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嵐竜に挑む前の最初の王..


 デラスティが去った日から数日たったある日。豪華な王族の特別寝室にネフィアはトキヤの上に座り首に手を回しながらニコニコしていた。そんな中でエルフ族長が顔を出し。いつも通りの女王陛下で安心する。エルフ族長も自分の妻に同じことをさせているので少しだけ心でに照れが出てしまう。ネフィアはトキヤの立派な角を弄り「カッターイ」と子供のように喜んでいた。


 考えてみれば未だに成人していない子供……エルフ族長グレデンデは己が遥かに幼い彼女を女王に仕立て上げた罪を心の底で侘びる。最初から拐われた彼女は年端のない子供だった。知られていないが、夢魔として急成長させたのだ。だから、昔は異様に幼かった。


「姫様、大変なご公務の後で申し訳ありません。これをお読みください」


 頭を振り、今はそんな懺悔をする場ではないとエルフ族長は領主ヘルカイトからの手紙を机に置いた。


「ん? 何かしら………」


 片手でネフィアは広げようとするが……んっんっといい、出来ず。結局、王配トキヤが飽きれ顔で手紙を奪い。両手で広げてネフィアに見せる。


「……手紙だな。グレデンデ」


「はい……都市ヘルカイトから」


「内容~これって!!」


「どうした? ネフィア?」


 ネフィアに見せていた手紙をトキヤも読み始め。ネフィアがある一文を指差す。


「これを……見てトキヤ」


「………風竜復活」


 風竜復活し、風竜がどれだけ危ないかを事細かにかかれていた。ネフィアがエルフ族長に対して声を張り上げる。


「エルフ族長……あの本は!! あの!! 占い師の本」


「こちらです」


 エルフ族長が前もって用意していた。ネフィアが盗んできた本を机に置いた。ネフィアはトキヤから離れ、別の席に座り……本を捲る。


「そうね。やっぱりそう………ぱらぱら読んでたときに見たけど……載ってる。風竜メイルシュトローム・テンペスト。全ての支配者が切り替わったのち………全力を持って排除すべき。風の竜封印されしエルダードラゴン」


「全力をもって……まーた他にも旧支配者は力を持ってるんだな」


 旧支配者旧人類とは英魔国でも一部しか知らされていない。昔に制覇していた人間達の事を指す。表へ出ては来なかったが……ある占い師のミスで露見し、ネフィアに斬られた者。その者が予言した滅びの原因の一つだ。


「……なんでこう。世界って危ないの」


「それも知れたのも運がいいのか悪いのか……ネフィア。ちょっと支度しておく。丁度、ワンちゃん来てるし」


 トキヤが立ち上がり。かばんを整理し出す。


「……行くのですか? 何も話されずに?」


「?」


 ネフィアは首を傾げた。


「行くだろネフィア? エルフ族長なんだ? その質問」


「………いきますけど? どうして行かない選択があるんですか?」


 エルフ族長の目が見開かれる。「驚いた」と言わんばかりの仕草にトキヤが鼻で笑う。「ちょっと俺の方が知ってるぞ」と自慢するみたいに。それを察したネフィアは机の下で手を握って喜ぶのを我慢する。

 

「エルフ族長。時間やそういうのは判断できてもまだ分かってないな」


「い、いえ。行かれるだろうと思ってはいたのですが……こう……納得出来ないのがありまして……」


「聞きましょう。聴きましょう」


 機嫌がいいネフィア。反対に真面目な顔をするエルフ族長。


「姫様……不躾ながら相手は敵地であり。暴れられると我々に有利になります。敵の敵は味方といい。英国的に有利になるでしょう」


「ふむ」


「なので、大局的に申し上げますと見捨てる覚悟も必要でしょう」


 ネフィアはうんうんと頷く。「そう言うことか」と納得した表情で腕を組んで笑みが消える。真面目なキッと切れ長く美しい目がエルフ族長を見る。1歩、立っているエルフ族長は後ろに下がった。


 エルフ族長は歓喜する。一瞬だけの圧力で跪きたくなったのだ。


「エルフ族長は理由が欲しいのですね。そのメリット越える」


「……ええ。メリットとして支援も出せます。義勇兵を出し恩を着せれます」


「たぶん。それが正しい。国民のために繁栄のために」


 ふわふわした声音は無く。女優のようにハキハキと喋り。まるで男のように力強い姿でネフィアはエルフ族長と議論する。


「ええ、進言します。見捨てる覚悟を」


「…………女王の判断に任せる感じね」


 それは、「決定権は私にある」と言い放ったネフィアにエルフ族長はまた数歩下がる。


「……はい。これは族長で話し合えない案件です」


「では、私は決めます。風竜復活は本来は全員でかからなければいけない天災であり、そこに人間も英魔もない。このままでは英魔国民の危機にも直結する。あとは……そうね。私のご友人の国であるけれど………いつか臣民なるとも限らないじゃない? 領地になるかもよ? 荒らされたくないでしょ?」


 前半は真面目に語り。後半はいつものフワッとした冗談を言うみたいな声音で話したネフィア。コロコロ変わる声音にエルフ族長は小さく呼ぶ。


「姫様……」


 無視をし、ネフィアは続ける。


「今の王が床に伏せているし、皇帝に恩も返すいい機会だわ……それに、友人、故郷ヘルカイト友人たちも戦う。だから覚悟出来る。エルフ族長……国をお願いね。トキヤ!! 武具を!!」


 「トキヤ行くよ」と彼に伝えた。


「ネフィア、用意はしているよ。ワンも呼んだ」


「姫様!!」


 エルフ族長は手で口を隠しながら叫んだ。ニヤケる自分の口を隠しながら。止めても無駄だと知りながら。


「止めても行く」


「……お考えを改めてください。姫様がお亡くなりになられたら……今は族長たとともに国を安定させるのが重要なのですよ?」


「あなたが王になりなさい」


「!?」


 「簡単に王になれと言うのですか」とエルフ族長グレデンデはワクワクした。跪いて賛美を歌いたい叫びたいと体が震え出す。


「まぁ、絶対帰ってこれる保証はないけど。帰ってくるから」


「……」


「そう、むずかしく考えるの得意じゃないの。御託を並べたけど……もう、簡単に言うわ。私にとっては見ず知らずの数万の命より、身内の一滴の涙の方がずっと重い。これが行動原理よ……覚えておくが良いわ。だから皆が待ってる。それに~エルフ族長」


「は、はい」


「困ったら……あなたも助けに行ってあげる」


 エルフ族長は跪いた。頭を垂れ……そして、胸に手を当ててゆっくり喋る。


「姫様……ありがとうございます。お留守を預かりますので必ず帰ってください。そして……あの、竜人のご友人達をお救いください」


「もちろん、全部やれたらやる………」


「ネフィア。話は終わったか?」


「うん、トキヤが教えてくれた。幸せになるには力がいる。ちょうど力があるから行ってくるわ。では、これで話はおしまいね」


 ネフィアはエルフ族長に退室を促した。「聖装に着替えるのだろう」と族長は思い。立ち上がってその場を去り。はち切れんばかりの笑みを溢し女王陛下万歳を胸で何度も何度も叫んだのだった。





「うーん。まーたお留守だよ」


「1日……休んだから大丈夫だろ?」


「………エルフ族長も変な人」


 ネフィアが装備をつけながら思い出したように話をする。


「1日後、手紙を渡せば行くと分かっていながら………渡すんだから」


「渡さない方法もあったが……エルフ族長は渡した。ネフィア……今度の相手は勇者どころの話じゃない。それは恐ろしい程に強い」


「……やるしかない。知らないからって逃げられたら……さぞ、いいんでしょうね。だけど……私は求められてる。デラスティとか助けを求める程に大変なんでしょうね」


「ネフィア……」


 トキヤはネフィアを後ろから抱き締める。耳元で囁くように語る。


「俺がお前も護ってやる。安心しろ」


「逃げない……ふぅ………弱かった日々が懐かしいわ……」


「最初っから君は強かった」


「……本当?」


「ずっと俺の奥さんを張り続けてた」


「……うそ。つかない」


「俺にとってはだな」


「ふふ。死に場所は一緒がいいから護っちゃダメよ」


 ネフィアが抱きつく手を退かし、振り向いて背延びをする。触れた唇から二人は熱を感じる。


「………行こう。トキヤ。友達が危ない」


「ああ、全くな」


 帯剣し、装備を整えて扉を開ける。風竜王に挑む最初の王はこの日……決まったのだった。










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