っているので弱いながらも玉を吐けた。
しかし、お隣では熱線と言うべき。極太い柱の魔力の渦のような物を吐き続けるヘルカイトがいて添え物程度の威力だった。
「げほ………げほ……」
「ヘル!?」
「まだ、いける。くっそ化け物め……あれだけの攻撃を防ぐか」
「……私が足でまといなの……ごめん」
「……いいや。帰りはおんぶしてくれ」
ヘルカイトが弱音を吐きながら……もう一度力を貯める。ドラゴンゾンビと言う弱さに泣く。
「まったく……化け物同士だな。火竜ボルケーノの魔力が回復していく。あんな小さい体に何処まで貯めてるんだ」
「……わかった。温存する」
「俺が喉が焼ききれてぶっ倒れたら頼むぞ」
「ええ」
ヘルカイトはもう一度ブレスを吐き出した。絞り出すように。
*
「くぅ………………痛うっ!?」
痛みが復活する。頭に拳を殴られた痛みではなくナイフで突かれたような鋭い痛みだった。
「ネフィア!? 大丈夫なの!?」
「ふぅ……ふぅ……はぁ……ええ。一瞬だけ気を失ったけど起きたわ」
右目が痛む。全身が針で刺されているよう激痛。皮膚の至るところから血が滴り、痛みが死んでいたのが復活させて私の体は限界が近い事を告げる。魔力の多大な喪失による気絶と痛みによる復帰を繰り返しながら。風竜の防御を崩そうとする。
「風竜……本気で防御に専念してるね」
「ええ、どうやって攻撃を通せばいい?」
嬉しいことにボルケーノは私を頼ってくれる。
「突っ込みましょう。そろそろですね」
「……あの竜巻に?」
「ええ、そう……」
頭を振り、舌を噛む。また痛みが引き、眠りそうな頭を無理矢理まだ痛覚が生きている場所を傷をつけて起きさせた。
「行きますよ!! 風竜聞こえてるでしょう!!」
「……」
「今から行ってやります!!」
風竜の竜巻に向けてボルケーノは飛ぶ、そして。
「ククク!! お前らの猛攻!! それで終わりか!! 俺は耐えた!! 耐え切ったぞ!!」
野太い歓喜の声に私はにやつく。ここにいる竜は一応疑問に思っていた。私の伴侶を。
一人、いないことを。猛攻にそんな小さな人間を気にする奴はいない。
「対抗呪文。嵐を支配する者」
私の愛しい人の声が響く。崩壊した壁の上で術式を描ききり、魔力を流して魔法を唱えた。
炎を纏った竜巻の回転が弱まり。地面に破壊の跡を残して消え去る。雲が風竜の周りから消え去り、陽が差す。
「な、何が!? 何を!?」
「力があると。技術を鍛えようとはしないわな」
「もう一匹いただと!?」
相手の力を利用し逆回転の力で緩ませる。足りない魔力は全て私から貰い。私の彼は長い間、風を操ってきたので技術なら上だろう。力の流し方もわかっている。だから打ち消した濃厚な魔力は上空へと上がる。不意打ちの得意な彼らしいいい仕事だった。
「ネフィア。俺の仕事は終わった」
「「…………永き眠りに墜ちろ」」
ボルケーノが風竜に近付きながら、私と同時に唱える。風竜はその詠唱に覚えがあるように体を捻らせ黒い槍を手に持ち、投げ付ける。
私の声真似はよく効くようだ。
「やめろおおおおおおお!!」
「…………ばーか。ウロとボロスじゃないから唱えられない。最後の一矢を受けてみよ!!」
私は舌を出して、してやったりの顔をしたあと。ゆっくりと手綱を……力が入らず。スルッと抜けてしまった。
体が重く感じられ、指一本も動かせずにボルケーノの背から落ちる。黒い槍をボルケーノが避けようとした瞬間。振り落とされた私はそのまま落ちていく。
*
ボルケーノは背中のネフィアが落ちるのを感じ慌てて拾おうかと身を捻ろうとした瞬間だった。
一閃。刹那的に時間がゆっくりとなり目の前の光景が飛び込んでくる。
目を閉じたワイバーンがネフィアに気を反らされた風竜に体当たりをするだけの光景が見えたのだ。
しかし、それが刹那的な光景なのはボルケーノは吹き飛ばされてわかった。遅れて聞こえる愛しい我が子のように育てた子の勇ましい声でハッキリ何が起きたかを知ろうとする。
「音速弾」
キィイイイイイイイイイイン!!
甲高い。魔力の擦れる音と風圧に鱗が裂け風竜から距離を離される。驚くべきは歪んだ音と共に空間が捻れていたように彼女は感じた。彼女は何が起きたか、近くではわからなかったが風竜の驚いた表情と共に、真っ二つに千切れ飛んでいるのを見て理解する。
それに混じり、ワイバーンがクルクルと鱗が剥げながら地面にぶつかってバンバンと弾けながら転がっていた。
風竜の絶命の叫びが木霊するなかでボルケーノのツバサが千切れたワイバーンの元へ飛んだ。ネフィアを忘れて。
*
落ちる。墜ちる。堕ちる。
金竜の私の体から彼女の力は無くなり、痛みも苦しみも何もなくなる。
ネフィア様の力が抜け、魔法が解けてしまった。落ちる私は誰かに受け止められていた。
地面に落ちる衝撃はなく。暖かい何かに抱き締められている。
「ウロおおおおお!!」
「んっ………」
耳元で叫ばれ目を開けると。愛しい銀色の竜が私を見ていた。一番始めに理性を持っていそうな彼に最後を看取ってくれるのは嬉しいことなのだと私は思う。
あのまま、眠ったままだったら。こんな事は起きなかったし。そう、やっぱり後悔していただろう。
私は「彼が苦しむから黙っていよう」と思っていた。けど……「彼は強いと信じて言おう」と思う。最後の奇跡をありがとうございます。
「ウロ!? 大丈夫か!? 何処でそんな力を!!」
「ふふ、天使って居るんですよ。きっと……ねぇボロス。私はもう……永くない。先に滅びるわ。病ですでにそう……すでに死んでたの。ちょっとだけ天使が動ける力をくださったの」
「ウロ!? 何を言ってるんだ!!」
「……ボロス。最初に戦ってから……ずっと、ありがとう。幸せだった」
「う、うろ……あ。ああ。まて。逝くな!!」
銀竜の目にも涙が浮かぶ。私は嬉しく思った。始めに理性を手に入れてくれて。それは愛情だ。
「ボロス。大好きだった。ありがとう………そして……おやすみ。生まれ変わったらもう一度……竜がいいなぁ……今度は使命もなにもない。ただの竜に……」
瞼が重く。ボロスが何を言っているかも聞こえず。私は目を閉じた。色んな想い出の中で………ゆっくりと………何も………おもい……
*
「ネフィア!?」
「んあ……」
暖かい胸の中で私は目覚めた。陽が眩しく。愛しい彼の顔を見て……私は微笑む。
「金竜ウロちゃん………約束は守ったよ………新しい若い竜がやり遂げた。倒したよ」
「ネフィア?」
「だから……大丈夫。もう、彼らは………人だから」
トキヤはため息を吐きながら「またか」といい。強く抱き締めてくれる。遠くで竜たちが言葉であーだこーだと喧嘩していたが。なんとかなったみたいで一安心する。
「トキヤ……疲れた」
「ああ、お疲れさま」
「おやすみなさい」
私は彼に抱かれながら、眠る。真っ暗な夢へと落ちた。落ちた瞬間……ウロを抱き飛ぶボロスの夢をみる。何処かへ旅立つ姿の夢をみるのだった。遠い遠い竜の墓場へと向かう姿を。




