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勇者討伐後の帰路、スパルタ国王..


 私は帝国で勇者を倒した。長くもなく苦しくもなく、普通に倒し、仕事をしたと言う充足感がある帰路での事。スパルタと言うコロシアムと綺麗なオアシスが美しい場所に私は立ち寄っていた。数日かけラクダに乗り換えての移動。砂漠のオアシスである都市で私は……


「あの~キビキビ歩け」


「………私。魔王」


「すいません。歩いてください」


「はぁ…………どうして。しくしく」


 捕まっていた。一度初めて立ち寄ったがすぐに素通りして帝国へ向かったのだが。なにかいけなかったのか衛兵に連行されている。


 早く早くトキヤと逢いたいのに立ち往生している。都市で魔力を放出し爆発してもよかったけど。流石に怒られそうだったので我慢し、さめざめと泣きながら衛兵についていくのだ。


「な、泣かないでください………別に王が会いたいと言っているだけで………すいません。国賓で迎えるべきですが………隠密されていると」


「しくしく………どうして………どうしてすぐに帰りたいのに」


「泣かないでください………」


 ぽろぽろと泣きながら衛兵についていく姿に周りからは白い目で見られる。なーにも悪さをしていない筈なのにと思いやるせない気持ちで歩く。すると石を掘ったような牙城につれてこられた。中身は帝国や祖国の城と変わらず。使っている石だけが黄色いだけだった。泣き止み………心を入れ変える。


「なぜ? スパルタ王が私に?」


「それは………」


「聞かされてない?」


「すいません」


「ワガママな王」


「ええ。しかし!! 素晴らしい王です!! どうぞ中へ」


 玉座の間に案内される。柱が6本に椅子が中心に座っており。玉座の間はどこも本当におなじなんだな~と感想を漏らす。多分、私は色んな場所の玉座を知っている珍しい人物である事はわかっている。普通って難しい。もう普通に戻れない。


「ふーん」


 私は見回した後に椅子に座っている筋肉隆々としたズボンだけを履いている人間を見る。不敵な笑みを浮かべ。玉座に肘をついて大胆不敵に堂々と偉そうにしていた。まぁ偉いんでしょうけど。私も一応女王だ。ちょっと今は騎士の鎧で淑女ぽくはないけども。


「えーとお初にお目にかかります。ネフィア・ネロリリス」


「スパルタチャンピオン!! メオニダス・スパルタだ。魔王」


 メオニダスと言った男は席から立ち上がる。ガハハハと大きく笑いをあげる。エルダードラゴンのヘルカイトと言う男がいたが。それに似た豪快な人だろうと私は推測した。


「中々。魔王は男前だな」


「ぶちのめすぞ。メオニダスと言う男よ……あっ……ごめんなさい。言葉が汚かったですわ~」


 一瞬だけ。昔を思いだしたように荒々しい言葉を発してしまった。いけない、淑女を保て……挑発だ。


「くくく。すまぬな。なるほど………これが帝国で陛下の愛人と噂され。傾国の美男子であり。惚れた男を不幸においやり。恨みや妬み。仇なす敵を葬ってきた男か」


 スゴく不名誉な事を言っているが。惚れていそうな男を葬って来たのは確かだし。勇者を取られた妬みで襲われもした。考えてみれば……悪女だなと思う。


「男ではありません。女です。そんなことより何故………余を魔王とわかった。中々やりよるな」


 クククと笑いながら顔を斜めに構えて影を作りながら威厳を持って偉そうに言う。


「めちゃくちゃ分かりやすい鎧を着て。冒険者の名前をネフィアと言うままで通るバカが居てだな。それも2回」


「………それらは偽物影武者」


「いや。本人だろ」


「……………くぅ」


 私はわかっていたが。顔を押さえる。仕方ないじゃないか!! 目立つんだから!!


「しかし、逆に言えば………堂々と渡るその剛胆に感服している」


「近道なんです。直通の………でっ、私を呼んだのはなんですか? 私は早く帰らなければ行けません」


「………帝国で勇者を暗殺したからか? 逃げている?」


「まぁそうです」


 逃げていると言うよりかは暗黙の了解を得て殺した。情報を売って。


「暗殺を隠さぬか……勇者を倒したその手腕……なかなかと見る。少し聞こうじゃないか………奴隷をどう思う?」


 メオニダスが笑みを浮かべ。やらしい目で私を見る。私は試されていると思う。


「ここのコロシアムは奴隷の亜人が剣闘士として戦い。日夜、奴隷として人間に使えている。聖女よ………奴等を解放するか?」


「へぇ~そうなんですか。コロシアムで戦ってるんですか。初耳です」


「解放したければどうする?」


 亜人奴隷の解放。それは確かに良いことだろう。しかし、そんなことを実行すればスパルタと戦争だ。まぁ~それを聞いているのだろうか?


 腹の探り合いもない。恐ろしいほどの直球だと私は思う。戦うかい? と聞いている気がする。まぁ……答えなんて決まってる。


「どうするもなにも…………何もしませんが?」


「…………ん? 見捨てると言うことか? 戦いを避けると?」


 メオニダスが眉を潜めた。私は堂々と言い放つ。


「運がなかった。諦めろ………次の生に期待して。悟れ、以上です。私は目の前の人しか助けませんよ。人間の女神さえ、全員救う事は出来ず。人間のみしか手を差し伸べない。無情ですからねこの世界は」


「………そうか。お前はそういう奴か」


「幻滅されて結構。私は私の好きにさせていただきます」


「大胆不敵に悪びれもせず。罪悪感も飲み込める。俺の前でも恐怖せずに立つ。何処からどう見ても女ではおかしいほどに巧ましいな」


「貶す事は許しませんよ」


「ははは!! 誉めているんだ!! 魔王!! よし、特別に王となったお主にこれをやろう!! 国宝だ!!」


 メオニダスが衛兵を呼んで小さい刺繍がされた高級そうな箱を持ってくる。衛兵は私の前に跪き手を差し伸べ箱を掲げる。それを受け取り箱を開けた。すると………


「つっ!?」


 白い手袋が置かれていた。贈り物ではない果たし状だ。メオニダスが大きく大きく笑い。牙を向く。


「我が友人。レオンを退け。勇者を倒した武勇が見たい!!」


 私はこの糞、脳筋野郎と声を出したかったが名案を思い付き。背後を見せる。箱の中をフッと息を吹きかけた。


「さぁ!! 決闘場へ案内しよう!!」


「待ってください。箱の中は空ですよ?」


「なに!?」


 私は箱を見せ。中身がないことを確認させる。パラパラとゴミが舞うが木屑しか見えない。白い手袋は何処かへ消えたのだ。


「…………衛兵。体を探れ」


「触るな!!」


 ブワッ


「わわ!?」


「おお!!」


 衛兵が近付くのを白翼を展開しそれで遮る。


「殿方が勝手に淑女の体を探るのは無礼です。怒りました!! 帰ります!! 帰らせてもらいます!!」


 翼で衛兵を退かしながら。踵を返して玉座を後にしようとする。メオニダスが大きな声を出す。静止を促す声を……それを聞いた私は歩を止めて魔法で伝える。囁くように。


「メオニダス。今日は早く寝ることだ。今夜はきっと悪夢(ナイトメア)を見るだろう」


「なに?」


 私はそのまま。振り返らずに去った。





 魔王が何かした。俺はそれを見ていた。背後を向いた瞬間に木箱に何かしたのだ。


 衛兵が慌てて木箱を見る。衛兵に持ってこさせたとき俺は驚きの声をあげる。


「あの一瞬でか………」


 中には灰が積もり。焦げ臭い。手袋は灰になっていた。


「ククク!! 魔王………魔術士か。確かに大胆不敵に入り込める。爆発したら危ないからな」


 メオニダスは魔王の実力を知った以上。好奇心が増す。


 女でありながら自分の発する圧力に屈せず。堂々としていた姿に都市スパルタ内の誰よりも男を見た。


「今日は早く寝よう。何があるのだな」


 先代よりも話題の魔王に期待せずにはおれなかった。







 月光に照らされた草原にメオニダスは寝転んでいた。メオニダスはゆっくり立ち上がり風を感じる。穏やかな夜風が火照った体を心地よく冷やしてくれる。これはなんだとメオニダスは周りを見渡した。


「ようこそ。悪夢へ」


「ここは………そうか。お前は夢魔の亜人だったな。あまりにもハッキリした夢だ」


「ええ夢魔です。ハッキリした夢です。魂を呼んでいるので」


 バサッ!!


 ネフィアが翼を大きな広げる。月に照らされた銀翼はキラキラと輝かせ幻想的な姿を見せる。メオニダスは心になかで「何が夢魔だ」と否定する。まるで「白翼の天使じゃないか」と愚痴った。「見るものを誘惑する悪魔なら正しいが」とも考えた。


「メオニダス。白い手袋は受けとりました。殺し合いは出来ませんし。私は女です。だから………夢でのみしか闘いません」


「ほう、闘ってくれるとな?」


「はい。獲物は想像してください」


 ネフィアが手本で剣を出す。メオニダスも同じように丸い大きい盾と槍に脇差しのような太いナイフを用意した。だが…………ネフィアが剣を投げ捨てた瞬間。同じように武器を捨てた。


「何故ですか?」


「俺は武器も扱えるが格闘も得意だ。お前は?」


「奇遇ですね。私もです。ですが……今回は気まぐれです」


 ネフィアは負ける気でいる。格闘では勝てない事はわかっている。だが………わざと負けても怒られないように格闘で挑もうと思っている全力で。


 ネフィアは手甲をニギニギし、メオニダスは何も着けずに構える。


「格闘で俺とやろうってのはいい根性だ」


「…………」


「言葉は不要か」


 メオニダスは魔王が真っ直ぐ睨む目と落ち着きに心が踊った。「夢であるなら殺してもいい。ならば………全力でやるまで」と。「拳で語ろうではないか」と思うのだ。


 ざっ………ダダダ!!


 メオニダスが辛抱たまらず走り出す。


「はや!?」


 ネフィアは焦る。想像以上の速さに間合いに入られたために。苦し紛れにフックを打つが下に潜られた。


ドゴンッ!!


「げはっ!?」


 ネフィアの腹部に重い一撃が入りうめき声を漏らす。メオニダスは驚く。鎧の上とは言え衝撃を耐えたネフィアに。女のような細い腰に何処にこんな芯があるんだと驚くのだ。ネフィアは歯を食い縛り、離れたメオニダスに右手でスマッシュを放つ。速く鋭い突きのようなパンチにメオニダスは避けず顔に入った。


「がは!?」


 ネフィアは鋼を殴っているような硬度を感じ。メオニダスは女とは思えない鋭い拳に舌を巻く。


「やっぱ男だな」


「ちがう!! か弱い女の子!!」


「か弱い女の子が!! 俺の一撃耐えれるわけないだろうが!!」


 メオニダスはネフィアと殴り合う。インファイトになり、顔や腹を殴り合う。ネフィアは「何でこんなにも顔面殴るんだよ!!」と心で愚痴りながら。メオニダスは笑顔で嬉しそうに殴り合う。彼は「楽しい楽しい楽しい」と思考が占領される。


 しゅばん!!


「ぐっ!! いいフックだ!!」


「きゃふぅ!! 顔面ばっか狙ってんじゃないわよ!! 顔は命よ!! 女の子の命!!」


「うるせぇえ!! どんだけタフなんだよ!!」


 ネフィアの一撃は軽くはないがメオニダスよりは軽い。しかも、メオニダスの方が手数は上。なのに………ネフィアは倒れない。なぜならネフィアは勝手にゆっくり自己回復し、メオニダスの攻撃を半減させていた。それでも重い一撃は芯にダメージが入り、回復されなくなっていく。


 「どれだけ打ち合っただろうか」と両方が思う中。ネフィアは口の中は血で鉄臭く、拳が痛みを発する。しかしネフィアの心を苛めるのは耐えている「女とは思えない耐久」の自分に対してだった。メオニダスはインファイトの過剰な体力損耗に汗を流す。良いものをくれてやっているのに倒れないネフィアにじり貧を感じたのだ。


「タフガイ」


「うぅ……うぅ……」


 「悲しい」とネフィアは思う。「潔く負けたい」と。「女のプライドが~」と。多くを悩み失う事に苦しむ。


「はぁ、チマチマ回復しやがって。まぁ楽しかった。これで終わりにするぜ。うぉおおおおおおおおおぉ」


 メオニダスが距離を取る。そして声を………咆哮を上げる。「回復するならそれ以上の一撃を叩き込めばいい」と。必殺というものを使う決意をする。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 メオニダスの体から魔力のような物が溢れ、赤いオーラのように可視化した。「魔力じゃないそれは鍛えぬかれた闘志だろう」とネフィアは理解し、納得し、学ぶ。


「すぅ………ふぅ………」


 ネフィアは脱力して構える。迎え打つために。


「俺の一撃。受けてみろ魔王!! 剛槍(ただの右ストレート)!!」


 メオニダスが走り出す。地面が爆発したかのような衝撃のあと。空間がオーラで歪んで見える。ネフィアは負けを認めるが拳を一応握る。


 そしてネフィアは今まで顔面殴った事への怒りと無茶苦茶な事をして旅路を邪魔したこと。滅茶苦茶殴られた事とこんな理不尽な決闘をやらされている事の怒りを左の拳に込めて走る。「一発殴らせろ」と思うほどに。


「魔おおおおおおうおおおおりゃあああああああああ!!」

 

 ネフィアの顔面に向けて拳が迫る。ネフィア以外なら魔力と違ったオーラで触れずに吹き飛ぶか千切れ飛ぶかしていたが。そこは今までの歴戦を戦ったネフィア。芯が生きているためと足腰が強いため細い体でも耐え抜き。顔を勘でスッとかわす。


 そして、メオニダスとネフィアの時間がゆっくりとなり、ネフィアの左腕がメオニダスの右腕に絡むようにクロスしてメオニダスの顔に触れる。


「この、顔面ばっかり狙ってんじゃ!! ないわよおおおおおおおおおお!!」


 時が動きだしネフィアは左拳を振り抜いた。メオニダスの顔面に深々と刺さり。目玉を飛び出させ。脳症をぶちまけ。首から上がバラバラ粉々に消し飛ぶ。振り抜いた拳から拳圧飛び草原を抉る。


 ネフィアは考える前に条件反射と直感と剣より拳の才能と己の肉体の扱いの上手さでカウンターが決まってしまったのだった。メオニダスの力も加わった一撃は破壊力抜群だった。メオニダスもカウンターが来るなんて一切考えない力の一撃だったためにもろに当り、利用される事や今までにそんな事がなかったために初見殺しとなる。


「ふぅふぅ」


 ネフィアはへたりこむ。そして、顔を押さえた。「恥ずかしい。やらかした」と。


「うわあああああああああん!! なんでなんで!!」


 ネフィアは大声で泣き出す。女の子らしくなく殴り勝った事に。女の子としてのプライドに傷がついたのだった。







「がああああああああ!!………はぁはぁ」


「王!! 大丈夫ですか!!」


 メオニダスはベッドから起き上がり、大汗をかく。テーブルに置いてあった水瓶の水を飲み干す。衛兵が慌てた様子で何かあったかを聞いてきた。寝ている間に叫び続けていたらしく。衛兵が「慌てて起こしに来ました」という。何度も起こそうとするが無理だったのだ。


「ああ、大丈夫だ。負けたか…………」


「はい?」


「だが、清々しい…………あの一撃を利用されたか」


 予想だにしなかった事が起きて負けたが。余韻が残り手を震わせるメオニダス。彼の体が痺れていた。そう、満たされていた。


「王、すごく機嫌がいいですね?」


「ああ。素晴らしい………素晴らしい!! 悪夢だった!!」


 メオニダスは歓喜し、ネフィアの強さを称えた。


「さすが勇者を倒し。レオンを雑魚と言った豪傑!! ネフィア!! あやつは………強い!!」


 メオニダスは衛兵に「ネフィア女王に会いたい」と言う。しかし、次の日にはネフィアを衛兵が探しに行ったが。早朝、逃げるように宿屋から旅立った後だったのは言うまでもない。













 




 

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