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魔国イヴァリース⑨魔王城..


 私は3日目にネフィアに言われた待ち合わせの広場に顔を出す。非常にこれからのことを考えると足取りが重い。この、騎士であるクロウディアがだ。それほどまでに罪悪感もある。


 彼女……ネフィアはそこで待っているだろう。私は情報を集めて彼女に報告する約束をしていた。だが、集めれば集めるほどに。私はある一つの答を導き出した。答を知ったとき。操り人形として利用されている自分にヘドが出る。悔しい思いを秘めて彼女に話そうと思う。私は「あなたを騙した」のだと。


 広場には色んなお店が連なり、テラスとして広場を使用し白い椅子やテーブルが置かれている。色んな種族が談笑し、商売交渉しているなか。その中央に噴水があり、その縁に白い鎧を着た騎士が小鳥と戯れていた。


 言葉がわかるのか数羽が膝に座り。歌を唄っている彼女の声を聞き続けていた。穏やかな昼下がりにこれから行われるであろう事とは違って穏やかな時間が流れている。


「ネフィア………こんにちは」


「こんにちは。クロウディア」


 挨拶すると小鳥たちが空を飛んでいく。1匹のあとに続いて順番に。


「小鳥の言葉がわかるんですか?」


「1匹は妖精です。妖精が庇護し………あの鳥は生きていられるそうですね。魔物では最底辺ですが………なんとか生きているそうです」


「妖精?」


「そう。自然を司る監視者………でも妖精だから。遊ぶのが好きなんです。歌わされちゃいました」


 口に手をやりながらクスクスと笑う彼女に………罪悪感を持ちながらも情報を話して判断してもらおうと思う。謝らないといけない。


「ネフィア………いいや。ネフィア様。私はあなたに謝らないといけないことがあります」


「ん? どうしたの畏まって?」


「情報を集めてきました」


 私は静かにゆっくりと報告をする。


 傭兵が多くこの日に城に集まっていること。ネフィア様の首には多額の資金がかけられ、魔王城には雇われた傭兵と賞金首狙いでごった返していること。


 これが行われたのは私がある人に報告したことで動いた事。全てである。


「ネフィア様………これはあなたを殺そうと仕掛けられた罠です。私はあなた様に依頼をするように差し向けられ。ネフィア様が一人単独で城に来る状況を作られています。やめましょう………きっと処刑もなにもかも族長たちの策略です。申し訳ありません。何も知りませんでした」


「ふーん。でっオークの彼は………レオン殿は姿を見せたか?」


「い、いいえ。情報では…………オーク族長と共に居るそうです」


「ふぅ………」


 彼女が息を吸う。そして吐き出して目を細めた。


「誰か仕組んだ罠はどうでもいいです。私を殺したい人は多いでしょうから誰かやったなんて特定出来ません。ですが…………あなたをほったらかして彼がそれに加担しているなら。許せる?」


「そ、それは………無理です。卑怯だ」


「卑怯。いいえ。まどろっこしい。直接言えば言いのよ。『殺したいからこの日に来い』てね。余は逃げも隠れもしないわ」


 彼女が立ち上がり。そして迷いなく魔王城へ向けて歩を進める。


「ま、まってください!!」


「はい。待ちます」


 ピタッと彼女が止まって首を傾げる。可愛らしくまるで散歩に行くような軽さに頭を押さえた。


「わ、罠でしょう」


「知ってます。でも、皆が私を待っています。それに…………あなたは憤りを感じない?」


「憤りですか………」


「優しいですね。私は憤ってます。グダグダグダと魔王になる気があればすぐ宣言すればいい。それがない癖に私を怖がる。それに………」


 ネフィア様は可愛くウィンクして笑う。悪戯っぽく。


「こんな可愛い姫様を置いて何処かへ行く男に憤りますね」


「な!! それだけで!! 死にに行くのか!?」


「死にません。いいえ………死にたくない。だけど!! 私はこれを試練と受け取りましょう。こんなのに負けていたら…………女神は倒せないでしょうから」


 彼女が踵を返して歩き出す。力強く。そして私は決めた。あの人形のような操られている気分はなくなる。


「お供させてください」


「いいですよ。オークのレオンさんに出会ったら怒りましょうね」


「ええ………怒ります。一発では済みそうにないです」


 それどころか、私は今。身震いをする。本能が感じるのだ。これから起こることに対して。





ガチャ!!


 城の扉の前。衛兵のダークエルフ族が門番を勤め、槍を交差させて私たちを止める。


「ネフィア様。今は危険です。忠告します」


「はい。ネフィア様……この先は傭兵が控えております。お引き取りを」


 門番を勤める衛兵が嘘偽りなく彼女に報告した。そしてネフィア様は笑顔で槍を退かす。


「ありがとう。心配してくれて。でもここは元、私の家よ。通しなさい」


「しかし………」


「通しなさい」


「………」


 渋々門を開ける。ムワッとした空気が感じられて私は懐かしくも恐ろしい感覚にビックリする。まるで戦場のような殺意が赤い絨毯や壁などに敷き詰め張り付けられている。しかし、ネフィア様は怖じ気づくことなく。剣を引き抜き。また空いている手から緑色の剣が生み出される。背中に大きな白翼を羽ばたかせ、翼から羽根が舞い散った。


「ネフィア様!?」


 魔族の彼女。しかし、その姿は…………天使その者であり。衛兵がしゃがんで拝み出すほどに神々しい。これが新しき魔王の姿だろうとわかる。


「行きますよ。クロウディア………背中は任せました」


「は、はい」


 私は剣を抜き。盾を構えた。太刀ではないスタイルで行く。騎士であるから。


「すぅうううううう!!」


 ネフィア様が息を吸う。そして大きい声を出す。


「余は帰ってきた!! 死にたくない奴は帰れ!! 忠告はしたぞ!!」


 城を揺らすほどの声量で言葉を発し、それと同時に隠れていた人間の傭兵が我先にと殺到したのだった。







「余は帰ってきた!! 死にたくない奴は帰れ!! 忠告はしたぞ!!」


 私はエルフの代表の族長として玉座の間で8人の族長と対峙していた時に声が響いた。驚く数人に私はほくそ笑む。その中で獣族長リザードが喋り出す。話の続きを促している。


「エルフ族長。おまえは言ったはずだ。姫様であればどんな奇跡も起こり得るとな。姫様はそうなる前に自身の環境を変える。ゆえにその強運は女神に祝福された。ただ一人の魔族の証拠なのだと」


「ええ、言いました」


 実際、祝福され。それを他人にも分け与えられる。魔族でありながら聖職者になった姫様。しかし、私はそれも何もかも姫様にとっては必然なのだろうと思う。


「現に生きている間に奇跡を起こし続けていた。だからこそ。今回は実験なのです。もし、ここまでたどり着き。そして。オーク族長の目の前に来たのなら。50点です。ええ」


「50点………あと50点は?」


「オーク族長。倒すこと」


「ガハハハハ!! エルフ族長よ!! 御執心だな!! トレイン以上でなければ雑魚だぞ?」


 話を聞いたオーク族長が大きく天を仰ぎながら面白いといい笑うのだ。


「まぁ姫様は………そこら辺、大丈夫でしょう。トレイン弱かったですし。彼はまぁ、体のいい傀儡でした」


 先代の魔王はオーク族長より弱い。戦いを避けてきた男だったゆえに地力が違うと考える。


「ん?………皆、静かに。耳を澄ませろ」


 ダークエルフ族長バルバトスが何かに気が付いた。私たちは耳を澄ませた。


~~♪


 微かにオルガンの荘厳な音楽が流れる。アップテンポでまるで戦闘を彩る音楽だ。オペラハウスの悪魔族エリックが驚いた声をあげる。


「パイプオルガンだ。それもこの音色はオペラハウスのオペラ座で背後に隠してある物そっくり。曲は知らないが……荘厳で恐ろしい。そう……魔王が攻めてきている気がする。流石は姫様………ここを劇場と彩るか。いや違う。これは強化魔法?」


 エリックが玉座の間を離れようとするのを私は彼に近付き手で制止する。


「公演が始まっている。見に行かなくては」


「同じ気分だが。終幕をこの場で見るべきだ」


「…………それもそうか。特等席で見させて貰おう」


 玉座の間の部屋の隅に椅子が置いてある。それを人数分、部屋の端に置いて何人かの族長が座り。エリックが何処から持ってきたのかおやつを手渡す。


「コーンを焼き、空気が膨張し爆発させた物に塩を振りました。わが都市の名物です。飲み物はこちらにございます。姫様が来るまでの間、おもてなしをさせていただきます」


 何人かの族長と仲良くおやつを食べ出し談笑しだした時。オーク族長は怪訝な顔だったが俺は笑顔になる。


 こいつらは姫様の毒に当てられてると感じ取り。嬉しくなったのだった。








 私は何を見ているのだろうか。


 自問自答しながら彼女の背後を守ろうと身を動かそうとしたが。既に彼女は次の攻撃の動作と移動を終わらせて傭兵の猫耳の獣人を緑色の光を放つ剣を突き刺していた。剣を差したまま、離れ。人間の傭兵が背後から翼を切ろうと背後から襲う瞬間。翼が横凪ぎに振り払われて、傭兵が燃え上がる。


 私は懐かしい光景を見ていた。


 多くの同志、仲間を失った。帝国との戦争。そう、これは戦争だ。


 地べたに幾多の傭兵の死体が積み上がり。オルガンの音楽が彼女を彩る。舞い散る羽根が部屋に満ち。死体の上に天使が舞い降りる。純白な姿で。返り血を浴びず。美しく。


「行きましょう。このフロアは制圧しました」


 単調に剣を納めて歩き出す彼女。私はただただ、この現場を見る傍観者へと変わっていく。


「…………」


 彼女の戦い方は………美しい。流れるように攻撃を掻い潜り。一刀両断で的確に敵を倒し。時に剣を納めてどこで習ったかわからない炎を激しく生み出す居合い切りで仕留め、緑の剣を投げつけて倒し。しかし、投げつけた剣は必ず彼女の元へ戻った。


 空いた手で炎を生み出し、フロアごと焼ききることもあれば打ち出された弾が曲がりながら傭兵に当たったりもしていた。翼を振り回せばそれは炎なのか透過して敵を燃やした。音楽とともに戦う姿はまるで演舞。アクアマリンの海の神への演舞のような物だと私は思った。


 気が付けば死屍累々。最初は余裕の表情だった傭兵たちも真面目な顔となり。今度は恐怖を見せる顔となり。一部の傭兵は跪き。得物を目の前に置いていた。

 

 いつしか………傭兵は誰もおらず。いつしか………色んな種族の兵士が跪き。頭を垂れて廊下の端で彼女の帰りを歓迎している。


 そんな中で。廊下の真ん中で仁王立ちする影が見えた。その姿に我に返り声を出す。怒りより何よりも…………安心したのだ。


「レオン!! 無事だったか!!」


「クロウディア。すまないな。姫様………ここを通りたくば我を倒して通れ」


「レオン!! お前!! バカな事はやめるんだ!!」


「無理だ。血がたぎって………何も考えられない」


「………いいでしょう。しかし。勝手に通らせて貰います」


「簡単に通すと思うなよ!!」


「レオン!!」


「すまねぇ!! 死んだら骨は拾ってくれや!!」


「はぁ………そうか。こんな人なのね。クロウディア………変な趣味」


「…………」


 レオンが拳に手甲をはめて構えた。そして、ネフィア様も緑色の剣と炎球を用意する。私は声を出して制止を促したが………流れは止められなかったのだった。











 


 












 








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