魔国イヴァリース⑪三回お願い..
私は慌てて家に帰る。酒場が私の魔王就任で盛り上がる前に逃げてきたのだ。ローブ被り逃げてきたのだ。ワンちゃんはお散歩と言う置き手紙が書いてある。
「エメリア………どういう事? 全部許すから教えて!! お願い!! ヤバいよ!!」
「ヤバい?」
「ヤバいよ!!」
「どこが?」
「なんで私が魔王!? 女だよ!! それに………こう!! あれだよ!! 魔王ぽくないよ!!」
「一騎当千の活躍でしたね」
「殺っちまったよ!!」
警告はした。向かってくるのを殺しただけだ。族長は生かしたけど。傭兵と族長の価値は違うのだ。それは仕方がない。
「何故!? 何故!?………しかし、大丈夫だ。ここに引きこもれば!!」
「フィアと言う。エルフ族長の彼女がいます」
「えっ? 彼女?」
彼女は関係がある。気になる。
「エルフ族長が手厚く庇護してますよ。それもまるで宝物を守るかのように。気が付いてないのかだいぶ暖まっています」
「ネフィアちゃんも春が来たのね。よかった。もっと教えてよ」
「魔王のことはいいの?」
「良くない!! しまった!! 似てる子がいる!! 影武者なってしまう!!」
似ている彼女が戴冠式をして。ネフィアを名乗ったら終わりだ。
「えっ………待てよ…………もしかして」
私は一つ閃く。あまりにも影武者を用意するのが早い。これは。
「エルフ族長、もしかして彼女を用意したのは………私の影武者になれるから!? 何年前の話よ!!」
「ご明察。全てはエルフ族長グレデンデが行ったこと。まぁ~あなたを信酔してるんですけどね。しかし、好みはあなたに似ても。泣きホクロは譲れなかったのでしょうね。強い強い想いよ」
「いつから!? いつから!? エルフ族長は仕掛けてたの!!」
「あなたに負けたその日から」
「おーけー。ヤバいよ!!」
私は恐ろしいほどに崖ぷちだった。用意周到の手際、知り合いばかりの族長。エルフ族長派が多い中での魔王推薦。それはもう民意である。
「いや!! でも!! 代表者の族長全員が友好な筈ないし」
「メンバー思い出す」
「知らないタコ。トンボの確かリディアの友達に淫魔エリック。トロールオジサンに脳筋オーク。吸血鬼人形愛好家セレファ。トカゲ人にエルフ族の二人」
「知り合い多いね」
「お、おう………顔見知りばっかだよ。いや!! しかし!! オーク族長とか知らない人もいる!!」
「全員オッケーだって」
満場一致とかあり得るのか。
「マジで?」
「マジマジ」
「ああああん!! どうしたらいいの!!」
「クスクス。なんでそんなに嫌なの?」
「魔王の器なんてない。何も出来ない。それに………トキヤとイチャイチャ出来なくなるかも知れないじゃん!! 家に帰れないじゃん!!」
「知ってます。でも、手遅れでしょう?」
「畜生!! もっと早くに聞いていれば!! 手の打ち方が………」
私は気がついた。こんなにも口裏合わせが行われているのに。私の耳に一切入ってこなかった。そう、今更である。それもほぼ末期。
「エメリアあああああああああああ!! 謀ったな!!」
「ごめんなさい。あなたを魔王にするのを加担した。それに………マナの剣抜いちゃったし。選定はバッチリね!! 世界樹マナも一枚噛んだわ。世界を護るために」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………」
私は頭を抱えてベットに潜る。
「トキヤ!! 助けて!! 魔王にされちゃう!!」
「残念ながら。手遅れよ」
私は引きこもることを決定する。
*
ドンドンドン!!
「姫様!! お話を!! ドレスの寸法チェックさせてください!!」
扉が叩かれる。私は全力で言う。相手はエルフ族長相手に。
「いやじゃ!! いやだ!! 魔王になんてなるか!!」
「くっ………イチゴジャムありますよ!! なんとイチゴも!!」
「…………じゅる。も、物で釣ろうなど無駄だ!!」
「あっ……トキヤ殿!!」
「ん………いや。音が聞こえない」
私は攻防を続ける。
「ネフィア、男なら腹を括りなさい」
隣で女神が笑いながら現れる。
「どこの世界に子を孕む雄がいるか!! 魔王にならん!!」
「目の前に。愛の力ね」
「私は女です!!」
「姫様!! お願いします!! 顔をお見せください!!」
「いやだあああああああ!! 影武者を使え!!」
「流石に戴冠式は姫様ご自身で」
「いやだ!!」
「わかりました。今日は引くとしましょう」
なんとか耐え忍んだ。
*
次の日。静かだ。
「よし、諦めたな」
「残念ね」
「はぁ、影武者が魔王でいい。妥協だ」
全部フィアに投げる。奴隷から女王だ。素晴らしいだろう。
「く、クロウディア。本当にここでするんだな」
「お前は何でもすると言った。男に二言はないのだろう?」
「しかし、ここは………」
「子を作るのに女神の近くがいい」
「「!?」」
私は扉に耳を当てる。女神もだ。
「ぬ、脱がすぞ?」
「ま、まて。心の準備がまだ」
「脱がすぞ」
「うぐ。恥ずかしい」
エメリアを見る。
「やる?」
「やると思います。止めないと………玄関が変な臭いになりますよ」
「なんと言う………恐ろしい手だ」
私は悩む。
「まぁ、いっか」
気にしないことにした。
「バレたようだ」
「畜生演技が下手だったか?」
「私は本気だったぞ?」
「えっ?」
「この鈍感やろう」
私は慌てて再度、扉に耳をつける。
「何年一緒についてきてるか考えろよ」
「クロウディア!? どうした!? わるい物でも食ったか?」
ぶん殴ってやりたい。出てからぶん殴ってやりたい。私が説教をしたい。
ゴン
鈍い音がした。
「お、おっ………めちゃいたい」
「お前はデリカシーがない」
うわぁあああ。懐かしい!。私も言ったことある。
「だからな。レオン。知っといてくれ。何年も待てんぞ」
「わ、わかった」
あまーい空間を覗きたがった。私は今日も耐えた。だが………悶々とする日になるのだった。
*
そしてまた次の日。
ガチャガチャ!!
扉の前がめっちゃうるさい。攻城兵器かもしれないので慌てて耳を当てる。
カチャカチャ
「ん?」
皿や食器の音がする。そして話し声。数人の族長が話しあっている。
「うまそうだな。ガハハハ」
「カスガさん。食べらないものがあれば教えてください」
「肉類全般が主食だから。家畜の肉で十分だ」
「魚介類だめです。私は仲間を思い出すのと………生臭いのが無理です。実は魚食べれないんです」
「スキャラさん? どうやって食い繋いでたのですか?」
「陸の物を食べてました。偏食家です」
「いやぁ~きれいな女性が目の前にいるのはいいですね。はぁ~スキャラ……今晩どうですか?」
「しつこい。カスガ助けて」
「いやだ」
話を聞いていると玄関先で料理を広げて宴会をしていた。数人の族長同士。巨人、豚、エルフ、淫魔、タコ、トンボ、トカゲ、そして吸血鬼に吸血鬼の使用人。インフェと言う女の子がいるらしい。ダークエルフ族長は仕事らしい。
「「「乾杯!!」」」
何人かがグラスを叩く音が聞こえた。
「タコうまい。砂漠にはこんなのはいない」
「我の姿に似たのを食われると複雑」
「タコは美味しいですね。こうプリと可愛らしく、なめるとこう。弾力があって」
「悪魔族長。私を見ながらやめてくれない? 目が胸に行ってるわ」
「このタコのように柔らかいのでしょうね。実力行使しましょうか?」
「や、やめ!! この淫魔め!!」
「誉め言葉です」
外で談笑が響く。楽しそうに飲み食いし、皆が持ちよった肴でお酒を飲んでいるのだろう。
「うまぁああ!!」
「くぅううう!! ビールと言う酒はうまいなぁ」
「トロール族長。エエもん作ってる」
「オデモビールスキ」
「がははは!! うまいうまい!!」
めちゃくちゃ楽しんでいる。
「………ひゃひゃ!! 温かいなぁ~私暑いなぁ~」
「スキャラ。すっかり出来上がったな。赤い」
「ゆでタコですよぉ~う。気分がいいので!!」
「なんだ? 何をする?」
「踊りまーす」
「ちょ!! スキャラ服!!」
「おっ!? 嬢ちゃん踊り子するのか?」
「おお、素晴らしい上半身」
「娘も妻もいるが。なかなかいい。体つきだ」
「ご主人様!? 見ちゃダメです!!」
「インフェ。君も脱いで踊りなさい」
「ご主人様!? 出来上がってる!!」
男どもが下品に女にセクハラを働く。それも全力で。カスガという亜人の女も皆が脱ぎ出したので下着になるらしい。釣られてだろう。
とにかく。めっちゃ楽しそう。踊ってもいるし。
「皆さん!! 私は愛の女神エメリア!! 脱ぎます!!」
「「「「破廉恥きたー!!」」」」
「ふふふ!! 今日は許してあげましょう!!」
女神もなにしてんねん。いいや………これが本来の女神か。昔から神は酒乱だ。
「…………ふぅ。楽しそう」
「ネフィア様。覗かれてはどうですか?」
「…………ワンちゃん。まぁ少しぐらいなら」
扉をゆっくり開ける。目の前に散乱した衣類や料理がある。そして………踊り子何人かが男を釣ろうとする。フィアもいて脱いでエルフ族長の膝に乗っていた。遠慮なく胸を揉んでいたりと歯止めが効いていない。
「あっ」
「あっ」
エルフ族長と目があった。
「姫様!!」
「や、やば!!」
慌てて扉を閉めようとしたが。動かない。
ガシッ!!
「!?」
逆に扉をこじ開けられた。オーク族長とトロール族長に。
「えっと………やぁ!!」
「「「「「「「確保!!」」」」」」」
「うわああああああ!! ちょ!! さわらないで!! 誰!! 胸をさわってるの!! 股も触るな!!」
「おお柔らかい。スベスベ」
「エリックきさまああああああ!!」
私は酔った族長たちに。どこで持ってきたのかわからない布で簀巻きにされ。胸と股を触ったエリックは全員にボコボコにされていた。そして一言。
「この痛みを耐えられるほどに完璧な感触でした」
二人で簀巻きになるのだった。
*
簀巻きのまま城に連行される。魔法で逃げようとも考えたが。逃げたら「都市ヘルカイトの家を燃やす」と言われ戦慄した。脅して来やがった。
城につくと豪華な寝室と庶務室が重なった王族の部屋。そこへ優しく置かれ。簀巻きが解かれた。他の衛兵が私の荷物を全て運び込む。
「3日で確保は素晴らしい」
「やはり。アクアマリンで伝わる方法は有効だったらしいな。スキャラ名演技でした」
「あれ? スキャラは?」
カスガさんが周りを見る。いない。
「オデサッキミタ。エリックガツレテイクノヲ」
「あっ持ち帰りされてる」
「エリックはあの簀巻きを脱出したわけですか」
「あいつ実は強いのでは? インフェ一応探してほしい。エリックも一応既婚者だ」
「はい、ご主人様」
メイドが何処かへ行く。私は体をほぐして背筋を伸ばした。そして声を出して罵倒する。
「畜生!! エルフ族長嵌めやがったね!!」
「姫様。お遅くなりました。申し訳ありません」
「嫌だからな!! 魔王なぞ!! お前がなれ」
「それも如何な物かと。お願いします………姫様」
族長たちが跪く。そして懇願するのだ。いつから私はこんなにもあげられるようになったのかわからない。
「手の平クルクルだな」
「過去の姫様は確かに不足でした。しかし!! 今、武勇伝を持ち。多くの逸話と世界を旅したその目で治めて欲しいのです」
「だから私には………」
「器と実力がないと? エメリア様から伺ってます」
「うむ」
エメリアめ。余計な事を。
「ご安心ください。代表者9人以下全族長があなたをサポート………いいえ。実力がない部分全てを行います。器と言うのは私たちが用意します。そう………象徴として魔王になっていただきたい」
「魔王と言う言葉が嫌い。暗いし悪のイメージ」
「姫様、魔王とは便宜上そう言い表してました。姫様がなられるのは新しい王の形です。姫様もご存知でしょう。エメリアさんと私のある本での知恵で決めました」
私はもう逃げられないと確信してしまう。流れが出来てしまっている。恐ろしいほどの流れが。勘でわかる。魔国が変わった。エルフ族長がゆっくりと声を出し笑いながら話始める。
「大英魔族共栄圏。初代白き翼を持つ新しき盟主。女王陛下ネフィア・ネロリリスさま」
投げた石は水面に波紋を広げ、それはもう戻らないと知る。




