勇者殺し..
執務室と言うにはいささか広い場所。大きな長テーブルに数人だけが座っていた。私、エルフ族長とダークエルフ族長。そしてこの場には女神エメリヤと裏切りの勇者トキヤ。ネフィア様はまだ現れずにいる。
「全員集まりましたか」
「少ないな」
「仕方ない、皆は内政に忙しくなる。元々の活動拠点がここの俺らは運が良い」
「そうだな。俺らは運がいい」
ダークエルフ族長バルバトスは笑みを浮かべた。彼はエルフ族長である私の最初の同志であり。ネフィア様を強き人として信奉している。
「姫様を倒そうとする不埒な奴を狩れる日が来るとは」
「ダークエルフ族長。勇者は強い。俺自身が負けている」
「だからこそ。好敵手なのです。トキヤ殿」
「英魔族は脳筋ばっかだな」
トキヤが肩をすくめる。ダークエルフ族長もそれに頷いて「同類でしょう」と言い。トキヤは苦笑いをした。
「残念、同類じゃない」
「姫様を護ろうとする同士でしょう? トキヤ殿………クク」
「それは多くの人が該当しますね。ダークエルフ族長。トキヤ殿も私も該当する」
「…………ネフィアいいなぁ………男がいっぱいいて」
ボソッとエメリアがいい場が凍る。
「こいつ、浮気推奨か?」
「姫様に信仰をやめてもらわないといけませんね」
「女神でなければ………この剣槍、ブレードランスで斬ったのになぁ。その発言は不謹慎です」
「……………あなたたち。私は女神よ!!」
「俺にはネフィアがいる」
「ええ、私にも姫様がいます」
「同じく。陽の女神様がいます」
「………わ、私が洗脳したけどやり過ぎた気がする」
「洗脳した?」
「洗脳されてませんよ? 心から信仰してます」
「だな」
男3人が女神を罵る。女神も途中から意地になっていたが。全く靡くこともせずに鼻で笑われさめざめ泣きながら部屋の隅で丸くなる。そしてその時になって女王ネフィア様が兵士の案内によって顔を出した。
ネフィア様はいつものようにただ笑みを浮かべて歩き続け周りを見渡す。トキヤはいつもの彼女に見えたのか、抱き合い私たち男二人には女王陛下は一瞬眩しく見えた。
エルフ族長とダークエルフ族長は心なかで口に出した。「陽の導きがあらんこと」と。
「遅くなった。すまん。でっ………破廉恥女神は?」
「そこの隅にいらっしゃるのが破廉恥女神です」
エルフ族長は女神を指差し。ネフィア様がそちらに向かう。
「どうした? エメリヤ?」
「うぅう………ずるい………なんであなたばかり男が集まるの?」
「余が綺麗だからに決まっている」
「わ、私だって容姿に自身がある!!」
「姫様。中身が微妙とお伝えください」
「ネフィア様。自分の奥さんに女神より素晴らしいと自慢できるのは破廉恥女神のお陰ですとお伝えください」
「ネフィア。本当にその女神………役に立つのか? 聞いてみてくれ」
「わかった。聞いてみよう」
「聞こえてるわ!! この糞異教者ども!! なんで……私だって頑張ってるのに………」
エメリヤが丸まってシクシクと泣く素振りを見せる。一応、泣けないはずなので素振りだけである。
「エメリヤ………たまたまお前の信奉者じゃなかっただけ。大丈夫。余は信奉しているよ」
「ネフィア?」
エメリヤは顔をあげる。隣でしゃがんで様子を伺うネフィア様と目線があう。
「ずっと隠し事してたりしてましたけど。勇者が現れる事を一目散に私に教えに来たとき嬉しかったです。エメリヤお姉さま。『大切に思ってくれてるんだ』て思いました。嫉妬もするでしょうけど」
「ネフィア~」
「エメリヤお姉さま。元気だして。私の崇拝する女神なんですからね」
「ネフィア~~!!!!」
エメリヤがネフィア様に抱きつく。スリスリと頬を押し付けて。これだから女王陛下はモテるのだろう。素直な意見だ。
「さぁ、会議を始めよう」
「ええ!!」
二人は立ち上がり指定の椅子に座る。生暖かい目で二人を眺め。トキヤは笑いながら見ていたのをネフィア様が注意する。
やっと、まとまり落ち着いて会議ができるようになったのはそれから数分後だった。私が議題を提示する。
「では………勇者についてどうするかと言うお話ですね。その前に姫様にだけは姫様の後ろのカーテンを見ていただきたい」
「なんでしょうか?」
ネフィア様はクルッと器用に椅子を反転させた。部屋の中央の奥。扉から反対側は赤いカーテンでしきられていた。兵士にお願いしてそれを開けさせる。大きな紙が壁の面に貼り付けられていた。平べったいパンケーキを焼くのをミスしたような模様が見える。
「会議をするのに重宝するでしょう。紙はある木から作られ、その木が記しました。姫様、女王就任のお祝いの一つ………聖なる樹ユグドラシルの記憶です。贈呈者はユグドラシル商会です」
「大陸の地図!?」
「ええ、驚きました。未解地も黒くですが記されております」
「す、すごい」
ネフィア様は椅子から立ち上がり驚いた声をあげた。素晴らしい地図。しかし………都市の位置が示していない。完成されていそうで完成されていない地図。そしてネフィア様は地図に近付き手を添えた。
「…………」
沈黙でネフィア様の成り行きを見ている数人の観衆。兵士も息を飲んで見守る。
何故なら、世界地図に色が生まれ。まるでその世界があるような脈動した風景を示す。そう、地図が出来上がっていく。兵士も皆がその光景に驚くと共に祈りだした。
「魔力を流すと完成だったのだな………うむ。ユグドラシル。洒落た物をくれた」
ネフィア様が感嘆の言葉を口にして地図を見ると英魔族の都市の名前と場所が示された。地図は完成したのである。
「英魔族共栄国家、広いな」
思っていたものよりも広く地図は示した。私はついつい泣き出す。
「奇跡ですね………これは」
「ああ………またかよ泣くなよ………エルフ族長。会議は始まっておらんだろ」
「歳ですかね…………」
「関係ないだろう」
私とダークエルフ族長が小突きあっている中。ネフィア様は地図を見続けるのだった。
*
会議が始まって1時間後。勇者の情報が集まった。強さや知り得た情報を言い合い。皆が理解する。
「では………次に案を出しましょうか? 案はございますか?」
「はい!! はい!!」
ネフィア様が立ち上がり元気よく手をあげた。皆がオッと言う顔になる。期待が集まるのだ。
「では、姫様どうぞ」
「うむ!! 余は一人帝国に行くぞ」
「なりません!!」
「ネフィア!! アホか!!」
「ネフィア様!! そんなことを許されると思いですか!!」
「ネフィアちゃん!!」
「お、おう………皆、何故怒る!?」
私含め、皆が全員席を立ちネフィア様を囲んで睨みつけた。
「ネフィア。お前は立場はなんだ?」
「姫様………一人で行くなんて無計画すぎです」
「そうです。右に同じです」
「ま、まって!! 1回話を聞いてほしい。私の考え聞いてからでも遅くはないでしょ!!」
「………まぁそうだな」
トキヤが促して席に座る。皆が怒るのはネフィア様を心配してのことだ。それがわかっているのかネフィア様は冷や汗をかきながら自分の結論を早まったのがいけないと感じていた。口調も威張るよりも穏和に語ろうと思う。
「ああ、うん。まぁ心配してくれるでしょうが………私は大丈夫です。はい!! そこ立たない!! 静かに」
「う、うぐ」
ダークエルフ族長がいさめられる。
「まぁそれよりも………エルフ族長とダークエルフ族長とトキヤにお願いします。勇者を英魔族共栄国家に引き込み。暗殺してください」
「暗殺ですか?」
「ええ、暗殺です。向こうも私を暗殺するなら勝負しましょう。なぜ、暗殺なのかと言いますと勇者が強いのでそれしかできないのではないかと思います」
「そうですね。トキヤ殿を見れば恐ろしい」
エルフ族長が笑みを浮かべながらトキヤを見る。「味方で良かった」と言いたげな表情だ。それに答えるように謙遜気味にトキヤは手を振って否定した。
「ですので暗殺をどうにかして成功させてください。なるべく一人一人がよろしいです」
「一人一人ですか?」
「はい。私が帝国に行くと言ったのはきっとイカロスの翼と言う神具を勇者が持っていると思うのです」
「姫様を救い姫様を奪った神具ですか」
「はい。暗殺されそうになったとき帝国へ戻されるでしょう。そこで私はもう一度叩きます」
場がシーンと静かになる。皆が腕を組み唸る。
「そんな神具が沢山あるとは思えません」
「エルフ族長。俺は3つ見つけている。一度しか使えないがな」
「最悪の結果を見ましょう。トキヤ殿が4人ですか………」
「おいおい。お前ら少しビビりスギだろ」
「言い換えよう。姫様4人だ」
「ひぇ………」
屈強なダークエルフ族長が縮み込み震える。ネフィア様が「失礼な」といいダークエルフ族長の席へ行き頭をつかんでぐわんぐわんと振り回した。
「化け物言われる筋合いはない!!」
「「「化け物」」」
皆の心で思ったことを隠すため顔を反らした。トキヤに至っては頭を押さえてため息を吐く。トキヤは手にした可愛い小鳥のような姫様が実は可愛い小鳥の皮を被ったドラゴンだった気分なのだ。強くなれと願ったがここまで強いと複雑である。
「ネフィア、そこまでにしとけ。大人しく座る。あとエルフ族長。ネフィアが演じれる集中力はだな……短い」
「1時間ですね。使いどころは難しいでしょう」
「公務の半分は俺が肩代わり出来そうか?」
「一応は姫様が初めて爵位を認めた者で特別爵位勇者としています。問題ないでしょう。軍事も任せしますよ」
「そうか………」
トキヤが顎に手をやる。ネフィア様はとうとう椅子を動かして彼の隣へと移動してしまった。皆はもう気にせずネフィア様を無視することにした。話が進まなくなるからだ。
「ネフィアの案で行こう。ネフィアを送り付けよう。恐ろしい事になるな」
「わかりました。まぁ………いいでしょう。チェック項目が増えるだけです」
「ああ、まぁ………うん。俺ら衛兵は『姫様を守る』と言うよりもこの故郷を守る事だから。うん」
「なんか皆さん含んだ言い方ですけど………」
「ネフィア。殺るんだな?」
「え、ええ」
「………優しいお前が果たして出来るかが気になるところだ」
「私は4人を倒せる方が不安です」
「女神エメリヤ!!」
「は、はい!? トキヤさん? なんでしょうか?」
「勇者召喚予定は!!」
「秋から冬だと思います。あっちでは春から夏ですね」
「1、2ヶ月以上あるということか。いや………すぐに出発しないのかもしれないな。まぁ時間が少ない」
「トキヤ。どうするの?」
皆がトキヤを見つめる。
「帝国に黒騎士がいるように。俺らも精鋭を揃えよう。勇者を殺せる者な」
「精鋭なら………我が聖歌隊がいます」
私の言う聖歌隊は陽の信奉者達で構成された特殊部隊だ。ネフィア様が就任するために暗躍し聖とは名ばかりの黒い部隊だ。善悪よりも国のため、陽の信奉のために力を使う洗脳部隊だ。
「同じく精鋭なら俺の衛兵隊もいる」
第一衛兵隊。名前はあまりにも精鋭ではないと思われるが。聞けば衛兵の指命を誰よりも忠実にこなすため集められた屈強な衛兵を集めた部隊だ。英魔衛兵団と言う組織を作り、首都を護るために治安を維持しているが。その中で第一衛兵隊と言う組織を用意したようだ。
「知っている。そこで相談だが…………向こうは4人用意した。なら俺らも勇者は用意出来ないだろうか? 英雄100人でも用意しようじゃないか? 指揮は俺がする」
「構想を教えください」
「目的は勇者を暗殺。100人でも1000人でも用意出来るならするべきだ」
「暗殺には数が多いですね。トキヤ殿」
「自国なんだし、大人数でも怪しまれない。敵国なら少数精鋭にするべきだがな。俺一人では荷が重い。1、2ヶ月で訓練して物にする」
「そんな短期間で?」
「両方貸せ。ネフィアも手伝って貰う。部隊が仕上がるまで帝国行きは無しだ」
「んぐ……ごくん」
「………トキヤ殿」
「おっかしなぁ……おれ背筋が冷えるぞ」
トキヤが牙を剥く。そんなイメージがこの空間に満たされる。
「やっぱトキヤ………悪役ですね」
「悪役なのは敵から見てだ。味方だよ」
「ぞわっとしましたね、私。わかりました聖歌隊お貸しします」
「全くだ。まぁでも………いいだろう貸してやろう」
二人が頷き立ち上がり、動き出す。それが合図だったのか会議はお開きになり。部隊の訓練が決まり作戦が始まるのだった。
勇者殺しの作戦が。




