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不思議の国の勇者..


ジ、カチ


 目覚まし時計が朝を告げる前に止め。そろそろ朝なので俺は起きようと思い目をあける。すると………目の前に金髪の美少女が馬乗りしていた。


 思春期男子にとっては夢のような光景だろう。よくある幼馴染みが起こしに意味なく乗るあれだ。漫画でよく予習している。


「………あっ起きた?」


「何やってる………ネフィア」


「何やってるでしょうか?」


「起こしに来た?」


 制服をはだけさせ、彼女は笑みを浮かべる。


「襲いに来た」


「朝からアホなことやってないで。退いてくれよ」


「むぅ。つれないなぁ………襲いたいなぁ」


「殴るぞ」


「ひっどーい!!」


 いそいそと布団から退く彼女は小鳥遊ネフィアというハーフの美少女だ。顔は我らが東洋人が好きそうな完成された美を持ち。その肢体はハーフらしくナイスバディで日本語も流暢。学校のアイドル的存在。実際スカウトもあったらしい。


「早く降りて来てね。ご飯出来てるよ。トキヤ」


「………おう」


 トテトテと階段を降りて行く音が聞こえ。壁にかけてある制服に手を伸ばした。アイロンがしっかりとかけられているそれに袖を通す。もちろん昨日、彼女が俺の制服をアイロンがけをしてくれたのだ。出来た女だと思う。


「ああ、さむ」


 温かく温もった布団から這い出た俺は身震いをしながら寝室から1階のリビングに顔を出した。台所に長い黒髪の女性とネフィアが一緒に立っている。リビングの机には茶髪のボサボサ頭の男性が新聞片手にコーヒーを飲んでいた。


 長い黒髪の女性と男性を見たとき………何故か心臓が跳ねてしまう。


「おはよう。トキヤ…………」


「あっ………おはよう言ってなかった。おはよう、トキヤ」


「トキヤ………おはよう」


「お、おはよう………ごめん。顔洗ってくる」


 俺はいそいそとリビングから逃げるように洗面台に向かった。


 鏡を見ると眠気で涙目な俺がいるように見える。しかし、全くそんなことはなく。溢れでる涙が止まらなかった。何故だろうか。何故だろうか。


 自問自答。涙が止まらなかった。黒髪の女性に茶髪の男性を見た瞬間込み上げてきたのだ。


「トキヤ? どうしたの?」


 ネフィアが洗濯場の扉から俺を覗き見る。


「い、いや。なんでもない」


「………トキヤ」


 ネフィアは俺を後ろから抱き締める。柔らかい感触と女性の甘い匂いが俺を落ち着かせる。


「ご飯、さめちゃうし………ここは寒いよ。行こ」


「ああ、行こう」


 涙を振り払いリビングに戻り席に座るとこんがり焼けた食パンとコンポタと言うシチューのような物が用意され、別にコーヒーも淹れてある。


「トキヤ。冬休みが近いから気が抜けているだろ。成績を落とすなよ」


「お父さん。成績なんて関係ないでしょ? 大きくなればいいのよ?」


「体だけ大きくてはダメだ。心も大きくならないとな」


「お父さんが言うと説得力ないですよ?」


「母さん………味方だよね?」


「父さん母さん………いただきます」


 俺は何故か懐かしい気持ちでマーガリンを塗ったパンをかじった。隣ではイチゴジャムをべったり塗ったネフィアが流暢な英語で「delicious」と叫んでいた。


 俺はその光景を黙々とパンを食べながら目に焼き付けるのだった。何故かもう二度と見れない光景だと思って。





「行ってきます。母さん」


「はい。行ってらっしゃい」


「行ってきます。お母様」


「ふふ、ネフィアちゃんは今日も可愛いですね」


「お母様もお綺麗ですよ」


 二人でキャキャと仲良く触れ合ったあとに俺たちは門を出た。


 何故、小鳥遊ネフィアが俺の家で寝泊まりしていると言うと。長くなるが元々、両親の不仲でこっちに幼少期は住んでいたが両親が和解。そして向こうで住むことになったが本人はずっと帰って来たかったらしく高校生になった時に両親を説得し条件付きで単身……帰って来たのだ。


 その条件とは………幼馴染みの家にホームステイすることだった。


「トキヤ……手が寒い」


「手袋あるだろ?」


「………」


「ああ、もう……」


 ネフィアが息で手をハァハァして暖める。手袋はある筈だが。わざと着けない。我慢して着けない。だから俺は彼女の手を握る。


「まったく………」


「そう言って、いつも暖めてくれるトキヤ大好きだよ」


「お前の手の方が熱いのになぁ」


「触れることが大事なのですよ」


 帰国子女は本当にフレンドリーを越えてグイグイと好意を隠さず。俺に浴びせる。


 クラスに入ってきた時は本当にビビった。帰ってきた理由は俺に告白と付き合うためと恥ずかしげもなく言い切りやがったのだ。そのあとの質問攻めは苦労したが。


 断る理由もないために付き合うことになった。それが良かったのか女性から僻まれず。男からもいい寄られずに色んな人とフレンドリーに触れられている。


「誰に見られても恥ずかしくないのがすげぇわ」


「この国の人。オカシイネ。スシナラスシというべき」


「おい。わざとへたっぴに日本語喋るのさまになるな。スシかぁ寿司食いたいなぁ」


「寿司じゃない!! スシ!!」


「はいはい、寿司寿司」


 彼女を手を掴みながら登校する。最初はコソコソ噂された物だが……慣れたのか気にされずにいる。人間、慣れると無関心になるものだ。


「ああ!! またあなたは!!」


「うげっ!? 風紀委員」


 学校の校門前で風紀取り締まる女子生徒に目をつけられる。ネフィアは別にスカートが短い訳でもないが………まぁ色々あるよね。


「学舎の聖地で不謹慎です!!」


「生徒会長。頭固い!! 考えてみて!! 私たちは愛があって生まれてるんですよ!? みーんな、お父さんとお母さんが………ムゴゴゴゴ!!」


 学校の朝っぱらから保健体育の話で風紀を乱そうとする彼女の口を押さえた。


「ネフィア、黙って従う。社会のルールだ」


「千家さん。ネフィアさんを抑えるの大変ですが………あなたも同罪です」


「ネフィア。全力で乱そうぜ」


 同罪ならもう抑えてもダメだな。


「トキヤ!! やっと気が付いてくれましたか!! 保健室に行きましょう!! ゴムは………ノープロブレム!!」


「いや!? ぶっ飛び過ぎだろ!!」


「きゃああああ!! なんてハレンチな会話を!!」


「ちっちっち!! 生物の基本です」


「ネフィア飽きた。もう遊んでないで行こうぜ。寒いわ」


「あっうん」


「待ちなさい!! まだ話が終わってないです!!」


 後ろからガミガミ言われるが俺らは気にせずに教室へ向かうのだった。






 昼休み、ネフィアと弁当を食べた後。彼女が立ち上がりんっんっと膝を指を差す。


「ああ、わかった。どうぞ」


「わーい」


 ネフィアが俺の膝の上に俺に向いて座る。柔らかなお尻の感触と彼女の匂い。目の前に見える柔らかそうな二つの山。男なら憧れる体勢だろう。実際、遠くの思春期男子の目線が集まる。


「トキヤの匂い~」


 抱きついて幸せそうに声を出すネフィア。ネフィアは本当にあったかく。というか熱い。


「落ち着く~トキヤも落ち着く?」


「まぁなれてるし。最初にやって来たときは驚いたけどな」


「おっパブは男の憧れ」


「どこで聞いてくるんだそんなことを!?」


「私自身。いっぱい勉強したから!!」


 ネフィアは恐ろしいほどに一途で色々とアタックしてくる。その激しさは愛と言う玉のドッチボールではなく。銃弾を撃ち込んでくるほどエグい。


「暑くなったね? 脱ごっか?」


「殴られたくないなら。やめろよ?」


「家では………あんなに獣なのに………」


「ウソを言うな。つねるぞ」


「これが今話題のドメスティックバイオレンスと言うプレイですね。いいですよ………トキヤなら全て受け入れます。はぁはぁ」


「鼻息荒れぇ!?」


 背筋が冷える。襲われると言う事が脳裏に浮かんだからだ。


「ネフィア………きめぇ」


「………それはちょっとショック」


「赤マナ1かな?」


「それはショック」


 俺は話を剃らすことに成功した。


「帰ったらやる?」


「やる~」


「カード資産多いよなぁお前」


「だってお小遣い全部費やしてるもん」


 その後、エロい会話から180度回転しカードゲームの話になるのだった。







 家に帰ると。ネフィアは自室があるに関わらず俺の部屋で着替える。「さぁ覗け」と言わんばかりに。


「自分の部屋で着替えると言うことは?」


「辞書にない」


「見飽きるぞ?」


「本当に? なら………着替えて大丈夫だね。恥ずかしいけど。トキヤに見られるの好き」


「………外国は皆お前みたいに変態なのか?」


「好きな人に見つめられるのを変態と言うなら多くの人は変態」


「いや………いや………それ違う気がする」


「それに。光熱費削減だよ」


「………そりゃまぁ」


 二つの部屋でストーブ焚くより。一つですむもんな。


「それに………トキヤはヘタレ………」


「うっさい!! 俺は童貞でもないし!! 一応お前を孕ませ…………てないよな? 童貞だよな?」


「…………」


 今一瞬だけ。何故だろうか変な感じに言葉が出た。そんな困惑する俺に彼女は頭を撫でる。


「トキヤは頑張ってる。ヘタレと言ったのはごめんね。でも………抱いてもいいんだよ?」


「親がいるのにか?」


「両親の許可取ったよ!! 避妊はしっかりだって‼」


「お、おう!?」


 俺は両親の判断にドン引く。なに許可してんだ。なに両親に言ってるんだこいつは。


「まぁでも………避妊しなくても子は出来ないけどね」


「えっ?」


「何でもないよ~」


 「何でもないよ」と彼女は悲しそうに笑う。しかし、俺は聞こえていたがそれ以上踏み込んで話を聞けなかった。


「あっうん……何でもないよな」


 何故か胸の奥で恐怖していた。聞くのを怖がっている俺がいる。


「ねぇ!! トキヤ!!………おりゃ!!」


 ネフィアが俺の手を掴む。そして、勢いよくそれを股に挟んだ。


「どうだぁ!! 柔らかいだろ!!」


「まぁ……うん」


 すべすべして程よい弾力と柔らかさ。非常にそそられる太股だ。


「元気になった? 下の方」


「気持ち元気になったが息子は反応なし」


「………めっちゃ手強い。全裸でもだめか?」


「やめろよ。今は………なんかやりたくない」


「………はーい。残念」


 ネフィアが諦めて部屋着に着替える。そして………笑顔で遊ぼうと提案し、俺たちはカードゲームで遊び始めるのだった。





 風呂、上がった時に俺の脱いだパンツを嗅ぎまくるネフィアをしばいた後。2階の自室へ戻りベット入り込む。冷えたベットを我慢しながら入った瞬間。あったかくてびっくりする。


「ああ、温い………なんでや!?」


「ふふふ。私が暖めてました」


 しばかれた筈のネフィアが得意気に言い放ちのそのそと布団に潜り込んで俺に抱きつく。


「暖かい。今日はこっちで寝る」


「………はぁ。仕方ないな」


 俺は彼女の頭を撫でるとキュウ~と鳴きながら体を擦りつけてくる。幸せそうに、俺の腕のなかで横になる彼女。


「トキヤ…………おやすみ」


「おう。おやすみ」


 彼女を抱き締めながら目を閉じる。ネフィアの寝息を聞きながらゆっくりと微睡み俺は夢を見た。


 あるときは魔法使い、あるときは騎士。そして………勇者となる夢だ。ネフィアはおらず、ネフィアを探して、ネフィアを見つけた夢だ。


 長い長い夢。まるで体験してきたような夢に俺は第3者目線で夢を見続ける。


「トキヤ………トキヤ起きて」


「んあぁ? んんんんん。ネフィア?」


「トキヤ。ごはんできたよ」


「お、おう」


 一瞬のうちに眠り。一瞬のうちに起きた気がした。体を起こして夢を思い返す。


「…………俺は中二病発症した?」


 頭を抱えて。何を想像したんだと悶えた。






 1ヶ月たった。あの日から夢を何度もみる。夢の俺はネフィア・ネロリリスと言う小鳥遊ネフィアによく似た女の子を孕ませていた。あまりの美しい母親になろうとする少女に驚きながらも。俺は………恐怖する。


 幸せそうな日々の結末を俺は何故か知っていた。その夢を見る前に飛び起きた。しかし………俺は夢の続きを見なくちゃいけないとも思っている。


「はぁはぁ………」


「トキヤどうしたの?」


 隣で寝ているネフィアが優しく問いかける。悪夢を見たというと頭を撫でてくれる。


「思い出さなくていいんだよ?」


 彼女は優しく言葉をかける。しかし、俺は彼女を撫でる手を掴み、引っ張る。よろけたネフィアを抱きしめた。


「………思い出さなくていいんだろうけど。思い出さないと。息子に申し訳ないだろ」


「そっか………」


 バカな男だ。忘れてはいけない事を忘れてしまっていたのだ。


 俺は彼女から離れベットから這い出る。着替えは………しなくていい。イメージすれば姿は変わるだろう。夢の中だから。


「死んでないのか俺は………ネフィアが救ったのか? わかるか偽者」


「心外な!! 偽者じゃない!!」


「ん?」


 幼馴染みを演じていた誰かと思ったのだが。


「本人でもないだろ? 本人ならもうちょっと自制が効く。もう少しお上品だ」


「………仕方ないじゃない。熱いんだから」


 ネフィアが溶け燃え上がり、一羽の炎の鳥となる。俺は驚きながら炎の鳥に手を伸ばした。


「意思があったのか!? 魔法だろう!?」

 

 そう、ベットに1羽の炎鳥。フェニックが俺を見つめていた。


「意思があったのではなく。あなたへの愛情の具現化です。私はネフィアよ。でも、完全じゃない」


「それで………色々歯止めが効いてなかったのか」


「だって!! 大好きだもん!!」


 バサバサバサ


 炎の鳥は鷹のような大きさから小さな雀のような愛らしい姿に変わり俺の肩に止まる。ほっぺたに擦りつけてくる。ネフィアは何を考えて感情だけを寄越したのかわからない。


「ちぃちぃ………トキヤ~トキヤ~」


「えっと………確かこの世界の出口は空だったよな?」


「そうだよ。もっといっぱいここに居たかったけど。癒えたから行くよね?」


「………本体は動く?」


「実はわかりません。トキヤしか眼中にないから」


「さすが鳥目だな」


 ネフィアの炎は役にはたたないらしい。俺は学校へ向かうために家を出ようと玄関に降りる。すると、そこには黒髪の母さんと茶髪の父さんが立っていた。


「トキヤ、行くのか」


「トキヤ。行くのね」


「………ええ。ちょっと寝すぎました」


 父さんが笑みを見せる。母さんも笑みを見せる。俺の両親は死んでいる筈でこれは俺が産み出した幻想だろう。そう………今は思っていた。


「すまないな。勝手に死んで」


「ごめんね。家に帰らなくて。冒険者失格ね」


「…………」


「まぁでも。ずっとお前を見ていたよ後ろでな。危なっかしい事ばっかしてな。ヒヤヒヤしたぜ………でも立派な冒険者。俺より強い冒険者になって嬉しかった」


「ごめんね。トキヤ………母さんたち。弱い冒険者だったのに………無理しちゃって。あなたを悲しませて。でも………よかった。こんなに素晴らしい嫁さんに出会えて本当によかった。子供は残念だけど………大丈夫。きっと奇跡は起こるわ」


 俺は唇を噛み締める。拳を強く握りしめ真っ直ぐ突き出した。


「母さん父さん。ありがとう………弱いって言ってたけど。そりゃ………俺って言ったらあれだがエルダードラゴン相手じゃな。まぁ仇は取ってやったよ」


 胸の中で罪悪感が沸く。今ではそのドラゴンも俺の一部だからだ。


「はははは………本当に無茶苦茶する」


「お父さんと一緒ね」


「………俺行くよ。嫁が待ってる」


「ああ………もう会うことはないな」


「ええ、トキヤさようなら」


 最初に何故泣いたかわかった。これは本人だ。俺は魂が見える。後ろについてきていたなんて灯台元暗しだ。周りが見えていなかったのかもしれない。


「じゃぁ………行ってきます」


「帰ってくんなよ」


「そうよ。頑張って」


 俺は踵を返し、歩き出し。目を醒ますのだった。






 

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