マナの剣..
十二翼の爆撃というあるエルダードラゴンが得意とする範囲魔法を真似、相手の魔法を真っ向から燃やして打ち消した。防御し終えた事を確認し、威張るような低い声で私は話をする。
「占い師、何かを隠しているようだが………形見の剣は返してもらう」
私は戻ってこいと念じる。すると占い師の手の中の剣が緑の魔力となり霧散し、私の左手に剣の魔力が集まり再度形作る。マナの剣に鞘はない。持ち主の体が鞘となり具現化する剣。掴んだ時に思い出したかのようにその知識が流れて来た。そしてだからこそ刺された時も同じように魔力となったため問題はなかったのだ。鞘に剣を差す行為は普通のことだからだ。
「剣の鞘は今は余だ。故に剣は我の元へ帰ってくる。教えてくれたよ友人が。グランドマザー!! 亡き友人の遺言に従い!! このネフィア・ネロリリスがお相手してやる!!」
口調は荒々しく相手を睨み付ける。マナは何故か彼女を敵視しそして私に剣を託したのだ。でなければ剣を抜ける理由がわからない。彼女に渡さないようにした理由が。
「………ふふふ………はははは!! ここまで恐ろしい存在になるとはね!! いいじゃろ!! 賢者として勇者の変わりに魔王を消してやろう」
老婆だった姿は今や成人女性のような姿になっている。美しく気高い女王のような姿だ。ニットな黒い革装備し、トンガリ帽子をかぶり直してまるで魔女のような姿になる。出るところは出ているので余計に魔性の魔女ぽく、妖艶で不気味だ。
「消す前に自己紹介ぐらいやるべきでは?」
話を聞きたい。敵を知りたい。
「騎士でもなんでもない。する必要はないわね」
「それもそうだな。余も騎士ではない」
手の剣を振り緑の魔力となり体の中へ納める。流石にべらべら喋ってはくれないか。
「魔法使い………魔術士同士か………決着方法は魔力切れ」
「ふん。若造に負けないわ」
相手の両手に魔力がこもる。私も左手に魔力をこめる。
「炎球!!」
「氷柱!! 炎柱!!」
大きな炎の塊を私は打ち出した。相手もそれに会わせ氷の大きな柱を産み出してぶつける。そのあとに炎のうねった柱のような太さの槍が打ち出され、私の魔法を打ち破り迫ってくる。
バシッ!!
それを左に避けてやり過ごす。槍なため点の攻撃は避けやすい。私はそうしながらあることを考える。「魔法は詠唱をすればするほど強力になる」と。しかし、詠唱中は避けることもしなくちゃいけない。だから、こそ……魔法使い同士の戦いは即席魔法の撃ち合いになりやすく。魔力切れを起こしやすい。
「風槍の雨!!」
「十二翼の爆撃!!」
しかし魔法使いの上、魔術士同士の場合。即席魔法は魔法使いの詠唱レベルの物が即席で放たれ続ける。
「くっ!?」
空中に無数の魔方陣が産み出され一斉に鎌鼬の渦を纏った槍が発射された。それを見た私は魔法で魔方陣ごと爆炎に包み。相手も包みこむ。
「ふぅん。流石は魔王という所じゃの」
しかし、彼女の周りにある風の渦で炎を防がれてしまう。そのまま剣で仕留めようと私は走るが全く距離が縮まらない。魔女に逃げられている。このままでは森に逃げ込まれてしまう。そうなったら追うのは一苦労だ。
「少し、休戦としないかの?」
「何故だ? まだ戦い初めたばかりだろう? 余はまだ立ってるぞ」
「………そうじゃが。お主の姿。ちと変わっておるのをご存知かの?」
「??」
私の姿が変わっている一体何が。変わっているのだろうか。
「男ならとうの昔に捨てた。今はある人のために私は女になったの」
「違うわい!!………背中を見てみろ」
「背中?」
私は止まって背中を見ようと捻る。すると背中から炎とは違った白い翼が私の鎧の継ぎ目から生えている。炎ではない。なんだろうこれは。
「悪魔の翼? でも………白い」
「青い稲妻!!」
「ちょ!!」
バチバチバチ!!
「うぐぅ!! してやられた。隙を作ってしまった……」
私はその場から後方に跳び、フワッと根っ子の上に降り立つ。咄嗟に左手を突き出し、左手にダメージが通る。痺れてダランと手が力無く垂れた。余所見をしたのは私の責任だ。首が繋がっているだけマシだと言える。
「うううう!! 痺れる」
「仕留めきれんかったかの………最速で撃ち込んだ筈じゃが」
やらかした。自分の姿は確かにおかしい。それに気を取られたわけだ。戦闘に集中しないといけない。相手はあの賢者だ。
「会話………しようじゃないか?」
「残念、もういいのじゃ!!」
私は右手に魔力を貯めて左手に回復呪文を発現させる。相手は詠唱を始め、それを見た瞬間に咄嗟にマナの剣を右手に出す。
「らしゃぁあああああ!!」
そのまま右手でマナの剣を勢いよく投げつけた。苦し紛れの投擲。グランドマザーはそれをスッと避け剣は地面に転がる。私は詠唱の呪文に聞き覚えがあり、叫んだ。
「ワンちゃん!! 空に逃げて!!」
「もう遅い!! 愛しい奴と同じ魔法で死ね!! 操られよ風よ!! 我が使命のために!! 絶空!!」
魔女の周りから白い球体が魔女を包み広がる。全て拒絶する風魔法の無差別範囲攻撃。一度、私を危機から救った風の最上位魔法だ。生きるもの全てに対して窒息等のダメージで相手を再起不能に追いやる恐ろしい禁術の魔法。
「くぅ………ん!!」
「ネフィア様!!!」
迫り来る白い壁が私を飲み込んだ。
*
暗い。真っ暗。昼間の明かりが全て消え失せる。何も見えないほどの深淵に魔王を叩き込んでやった。穴の底のように光はない場所。絶空魔法の中で私は解けるのを待つ。ゆっくりゆっくり膨らんだ魔法は縮んでいるだろう。いきなり戻してしまったら反動で押し潰されてしまうからだ。だからこそゆっくりと解かす。氷が水になるように。
「…………死んだかの? 確認する術がないので待つだけじゃの」
音もなにもかも聞こえない場所。待つだけで相手は呼吸が止まり動かなくなる。どんな生き物でも。光や魔力さえも拒絶し押し出すために魔法も打てやしない。驚いたのはこの魔法をトキヤが自力で編み出したことだけ。「やはり、魔術士としては才があるのだろうな」と若造を関心した。
「魔王も所詮生き物の範疇は越えない。呼吸が出来なければ死ぬだけだ。これでやっと危険分子が消え失せ、帝国がやっと統一出来るかの~」
難しいかもしれない。だが、やってもらわないと私たちは目覚める事ができない。支配を入れ換える事も出来ない。
「…………ちと疲れ……!?」
暗い中に光が生まれる。小さい火球。それがゆっくりと大きくなりある姿を写し出す。
「ば、ばかな!! 何故生きておる!? 魔法が使える!?」
火球を手に持つ女性が輝く翼を広げる。私は息を潜めるようにしゃがみこみ。影が出来ないように身を隠す。音は聞こえないし、私は光もなにも発していない。見えないように自分だけ魔法を唱えて隠せばいい。光を反射させなければいい。影に同化すればいい。
「風隠れ………驚いたのじゃが………苦し紛れだろう」
「……………」
魔王がゆっくり移動する。光を持って、闇を歩き私を探す。光を当てて見つけようとしているのだろう、様子をうかがいながら。私は次に仕止めれるように魔法を詠唱する。今度は絶対的な零度の世界を作り上げるつもりだ。それで動きが取れなくなる。
「…………」
魔王がピタッと止まる。何故か背筋が冷え、汗が伝う。その瞬間だった魔王が振り返り炎と翼の光を消して走り出す。一目散に私目掛けて。
「!?」
私は魔法を詠唱するのを止め。青い稲妻を放とうとした。しかし、彼女の脚力は恐ろしいほど加速したのを最後に見えなくなる。私の目の前に一瞬で到達しただろうか。時間がゆっくりになるのがわかり。そして、占いの結果を知る。何故暗く見えなかったのかを。
シャァン!!
暗かった中で私は魔力の火花を見る。鞘から引き抜かれる剣が魔力と魔力の衝突で火花を放ち彼女の姿を一瞬だけ照らした。真っ直ぐに私を迷いなく見つめる魔王。目があった瞬間。私の腹部が痛みを発する。
「ぐふっ………」
腹から血を吹き出しているのがわかるぐらいに生暖かい濡れた感触と心臓の鼓動が速くなるのを感じ………その場に膝をつき内臓を溢して倒れた。
「………光だと」
倒れる時背後で微かに緑で光る物がある。そう………マナの剣が淡く光を放っていた。それが私を照らす。導きのように。
*
私は飲まれる瞬間に魔法で防御し息を止める。そして記憶を元にこの絶空は自分以外に窒息ダメージを与える物である事を思い出す。自分の表皮にある程度空気を纏わせ防御し。魔女は自分だけ助かるように空間を維持するため動かないと考えた。トキヤにお仕置き……もとい何度も何度も見てきた魔法だ。有効な方法は知っている。あと空気の表皮を取れば一瞬で終わることも。
風魔法の最大の弱点は相手も同じ魔法使いであることだと教えてもらっていた。何が弱点かも教えられている。彼は………最初から私一人で戦えるように教えてきた。もし、勇者の指命に駆られて私を殺そうとも大丈夫なように。全くそんな事はなかったが。
「………どこにいる?」
私は投げつけたマナの剣を光らせる。微かに光を放つ剣を中心にゆっくりと歩き、もし剣の光が見えなくなったら対角線上に彼女はいるだろうと思われ位置を特定するために歩いた。
そして、それを感じさせないために私自身を光を産み出し視線をこちらに釘つけにする。相手は剣を持っていなかった。なら、襲われることもないのでゆっくりと歩む。
予想の場所を歩くとマナの剣が見えなくなり暗い中に彼女を見つける。私の光を吸収しているのま真っ黒のシルエットが見える。
「そこか!!」
全ての光を消し去り走り込んで剣を勢いよく鞘から出し、切り払う。その一瞬の火花で見えた彼女。目線が合い驚いた表情の彼女を切り伏せる。
手応えを感じながら剣に血がついたまま鞘に納め、マナの剣も回収する。魔法が明けるのを無呼吸でまつ。とにかく我慢する。
「んんんんん!!」
めっちゃくちゃしんどい。運動したし、呼吸がしたいのを我慢する。少しでも口を開けたら最後だ。残念な事に私自身をこの空間から守ることしか出来ず。空気を留めておくことは出来なかった。薄い膜の様な程度しか防御できず。今は耐えるしかない。
「んぐぅう!!」
1分ぐらいが10分に思えるほどの時間。やっと魔法は解け、周りに光が戻った。
「ぷはぁ!! すうぅ!! はぁ~!! すうぅ!! はぁ~!!」
解かれた瞬間に深呼吸。空気がスゴく美味しく感じる。
「げほげほ………なんとか耐えた!! 余は耐えたぞ!!」
私は目の前に腹を抱え倒れる女性に近付く。魔女は苦しそうに呻き、ギロリと瞳を向けた。唇を噛み痛みに耐えている。
「グランドマザー。余の勝ちだ。まぁゆっくりと死んでいくといい。祈る時間はくれてやろう。女神にでも祈るといい」
私は偉そげに言葉を発してまだしっかりしてそうな世界樹の根に座る。
「………ぐぅ、私を倒しても予備がいる。いつか皆が我々に取って変わる日が来る」
「余はなにも知らぬ。何故敵対したかも」
「ククク、気紛れであやつを占うんじゃなかったの………一度投げた石の波紋は大きくなり………結果………我らの最大の敵となるか………」
「知らぬ」
「…………『知らぬ』でワシを殺すか………魔王。いや………それがお主のおかしくも有効な所か……」
血溜まりが出来上がり。魔女の肌が青くなっていき。全く動かなくなる。ワンちゃんが止めに頭を潰す。私それに気にも止めずに立ち上がり死体を漁る。荷物は別の場所だろうが紅い指輪やネックレスなどを漁る。何か情報がわかるものは一切なかった。
「ネフィア様。こやつは一体?」
「わからない。漁るけどなにもないな。エメリア……無言で余の戦いを見ていたが何か知っているか?」
「古き時代の人しかわからないです」
「魂に聞くにも………トキヤしか出来ない。夢を見ればいいが……抵抗されそうだ。仕方ない………帰るとするか。しかし、その前に」
私は深呼吸をして切り替えた。そして、右手に炎を産み出して私は世界樹に放つ。世界樹は抵抗もなく燃え、根っ子も全て火がまわる。
「ネフィア様………火葬ですか」
「ええ。友を送るのです」
私は祝詞を歌う。
「長きに渡る使命の終わりに休息を。我ら子らは感謝し………そして忘れることはないでしょう。マナと言う大いなる母に祝福を」
静かにゆっくりと燃え、灰となり風に流れていく。エメリアもワンちゃんも私もその光景を夕暮れまでずっと見ていたのだった。




