魔国イヴァリース⑩オーク族長VS聖炎翼の魔王..
構える二人に私は息を飲む。二人のとてつもない強さを見てきた私はどうなるかが予想できない。
どれだけ力量差があろうと戦ってみくちゃわからない。だからこそ………戦いは面白いとレオンは言っていた。見ることしか出来ない私は胸に手を当てる。クロウディアとして彼は……そういう人だと知っているから。
「ふぅ………」クイクイ
レオンが呼吸をリズムよく刻み。手でコイコイと挑発する。オルガンの音楽は鳴り響き続ける。その中でハッキリと私の耳元でネフィア様は囁く。
「私が撹乱します。1発どうぞ」
「!?」
離れていても囁きが聞こえた。耳を押さえてみるが顔なんてない。レオンの反応もないので幻聴かと思ったが。それもすぐに幻聴ではないと気付く。そうだ。音楽が流れている時点でおかしい。音を使う魔法だ。それも
高度な。
「3、2、1」
カウンントが聞こえた。身構える。
「0」
ゼロと言った瞬間にネフィア様が仕掛ける。防御姿勢でカウンター狙いのレオンに向けて。緑色に光る剣を投げつけた。
ギャン!!
「武器を捨てたか!! 愚かな!! いいや、囮か!!」
剣の次に炎の球を打ち出し、それが膨張する。レオンを呑み込もうと。
「ははは!! 魔法でのカウンターの構えを解かし!! 魔法を当てるか!! 遠距離で戦う気か? うぉおおおおおおらああああああ」
レオンが叫び。炎を殴り付けた。炎が拳によって破砕され散々に飛び、それらは羽根となって消えていく。私は駆け出す。私は見えていた。
「目の前に殺気がない……背後か!?」
彼は背後を振り向き拳を構えた。しかし、攻撃は来ない。
フワッ!! スタッ!! ダっダっ!!
構えた先。炎で目の前を視線を切ったネフィアは翼をはためかせレオンの頭上を飛んで避け。そのまま廊下を走り出す。聞こえてくる声は明るい。
「勝手に通らせてもらったわ。一人なら………抜けることは容易いね」
「なっ!! ま、まて!! 俺と戦え!!」
振り向いて、ネフィア様を追いかけようとするレオン。私は意表を突かれ注意が散漫な彼の後頭部を。
「レオン!! このバカたれええええええええ!!!」
ガッコーーーーーン!!
盾で頭におもいっきり叩きつけるのだった。
*
ガッコーーーーーン!!
背後から鐘の音のような激しい金属音がする。声を聞くとクロウディアがレオンに怒っている声が聞こえて笑みがこぼれた。流石は女騎士。殴る事が出来たらしい。
「ふふ。私もやりましたね………昔に」
ああ、懐かしい、昔にトキヤが勝手に居なくなったあの日。私は彼を捕まえて。そして色々あって頭を蹴飛ばした事がある。
今思う。あれはヤバイ一撃だった。痛かっただろう。
「久しぶりね、ここ」
玉座の間の扉まで私は来た。追いかけてくる気配も無いが私は後ろを確認する。そして………少し逡巡したあと。顔を振り払って扉に手を置く。
ゆっくりと開け放ち私は驚いた。
「やぁ!! 綺麗な女神様」
「姫様!! あああ!! なんと輝かしい!!」
「ネフィア様。どうも」
「オデ!! ヒサシブリ!!」
「姫様、お久し振りですね」
知り合いが多かった。9人の族長が頂点を目指していると言われていたが知り合いばっかりである。タコ、トンボ、白い黒い人に巨人、豚、蜥蜴、吸血鬼と種族も様々である。
「えっと………」
知り合いの顔に意表を突かれてしまった。
「ふむ。お前が………エルフ族長が言っていた魔王か」
「いいえ。魔王じゃない。あなたは誰?」
「ははは!! 魔王かを決めるのは俺だ!! 覚悟」
質問に答えないオーク族。両手の斧を素早く振り私を狩ろうとした。あまりの速さに髪が数本切れて燃える。
「オーク族長ですよね。名を名乗りなさい。私は魔王と言う名前じゃない。余はネフィアなり!!」
「くくく。ワシの一撃をかわすとは。やる口だな!! それでこそ好敵手!! 我が名を名乗らせて貰おう!! デュミナス!! デュミナス・オークだ!!」
「子も子なら親も親ですね」
「ガハハハハ!! 誉め言葉と受け取っておこう!!」
ビュンビュン!!
斧を振り回しながら迫ってくる。私は異界の知識で草刈り機を思い出していた。それぐらいに激しい。そして、驚く。
地面や壁、柱などに切り跡が増えていく。目に見えない凶刃をかわしながら。居合いで剣を抜き防御する。触れていない筈なのに金属音が響く。
「ほう!! 防ぐか!! かまいたちを!!」
「違う。これは一定以上の戦士が使うことが出来る。剣圧と一緒。こんなのはよく知ってる」
「ふん!! 何だっていい!! お前を切り刻むまでだ!! はははは!!」
楽しそうに斧を振り回し、私を壁際まで追い詰める。猛攻、激しい嵐のような一撃必殺の攻撃たち。私は剣を抜いてしまい。居合いも出来ない。しかし、振って刃は届く気がしなかった。剣圧なんか私には居合い以外にそんなに出せない。
「しねぇえええ!!」
オークが斧を大きく振りかぶり振り下ろす。振り下ろす速度は雷の如く速く。岩のように重かった。
「ぐぅ………ふふ」
マナの剣を取りだし。両手剣を交差さして斧を受け止める。私の背後の壁が吹き飛んだ。この圧力、この大きさ。本物だ。
「何故笑う?」
「ああ、懐かしい」
「なに?」
「一番始め。マクシミリアン王と言う亡霊騎士に出会った。余は一撃で床に叩きつけられ気を失った事がある」
「それよりも強いぞ。ワシは!!」
「ええ、強い。だけど………背負う重さが違うんですよねぇ~」
私は真理を……この世界の理を肌で感じていた。両手に力を加え。愛する彼を想い。斧を振り払う。私の剣は重い。
「うおっ!?」
オークの巨体が数歩下がる。その隙をつき脇を抜けた。
「逃がすか…………!?」
慌てて後ろを彼は見た。しかし、彼は見失い。周りを警戒しながら見渡す。私は笑みを浮かべる。
「どこへ消えた? 柱の裏か? それよりも…………殺気がない。匂いは…………ある。それも………上から!!」
私はその隙に剣を納めていた。そして、逆さの状態で天井を踏みしめて飛ぶ。ジャンプをして相手の視界から消えており、天井に足をつけていた。
「おおおおおおお!!」
「んっ………」
シャン!!
剣の鞘を掴み魔力を流し込んだ。そして、勢いよく抜き魔力の爆発で勢いをつけ。魔力の摩擦で火花が散らす。炎の刃が赤く熱する。そのまま、スッとオークの右腕に逆袈裟切りで当てた。
ドシャ!!
「ぐへっ!!」
天井から私は勢いよく飛んだので。頭から地面にぶつかり、跳ね返り。地面を転がった。羽根が散り、翼も萎れる。族長の心配する声が聞こえてゆっくりと顔をあげた。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!」
オーク族長の右腕の付け根が燃え上がり。切り落とされた腕も燃えていた。血は焼け、傷口を塞ぐ。オーク族長が左腕で炎を掴んで消し。涎を滴ながら激痛を耐える。
「はぁはぁ!!………俺は生きている!! 俺の勝ちだ!!」
左腕で斧を掴み。私の元へ歩いてくる。そして、振りかぶった。私は自爆したのか、勢いをつけすぎたためにまだ立てない。
「はははは!! シネ!!」
「………ここまでね」
ドシャ!!!
私の目の前で斧が振り下ろされ地面を抉った。
「…………殺す前に問おう。何故だ?」
「はぁはぁ………んぐぅ………ふぅ」
ゆっくりと自分の魔力で体が癒える。痛みが引き、私は立ち上がって剣を納めた。殺意を感じれない。やはり強者。わかってしまったか。
「これが分かるとはな。元から殺す気はない」
「ふむ。それで最初から殺意を感じなかったのか………」
「これを言えば………納得出来ないでしょうが。あなたは王になれる。そんな逸材を殺す気がしなかっただけ。それに腕を落とせば弱くなり。下手すれば強者でも無くなる。死んだも同じかもしれない。しかし、殺すには惜しい」
「……………ワシが魔王を名乗れと言うのか?」
私は立ち上がる。皆の視線が集まる。
「正直な所、誰でもいい。勝手になればいい。止めはしない………だけど!! グダグダグダ!! 決めずに時間だけを浪費してお前らは何がしたい!! 余はお前らの誰かが私を殺そうとしたことは別に気にしない!! だがな!! 纏まらないお前らに辟易している。城の外で民は困っている。だれがなるかを!!」
私は玉座に進む。
「なるものが選らべないなら…………手を取り合え。私は見た。帝国を。帝国の強さを!! あの団結力と陛下を!! だからこそ………族長たちに忠告に来た。リザードにポロっと言ってしまったが。魔国はこのままでは滅びる」
玉座の間に緊張が走った。当たり前か。
「お前らは身内で言い争うしかできない愚かな魔族なり。だから………お前らには要らぬだろう。いいや!! これがあるから!! 手を取り合えない!!」
私は緑の光を放つ形見の聖剣。マナの剣を取り出し。玉座の前の階段を上がり、両手で玉座を切り落とす。背もたれがズレ、見るも無惨に真っ二つになった。
「魔王で争うなら居なくていい。忠告する。今のままでは帝国に負ける。以上だ。魔剣なぞも無価値だ。必要なのは……敵の前に纏まること」
私は剣を納めて歩き出す。翼をおさめて。
*
玉座の間は静かだった。皆は静かに姫様の背中を見つめる。そして………見えなくなった時に私は天を仰いだ。エルフ族として生きてきてここまで爽快感があるのは驚きだった。
「見ましたか!! これが姫様!! いいえ………新しき魔王のお姿です!! あああなんと神々しい!! そして、誰よりも思慮深く。誰よりも強く、誰よりも美しい!!」
「エルフ族長。姫様勘違いしてるぞ? 怒られたぞ?」
「ええ、ええ!! 怒られた!! 私たちが不甲斐ないと!! 素晴らしいですね!! 素晴らしいですね‼」
私は涙を流して感激する。これこそ求めていた結果だった。
「オークゾクチョウダイジョウブ?」
「トロール。大丈夫だ。姫様の魔法で痛みはない。これも教訓だ。腕は捨てる。姫様に刃向かった罰なのだから」
皆が一斉にオークを見る。実は私も驚いて涙が引き彼を見た。清々しく満足そうな笑みを皆に向ける。
「弱肉強食だ。従うべきだろう。それに…………楽しかった。全力で攻撃したのを受け止めた始めての相手だった。受け止めた瞬間から決した。ああ………このまま死んでも悔いはない。満足だ」
「死なれたら困る。約束は約束だ。私が賭けに勝った」
「すまん。余韻に浸る。後日にしてくれ」
オーク族長が斧をしまい。玉座の間を去る。
「オーク族長がああ言った。スキャラ族長殿」
「わかってるわ。まぁ………その。あなたの報告書通りだし。残念ながら。私たち海の者も最初から服従だったわ。『いただきます』なんて言うだけで宗教者と言うのはねぇ~ズルいわ。まぁでも!! 心置きなく言えるわね。よかったぁ……心臓に悪かった……」
「皆が普通にしていることを宗教にして何が悪いですか?」
「ふむ。私もインフェに報告しないとですね」
「エルフ族長グレデンデ。姫様の力は見た。我が都市も姫様は来てくれるだろうな?」
「リザード。気が早い。先ずは………戴冠式でしょう」
「どうやってだ? 嫌がっているだろう?」
「皆さん………影武者はいますよ。フィア!!」
声を出して彼女を呼ぶ。控え室に隠していた彼女が笑顔で現れる。
「ネフィア様!! 素晴らしかったですね!! ご主人様嬉しそうです!!」
「ああ!! フィア!! 滅茶苦茶嬉しい!! 嬉しい!! 今なら窓を突き破って空が飛べる気がするよ!!」
彼女を掴んで掲げる。姫様より小さく軽くおっぱい大きい。
「なるほど。代理か」
「最後の手段ですがね。では………全員に流布しましょうか。1週間後?」
皆が頷く。そして全員が胸に手をやる。
「では…………新しい陽に!!」
「「「「「「「陽の加護があらことを!!」」」」」」」
9人の大族長が結託した。
*
私は酒場でワインを注文し焼け飲みする。マスターがニコニコして私の空いたグラスにワインを注いだ。狐の耳がピクピク動く。
「疲れた」
「今さっきから。そればっかりですね」
私はぐったりする。クロウディアはレオンと揉めているが幸せそうだった。割って入れないほどに。というかクロウディアが号泣しレオンが焦りだしてるのを見るのがおもしろい。
「はぁ、私は何しに行ったのだろう?」
途中、体が勝手に動き。オーク族長の腕も切り落としてしまった。まぁ懐は帰りに死んだ傭兵から剥ぎ取り温かく。ワインも年代物を飲んでいる。渋い。
「ただ、暴れて。ただ、暴言吐いて。ただ、散歩しただけだった。あっ……でも美味しいワインを飲めるからそこだけはいいね。傭兵たんまり持ってたし」
「ネフィア様。それは盗みでは?」
「遺体から剥ぎ取るのは常套手段。壁の外では普通よ。情報もあるし~それに。冒険者カードをギルドに渡せば~死んだ冒険者が分かるから喜ばれるのよ」
「図太いですね。私は死体を見るだけで背筋が冷えますよ」
「死体は色んな所で見慣れてますし。知り合いに死体もいますよ」
「………姫様の交遊関係広いですね」
「自慢は陛下が友達」
「陛下とは?」
「現帝国初代皇帝ドレッドノート。辛いとき慰めてくれた一人ですね」
「…………ぉ驚きすぎて声が出なくなりますね」
私はワインを流し込む。美味しいな。
「美味しいですか? ネフィア」
「げっ!? 破廉恥。死ねよ」
「酷くないですか!? あっでも言われる事はしてますね」
「あー酒が入って幻覚が見える」
「幻覚あつかいしないで!!」
私は隣を見た。愛の女神エメリアが微笑んでいる。殴りたい。殴った。何もなかった。
「酷いですね」
「裏切り者め」
「………これも必要だったのです。答え合わせといきましょう」
エメリアが真面目な表情になる。そして、店の出入口を指差した。
ドタドタドタドタ!! ガチャン!!
悪魔族の青年が店に飛び込んで転がっていく。慌てて皆が彼を立ち上げさせた。
「どうした!!」
「大速報!! ネフィア様が1週間後戴冠式を行い復権するらしい!! やっべ!! チビりそう!!」
「お、おれ!! それ皆に伝えてくるわ!!」
男達が店を出ていく。何人か私を見ておじきをした。
「へ~。ネフィア・ネロリリス即位するんだぁ~へぇ~やっと魔王が出てきて魔国内は落ち着くね」
「ネフィア。冗談で言ってる?」
「まさか。私が即位するとは…………はいぃ? どういう事どういう事どういう事どういう事どういう事どういう事」
私は席を立ち上がりエメリアを見る。
「おめでとう。魔王ネフィア」
あのとき9人殺しとくべきだったと私は思うのだった。




