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陽の天使を崇める勇者を寝取る魔王..


 サーチは一人、新設された教会に足を運んだ。信託や教会の女神に会いに来たのだ。教会は小さいがそれでも多くの信者がひしめき合い。喋り散らかしうるさく。少しだけ眉を歪ました。亞人の神父がそれに気がつき、説明する。


「人間の信奉者ですか。すいませんね。これも女神の求める物ですから。人間は静かにお祈りしたいでしょうが……申し訳ない」


「ええ、驚きました。うるさいです」


「まぁ待合所のような場所であり、女神は許してくれるのです。騒がしいのも静かなのも全て受け入れる。そんな女神様です」


 サーチは一人で宗教関係の情報を集めていた。最近、新しく宗教が魔国で流行り。それが魔王ネフィア誕生を後押ししたと言う。内容は多神教。「多くの神が魔国に降臨していただいている」と言う物だ。


 多神教。そう………サーチは情報を掴んでいた。


 愛を司り。性に関して悪とも聖とも言われ。皆が心に愛があると信じる愛の女神エメリア。


 大地の全ての母である世界樹の生まれ変わりと言われ。商業を司り。竜をも従える聖樹女神ユグドラシル。


 陽の明るさ。全ての種族を照らし。名前はまだないが絶対に存在すると言われる太陽の女神。


 3人程、有名な神があり………魔族全員がその宗教者であると言う。また魔族ごとで神が違う事も含めて多神教化したらしい。しかし、ほとんどが無宗教だったのが陽の女神の挨拶したら宗教者と言う「簡単な物のために。莫大に広がってしまった」と言う事をサーチはスパルタ国で一冊の本を買って知っていた。今も持っているそれを神父に見せる。兎耳の神父はそれを見てピコピコと耳を動かす。


「それは………聖書ですね。どなた執筆ですかな? 私はグレデンデ大司教さまのが好きです」


「グレデンデ大司教です」


「それはそれは……同志ですね」


 グレデンデ大司教。サーチはこの多神教宗教で魔国を一つにした張本人。こいつが裏の魔王だと思っていた。 しかし、どうやら本当に聖書の主人公が魔王らしく。逆に困惑する。魔物の王らしくないのだ。


「私もこの本を読んでみて凄く気になったんです。魔王のことが。私は………その………勇者です。しかし………聖職者でもあります」


「そうですか…………姫様はたしか勇敢な方。戦ってくれるでしょう」


「魔王を慕う人は………多いですか?」


「多いです。何故なら私たちが唯一。一つになれる方法なのですから。この首都もやっと一つになりました。争いで殺し会う事も、いがみ合うのも、もう終わりです」


「でしたら………私の仲間を拐ったのはあなたたちですか?」


「ええ、そうですねきっと。姫様と勇者に選ばれた精鋭。祝福されし英魔国護りの衛兵たち。黒衛兵隊ですね。呼び名は様々ですが……教会によく顔を出してます。気をつけてください」


 教会の人々が途端に敵に見えるサーチは一人。ため息を吐いた。


「それを話すと言うことは………私一人では敵わないのですね」


「ええ、きっと………ですが。姫様に説得すれば助かるかもしれません」


「それを喋って良かったのですか?」


「自由で静かに暮らすこと。それが女神が求めるものです。それに同志じゃないですか。私には……あなたが可哀想に見えるのです」


 サーチは息を飲んだ。神父が笑顔に驚かされたのだ。姫様を殺そうと旅している奴に向ける顔ではない。そう………聖職者の器を見せつけられる。


カツン!!


「………おっと。衛兵のご登場ですね。教会の裏側もいるねこれは」


「……はぁ……拷問されて最後ですか」


 サーチはため息を吐く。「きっと根掘り葉掘り言われるのだろう」と諦めてそう思っている。獣族とエルフ族の二人の前に神父が躍り出た。


「神父すいません。その人を渡してもらえませんか?」


 神父が前に出てサーチを庇う。サーチはまたここでも自身の聖職者像との隔離に驚かされた。


「神の御前で血生臭いのはやめてください」


「ああ、だから。渡してほしい」


「ここは教会の敷地内。権限はこちらです」


「姫様のためにだ。お願いだ………」


 神父と衛兵たちがサーチを無視して議論し合う。一人、エルフ族が俊足で離れる。


「動くなサーチ。お前の仲間がどうなっても知らないぞ」


「仲間は………どうでもいいです」


「なに!?」


「………サーチさん?」


「ええ、どうでもいいです。作られた仲ですから」


 サーチは投げやりに言う。神父たちが顔を傾げる。そんな中で駆け足で二人が現れる。その速さには目を見張るものがあった。恐ろしいほどに俊足でこれは逃げられないとサーチは悟る。黒い大きい角が生えた男性だった。大きな黒い剣を背中に担ぎ。そしてサーチを庇う教会の主に頭を下げた。全員が同じ行為をする。


「神父、すいません。後で罰は受けます。お願いします。俺の命と交換してください」


 サーチは息を飲んだ。「こんな少女を引き渡す事にここまで言うにか」と。


「はぁ………隊長自らですか。ダメと………」


「すいません。神父………私を庇ってくださいましたこと感謝します」


 サーチは覚悟を決める。このやり取りを見て………これまでの全てを見て………自分は悪だと知る。物語勧善懲悪と言う話ではない事を確実にする。


「隊長さんでしたか………連れていってください。陽の女神の加護があります。次回の人生が願わくば英魔族でありますように……」


「……………そうか。すまないな………人間の聖職者」


「はい。ここで、お願いします」


 サーチは正座する。そして………商業都市で買ったお守りを握りしめる。陽を形を型どった物。目を閉じて身を捧げるように祈る。


「魔王は………帝国に居るんですね。やっぱりあれは見間違いじゃなかったのですのね」


「知っていたのか? 教会で出会ったと聞いてはいたが………」


「能力を使い、調べました。最初は間違いだと思いました。しかし………調べていくと納得しました。姫様に会い。聞いてみます。私は運悪く勇者として生まれてしまったから」


「………はぁ。同じ同志。向こうで姫様にお願いしてくれ。もし、説得出来れば生かして貰える筈だ」


「優しいですね」


「………敵であれば容赦はしないが。その瞳に敵意はない。サーチと言ったな。我が名は隊長ノワール・デビル。悪魔だ」


「礼儀の正しい悪魔ですね」


「………これも運命か。全てを見届けよう。もし、許されざるなら、私が亡骸はしっかり丁寧に供養しよう」


「あなたは悪魔ですか?」


「悪魔だが…………いい答えを持ち合わせてない。すまない」


「そうですか……では供養。お願いします。神父さん。ありがとう、庇ってくれて」


「………ああ。帝国だったな。待っていろ。長旅になるからな」


 そう言い、ノワールは剣を降り下ろすのが見えてサーチは痛みと共に意識を失うのだった。





 ネフィアは玉座に座る。スケッチをする衛兵のために皇帝の許しを得て玉座に座っていた。衛兵の用意した服を着替えた状態で止まって待っていた。その瞬間にスケッチしている衛兵の足元に光が集まり魔方陣が産み出される。召還されるのは際どい姿の聖職者だった。


 ネフィアは知っている。出会っている。一度出会っていた。帝国の教会で。衛兵が慌ててスケッチを持って避難する。


「姫様………申し訳ありません。鎧ではないことを」


「気にするな。余は魔王………このドレス。綺麗だからな。汚さぬようにするよ」


「陽の加護があらんことを」


 衛兵は嘆息する。その堂々と勝つ宣言する魔王に心を奪われる。玉座に帝国の旗が風のない筈なのに靡いた。


「ん………んん………」


 ネフィアは横になって倒れる聖職者に剣を向ける。


「………サーチさん。能力は鑑定」


「………魔王様。いいえ、女王陛下ネフィアさま」


 ネフィアは様子の違う勇者に剣を納める。敵意がない。そう、敵意がないことに気が付く。


「お初ではないですね。サーチさん」


「ええ、教会で」


「それで。どうして………諦めたんです。使命を。勇者でしょう?」


「………えっ」


 サーチは驚いた表情を見せた。「何度も何度も驚かされてばっかりだ」と内心で思う。


「見たらわかります。覇気がない」


「………長くなりますが聞いてくれますか? 会いたかったです」


「ええ、いいでしょう。ちょうどそこにテーブルありますし、椅子もあります」


 ネフィアに導かれて席に座るサーチは話をする。ネフィアは内心でドキドキした。何故なら殺気だっていない以上に何か思っていたのと違うことに。悩み相談、懺悔みたいな状況に。


「私の能力は知っています。私は教会で一度能力を使いました。そして………一瞬で全てを知りました」


「全て?」


「女王陛下ネフィアさまと名前がわかった後に………すごされた日々に。何でもです。能力以上に知ってしまいました。勇者を愛している日々を」


「…………恥ずかしいですね。うん」


 ネフィアは照れる。サーチは「そんな笑顔が出来る魔王を知らない」と心で思いながら口にした。


「作られた使命と作られた勇者。作られた勇者への愛。何もかも女神が作った物です。そう………私は何もかも作られ。勇者を無償に愛せという呪いをかけられています。だから……それをサーチして確認して自分で知って『消えたい』と思いました」


 サーチは自分を鑑定した。「結果は散々だったのだろう」とネフィアはそう思い、口にする。


「呪いを解いてほしいですか?」


「呪縛を解放してほしいです!! あなたの愛する真の勇者トキヤさまのように!!」


「…………味方を殺しましたよ?」


「本当の味方を………普通に愛して作りたいです。皆、英魔族の人々はいい人ばっかりでした!! 庇ってくれて………嬉しかった」


 サーチが泣き出す。ネフィアは席を立ち子供をあやすようにサーチを抱き締めて自分の翼でも包む。


「陽の天使ネフィアさま。どうか………裏切りを女神からの堕天を認めてください」


「いいえ。認めるか認めないかはあなたの足で歩いてください。私は背中を押すだけしか出来ません」


「知ってます。自由になりたい」


「…………サーチ。下の名前は?」


「ないです」


「では、爵位司祭。サーチ・リベルタを名乗りください。あなたは自由です。あなたのその翼で好きに飛び立ってください。私が祝福(護衛)してあげるから」


「ネフィアさま………ありがとうございます」


 深く私の胸に顔を沈める。ネフィアは優しく子を撫でるように慈悲を渡す。


 物音がしない事に疑問に思った衛兵が扉を開けて見たとき。「天使の祝福する瞬間を見た」と目に焼き付けるのだった。



 



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