風竜王メイルシュトローム①復活する災厄..
新興聖樹都市ヘルカイト。数年で大きく成長した都市は中央に大きな樹ユグドラシルが生え。竜人が住み、昆虫系英魔族などや異種族がごった返し。ゾンビや不死者までもが住む都市となった。そんな都市の治安や運営を任されているのは名前の由来となった旧き竜の生き残り。暴竜ヘルカイトである。
そのヘルカイトは執務室でソファーに腰掛けながら。これもまた旧き竜の元男。ヘルカイトの配偶者。腐竜デラスティが淹れるコーヒーを飲んでいた。ヘルカイトは大きな体に赤い燃えるような短髪のおっさん。ナスティは麗人であり。仲のいい二人は都市でも有名なおしどり夫婦だった。
「うむ。美味い」
「コーヒーが好きなんてね」
「今まで……なぜ、こんなにも苦味と甘味がある飲み物を飲んでこなかったのが悔やまれる」
「そこまで?」
「ああ、お前が淹れるコーヒーは美味しいだけかもしれないがな」
「……もう。毒いれますよ」
「……なんでだよ」
ナスティがモジモジとし、嬉しさが障気として漏れてしまう。ヘルカイトは全く効かないが。ヘルカイトが換気のため立ち上がろうとした瞬間。
ピシッ
テーブルに置かれたマグカップにヒビが入った。そして、ヘルカイトは窓を開け唸る。胸騒ぎと直感が囁く。
「……ナスティ」
「なーに? マグカップが壊れちゃったね」
「違う、感じないか?」
「感じる? 何を? またまた~愛してますよ~」
「……風竜の気配」
「!?………風竜。テンペスト・メイルシュトロームが復活した?」
不真面目な空気が真面目な空気へと変わる。
「復活の刻……早い。もっと数百年かかるはず」
「………ヘル……どうする?」
ヘルカイトは状況を知りたいと思った。気のせいか、復活したかを。だから彼は指示を飛ばす。
「デラスティを呼べ」
弟分として大切に育てて来た。いや、厳しく躾てきたワイバーンのデラスティをヘルカイトは思い出し、「あいつなら」と期待する。
「緊急だからな。『すぐに来い』と言ってくれ。旧き旧友どももな」
「はい、そうね……杞憂ならいいけど」
「わからんがな………寝付きが悪くなりそうだ」
ヘルカイトは冷や汗を垂らす。己が唯一勝てなかった竜の一人ゆえに。エルダードラゴン最強の者に。
*
「こんにちはヘル兄貴。なに?」
「おう、デラスティ。ちょっと頼みがある」
執務室にデラスティと言われた少年が入ってくる。大きいテーブルの前に座りソファーの感触を楽しむ。まだ幼さの残る子だ。
「遊びじゃないぞ」
「わかってる~いつも子供じぁないのになんでか~ソファーふかふかして気持ちよくて遊んじゃう」
「まぁ~羽毛だからな」
「デラスティちゃん。はい、これ……ミルクコーヒーよ。砂糖いっぱい入れたから」
「……ブラック飲める」
「背伸びして可愛い」
「ナスティ姉さん……いつも子供扱いだよね」
「あなたが小さい時から知ってるからね」
テーブルにカップに入ったミルクコーヒーが置かれ、それをデラスティは啜る。
「飲みながら聞け。この地図のここ」
ユグドラシル商会と言う大商団からお借りしている世界地図の縮図を広げヘルカイトは指を差した。
「都市メイルシュトロームだ。最南端の都市で平原が広がり………異常に風が強い地域だ。風が都市を中心に渦を巻いている」
「凄いね……それ。竜姉から聞いたけど。そこに居るんでしょ? 竜」
「ああ、いる。話が早い」
竜姉とは火竜ボルケーノ。恐ろしいほどに気が荒かった女だった。今ではただの優しい姉さんになってしまっている。デラスティを拾い育てた人物であり、デラスティの想い人でもある。
「最近、そいつの気配がした。見てきてほしい。お前の速度なら一瞬だろ」
「うん、わかった。ここだね……よし。探すよ」
「すまんな。この地図は秘匿されているから渡せず……」
「うん。大丈夫……冒険者だからさ」
「頼んだぞ」
「行ってらっしゃいデラスティ。私からボルケーノに言っておくわ」
「ありがとうナスティ姉さん!!」
幼い子がミルクコーヒーをイッキ飲みし、執務室を飛び出る。甲高い音と爆音が都市に響き、デラスティが飛びたつのが誰の耳にもわかるのだった。
*
大陸の上空を僕は飛んでいた。目を閉じて魔法視と言うちょっとオリジナルの目で青い空を僕は見ていた。瞼を透かして外が見える便利な魔法だが。自分には必要である。理由は………目が痛い。
空は非常に皆は寒いと言う。確かに寒いと思う。しかし……僕は何故か熱かった。最初は飛んでいけば寒いと思う。しかし、速度が増えたら何故か鱗が熱いし周りは「五月蝿い」と言われる始末「最初は竜姉さんの背中を越したかったのに。気付いたら……ずっと誰よりも速く飛んでいけるようになっちゃった」と思い出す。
そんな昔を懐かしみながら雲を裂き、音を置いてけぼりにしながら目的地まで飛んでいく。
「………もし、目覚めるなら僕が久しぶりに初見なエルダードラゴンだ。気を付けよう」
現存生きている古竜たちは本当に数が少ない。四属性の頂点と亜種、変異種の頂点ばかり。「強いからこそ生き残った」とも言える。
教えて貰ったことを思い出す。四属性の頂点。竜姉こと火竜ボルケーノ。海で引きこもっているが新種族で死んだ水竜リヴァイアサン。ユグドラシルの護り竜で今はドレイクだったり竜だったり尻尾モフモフで人気者、土竜ワン・グランドさん。そして……風竜メイルシュトローム・テンペスト。
四属性以外なら竜の上位種ヘルカイトと変異種ドラゴンゾンビのナスティ。滅んだ亜種鋼竜や何処かにいる銀竜金竜のウロとボロスがいる。
「他の竜は自由に生きてるけど……唯一封印されている竜……風竜」
人間の世界では失伝しているだろうと思われる。いや、伝わっている時期が竜時代。人時代は後からである。そもそも伝わっていないのだろう。
「僕の知り合いから……聞いた話だと……」
最強のエルダードラゴンだ。竜たちが滅んだ理由の一因にもなってしまった竜らしい。「竜の滅び」を認めないために滅びを招いてしまった竜だ。
他のエルダードラゴンが滅びを受け入れる中で唯一……受け入れなかったのだ。それで嫌われ封印されたらしい。
「まぁ……やってることは完全に悪だけど」
竜姉は貪欲な竜と言っていた。平民は貴族に憧れ、貴族は貴族を統べる頂点の王に憧れ。王はみんなが慕う神に憧れる。そして、神は他の人気の神に憧れる。
その白き風竜はそんな人だったらしい。力で全てを征することを目指した竜。そして神を喰らおうとした竜だ。
「………王かぁ……」
僕は飛びながら。何故か金色の髪と白い翼を持つ女性を思い浮かべた。優しいあの人も今では新しい種族の長。英魔族の王だ。あんな美味しいクッキーを焼いていたのに………ちょっと複雑である。遠くに行ってしまった気さえする。逆に彼女を思い出すだけで背筋が冷える。頼れと勘が発する。
(………にしても……遠い)
僕は速度を増し………不安を拭うように風を斬る。
*
旅を始めて2日……目的の場所付近まで近付き。一つの気配を感じ取った。その向きに翼を曲げて飛行していると大きな都市を見つける。
王宮のような建物が中央にあり、城と言うよりもなにか違った都市ヘルカイトの小学校のような雰囲気のする都市だった。しかし………穏やかな空気に怒気が孕み。僕をこの場所に気付かさせた。
(ここかぁ………)
状況は晴天。色々な物で迎撃されない距離を飛び。衛兵たちに指を差される。あれは何だとか、変なワイバーンがいるとかの声を拾いながら様子を伺う。
(問題が起きそう)
僕は一端、地面に降りて鉄箱を下ろし、竜人化した。裸なので服を着替えてそのまま都市に向かう。行商に混じり、都市の衛兵に止められて冒険者カードを見せることで中に入れさせてもらった。
中は至って普通の都市で……都市ヘルカイトの方が道は広いし綺麗だし、栄えているのが分かる。出店料理の多さも違う。種族も人間しかいない。
あまり……料理の匂いも美味しそうじゃなかった。
僕は「……そっか。僕、都市ヘルカイトで贅沢になってる」とそう思いながら憤怒の気があふれでる場所まで足を運ぶ。誰も彼も全く気にせず、怒気に気付かずに生活をしている。平和が感覚を鈍らせているのだろう。あの学校は学園と言われるらしく、あの中から感じた。
歩きながら、色んな人の話し声を拾い。大きな大きな建物が魔法の学園だと言うことがわかった。
そして……その中から。怒りが溢れている。僕は万人に解放されている学園に入り細い廊下を進んでいく。
「ん!?」
その途中で僕は大きな圧力を感じ歩みをやめた。地面が揺れたのだ。
「な、なに!?」
「何処だ……何処にいる!! あの裏切り者たちは!! 何処へ!! 何処へ!! 俺は帰ってきた!! 俺は帰ってきたぞ!!」
咆哮とともに憤怒が都市を震わせた。恐ろしいほどに大声量が聞こえ、目の前から女性と男性が現れる。
「逃げて!!」
「子供!? なんでここに!?」
「……えっと」
「早く!!」
手を捕まれ引っ張られる。そのまま揺れる学園から外へ出ると皆が頭を抱え震えていた。晴天が曇り、風が強くなる。
「皆!! 逃げ………」
ガアアアアアアアアアアアアア!!
竜の咆哮が都市に響く。学園の建物が大きく揺れ、石が外れて崩れていく。学園は高い建物で何本の搭は崩れていき、人も落ちていく。どうなるかの結果は僕はわかる。助からないことを。
「キャアアアアア!!」
何人もの人間たちの悲鳴が風に混じる。そして、壊れゆく学園の中から白い鱗と翼を持つ巨体が空に上がって制止する。
ゴロゴロ!! ピシャ!!
稲妻が都市に落ち家を砕く。火が上がり燃えるのも見えた。それをその白い竜は冷たい目線で見つめていた。
「俺が封印されている間に……ここまで鼠が蔓延るか!!」
大きな大きな声をあげて稲妻を落としていく。阿鼻叫喚。至る所で逃げ惑う人々。しかし………僕は見た。壁を囲うように竜巻が生まれ。舞いあげられる人々を。
「くぅ!! 竜か!! 魔法使いを集めて迎撃を!!」
「先生!! だめむり!! 逃げよう!!」
「他の生徒も………」
「………」
僕は強い風の中で災厄を見つめる。竜がニヤリと笑みを向けていた。
「ちょうどいい………長く封印されていた。小手調べと行こう。変な奴も見ているだろ」
「気付かれた? 存在を? ならば」と僕は魔力を流し竜化し……空を飛ぶ。
「なっ!? あの子はワイバーンだと!?」
「な、なに!?」
背後で何人かの驚く声を無視し、白い竜の元へ飛んでいく。そして、上空で対峙した。ここで小手調べをされては困る。
「僕の名前は飛竜デラスティ。風竜メイルシュトロームさん。皆が困ってますやめてあげてください!!」
「ふん……お前……知らんな。俺の名前。間違っている。竜王メイルシュトローム様だ覚えておけ!!」
グワアアアアアアアアアアアアア!!
大きい咆哮をあげる。膨大な魔力の高まりを感じて僕は……体当たりを行おうとした。
「ふん!! 雑魚が!!」
ぶわっ!!
体当たりを行おうとしたが横凪ぎの風によって吹き飛ばされてしまう。何度も行うが風に阻まれてしまった。風というより空気弾のようだ。
「カトンボめ……うるさいな………今は機嫌が悪い邪魔をするな」
近付けなければ攻撃できない。僕を大いに悩ませた。その隙が僕に襲いかかる。幾重にも魔方陣が生み出された。都市を覆うほど多く。
「死ね。頭が高い」
魔方陣から何本もの風の玉が降り注いだ。触れた瞬間そこが爆発して鋭い斬撃が生み出される。下の方で人間が真っ二つになり、建物さえも斬り払われる。なんとか飛んで避けるが僕はそれが手加減しているのだと気が付いた。
風竜の魔力が高まる。
グオオオオオオオ!!
竜の咆哮とともに白い竜の周りに風に包まれる。そして風壁のようなものが広がっていく。その技に勇者トキヤの魔法と同じ見覚えがあって、慌てて僕は都市外へ飛んだ。地面が抉られ舞い上がり。粉々にし、塵となる。壁が迫ってくる。それは渦を巻きながら広がり。都市を覆った。
僕は追いかけられた壁を逃げ切り、範囲の外から様子を伺う。城壁が砕け岩になり石になり砂になる。多くのものが削られ上空へと立ちのぼり大きな竜巻となった。
結果………嵐が去ったあと。都市はなくなり渦の傷痕だけがその場に残る。全て……全て砂にまで刻まれた。
「!?」
誰もいない。白い竜だけしか……いない。
「ハハハハハハ!! ワシの上で住んでいた報いだ!!」
僕は………その圧倒的な力に驚かされると同時に。白い竜に対して、力強く体当たりをかました。相手は油断していたのか強く当たる。しかし無傷だった。
「メイルシュトローム!! 何故!! なぜそんな!! 虐殺を!!!」
沸々と我慢していた怒りが溢れる。「人間だけど!! 僕は知っている。営みがあったはずだ。子供もいた!! 何もかも!! 骨さえも砂にし!! 消し去った!!」と心底、苛立ちと怒りと憎しみと復讐心が湧いた。
「お前……まだ生きていたか。ふん」
白い竜がぶれる。その瞬間………頭に激痛が走る。目の前の白い竜は消え失せて頭から尻尾打ちを受けてしまったらしい。そう、姿を消しての襲撃だ。
「ぐへ!?」
ドシャ………
強い力で地面に叩きつけられ、身が砕けそうな痛みを発する。一瞬だった………見えなかった。
「げほげほ……」
「ほう……耐えるか。良かろう。選べ、俺のために忠誠を誓うか今ここで死ぬか」
「………」
「なんだ。死ぬか………では。死ね」
魔方陣が展開される。僕は痛むからだでその場を這い上がる。逃げなくてはいけない。逃げないと始まらない。だから大きく翼を広げ、魔力を放出する。チャンスは一回。
「僕は逃げなくちゃ。伝えなくちゃ!! ソニックブレス!!」
魔方陣からの風玉が放たれ。それに合わせて僕は口から、魔法の力で増幅した声量の空気砲で打ち消す。距離はないが色んな竜のブレスを防御する技として編み出した。ワイバーンでドラゴンブレスの真似事だ。
「はぁはぁ!!」
防御し、背後にばら蒔いた魔力で推進力を得てすぐさまに飛び立つ。魔力噴射で翼をはためかさせずに一気に加速し……風竜から一瞬で離れる。音の壁を抜けて「危険を知らせる使命」を胸に僕は全力で都市ヘルカイトに向かうのだった。




