夢へと渡る魔王..
「ワンちゃん!!」
改築途中の魔王城の庭園にネフィアの喜ぶ声が響いた。白い犬のような竜が伏せていたのが立ち上がる。大きな舌を出してハゥハゥと言いながらひっくり返りお腹を見せた。
「おう、ワン・グランド。プライドはないのか?」
「体が勝手に……」
ばふっ
ネフィアが大きなお腹に飛び込み毛皮に飲み込まれる。
「わぁ~お腹モフモフ~竜みたいな堅い鱗なくなちゃったね」
「乗り心地がいいと褒めていただいてます。毎日の水浴びもかかせません」
「お前はいったい……何処へ向かってるんだよ……」
「乗竜の頂点。ユグドラシル殿が望まれるので仕方ないと思います。最近ワガママで………」
「……ワンちゃん」
「なんでしょうか?」
ネフィアが真面目な声音になる。
「……嵐竜について何処まで知ってる?」
「背中にお乗りください」
「時間が惜しいか……ワンちゃん」
体を起こし、伏せる。轡をつけて手綱を持ちながらよじ登り、リュックを背負ったトキヤが手綱とネフィアを掴んだ。
ワンはぶわっと翼を広げ、魔力を使い浮力を得て飛び上がった。見えるのは城下町と城の改装工事で組まれている足場ばかり。城壁ももう1枚増設途中である。
太陽に照らされる都市を見ながら、トキヤが魔法で皆から姿を隠した。不在を隠すために。
「寝ずに飛び続けます。戦いが無理な体になってしまいましたから……着いたらお任せします。ご主人」
「わかった。とにかく戦闘に間に合えば文句はないよ」
「ワン・グランド。行けるな‼」
「もちろん!!……嵐竜については飛びながら!!」
都市を尻目に……竜の背に乗ってまた。帝国に逆戻りをする。
「帝国に住もうかな?」
「俺は知り合いが多いから嫌だな」
「裏切り者だったね。トキヤは」
「盗賊ギルドたちにも喧嘩売ったしな」
「あ~懐かしい」
そんな会話をしながら、大空の風を感じる二人だった。
*
夜の帳が落ちる。夜の飛行は危ないが月下のしたで強引に飛行する。風竜の情報は聞いていたが………ワン・グランドはうろ覚えな感じで。少しわかったのは魔法を使っていくドラゴンだったらしい。だが……背中の勇者によって大きな情報になっていく。
「ワンちゃんの話を統括すると。全員で一斉にボコって封印したからわからないと?」
「面目ない……」
「風の魔法の終着点はトキヤ」
「そこまで出来ると仮定してなら……水、土、炎の3属性を縁因で操れるだろう」
「操れる?」
「風の基を操れるなら……それはそうだな……土でも操れるし、水も操れる。『風の魔法は危険だ』と言われてたのは……たぶん奴のせいなんだろうな」
「……昔に言ってた空気を操ることが出来る事と何が違うの?」
「1から10を説明してやろう………空気のなかには1の物質であり細かな金属も何もかも含んでいる場合があって……その1まで操れるなら。金属を変形させたりする。土属性の技もあり。水魔法の劣化も打て。熱を取り出す事も出来るだろう。俺がいつもやっている飲み物を冷やしたり暖めたりが空間で出来るわけだな」
「つ、強くない?」
「……弱点もある」
「どんな?」
「無駄に魔力がかかる。お前が火を生み出す行程は詠唱1回で済むとしよう。それが3回4回と唱えないといけないから無駄なんだ。詠唱1回で唱えたらそれでいい」
「…………トキヤご主人。それは人である話でしょう」
「そう……たったそれだけが弱点なんだよ」
「それはつまり」
「エルダードラゴンは無尽蔵な魔力持っている筈だ。別に工程を増やしても魔力が尽きる弱点がないんだよ」
背後から緊張した声音で絶望のような一言を言う。
「……トキヤはどうやって勝つ?」
「すまんが巨竜の大決戦に行っても何も出来ないと思っている」
「ぶっ叩くわよトキヤ」
「ネ、ネフィア?……ああ。すまんな。はは……懐かしいなその声。いつもいつも俺は男だとか文句ばっか言ってたな。『くそ』や『おまえ』とか言ってたな」
ちょっと強めに怒られたトキヤは過去を懐かしむ。もうすっかり歳がとってしまったおじさんのように。
「………ごめん。昔のことはいいから……それよりも勇者でしょ!! もっと勇気ある言葉を………ごめん。トキヤは勇者だけど勇者ぽくなかったね」
「一人で納得するのやめような? 確かに……弱音だったな」
ネフィアの頭をポンポンと撫でながらトキヤは謝った。
「ううん……わかってる。トキヤの判断正しい。私たちが出来る事なんて小さい針のような物だと思う。でも、鎧通しのようにスッと入る事は出来るはず。そういうのは得意でしょ?」
「……ああ。正面からよりもな」
「きっと、全てを使わないと勝てない……出来るかわからないけど。そろそろ夢を渡ろうと思う」
「夢を?」
「実は過去の自分にあったことがある。ボコった事がある。世界樹にも会ったことがある」
「………ちょっと専門外だからわからないが出来るか?」
「うん……見てくる。過去の夢で風竜の情報……この目で見てくる。出来ることは全てする。婬魔として生まれて来たのだから……利用できる物は利用する。そうでしょ? あなた」
「お前も俺に染まったな」
「染まるも何も……ずっと一緒でしょ?」
「たまに一緒じゃない」
「心はずっと一緒だよ」
「……ふぅ。今日は異様に月が綺麗だな」
「……『あなたとなら死んでもいいわ』と言うのが正解?」
「どうだろうな。俺は月に言ったんだが……」
「あら? 褒めてくれたかと……」
「褒めるなら直接言う。恥ずかしいがな」
「ふふ……そうでした」
ブォン!!
ワン・グランドが少し急降下する。慌てて手綱を引っ張るトキヤ。
「おい!!」
「背中でイチャイチャしないでください。戦地へ赴くのです」
「ワンちゃん……嫉妬?」
「………」
「はは、構ってやりたいが………飛んでる今じゃな」
「ワンちゃんもユグドラシルみたいにワガママになって……」
「……ワン」
小さく鳴くワン・グランドの背中を優しく撫でるネフィア。
「帰ったらいっぱい構ってあげるから我慢してね。そうそう、夢渡り途中……二人に任せるからね。無防備だからお願い」
「任せろ」
「ネフィアご主人お任せください」
二人の返答に満足したネフィアはトキヤの胸に抱かれたまま目を閉じた。魔力を開放し髪が金色に輝き、小さな白い翼が現出する。
「おやすみ。ネフィア」
「行ってきます。トキヤ」
ネフィアは過去の夢へと堕ちるのだった。




