邪眼の女騎士の目の前にラスボス..
女騎士メデューサは大きな通りの商人に話を聞いていた。大通りで堂々と人探しをしているのは一応は目立ち。なにか向こうから接触があると思っての行動だったが。そのとおりだった。
「人間の姉ちゃん………やぁ!!」
「おまえは」
「この前はありがとう」
「いや………………」
彼女は予想外だった。この前、酒場でゲロを吐き財布を盗んだ少年が声をかけてくれたのだ。
「でっ……姉ちゃんもしかして人探ししてる?」
「………すまない。子供は危ない事に首を突っ込まない方がいい」
「姉ちゃん探してるのって………あの軽装の姉ちゃん? 知ってるよ?」
「!?」
彼女はその場を去ろうとした瞬間に足を止めてしまう。
「裏路地行こうぜ~子供だからこうやって稼がないと生きてけないんだ~金貨1枚ね」
「…………」
メデューサはどうしようかと悩み。一緒に路地裏へと入る。路地裏と言っても4mぐらい幅広い場所で建物の影になっているが普通の道とも言える場所である。
「姉ちゃん。昨日ね………ここであの姉ちゃん一人で情報を集めにいってたんだよ。そこでさ………こう暗殺者の人と戦ってた」
「な、なんだって!?」
少年が喋り出す情報にメデューサは驚いてつい口に出してしまう。
「お姉ちゃん強かったよ。でっ命からがら逃げて潜伏してるんだ。僕知ってるよそこ」
「そうか………ならそこを教えてほしい」
「うん………わかった。勇者殿」
しゅっ!! ザグゥ!! グリグリ!!
「かは!?」
少年が一瞬で間合いを詰め女騎士鎧の隙間、横腹にナイフを突き入れた。メデューサは目の前の状況についていけず。横腹を押さえながら少年から離れる。少年は目を閉じていた。メデューサは自分の能力を知られている事に背筋が冷える。何が起きているかわからないと言うように。
「何故……何故だ!!」
痛みに耐えながら。赤く塗れたナイフを持つ少年の声が変わる。幼さを感じない声だ。そう………青年の声が路地裏に木霊する。
「自分は人間とゴブリンの血が混じってて体が小さいままなんですよ。まぁそんな仲間がいっぱいいるんですけどね。だから一応大人です」
「くっ!! 騙したのか!!」
「ええ、自分の出身地。都市オペラハウスの子役から。女王陛下の元への志願兵ですよ。お仲間の所へ送りますよ。殺して帝国に」
「こ、殺した!? あの………グラビデを!?」
女騎士は戦慄する。人間の少年にそこまでの強さがあると思えなかったのだ。剣を抜き、痛みに耐えながら構える。傷はゆっくりと癒えていく。
バサッ!! スタッ!! ダダッ!!
女騎士は上から大きな影が降りてくるのがわかった。それは大きな布。それが女騎士に被ってしまう。気がつくのが遅れた。それは目の前の少年のせいで、目の前の殺意に目が離せなかった事が原因だった。
何人かの足音が聞こえる。女騎士は剣をむちゃくちゃに振り回して布を切ろうともがくがその前に。路地裏に殺到した部隊に鎧の上から斬り下ろされたりしてぼこぼこにされる。鎧を着ていたために耐えていたが、多勢に無勢。しだいに………倒れ。布が紅く染まり路地裏に血だまりや壁に飛び血が散乱するまでにやられる。
「まだ死なないか」
「自身を硬化しているな。しかし………姫様よりも耐久は低いな」
「夢の中の姫様。頑丈だったなぁ………」
皆が染々と女騎士の亡骸を見る。微かにまだ息はある。「弱ければ苦しまずに済んだものを」と皆が思う。なお、ネフィアは夢の中で剣一本だけのハンデで隊員と戦い。損耗耐久戦で勝利している。「それよりも弱いな」と隊員は思ったのだ。
「首を落とす。俺が」
一人の刀を持ったダークエルフ族が腰から抜き、スッと振り……刀を戻す。すると布ごと、女の首が飛んだと思った瞬間。光だし粒子となって消えてしまう。
「姫様の元へ行ったか」
「あとは姫様の仕事だな。にしても………めっちゃ名演だった!!」
皆が同士のゴブリンの頭を叩きまくる。勇者を俺達で倒せたことを喜びながら。
*
昨日の今日。目の前で惨劇を行った魔王は玉座の間にある椅子に腰かけていた。朝食を帝国の食堂で衛兵と食べた後からずっと。
「すぅ…すぅ……」
寝ていた。翼は畳まれ、魔力の羽根が玉座のあちこちに散り、玉座に陽光が差して女神が寝ているような光景が生まれる。
あまりの幻想的な光景に衛兵たちは明け放たれた扉から覗き込んだ。絵心を持つ衛兵が一人、スケッチし出す。女騎士の鎧をドレスに見立てて。
玉座の間に…………穏やか時間が流れていた。だがそれは終わる。
ブオオオオオン!!
魔方陣の起動音とともに静寂が崩される。慌てて衛兵が扉を閉めた。ネフィアも目をひらけ、顔をあげる。
「んんんん!!…………よく寝た。相手はメデューサね」
魔方陣を眺め。姿が見えたときにネフィアは玉座から離れ柱に隠れる。相手が目を合わせると危ない相手と理解しての行動だ。
跪いた女騎士が召喚された。メデューサはその瞬間体を抱いて震わせて叫ぶ。
「なんと卑劣な行為か!! 魔王めえええ!! 性根の腐った魔王め!!」
ネフィアはビクッと体を震わせる。全く心当たりがないのに怒られている事に。
「………えっと。おほん」
ネフィアは気を取り直し声を響かせる。
「余になんのようだ? メデューサ」
「なっ!? 何処から声が!! おまえはいったい!!」
「魔王ネフィア……がり…………」
ネフィアは悶絶する。ここ一番で舌を噛んでしまった。あまりの痛さに名前を言い切れなかった。
「魔王!? 何故帝国に!!」
「…………」
「答えろ魔王!!」
メデューサが大きく叫び、剣を抜いて声を荒げる。ネフィアは答えようとしても答えられない状況なのだがそれはメデューサは知らない。
「何処だ魔王!! 出てこい!!」
「すぅ………ああ。痛かった。出てこれるわけないでしょメデューサ。石化させられるし」
「何故知っている!! それと!! グラビデはどうした!!」
「灰になりました。知っているのは勇者から聞いたんです。あとですね~酒場で会話はだいたい丸聞こえですよ」
「…………帝国に潜伏していたのか!?」
「ええ、あなたたちを倒すのに2回倒さないといけないですから。リスポーン狩りです」
「卑怯な事をして。勝ってなんになる!!」
「卑怯? 勝つための努力は生きるための努力です」
ネフィアは堂々と話す。
「私は魔王になりたくありませんでした。しかし………この大陸で生き抜くために私は皆に選ばれました。それを否定はしませんし。何があったのか知りません。ですが、選ばれたら戦わないといけないのです。民のために」
「…………くぅ」
「ですので死んでください」
「………姿を見せろ!!」
「はぁ……血が登ってますね。フェニックス」
ネフィアはため息を吐きながら、炎をだし、それがネフィアの姿をする。そのまま歩いて柱から出す。囮だ。
「お前が………お前が魔王か!!」
メデューサが剣を振りかぶりフェニックスを切る。切られたフェニックスは笑い。剣に炎が巻き付く。
「な、なに!?」
剣を払い、炎を引き剥がして距離を取ったメデューサ。フェニックスはそのまま立って笑みを向ける。柱の裏からネフィアは手入れようの手鏡で位置を確認し、柱から走り出す。側面、鎧の薄い場所を目指し鞘を掴み。柄を掴み。居合いの構えをする。
「に、偽物!?」
目の前のフェニックスがネフィアの偽物なのにメデューサは気が付いた。しかし、もう遅く。だが、メデューサの騎士としての勘がこのときやっと働き側面を見る。ネフィアもしまったと思う。
メデューサとネフィアは目線が合った。目を閉じる前に合ってしまった。
「あっ……」
メデューサはネフィアの姿に「何故、天使が?」と思い。一瞬で「女神から堕天して裏切り者」と勝手に解釈し、深い増悪の笑みを浮かべた。
ネフィアは体が石化して、動かなくなると思ったが。普通に剣を鞘から引き抜き、炎刃が女騎士を巻き込む。
「な、何故!?」
「な、なんで!?」
「「効かない!?」」
メデューサは絶望な表情で絶叫しながら、倒れ炎に焼かれる。ネフィアも驚きながらも絶叫をうるさいので音を消し去り首を傾げた。
ネフィアは全身を見てもなんにもなってない状況に悩む。そのまま「まぁいっか」とネフィアは考えるのを止め。さっと女騎士の首を斬って絶命させる。苦しんでいるようだったので介錯した。
「勇者って人柄………悪い? でも、転生後はこの世界の住人になれたら普通になるのでは? 変えた? 洗脳?」
そんな疑問のまま。ネフィアは偽物のフェニックスを戻して衛兵に終わった旨を伝える。すると衛兵の一人がデッサンさせてほしいと言われ快く承諾する。
衛兵が片付けるなかでネフィアは気が付かない。石化の呪いが効かない理由と己がまだまだ変異している段階だと言うことを。いままで、呪物を浄化してきた事を忘れていた事も忘れている。そう、メデューサも知らない。何度も呪いをはね除けた魔王ネフィアが聖職者であり、自身を祝福できるほどに矛盾した退魔の力を持っていることに。聖なる力を行使出来ている存在なのだと。
エルフ族長は知り、ネフィアも人間至上主義女神も気付いてないのだった。




