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勇者と魔王の一度きりの最終決戦..


 俺はボロボロになった体に鞭を打って勇者を見つけた。路地裏をむやみやたらに走り回っているこいつは都市から逃げようとしていたのを正面に回り込んで止める。


「畜生………くぅ。起動」


「認証しました。マスター」


 目の前のライブラと言う勇者が片手の魔法書を起動する。ネフィア情報では、色々と出来る便利な図書館らしく。影を蜘蛛として使役し。スパイを行うことが出来るとのこと。


「………勇者ライブラ。怨みはないがネフィアの元へ送る」


「魔王の元へ!? 生け捕り!?」


「いいや、殺す。2回死ねと言うことだ」


 剣を担ぎ俺は走り出す。勇者はたまらず魔法を叫ぼうと声をあげた瞬間だった。


「音奪い」


「……!?」


 声はせず。口をパクパクと動かすだけ。その顔に恐怖が張り付く。


「初見ではわからないだろう。死んでもわからない。その神の物は声認証で発動だろう」


「………」


 反応を見ればわかる。未熟者。想定外の事に頭が追い付いてない。俺なら逃げて時間を稼ぐのだが、そういう判断も出来ない。


 所詮は力を持っただけの素人だ。俺は容赦なく近付いてから切り下ろす。袈裟斬りにより血が路地裏に飛び散る。そして勇者は初めての痛みと死で声にならない叫びをしたが。無音で何も聞こえない。


「この近くなら。絶空」


 倒れた勇者の口を塞ぐ。呼吸も出来ないだろう。苦しみもがき涙を流している。そして………動かなくなった。死体は光って粒子となって消えていく。


「あっけない。弱すぎる」


 俺はそう一言いい。その場を去る。あとはネフィアがどうにかするだろうと思いながら。





 玉座の間に魔方陣が浮かび上がる。ネフィアは身構える。最後の勇者が死んでしまったようだ。これで全滅まであと少しだ。


「ライブラですね。お姉さま」


「一番強い勇者よね?」


「一番強いのは武器が強いだけです」


 召喚されるまでの間。ネフィアはサーチと一緒に魔方陣の中心を見ていた。中心に知った人間が召喚される。冷や汗や苦しそうな顔で。


「はぁ……はぁ………はぁ………息も出来る。声が出

る」


 勇者が喉を押さえて肩を上下に激しく揺らす。ネフィアは気が付く。誰によって殺されたかがわかった。


「トキヤさんに出会ったのですね」


「!?」


 勇者ライブラは顔を上げてネフィアの顔とサーチの顔を見る。驚いた表情で。


「な、なぜ小鳥遊さんとサーチさん? どうして!?」


「どうしてもこうしても。あなたが『帰ってきたらまた会いたい』と言っていたご執心の彼女は。初代英魔族女王陛下であり!! 歴代最強の魔王様なんです。お姉さまの面前で頭が高い!!」


「!?」


 ライブラはネフィアの顔を覗き込む。申し訳なさそうに顔を背けるネフィアに………ライブラは叫んだ。惨めに。


「約束………叶いそうにないですね」


「だ、騙したのか!!」


 そんなの間違いだとか以上に。自分が勇者で魔王を倒した暁には………とか甘い事を考えた相手が魔王本人であり。そして……魔王本人であるのなら既婚者で、非常に心が荒むライブラ。


「騙しました。いろんな事をメモして部下に渡し。『あなたたちを全滅させよう』と思いました」


「ネフィアお姉さま。もっとしっかり言ってあげてください。彼はバカですから」


 サーチがネフィアの横から一歩前へ出てライブラを罵倒しようとした瞬間。ネフィアは翼を片方だけ広げてサーチを遮り盾のようにする。裏切り者へ攻撃を懸念しての行為。それ以上いくなと無言での行い。サーチは己が護られている事に感動し口を閉じる。


「さ、サーチ!? 何故!! 魔王の後ろに!!」


「呪いから解放していただきました。女神の洗脳を解除して」


「呪い!? 裏切ったのかよ!! 俺の事好きだったんだろ!! あの夜のお前は!!」


「ぺっ…………作られた愛になんの意味があるのでしょう?  知らない人を一目惚れ? 現実見ろよブ男」


「い、言い過ぎです。彼はまぁ………はい」


 サーチの容赦ない言葉にネフィアもちょっと思うところがあったが。ネフィアもトキヤ以下と評価を下し。落ち着いて剣を抜く。


「畜生!! 畜生!! 畜生!!………どうしてうまくいかない………どうして。俺は選ばれたんだ。俺は………俺は!!」


 自分の物にしようとした人が既婚者であり。サーチを寝取られ、連続して不幸が襲って来た。今までの幸せは崩れ去り世界を呪う。俺が俺が主人公なんだから。幸せにしろとワガママな事を口にして。その瞬間に手から声が聞こえた。


「力は欲しいですか? 欲しいなら………くれてやります」


「!?」


 手の記憶媒体が声を発する。そこには新しいコード限界突破・リミッター解除と書かれ。ネフィアはその声に反応しライブラを切り落とそうと襲いかかる。


「くれ。目の前の女を奪える力を!!」


 殺した勇者を同じように惨めな思いをさせたい。それで発した言葉に反応するように体の中の魔力が膨張。膨れ上がり衝撃波としてライブラの周りの空気を吹き飛ばす。ネフィアもその衝撃波に吹き飛ばされながら。翼でサーチと自身を護った。


「………お喋りが過ぎたようです。サーチさん。柱の裏へ」


「ネフィアお姉さま。魔力が桁違いに上がっています。身体や色々なものが強化され………限界以上の力です。短い時間だけ強化されるようです」


「………最後は容易く勝たせてはくれないのね」


「おおおおおおおおおおお!!」


 ライブラは叫ぶ、己が強くなることを自覚しながら。そして図書館から一本の剣を抜く。一から復元された剣にネフィアは眉を潜める。エクスカリバーによく似た剣だ。


自動制御(オート)。全て任せる」


「マスター認証確認。発動します」


 ゴバッ!!


 その言葉と同時にライブラは床を蹴り、魔法職とは思えないほどの加速でネフィアに迫り剣を振るう。ネフィアはそれを怖れずに直視し剣を弾いて防御した。


雷撃(ライトニング)!! 嵐の偽物支配者(ストームルーラ)!!」


 ライブラは片手で剣を振りながら。図書館から雷撃をネフィアに浴びせる。ついでに剣に付与魔法かけてネフィアのドレスを風で斬る。


「くっ!? ここで………鎧を着てないのが仇になるの!?」


 バチ!!


「あぐく。痺れて痛い」


「ネフィアお姉さま!?」


「タカナシ!! いいや!! ネフィア!! 凌辱しあいつの前に引き出してやる!! 何故俺は不幸にならなくちゃいけないんだ!!」


「逆恨み!? まぁ……気持ちわかる」


 剣撃を防ぎながらのドレスが余波でボロボロになっていく。電撃の痛みに耐えながらネフィアは叫ぶ。


「くぅ!! 強い。攻撃も速いし。魔法もバカスカを当てて痛い」


 痛いで済んでいるのはネフィアが硬い事もさることながら。少し抉れても自然に回復しているために非常に高い耐久を持っていた。歌のような回復呪文の詠唱で回復しながら戦う。


「魔王が回復呪文つかってんじゃぁねぇえええ!! 奇跡はない(回復封じ)


「くっ!?」


 魔王に対して、闇の魔法を唱えた勇者。少しの間だけ回復が阻害される。自動制御で相手の嫌な魔法を選んでいく。それにネフィアは歯噛みした。攻撃の激しさが動きがどうみてもトキヤに近い物を感じ、剣では勝てないと考えて冷や汗を流す。


 ネフィアは「トキヤはどうやって勝ったんだ」と思いながら。この一瞬だけでも勇者のように強い。ネフィアだけを殺すための癖や攻撃方法、アンチ魔法を組まれたプログラムがネフィアを追い込む。ネフィアは女々しくなる。ドレスも千切れ。恥ずかしいほど。白い肌が露になる。だから、リセットをかねて一回転し翼で凪ぎ払う。


 シャン!!


「うぐっ」


 しかし、翼は切り落とされ魔力となって霧散した。


爆炎の翼 (ばくえんのつばさ)!!」


 しかしただではネフィアはやられせない。魔力が小さな爆発を起こす。たまらずに防御したライブラと距離が取れ。隙がライブラに生まれた。ネフィアはそのまま…………思い付く。


 ダダダダダダダ!! ガン!!


 ネフィアは玉座の間の扉に向かって走り、扉を蹴破り、廊下に出たあとに手を振ってその場を去る。サーチやライブラはその見事な逃走に少し反応が遅れる。


 今までの逞しい剣劇を繰り返していたのに逃げ出したのだ。


「勝機がないと見て逃げた? お姉さまが!?」


「………!?………魔王の癖に逃げやがった!!」


 ライブラは慌てて追いかける。多くの影で出来た蜘蛛を廊下に撒き散らしながら、ネフィアは廊下と階段を爆走する。後ろから足を強化したライブラが追いかけて同じように絨毯削りながら走る。


「魔王!! なんで逃げるんだ」


「音奪い」


「対抗呪文!! 穏やかな風になれ(風魔法無効化)


「ずる!?」


 ネフィアはライブラの「ズルい魔法に卑怯だ」と叫んだが。「人の事は言えないだろ!!」と返してくれる。階段をネフィアが飛んで降りたあと。左足を軸に遠心力を生かして切り返し、階段を降りる。ボロボロで短くなったスカートや鎧ではないためにすばしっこい。強化されているライブラの脚力でさえ追い付けないほどに。


稲妻(ライトニング)


 ライブラは雷撃を飛ばす。走るよりも速く迫り。


 バチバチバチ!! ヒョイ!!


 当たる瞬間に大きくネフィアは体を捻って避けた。後ろに目があるのかタイミングはバッチリだった。


「!?」


 ライブラは追いかけても追いかけても追い付けない。ライブラは驚きながら城を駆け巡る。衛兵使用人に見られながら。城ごと破壊すればいいのだがライブラの頭や自動制御にそんなことは書かれていない。故に………時間が来てしまう。


5……4……3……2……1


ぷつん


「あっ!? しまった!!」


 ライブラは大きな間違いを犯してしまう。剣が消え、片手の記憶媒体の画面が暗くなる。そしてガクッと膝が折れ。手を床につける。ダラダラと汗を流し、気だるくなった体は一切動けなくなる。


 ダダ、フワッ、スタッ!!


 ライブラは顔をあげる。目の前に笑みを消した美少女が白い翼に光を放ちながら立っていた。


「『しまった』と言う声が聞こえて戻ってきたら………電池切れですね」


 声に出してしまったためにネフィアは帰ってきてしまったのだ。衛兵や使用人たち。騎士たちが騒ぎに駆け付ける。


「くっ……どうして!! どうして殺すんですか!?」


「自分を暗殺しようとするのに殺されない道義はないわ。では、処刑します」


「ま、まってくれ!! サーチみたいに呪いなんだ!! そう!! サーチと一緒!! サーチだって殺そうとしただろ!?」


「サーチさんは死のうとしました。私に刃向かうのを良しとせず。あなたは違うでしょ?」


 ネフィアはライブラの横に並び剣を両手で掲げる。


「ひ、卑怯な逃げて戦うなんて。それでも魔王か!? 人の純情もてあそび。この売春婦め!!」


「生き延びる戦いこそが普通なんです。あと、魔王の前に女ですから。生き延びて………逢いたいじゃないですか。夫様に」


「………」


 ライブラは顔を歪ませる。死ぬ前に目の前の美少女がノロケたあとに笑顔で剣を掲げることに「この世界が狂っている」と思った。


「では、さようなら。勇者さん。ごめんなさい。約束、違えて」


「ま、まって!! 死にたく……」


 スンッ


 色んな野次馬に見られた中で断頭の処刑は行われた。





 全ての勇者を倒し終え、私は玉座の間を片付けて陛下にご挨拶し暴れまわった事を謝って城を出た。トキヤの家もとい。実家にサーチと共に帰ってくる。ドレスはボロボロになったが衛兵が買い取ってくれた。サーチをこきつかい。荷物をトキヤの家に運び入れる。


「ここが始まりの聖地ですね。お姉さま」


「聖地ではないです。実家です」


「初めてのキスはここでしたよね。最初はトキヤ様から強引に奪われ突き飛ばした。お姉さまはそれに関して少し残念な気持ちでいらっしゃいます。最初なら……もっと………違う事が出来たのではと思うのですよね?」


「やめて………それ以上言わないで……やめて」


 私は耳を塞ぐ。サーチの能力は鑑識。この家に残っている記憶を見つけ出したのだろう。恥ずかしすぎる。


「これからお姉さまはどうします?」


「城に帰ります。サーチあとこれをあげます」


 勇者の死体から漁った記憶媒体を手渡す。魔力を流して再起動した。


「ネフィアお姉さま? しかし、声認証は」


「起動する」


「マスター認証」


「おお………」


「マスター権限委託っと」


 勇者の声を真似て使えるようにしたあと。中身の設定で声認証はやめてパスワードを設定する。サーチさんにそれを手渡した。


「二人の旅は大変でしょう。貸しておきます。返してくださいね。旅が終わったらそれは封印します」


 誰でも魔力さえあれば魔法を唱える事の出来るこれは世界を滅ぼす物と判断した。いつか私が消し去ろうと考える。エメリアは少ししか役にたたない。今もエメリアは何処かへ行ってしまった。


「ネフィアお姉さま。案外あっさり勝ちましたね」


「時間制限は失敗ですよね」


「耐えれる事がおかしいのです。もっと誇ってください。軽い気分で終わるものではありません」


「………そうですね。皆、理由があって剣を向けて。それを踏み潰したんですよね。ですが、私もトキヤと会いたいですから仕方ないことです」


 そう、割り切る。案外気にしてもないが………「死んでまで辱しめを受けさせよう」とは思わなかった。偽物勇者以外は一応「手厚く供養してほしい」とお願いはしている。


「ネフィアお姉さま。一緒にお風呂とかどうですか?」


「いいですね。着替えても中身はボロボロですし」


「流石お姉さま。昨日の今日の人と一緒に入れるんですね」


「旦那と入ってるよりは恥ずかしくないですから」


 そう言って私はサーチさんと一緒に入ることになった。終わってしまったらもう、あとはトキヤに会うだけ。そう思っていたらサーチに抱きつかれる。


「ネフィアお姉さま~」


「う~ん。あなたは少し、変ですよ」


「ネフィアお姉さまのせいです。ネフィアお姉さまが男なのでいい匂いがします」


「はぁ………」


 1日でも早く。彼の胸に飛び込みたいとサーチをみながら思うのだった。女なのに………なんで女に好かれるのだろうかと疑問に思いながら。















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