白翼の姫騎士と黒翼の姫騎士..
ネフィアは城の門の前に立った。大きな大きな開け放たれた門の中で騎士が一人一人に入城の許可証を確認している。彼女は今日からずっと通いづめないといけないその初日に堂々と正面から歩く。白い騎士の鎧を着込んだ状態で。
そして……それは後に「帝国の門を一人で潜った魔王」として彼女の伝説で語られるようになる。それほどまでに異様な出来事であった。
「止まってください!! ここは王城。入城の許可書を見せてください。どこの令嬢様で?」
「はい、どうぞ」
ネフィアは懐から陛下の発行する許可証を見せつけた。騎士は敬礼をし無礼を謝る。見た目は姫騎士なので皆が、御挨拶をしている。誰も心辺りがない姫様だが………身なりを見て勝手に納得していた。何処かの姫君だと。箱入り娘なのだろうと。囚われていた事も知っており。噂が噂を呼んだ。皇帝陛下の隠し子と。
故に嘘が広まり誰も気がつかない。誰も気にしない。綺麗な姫騎士が実は敵国の魔王と言うことを。誰も全く考えなかった。露骨すぎるために疑わない。
そして、誰にも止められずに玉座の間の扉にネフィアはやって来た。
「陛下!? 寝ておられなくていいのですか!?」
廊下から衛兵の声が響く。ネフィアは笑顔で待っていた。
「今日は調子がいい。それに私の愛人が来るのでな」
「陛下、遅くなりました」
ネフィアが跪き、騎士の礼をする。それを見た陛下は益々上機嫌になった。
「はははは!! 騎士の礼節を知っているのか!! お前は!!」
「私の剣の師は誇れ高きマクソミリアンの祖。元マクシミリアン騎士団長エルミア・マクシミリアンです」
「あの、紫の死神。女傑が師だったな!! なら当然知っているな。あやつも素晴らしい傑物だ。あやつの息子も孫も子孫もワシの子孫とは比べもんにならん」
皇帝のグラムが玉座の扉の前に立つ。衛兵が、扉を慌てて開けた。
「下がってよい。玉座の間に入れるのは王かそれに認められた者のみ」
「しかし………こやつは………」
この衛兵はネフィアを知っているらしいく視線を寄越していた。ネフィアも何処かで見たことがある素振りをして挨拶をする。渋々と衛兵が後ろへ下がり、二人は玉座の間に入とふただび扉を閉める。
玉座の間の鳥籠の晒し檻は消え、窓から陽光が差していた。そして、もう一人がお目見えする。
「久しぶりね。ネフィア」
「久しぶりね。ネリス」
ネリス・インペリウム。インペリウム家の御令嬢であり、勇者の支援者だ。ネフィアの白金の鎧に似た桜色の騎士鎧を身に付けている。髪は長くピンク色の髪を持つ。
「陛下、お下がりください」
「うむ。まぁここで見ておく」
「ネフィア………今度は陛下を誘惑? 見境ないわね」
「………はい」
「ならば、害は消さないと」
ブワッ!!
ネリス・インペリウムの背中から黒い翼が具現化し、黒い羽を撒き散らす。
「そ、その姿!!」
「ふふ、驚いた? 女神が私に力を授けて下さった。ここを護れとね」
「うらやましい!!」
「………」
ネフィアが輝いた目で黒い羽を見る。そして、同じように白い翼を具現化し背中を見せた。
「私って白い鎧に白い翼じゃないですか。そこはやっぱり黒い方が見栄えがいいと思うんです。一応魔族ですし!!」
いきなりファッションの話をするネフィアに皇帝は腹を抱えて笑い出す。
「はぁ………余裕ですわね。魔王。それに……その翼」
ネリスは自分の黒い翼とネフィアの綺麗な純白な翼を見比べ。嫉妬する。何故魔王の方が白いのかと。
「正義は私たちにあるのに………偽りの天使の翼を斬らせてもらう!!」
ネリスが地面を蹴り剣を抜く。細い剣であり突きを繰り出しながらネフィアに肉薄した。ネフィアは最速で向かってくるネリスに合わせて剣を抜き。突きを剣で叩き逸らした。ネフィアは頬をかすり、傷がついたが一瞬で傷が輝き、傷が癒える。血さえ出さない。
「な、なに!?」
「どうしました?」
ネリスが距離を取るために離れる。しかし、ネフィアはそれに追い縋った。剣を振り、細い剣と打ち合う。
1合2合と回数を増やしていく。金属音が玉座の間に響かせ………30合の時にネフィアが口を開く。
「軽いですね。剣が」
「はぁ!?」
「軽いです」
ガッキィイイイイイン!!
大きく剣を振った訳でもない。だが、ネリスの剣が大きく吹き飛ばされそうなる。ネリスは歯噛みした。「重い!?」と苦しんで。
ネリスは思う。重騎士のハンマーの一撃のような重さに剣を持った右手が痺れたのだ。
「あなたの剣は何を想い振ってますか?」
「それは!! お前を殺すために!!」
嫉妬に歪んだ顔でネリスは叫ぶ。愛しい人を奪い。自分の思惑さえなにもせずに潰し。まるで……まるで聖女のような清らかさにネリスは憤怒を覚える。自分の醜さを笑われている気がして。鏡で醜い姿を晒されているような気がして。ネリスは自分が影であることを納得しない。
「はあああああああああ!!」
キィン!!
ネリスが鋭い突きを行う。しかし、今度は距離を取ってネフィアが避けた。避けた先で、聖剣をその場に産み出して、ネフィアは地面を蹴り直し、ネリスに接近して2刀で攻め立てる。
「私の剣はトキヤへの想いと!! 国の女王としての国民への想いが乗っているんです!!」
回避から突然の2刀の猛攻。ネリスは防戦一方になり苦虫を噛んだ表情になる。経験の差が歴然である。
「くぅ。この!! くそあまああああああ!!」
ネリスが右に回転し、黒い翼で凪ぎ払おうとする。ネフィアも同じように距離を取って右に回転し、白い翼を黒い翼にぶつけた。
ドゴンッ
重たいもの同士がぶつかった音。二人の翼は消え。魔力となって白と黒の羽根として散った。ネフィアは叫ぶ。
「フェニックス!!」
「!?」
ネフィアは叫びと同時に聖剣に炎を纏わせてネリスに向けて投擲する。慌ててそれを弾こうと彼女は剣を振った。
キィン!! カアアアア!!
「王手」
ネフィアが囁く。弾かれた瞬間、纏っている剣の炎が剣から離れて鳥の形をする。ネリスは時がゆっくりになるのがわかった。そして呪詛を吐く女神へ。「ここまで強いのを知らない!! はかったか女神!!」と。
女神から聞いていた魔王の強さや技の情報が全く古いことを彼女は気付いた。ネフィアは人間女神の観測より早く強くなっていた事を知らない事が予想外だったのだ。
ドボアアアアアアアアアン!!
火の鳥が爆発音を立てながら火球になりネリスを飲み込む。剣と魔法の二段攻撃に負けたネリス。そのネリスを飲み込んだ火球にネフィアは近付き、ネフィアの背中の羽根が再生する。そして、背の羽根に炎が吸い込まれていく。
消えた火球の中心にネリスが倒れていた。所々、服は燃え塵となっている。鎧も溶けて赤くなってドロドロであり、ネリスが大火傷した顔をあげた。
パチパチパチ
「流石、女王………でっ殺さぬのか? こいつを」
皇帝が「いい決闘だった」と満足げに顔を出す。
「陛下!?………こいつは魔族です!! 敵ですよ!!」
ネリスが怪我をした状態で叫ぶ。しかし、皇帝グラムはネフィアに聖剣を借りる。緑の剣が皇帝の懐かしいエクスカリバーの姿に変えた。
「敵の前に……お前は何故………玉座の間にいる?」
「そ、それは………あああああああ!!」
ネリスの体の中心に剣が突き込まれた。女神の祝福か傷が癒えていく中で突き入れる。
「女王、首を切れ。お前の首級だ。王以外が無断で入った罰だ。勝手に暴れた罰だ」
「へ、へいかがああああああ!!」
シャン!!
ネフィアが近付きブロードソードの火剣を振り下ろして首を斬り離す。そのまま剣を納めたネフィアは疑問を口にした。
「陛下。よかったのですか? 彼女はあなたのご子息です」
「女王、ここはな………玉座の間。王が座る場所だ」
「私の座は………教会のような場所です。人が集まる場所です。こんなさみしい場所ではないです」
「成る程な。お前の王と言うのは………ワシの思う物と違っているのかやはり。老い先短く。お主の覇道をその先を見れないが。お前の王道がどう言った道になるか見届けたかったな。ガハハハ」
「……………見ててください天から」
「ああ、なるほどな。あの世で見ろと言うのか。ククク。お前は勝った。ここに好き勝手に入ってくれていい。だからこそ………言うぞ。『止まるなネフィア!! お前の進む道をただ信じろ!!』」
ネフィアは頷かない。しかし、笑顔になる。
「私は何も出来ません。ですが………国民が出来るでしょう。私は『英魔族を信じます!!』」
「ふっ……ククク。俺とは違うから本当に面白い。本当にお前の王の道を見たかった」
陛下はそのまま名残惜しそうに自室へ戻るのだった。




