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商業都市ネフィア~凱旋~..


 俺は一人、ギルドの酒場である人物を待っていた。その人物はワザワザ迎えにいかなくてもきっと驚異的な嗅覚と直感となにか奇跡でも起こしてでも俺のもとへ来るだろう事がわかっていた。たとへ、異界へ行こうと壁をぶち破って来そうだ。やべぇ……死んでもきっと無理。


「………あっ俺。どうやっても一生、独り身はないな」


 そんなことを思いながら一人。酒場で時間を潰す。深く考えてなかった事が今になって恐怖しながら。


「んむ」


 マスターはグラスを磨いていので聞くだけなら聞いてくれそうだ。周りの亜人が俺をチラチラと伺う。昔は全くこんなにも知られてなかったのに。今では有名人だ。


「マスター」


「なんでしょうか?」


「俺………有名人?」


「それはもう。トキヤ王配」


「………何故こうなったんだろうな」


 今更だが。そこら辺の騎士だった俺が今の肩書きがスゴいことになっていた。考えてもなかったが落ち着いて考えると大変な事になっている。王配に公爵。広言された勇者。城に忍び込んでネフィアを盗んだ日が本当に懐かしい。騎士から冒険者に落ち。冒険者から貴族を通り越して王族になってしまった。波瀾万丈の人生に驚かされる。


「あ、あの。トキヤ殿ですよね?」


「すまん。人違いだ」


「………そんなことはないでしょう? 私、わかるんです!!」


 一人の虫族の亜人に声をかけられる。トンボなのかセミなのか透明な羽を持った女性だ。最近増えている魔物からの新しい種族だろう。服を着ているが中々のスタイルの良さだった。昆虫亜人族の女性はモテ、人気になりそうだ。

 

「隣、いいですか?」


「いいけど………」


「ありがとうございます!!」


「でっ………俺になんのようだ?」


「あ、握手してください。公爵様………」


「勝手に握ってろ」


「は、はい………ああ。公爵さまの手です。いつも姫様を御守り下さりありがとうございます」


「………ああ」


 ネフィアの人気は異常に高い。いや、異常でもない。何故なら偏見もなく。誰にでもそこそこ優しい。区別もつくし料理も洗濯も出来る。綺麗で可愛い。しかし、真面目な時は本当に180度変わる。歌や踊りが得意で。聖職者としての一面も持ち。今では悪魔らしからぬ白い翼さえ生えてしまった。


 誰にもない物を持ち、憧れの対象。魔族でもあそこまで聖なる者になれると示したから。夢を与えたとも言える。


 そう考えながらも……ちょっと認められて嬉しくもあり。寂しくある。世界で俺一人だけしか魅力を知らなかったのに。今では沢山の奴が知ってしまった。そう、なついている子が他の子と仲良くしていると妬けるあの気持ちに近い。


「ああ、独占欲は………あるんだな。俺」


 少しだけ。「独り占めしたい」と今更だが思ってしまったのだ。ずっと独り占めしてきたくせに。独り占め出来なくなってからその要求に気付く。


「………ありがとうございました。トキヤ公爵。お仕事頑張ってください。陽の導きがあらんことを」


「陽の導きがあらんことを」


 女の子は嬉しそうに席を離れた。後ろで友人と触ったや、格好いいやらをキャキャ言って楽しそうに会話する。まるで人気貴族様になったような気分だが。人気貴族になっているんだろう。


「はぁ………見られてるってこんなに面倒なんだな。ネフィア………」


 妻の名を口にする。人気者や人に見られるのはなれていないとつくづく思う。そうそう愛想笑いも出来ない。ネフィアは笑みを振り撒けるだろうに。


「……………まぁいいか。今更、ランスロット王子のような感じもできやしね~し。俺は俺らしくするか」


 俺は気にしてもしょうがないと諦める。現にネフィアの配偶者なのだ。これ以上、求めるのは罪だ。俺にとっては無限の金貨。至宝の宝石以上の価値を持っているのだから。


 ドタドタドタ!! バンっ!! ゴロゴロ!!


「ん?」


 酒場にトカゲの衛兵が転がって入ってくる。慌てた様子で躓き。テーブルにぶつかった。しかし衛兵はそんなの関係ないかのように叫ぶ。


「陛下が!? 陛下が!!」


「「「「!?」」」」


「帝国から単身帰ってきたぞおおおおおお!!」


 酒場が静まり。そして………無造作に席を立つ。無音。一人が衛兵に問いただす。


「本物?」


「本物。俺は聖教者だから。眩しくて眩しくて………見えなかったんだ。陽に誓う。嘘は言わない」


「…………」


「陛下は………たった一人の天使族だったよ。勇者を倒した………本物だよ」


 その一言で酒場は戦場になる。皆は一目見ようと一目散に酒場を出て行った。俺は、ドン引きしながら事の成り行きを見ていた。「嘘だろ」と。


「お、大袈裟すぎだろ…………」


「………あっ。トキヤ公爵。店じまいです」


「えっマスター?」


「トキヤ公爵も向かいますよね? では………」


 マスターがエプロンをカウンターに置いて走り出す。ギルドの受付も立て札が「営業終わりました」となり。人間の冒険者が驚く。


 残ったのは………人間の冒険者たちと俺だけだった。視線が俺に集まる。「冒険者が理解が出来ない」と言った表情だ。「俺に求められても」と思いつつ。近い言葉を発する。


「王が居たら驚くだろ? いるんだよそこに」


 冒険者が驚きながらも納得した。俺は…………静かに逃げようかと模索するのだった。







 混乱が生じた。ネフィアは商業都市の名前が変わっている事に驚き衛兵に聞いてしまったのだ。


「私の名前になってるけどどうして?」


 普通に問いたのだろう。しかし、衛兵は快く答えた。大声で。


「偉大な女王陛下の手腕によって纏まりました。ネフィア様の功績を後世に伝えるため。全ての族長が認めたのです。女王陛下の名前なら文句出すバカは居ないと。帝国からのご帰還!! お疲れさまでした!!」


「「「女王陛下!?」」」


「………あっ………うん」


「急報!! 女王陛下が勇者を倒し!! 帰還された!!」


 ネフィアは………気が付いた。エルフ族長の顔を思い浮かべながら。「してやられた」と。


ソロリ………


「女王陛下!! 何処へ行かれますか!!」


「えっと………ちょっと用事が………」


「陛下!! 我々がお手伝いします!!」


「いや……うん………えっと………探し人がいて………」


「誰でしょうか!!」


「トキヤを探してるの………」


「伝令!! 至急トキヤ公爵をお探ししろ!! 「女王陛下がお呼びです」と‼ それまで………陛下は何処で待たれた方がいいか相談します。申し訳ありません」


 衛兵が「厚遇の準備を」と叫ぶ。ネフィアはやらかした事に気が付いた。出るときこそこそしていたのに堂々と帰ってきてしまったのだ。それよりも自分がここまでの人気者なのにネフィアは驚いてしまう。


「女王陛下、教会に席をご用意させました。ご案内状しま………陛下?」


「ご、ごめん………ちょっと………えっと」


「トキヤ公爵を見つけますのでしばしお待ちください」


「あっいや………自分が探した方が………」


「草の根を掻き分けても見つけ出します」


 ネフィアはトキヤを良く知っている。そしてトキヤは目立つのを嫌う。異様に……だから………「ヤバイ」とネフィアは思う。


「いや………その。お忍びだしさ?」


「お忍びでしたか………お忍びでしたか!?」


 ネフィアは手遅れを悟る。トキヤが嫌がって逃げ回って、隠れて見つからずに帰国する事を。


「ここへ来て………会えなくなるなんて……会いたいのに………逢いたいのに………」


 ネフィアはしくしくと泣き出してしまう。そしてまたその涙のせいで。騒ぎは大きくなったのだった。




 



 トキヤは………追われていた。


「トキヤ公爵!! トキヤ公爵!!」


「何処へ!?」


「陛下が泣いてらっしゃるらしい」


「トキヤ公爵は非常に高い隠密技術をお持ちだ。空気の小さな流れも見逃すな!!」


「ああ、それと………姿を消すらしい!! 時間は短いが!! 回数を増やさせてじり貧を狙おう」


 トキヤは苦悩する。自分を知り尽くされている事に。ネフィアが何かやって俺が尻拭いをするのは昔からあった。


 だが、今回ばかりは…………どうしようもない。


「女王陛下が教会でお呼びです!!」


「パレードの準備は?」


「トキヤ公爵を見つけてからだ!!」


 お祭り騒ぎ。まぁわかる。ネフィアは偉業を成したのだ。だが………影や暗いところや暗殺が得意なトキヤにとってはちょっとハードルが高かった。


 そう、トキヤはなれていない。ネフィアと同様に表で祭られる事を。


「やべぇ………どうしよ」


 隠れながら悩むトキヤ。「潔く出ようか」と思うが………ここまでの騒ぎを起こしてしまった事に気が引ける。結果、教会に直接向かい。騒ぎをネフィアに静めて貰おうと考えて行動する。


「はぁ………目立つばっかりじゃないか」


 「まだまだ………仕事は多いのに」と愚痴りながらも教会に向かう。教会も人でぎっしりなのだろうと辟易しながらも。





 




 


 






 


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