白き翼を持つ新しき盟主ネフィア..
私はベットの上で思考に耽る。「生まれたときから魔王になることはない」と思われていた。しかし、予備。傀儡政権用の駒として生かされてきた。
気付けば形だけの魔王だった。昔は何も知らない。本の知識しか知らない愚かな魔王だった。
だが全て、勇者の勇敢な一途の想いが私を変えた。余は私になり。愚かだったことを知った。
多くの出会いによって。私は学ぶ。
最初の出会いから、長く連れ添う事によって。
私は多くの物を手に入れ、多くの事柄を学んだ。
悪魔として覚醒し白翼を手に入れた。炎の魔法も剣の技術も何もかも。
気付けばそう………私は強くなっていた。
「はぁ………」
王族の寝室で私はゆっくりとベットから起き上がる。寝間着を脱いで全身鏡に立つ。堂々と。
エルフ族長が言っていた。「新しい枠組みの盟主となってください」とお願いされ、「答えを戴冠式までに」と言うことでその場は引いてもらった。
「今日も綺麗だけど。不安そうな顔だぞネフィア」
全身鏡を見ると顔に重圧や、何もかもから逃げ出したいと願う少女がいた。鏡に額をくっつけて鏡の彼女に言う。
「あいつらは勝手に簡単に言うが………簡単じゃないんだぞ」
王とは責任を伴う。そう魔国全土から押し寄せる重圧を支えないといけない。そんな重圧をこの体は耐えられるほど甘くはない。
「皆が支えると言ってくれたけど………」
目を閉じてある王を思い出す。王に準ずる者たちを思い出す。夢の中で見てこれた世界を。
勇ましく。誰よりも強く………気高い人たちを。
「あれに………あなたはなれるのネフィア」
鏡に問いかける。昔から私は鏡の自分を見てきた。笑みもなく真面目に私の瞳を写し出す。
「男から女になった。悪魔から聖職者になった。ネファリウスからネフィアになった。少女から母親にもなった。今度は魔王から元魔王。そして女王陛下になれるの?」
問いに答えない。私は泣きそうになりながら。へたりこんだ。
「無理だよ………無理。トキヤ………どうしたらいい?」
トキヤは答えない。トキヤがいない。不安が募り貯まった不安がヘドのようにドロドロと身を焦がす。なるという事なんて一切考えてこなかった。いいえ………何もかも隠されてきた。
トントン
「入ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
エルフ族長が入ってくる。
「ええ………つっ!? 服を着てください。あと、ハンカチをどうぞ」
「あ、うん………」
「姫様。いきなりの申し出に困惑しているご様子ですね。泣かれている所を見ると………彼が恋しいですか?」
「うん。相談したい。どうしたらいいのか………わからない」
エルフ族長がマントを私に被せる。そしてひとつの手紙を用意した。
「なに?」
「宛名を」
宛名は…………トキヤ・ネロリリス。
「これは!! 彼の字」
汚い字が描かれている。あまり物書きは得意ではなく。魔方陣もへたくそだ。そんな彼の字で名前が書かれている。
「汚い字………」
でも。大好きな字。特徴的ですぐにわかる。中を確認する。内容は戴冠式に姫を頂戴すると言うもの。嬉しくてつい笑ってしまった。
「エルフ族長。彼、お起きたんですね………よかった………うぅう………よかった」
今度は手紙を顔に近付けて嬉しさのあまりに手紙を濡らしてしまう。
「戴冠式。衛兵はトキヤ様と交戦せぬようにお通しすることを命じました。戴冠式ご参加していただけますね?」
「…………」
ゆっくりと頭を下げる。トキヤに会えるなら。会ってから彼に………何をすればいいか聞けば………う、うん。相談したい。
「畏まりました。ドレスのサイズを見させてください」
「鎧を持っていけばいい。それでサイズを確認して」
「わかりました」
白い鎧をエルフ族長が部下を呼んで持っていく。
「では、静かにお待ちください。戴冠式の日を」
「何故、戴冠式を。魔剣は?」
「あなた様の剣。マナの剣でしょう」
「…………そうだった」
「戴冠式もティアラでございます。全ては英魔族のために」
「ふぅ………英魔族ね」
皇帝陛下が魔族を評価し英魔族と言っていたが。本当にそんな呼び名が生まれるとは思っても見なかった。
「英魔族とは………なに?」
「争いを続ける者を魔族。姫様の庇護下を英魔族しております。英魔族エルフ族、エルフ族長グレデンデと言います。姫様も英魔族天使族でございます」
「天使族?」
「魔族を英魔族に昇華し。我々を一つに纏めた象徴です。ええ」
何もしていない。
「暇でしょうから。本を置いておきます。おすすめは新しい枠組みの構想と姫様の私が書きました新約聖書です。お読みください」
机に数冊の本が置かれた。やな予感がする。今、封じられてきた情報が火を吹くだろう。現に私を貶めた。知らなかったあの頃に戻れない。
「姫様。ひとつだけいいます。姫様は本当に何もしなくていい。我々英魔族長たちが行います。そう………魔王はもう居ないのです。君主議会制と言いましょうか? 族長が選ばれるのは民意なので民主主義とも言えますかな?」
「その言葉!?」
「ワンダーランドは楽しかったですか? 私は楽しかったですよ。エメリア様にいい勉強をさせていただきました」
「…………そうだ。エメリア」
私は天を睨んだ。エメリアに聞かないといけない。隠し事全てを。
「ねぇ、族長。あなたの開発したドレスを一つ。色は黒っぽいのと朝食。それに…………エメリアが居れば伝えて。寝室で待っていると」
「畏まりました」
エルフ族長はそう言って寝室を出た。
*
「ネフィア。呼ばれたから来たわ」
「エメリア………はぁ。落ち着いたから聞きます!! あなたの思惑はなに!!」
「姉を止めること。姉は人間の神。故に人間の勝利こそ至上とします。しかし、それは間違いです。ネフィア…………何故、間違いでしょうか?」
「人間も英魔族も関係ない。愛があれば一つになれる。答えは私自身………はっ!?」
私は問いをスラスラと口に出した。驚く。
「何でも答えましょう。ネフィア」
「私を魔王………いいえ。女王としようとする行為を隠した理由は?」
「あなたの行動力に恐れたの。魔王となりたくないと思われたら一生無理です。だからこそ魔王にはなりたくない。ならば女王にしてしまおうと決めたのです。成功でした。魔王にはなれてません」
すごい屁理屈を聞いた。
「細かな話はトキヤさんと交えて話しましょう。女王陛下」
「むぅ………トキヤなら絶対私の味方になってくれる。そう信じてる」
「本当のあなたは彼に依存してますね」
「依存してます。一途なんです。私は」
早く会いたい。戴冠式なんてどうでもいいから早く会いたかった。
「………エメリア。こう女神の転位術をパパっと」
「姉の特権です。私は使えません」
「役にたたねぇ。くっそたたねぇ。消えちまえ。マナに謝ってこい」
「し、辛辣ですね」
「女神の癖に謀略」
「綺麗な女神はいませんよ」
一通り文句をいい。少し落ち着いた。慌てても慌てても女王は女王なのだから。
「逃げたい」
「逃がしませんよ?」
「いや!! 魔法を撃ってしまえば!!」
「不動なる宝箱それは安息の地。聖域なり。不純な物は淘汰され霧散する」
「えっ?」
魔法が打てない。私は魔法を唱えようとした瞬間魔力が吸われたのを感じ取った。壁が白く光出す。
「ちょ!?」
部屋全体の壁を見ると細かな文字が掘られている。全て魔法を吸収する魔法陣。
「愛は無尽蔵。受け入れ先も無尽蔵。壁の中には神器も埋め込み。この部屋だけは絶対に壊れることはありません。安眠のために敵の攻撃を防ぎます」
「どう見ても私を閉じ込める機構じゃないですか!!」
「そうですよ。苦労してましたね。色んな試運転も兼ねて。そして………外は普通ですが中は聖域となり。あなたを護るでしょう」
「脱走防止じゃないですかやだぁああああああ!!」
「別名、高級鳥籠です」
「このくそ女神いいいいいいい」
「なお、私も入ったら出れないです」
「バカじゃん!! あっ!! 扉に鍵が閉まってる!! 裏に鍵穴とか狂ってるの!? 鍵が2つもあるし!!」
「なんで焦るんですか?」
外に衛兵がいるのが微かな声で聞こえる。いるのがわかった。ならば。
「助けて!! 天井にハレンチな亡霊が見えるの!! 怖い!! 襲われる」
「ちょっと!! ネフィア!! 亡霊って!!」
「すいません。女王陛下。破廉恥な女神とご一緒でしょうが………逃げられてはいけませんので。民のため………今一度我慢をお願いできればと思います」
「我々の力不足。お許しください」
「うぐぅ………」
全部、手のひらの上で転がされている気がしたのだった。仕方なく持ってきた本でも読もうと思い。私は仕方なく椅子に座る。




