英魔族共栄圏初代女王陛下戴冠式..
綺麗な純白のドレスに赤いローブ。腰には名も無き炎剣を帯剣。その姿で私は窓から城下町を眺める。多くの人がごった返し今か今かとあわだたしく動いていた。数多くの種族が今日のこの日に集まっているのが伺える。
「姫様、お時間です」
「ええ」
「何か見えましたか?」
今日は戴冠式。恐ろしいほどの群衆の集まりに背筋が冷え。汗が出る。見えたものに恐怖感を持つが。意地で押し込んで笑みを浮かべた。なんかそれらしい事でも言おうかなと思いながら。
「光でしょうか?」
ごめんなさい、何も思い付かなかったです。適当です。
「左様ですか」
しかし、エルフ族長は目を閉じて満足そうに跪き手を差し出す。「満足したの。適当な言葉で?」と思う。
「よろしければ私めに案内させてください」
「いいでしょう。まぁ場所は知っている」
「玉座の間とは違う場所です」
「そうですか。では、案内してください」
畏まりましたと彼はささやく。私は彼が振り向き彼の後へついていく。そして心で悪態をついた。「滅茶苦茶固い!! 空気が重い!! めっちゃ真面目!!」と。
恐ろしいぐらいに劇場の上よりも緊張した。重たい空気に私は汗が止まらない。涼しい顔をしているが背中はヤバイ。翼を広げて換気を良くして乾かせる。ローブに穴が空いてしまう。あっ………やってしまった。ドレスは背中が空いているがローブはそんなことなかった。
「姫様、申し訳ありません。ローブ窮屈でしたね」
「………脱ぎます」
「ええ。綺麗な翼を我々にお見せください」
「我々?」
「ええ。我々です」
寝室の無駄に大きい扉が開かれる。すると驚いた事に………赤い絨毯が敷き詰められ。廊下の端に兵が跪いていた。乾いた筈の冷や汗が止まらない。
「では、向かいましょう」
「はい」
私は夢を見ている気がした。きっとそう。夢だ。今頃ソファーで寝ていて起きたらご飯の仕度をしている主婦…………マナの剣あるから現実かぁ。
「姫様? どうかされましたか?」
「いいえ、この者たちは?」
「抽選で選ばれた兵です。皆がお待ちですよ」
「うむ。ふぅ………」
私は気合いを入れて堂々と胸を張って歩き出した。玉座の間まで歩く中で多くの頭を垂れる兵士たちを見た。そこで気がついたのはネックレスを強く握りしめている姿だ。皆が皆、同じような行為をしている。
廊下を陽の光で照らす中を祈るように強く握りしめている。
「あれは何を?」
「陽を型どったアクセサリーです」
「そうか……」
深くは聞かない。本を読んだときに何となく察したからだ。新しい宗教が生まれている。まとめるためと言え。あらゆる手を尽くしていた。いや、もう皆が嫌がったのだろう。力での服従を。だから………すぐに広まったのかもしれない。
廊下を歩きながら。大きな扉の前に来る。
「こちらです」
「廊下も歩いて思っていたのですが玉座の間とは違う場所ですね?」
「新しき玉座の間でございます。増築しました」
衛兵が大きな扉を開ける。前よりも大きい扉。私はその中を見て驚いた。前より断然広いが熱気がムワッと中から廊下へと流れる。籠った空気に色んな汗の臭いが混じる。
「姫様。全英魔族長とその同志、集まりました」
ギッシリキツキツ。柱の裏にも集まっているのだ。赤い絨毯以外は白いタイル貼りだろう。その上で皆が我慢して頭を垂れている。多い………とにかくも空気が悪い。密閉された場所で敷き詰めすぎだ。
「窓を開けよ」
「はい、窓を開けよ」
衛兵が慌てて窓を開ける。そして私は歌を歌うように詠唱する。長く詠唱。
「我が元に風を」
そして唱えた。窓や扉から空気が流れ、籠った空気が出る。換気と言うやつで結構上手くいった。
1、2分の詠唱は長く戦闘には使えないが。ちょっと汗臭すぎる中を歩くのは辛い。
「お見事です。姫様」
「バカを言え。得意でないから詠唱もいるし時間がかかった。見事なものか」
私は敷き詰められた赤い絨毯を歩き出す。玉座の間は大きな柱に囲まれ天井にはガラス細工のシャンデリア。
両脇の窓で光が差し込んでいるためか中は明るい。前方の大きなガラスの窓はまるで教会のようにステンドグラスが敷き詰められ。ステンドグラスには翼の生えたエメリアが描かれていた。
炎を優しく見つめる構図だ。玉座の椅子に向けて歩を進め…………椅子がない。あまりの驚きでこっそり音の魔法で囁くように聞いた。後ろからついてくるエルフ族長に。皆に聞こえぬように。
「椅子ないけど!?」
「ええ、向かう先はあの少し段がついた。場所です」
「いや!? 椅子ないけど!?」
「姫様は素晴らしい方です。魔王の象徴だった椅子を斬り、私たちの力以外で共存繁栄を伝えたとしております。段も1、2段しかないのも姫様が庶民派の女王であると言うことで…………椅子はないです」
「洗脳ご苦労」
「いいえ、これもすべて姫様のためです」
私は悪態をついたが軽く流されてしまった。ゆっくりと歩を進めステンドグラスの前に立つ。本当にここは教会みたいな場所だ。
エメリア喜ぶだろうなと思い振り返った。多くの臣下の中から控えていたのか使用人の一人が大切にティアラを持ってくる。可愛らしい女の子で綺麗なドレスを着た獣族の少女。私はつい………クスッと笑う。リザードの娘さんだ。体から緊張が解れる。
鏡の自分を思い出す。ネフィアよ………私よ。今このときは余に演じよう。
「姫様、名工に作らせましたティアラでございます」
「うむ」
私の元に少女がティアラを持ってくる。私はしゃがんで彼女の頭を撫で、それを受け取った。誰も私の頭に乗せようとはしないらしい。自分で被れと言うことだろう。
「ありがとう」
お礼をいい、仕方なく白いティアラを私は頭に着けた。そして立ち上がる。皆が視線を上げて私を見る。そして、劇場を思い出し体が身軽になった。
演じるのは得意だ。演じよう余を。この瞬間だけは私は余になろう。
ザッ
9人の族長代表者が立ち上がり赤い絨毯に出てくる。そして、跪いた。
「エルフ族長以下代表者9名ここに宣言します。我ら英魔族は姫様の下で平等であり。我々は姫様に従い。姫様を敬い。そして共栄を望むことをここに宣言します」
「………うむ」
演じようと言った矢先。台本がない。アドリブ。背中の翼を広げ、羽根を舞い散らせ。玉座の間に私の魔力が満ちる。オオと少し喚声が漏れている者もいるが小突かれて慌てて口を塞いでいた。
「余は何も知らぬ。故に頼むぞ我が臣下たち。宣言す!! 魔国は滅び!! 新しき国家!! 英魔族共栄圏を樹立する!! 立ち上がれ!! お前らは愚かな魔族ではない!! 優れた英魔族である!!」
「「「「オオオオオオオオオオオ!!」」」」
新しき玉座の間で私が宣言したと同時に一斉に立ち上がった。雄叫びが城を揺らすほどに合わさり響く。だが、音が一瞬で止む。パタッと。
シーン
皆が視線を色んな所へと目まぐるしく動かす。異常事態だからだ。しかし、私は………ワクワクする。
パチパチパチパチ
乾いた拍手が一つ。それと騎士の鎧が擦れる音が扉から聞こえ視線が集まった。
黒い鎧に赤いマント。背中に大きな見慣れた剣。それがゆっくりと歩を進めた。周りの一部の衛兵が剣を抜こうとする。
「動くな!!」
私は叫ぶ。すると一部の衛兵が中腰に構えるだけで止まった。見られているにも関わらず。立ち止まり。兜のまま私を見る。
「………ぐぅ」
私は我慢をする。泣きそうになるのを我慢してマナの剣を手に出し。9人の族長たちの上を跳躍する。そして………わかっていながら剣を黒い騎士に向けた。
「兜を取れ、狼藉者。今は神聖な儀式の最中だぞ」
「ああ。そうだったかすまんな」
彼は兜を取った。肩に火の小鳥がポッと登場しチュンチュンと鳴く。胸に込み上げてくる感情を抑える。余は私に戻ってしまう。演じることなんて出来ないほどに心が揺れる。
「ネフィア、何処でその綺麗な髪飾り手に入れたんだ?」
「あぅ……ああ……うぅ」
声にならない。涙が抑えられず。剣を落として顔を覆った。無理だ無理だ無理だ……
「遅くなったら。盛大に何かしてるし。戴冠式かな? 初めて見るなこんなの」
「遅いよ……私……ずっと待ってたのに」
「ごめんな。でも………一人で冒険出来るし、よく頑張ったと思う」
「トキヤ……」
ギュウウウウウ
私は視線を気にせずに彼に飛びついて抱きつく。黒い鎧は暖かく。冷たくない。
「おい。神聖な儀式の最中だろ? 他も見てる」
「無理だよ。愛してるトキヤ。来てくれるって信じてた。ありがとう………私の勇者………」
「はぁ………」
「トキヤ殿」
「エルフ族長」
「約束です」
「ああ。約束だったな。ネフィア………少し離れてくれ」
私は渋々離れる。涙を拭い彼を見た。跪き私に頭を垂れる。
「帝国黒騎士トキヤ遅れました。ネフィア………あなたに忠義を捧げます。例え、裏切りの刻印をつけられても」
「ふふ、最初から捧げてますでしょう」
腰の剣を抜き、彼の肩に置く。
「英魔族として受け入れましょう。帝国の人間でありながら余を支え、護ってきた。既に人間ではなく英魔族人族の一人として勇者の称号を与えます」
「ありがたき幸せ」
「余のため私のために………これからも……ヨロシク………うぅぅう……ぐす………」
「はぁ………最後まで演じきれよ」
「無理よ………誰よりも愛してるから………ひっく」
「エルフ族長」
「後はお任せください。フィア」
「はい」
ネフィアに似た少女が現れる。
「戴冠式は終わってます。少しだけの時間。お話しください。国民に宣言するのが残っていますが時間は少しありますので」
「わかった。ネフィア。歩けるな」
私は首を振る。へたり込みそうなのを我慢してやっと立っているだけなのだ。
「しゃぁない。姫様を奪わせてもらうぞ」
「どうぞ」
私はヒョイっと体が浮いて、抱き締められる感覚のあと。姫様抱っこされていた。優しく微笑んでくれるトキヤに声がつまる。
私は女王となっても王子さまには骨抜きにされることを感じるのだった。
*
寝室へ戻ると椅子に座らされ。涙を拭われ、頭を撫でられた。
「泣いた跡はないな。これから大仕事がある。頑張れよ」
「トキヤ………私!! 私!!」
「不安だろう。だが安心しろ。昔とは違う。今度はお前を慕っている。英雄の帰還。待ち望んだ英雄なんだお前は。だから演じきれよ」
「トキヤ………トキヤは私が女王になるの嫌じゃないの?」
「お前は女王に相応しい女だよ。俺が保証する。いいや………自慢したいな。俺の奥さん女王陛下ってな。ハハハハ」
「クスクス………誰に自慢するの?」
「ランスかな? いい女になったなネフィア」
「女王ですから」
二人で久しぶりに笑い合う。
「それに俺は独占欲が強い。今、お前のこれを奪わせて貰う」
トキヤは私の顎に手をやりゆっくりあげた。そしてそのまま唇が重なる。舌で絡めて愛しい彼と愛を絡める。
「これが女王の唇か」
「トキヤ………わかった。演じる。トキヤがいいならそうする」
「綺麗だよ。ネフィア。綺麗だった。玉座の間でのお前は天使に見えた。いいや………考えてみれば天使だったかもしれない」
「トキヤ………うれしい」
私は席から立ち上がり。彼の首に腕を回す。
「おかえり……あなた」
「ただいま……ネフィア」
私たちは離れていた時間を埋めるように唇を重ね会う。エルフ族長に呼ばれるまでに。
*
城の一角。城下町や広場、全てが見渡せる場所に案内された。増築工事を行ったらしく。そこへ………どうぞと言う。
「姫様………宣言をお願いします」
「ええ」
私は振り返ってトキヤを見た。頷く彼。
「行ってこい。俺はここにいる」
「うん」
私は歩く前を向いて。太陽が眩しく目を細め出っ張りに。顔を下に向けると多くの種族が私を見ていた。広間にぎっしりと。城下町にギッシリと。
玉座の間よりも怖くはない。何故かスッと落ち着いていられた。私は声を出す。囁くように。
「こんにちは」
反応はないが。皆が顔を横にしたり耳を触ったりして聞こえたかと言い合う。音を伝える魔法である。こんなところで役に立つなんてね。
「余の名前はネフィア・ネロリリス。この場をもって宣言する。英魔族共栄圏国家樹立を!!」
長い言葉はいらない。短く宣言した。そして髪をたくしあげる。眼下で歓声が巻き起こり私を崇めていく。下僕を見る目で………下を見ようとした瞬間。
パシン!!
頭を叩かれた。魔法で。
「調子に乗るな。さっさと引く。エルフ族長の仕事の邪魔だ」
「お、おう。ちょっと悦に浸ってもいいじゃないか!!」
トテトテと後方へ下がり。魔法矢で叩かれた頭を撫でる。地味に痛いぞ。
「我はエルフ族長グレデンデなり!!」
族長達が並んでいる。ああ自己紹介するのか。
「姫様1番の信仰者なり!!」
後方の族長たちがブーイングするが眼下の民は歓声をあげている。言ったもの勝ちらしい。そして、エルフ族長がこれからの国はこうすると言う事を細かに説明していた。
「ネフィア。行くぞ」
「う、うん。トキヤ!! トキヤ!!」
「なんだ?」
私は背を向ける彼の前に立ち。振り向いて手を後ろにやりながら聞いてみる。
「上手く出来てた?」
「ああ。出来てた」
「誉めて誉めて。いっぱい愛でて」
「今さっき、いっぱい愛でただろ?」
「たーりない」
「はぁ………お前はもう立場がある」
「立場は何も関係ない。ただただあなたを愛してる方が重要」
「………変わらないな」
「変わったよ、私は」
彼の手を引っ張り寝室へ向かう。寝室は聖域であり。逃げることは出来ないらしい。
鳥籠は大きい。大きいなら二羽ほど入れるだろうきっと。




