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目の前に魔王、ラスボス、リスポーン狩り..




 ネフィアはネリス・インペリウムを倒し玉座の間で住み込んで。勇者が帰ってくるのを待っていた。彼女はトキヤの育てた隊員たちに「勇者を時間差で一人一人倒してほしい」と願う。理由は勿論、殺到する勇者(ボスラッシュ)が4人同時だった場合は負けるだろうと考えてのことだ。


 玉座の間の端に椅子とテーブルと野営用の簡易テントを置いて紅茶を啜りながらネフィアは本を読む。本は恋愛物だったがなんと作者はランスロットさんの父上と言う劇物である。非常に甘く蕩けるような内容の実在の話を元に書かれており。貴族社会で人気を博しているため騎士へ嫁ぐ者が多くなった原因である。


 そんな中でネフィアは魔力の高鳴りを感じて本を閉じ、テーブルに置く。時間は夜中であり、勇者が暗殺されたのだろうとネフィアは感じ取った。


「一人ですか二人ですか? それとも全員?」


 ネフィアは立ち上がり玉座の間の中心へ行く。するとそこでは魔方陣が浮き上がり。一人の少女が膝をついた状態で召喚された。ネフィアはその姿を見た瞬間に素早く目の前に移動して臨戦体勢をとる。ゆっくりとボーイッシュな女の子は目を開けた。


「!?」


 皮軽装のシーフ姿の女の子グラビデはネフィアを見て息を飲んだ。ネフィアは彼女を知っていた。女の子の名前をグラビデと言い。能力が何なのかをネフィアは味方の情報を全て話してしまった勇者気取りの暗殺者。愚か者のせいで知っている。なので先に仕掛けておく、罠を。彼女の新しい炎の能力を。


「こんにちは、グラビテさん………私の名前はネフィア・ネロリリスです。ごめんなさい、死んでください」


「ネフィア………!?」


 グラビデは気が付いた。しかし、彼女の頭は理解ができない。一度死ねば帝国の玉座の間に戻される事を知っていた。神の与えてくださったら物の効果だ。しかし………目の前に倒すべき敵が居るなんて事は知らされてなかったのだ。


「ここは………帝国。なんで!?」


「なんで、魔王が居るのでしょうね。わからないでしょうけど」


 ネフィアは剣を抜く、「ゆっくり、説明なんかしてあげるほどに優しくはない」と思いながら。現実主義なトキヤの影響で慈悲を捨てる。


「ひ、ひきょう」


 グラビデが後すざる。綺麗な幼い顔に恐怖が貼り付けられた。そう、グラビデは死ぬ恐怖を経験し、体が強ばっている。彼女は今さっき戦ったのよりも絶対強いと予想する魔王に震え出す。「一度、死んでも大丈夫だ」と言う保険がある状況は、死への恐怖に対する精神を鍛えられず。恐怖に打ち勝てない状態を生む。


「私を殺すつもりなのに………死ぬ覚悟も出来てないの? どうして私を殺そうとしたの? 全く………これだから転生者は何度も何度も失敗してたんですね」


 ネフィアは主人のトキヤを思い出していた。彼と比較して少しは強いのではと思っていたのに拍子抜けだったのだ。黒騎士団長。族長たちの方が遥かに強いと信じている。この世界は甘くはない。


「…………!!」


 ネフィアの言葉にグラビデが反応する。しかし、次にはわめき散らすように命乞いをした。


「お願いします!! 死にたくない!! 知らなかったんです!!」


 ネフィアはそれに悲しい顔で喋り出す。「流石にそれはないでしょう」と思うのだ。「これが勇者なんて酷すぎる」と。旦那を思って苦しむ。旦那と比較して幻滅する。そう、ネフィアの剣の鈍りは拍子抜けたからだ。


「私が同じことを言っても殺すでしょ?」


「そ、そんなこと!!」


「ごめん。少し見苦しいよ」


 ネフィアが白い翼を持つ形態に変化した。グラビデはその姿に驚く。幻聴なのか聖歌が聞こえ、まるで天使であり女神のように立って睨んで剣を構える魔王の姿に「自分達の方が愚かなのでは」と言う錯覚に陥る。「正義は向こうにあり。私たちはなんのために集められたのか?」を疑問になりそうなほどにわからなくなる。


 グラビデの目にはどうみても敵には見えないのだ。だからこそ叫んだ。そして、それでも苦し紛れで能力を起動する。


「あああああ!! グラビデ!!」


 彼女が叫び能力が発動する。周囲一帯で重力が増え。ネフィアの動きが止まる。ネフィアはへたりこみ、重力に耐える魔王を見て「あっ」と言う顔になった。余裕が生まれる。


「なんだ。効くんだ」


「……重たい」


 ネフィアは演じる。重いふりを立てないことはないし走れる。しかし、飛び跳ねることはできないと冷静に判断を下しながら、待つ。


「このくそ女!! ビビらせやがって!!」


「………本当に勇者?」


 勇者ライブラに見せられないほどに醜く表情を歪ませてナイフを取りだし近づく。ネフィアの問いには答えない。


「私一人で倒せるね……あなたを」


 余裕の笑み。憎たらしいほどの余裕の笑み。


「うぐ………お願いします。殺さないで」


 ネフィアはこっそり。舌を出す。答えは決まっているが意趣返しだ。


「………」


 グラビデは答えない。しかし、グラビデは手にあるナイフを握り直した。行動で問いに答えたのだ。


「結局………そうなんですよね、勝ち誇るんですよね。グラビデさん。私って美人で白いから目立つでしょ?」


「ええ、それがなにか?」


 警戒するグラビデ。余裕の表情が崩れる。


「カイザーフェニックス。足元がお留守ですよ」


「!?」


 グラビデはその場に止まり、ナイフを構え足元を見た。しかし、彼女は気が付いた。上が熱いこと。目線をあげた瞬間に炎に飲まれる。


「きゃああ!!………………」


ゴオオオオオオオオオオオ


 上から襲って来た白い炎の翼を持つ鳥に飲み込まれて重力の影響を受けていたのかいなかったのかはわからないほどに一瞬で喉を焼ききられ全身を燃やした。辺りに人間の焦げた臭いを撒き散らす。悶える時間はない。そして熱風がネフィアの頬を叩く。


「……………」


 絶叫はない状態で立ったまま彼女は何もかも黒く白く炭化し、倒れた瞬間に体が砕けた。骨は高温で曲がり。ただ人だった物が転がる。その中心から小鳥が突き破ってネフィアに戻っていった。内蔵も何もかも水分等を蒸発させて焼ききっているだろう。内側から。


「………うぷ。ちょっと気持ち悪いですね。残酷でしたか」


 あまりの残酷な光景を作ったネフィアは「仕方がない」と思いながら剣を収めて手を合わせる。


「天国へ行けますから………どうか次の転生先は普通の人として生きてください」


 無慈悲だが。ネフィアは扉を護る衛兵に後始末を頼む事にしたのだった。あと3人と考えながら。









 勇者たちは朝にグラビデが居ないことに気が付いた。気が付いた瞬間、宿屋の主人から「彼女は夜に何処かへ出掛けた」と聞く。ギルドの酒場で彼らは会議を行う。既に亡くなっている事を知らずに。


「なにかあったのか?」


「わかりません。しかし、彼女はそれでも勇者の一人ですから強いと思います。しかし、帰ってこれない。何かの事件に巻き込まれたのかもしれません」


「どうする? 待つか? 探すか?」


 勇者一向の唯一の男性であるライブラが提案する。危機感を持っていない3人。そう………すでに魔王の手によって葬り去られている事を知らない彼らは愚かな選択をした。


「探そう。3人手分けして情報を手に入れよう」


「確かに時間は惜しいですものね」


「決まったね。では………昼に一回ここに戻ってこよう」


「ああ」


「ええ」


「一応、事件の匂いだから気を引き締めよう」


 勇者一向は頷き。パーティは解散した。ギルドの酒場でそれ以降彼らの姿を見たものは居なかった。彼らは自信に満ちていたために別行動に移ってしまったのだ。







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