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妖精国ニンフ、エルフ族の治める都市..


 空、樹海が続く中で大きな川を見つける。遠く、遥か遠くには山々があり。そこから流れ、湾曲しながら海へ続いているだろう事だろうと思う。そしてその川の先にきっと………世界樹がある。そう私は思うのだった。


 マナの過去を見たあれから数日………夢は全く見なくなってしまった。エメリアに問いかけても「わからない」と言い。寂しさを覚える。


「少し休んでいきましょう」


 私はワンちゃんにそう言い川に降りる。勢いよく水飛沫をあげて川に降りたため少し水を被ってしまう。


「んん!!」


「すいません。降りる所ここしかなくって」


「大丈夫。そうだよね………木が密集してるもん」


 大きく枝を折りながら降りることは出来るがあまりに音も大きいし葉っぱまみれになるので好ましくは無いし燃やせばいいのだろうがそれも極力避けたい。ここは妖精国。自然に重きを置く種族が住んでいる場所。嫌われそうな事はやめておくことに越したことはない。


「水………本当に綺麗だよね」


 私はワンちゃんから降りて水に手を掬い口に運ぶ。ワンちゃんもそのまま口をつけて啜り喉を潤す。魔力が濃く、体が癒される気がする。


「美味しい」


「水とは甘いものなんですね。いや……魔力があるのですかこれは」


ガサッ!!


「ん………ん!?」


「ネフィア様!! 後ろへ!!」


 森の奥から茂みを掻き分ける音が聞こえ、私は剣の柄を握る。耳を澄ませ目を閉じると複数人の呼吸音と衣すれ、弦が引かれ弓がしなる音も聞こえる。


「ああ、囲まれました」


「……………ネフィア様。飛びましょう」


「いいえ、まって」


ガサッガサッ!!


 森の茂みから一人の青年が弓を持って現れる。そして、私たちを睨みつけた。耳がとがり細身で白い肌。彼はエルフ族なのがわかる。


「ここは妖精国である。ど、何処から来た」


「都市オペラハウスからです」


 私はワンちゃんの前に出て問いに答える。


「空を飛ぶ魔物を従えている。その者、ただ者では………な、ない。しかし、ここは我らの土地。か、勝手に侵入した事は許せない」


 めっちゃ怖がっている。強そうだもんね、このワンちゃん。


「謝ります。勝手に土地を踏み荒らしている事を。しかし、私は世界樹マナに会いに行かないと行けないんです。申し訳ありませんが押し通してでも行きます」


「世界樹に…………そうですか。一応、名を聞きましょう。知ってますが。か、かか確認です」


「ネフィア・ネロリリス」


「やはり、も、元魔王様でしたか………エルフ族長から聞いてます。しかし申し訳ない。郷に従っていただきます」


「………郷に従うとは?」


「この森に入ることを許されるかを選定します。妖精国姫様によって。簡単な話。許可をいただきます。申し訳ないですが………て、手枷をさせてください」


「わかりました。従いましょう」


「ネフィア様………従わなくても。あと少しで世界樹に会えます‼ 蹴散らしましょう」


「ワンちゃん。お座り」


「うぐううう」


ペタン


 おとなしく座るワンちゃん。勿論、「大丈夫」と笑みを向け手を差し出す。


「では、どうぞ」


「…………我が御無礼をお許しください」


「許すもなにも………私が何もせずに侵入しただけですし」


「そ、それはそうですが。エルフ族長から……お、お話は伺ってます。その………ええと」


 エルフの青年が震えながら手枷をはめる。これではどちらが悪いかわからなくなりそうだ。


「ごめんなさいね。怖がらせて」


「い、いえ。緊張してるだけです。ではこちらへ」


 私は手枷をはめた状態で森のなかを進んでいく。何人かのエルフ族が申し訳なさそうに頭を下げる。「罪人はどっちだ」と思い。私は首を傾げるのだった。





 私たちは数分間、森を歩く。水路がありその脇を通っていくと水路が消えている場所があった。


「ん?」


 不自然に途切れ、不自然に流れがあるのに水が消えて見えない。そのまま私たちは進んだ瞬間。驚きの声をあげてしまった。


 城と都市がそびえ立っているのだ。今さっきまで無かった筈なのに。今は街並みと白いお城が森の中にあるのだ。


「風の魔法!?」


「トキヤ殿と同じ隠蔽魔法が国を隠しているのですね………このまま飛んでいたらぶつかってました」


「ええ、見ててヒヤヒヤしましたよ。ようこそ、ネフィア様。妖精国都市ニンフでございます」


 大きな妖精とエルフ族とダークエルフ族、エレメント族が住んでいるのが見える。妖精、エレメントはエルフ族のようなのもいれば蜥蜴のようなのもいる。そして………緑髪のドリアードもいる。そう………私が「絶滅危惧種で少ない。すでに絶滅して居ないのでは?」と思っていた種族がそこにはいた。


 そして、各々がエルフ族青年に向かって膝をつき頭を垂れる。


「あなた、偉いのですね」


「い、いいえ。私はしがない衛兵長です。これは………その…………」


「ネフィア様。皆の視線はネフィア様に向いております」


「なぜ? 衛兵長はご存知ですか?」


「申し訳ありませんがエルフ族長グレデンテ様から皆に厳命が下っております。教えることは………無理です」


「…………異様な光景」


「申し訳ありません」


 そう、異様な光景。これでは私が魔王でそれの凱旋みたいなもんじゃないか。私の知らない所で何かが始まっている気はしていた。なのに私は知らない。そう、知らされてないような、隠されているような気がする。


「エルフ族長は?」


「小数のエルフ族長専属聖歌隊と共に魔国首都です」


「そう………」


 わかっていたが確認だ。族長が首都に集まっている。私は変な知識で内乱という言葉を思い出した。もし…………魔王候補が二人に絞られ、そして族長がどちらに着くかを決めた場合。魔族同士で争いが起き二つに国に割れる気がする。こんな大きい国が割れる。それはこの大陸で大きな大きな変革をもたらす気がした。


「………身の振りを考えないと」


「ネフィア様?」


「ワンちゃん。私、人間なるかも」


「!?」


 魔国が無くなれば結局帝国に。全員人間の捕虜にさせられるだろう。すでにトキヤの捕虜ではある私はそういう生き方になる。


「ネフィア様どうぞこちらです。馬車にお乗りください」


「ん………!?」


 私は驚きの声をあげる。馬車を呼んだみたいだがその馬車はなんとカボチャの姿であり、馬も真っ白い。悩んでいた事がアホらしくなるほどに物語に出るかの如くメルヘンだった。


「うわああああ!! すごい!!」


「姫様の趣味です」


 私は長い事で気が付いた事がある。乙女の感性が私には備わっている。そう、だからこそ。ワクワクした。


「すごい!! 乗っていいですか!! 乗っていいですか!!」


「ネフィア様。私はどうしましょう。乗れないようです」


「ああ、ワン殿はあの兵士についていってください。ここからは姫様一人です」


「シンデレラみたいに12時になったら魔法は解けるのですか?」


「ああ、残念ですがこれは作り物でして。そこまではないです」


「そうですか………しかし。これは………ふふふん~♪」


「ネフィア様くれぐれもお気をつけて………」


「ふふふん~♪」


「はぁ………エルフ族衛兵長」


「は、はい」


「ネフィア様を任せた」


「はい………恐ろしいほどのお方ですね」


「気が抜ける方ですが………いざって時は……それはもう………秘密です」


「1度見てみたいものです」


「早く乗りましょう!!」


 私は急かすように指を差し。馬車に乗り込んだ。そのまま時間がたち、馬車に揺られながら城の中へと馬が走る。見える光景は白い建物に囲まれたメルヘンな王都のような風景だった。手枷の穴に今度は鎖を取り付けて私を引っ張っていく。


「本当にすいません」


「いいえ。王に謁見するので暴れたら大変ですから」


「すぐに解放されると思うのですが………一応はルールでして」


「それならそれで」


 赤い絨毯を歩いていくとふと冷たさを感じ、しだいにそれが寒さに変わる。


 大きな扉が見え、氷付けされている扉をエルフ族が魔法で溶かし私は大きなモコモコした毛皮のローブを羽織らせてくれた。そして………部屋を開けるとそこは銀世界だった。


「少しお待ちを。ファイアーボール」


 炎球が魔法で積もった雪を溶かし、水が流れ出して廊下の溝に流れていく。そして玉座がお目見えし一人の女性が座っていた。


 綺麗な透明の羽根に白い肌。氷の結晶のアクセサリーをつけ、落ち着いた雰囲気の女性が座っていた。青いドレスに身を包み偉そうに赤いローブを硬く硬く羽織って震えていた。


「雪の姫。降りたところを確保しました」


「そうか、待っていたぞ魔王殿」


 席を立ち。彼女が私に進む。


「手枷を外し人払いを。そして例の物を」


「はい!!」


 笑顔で衛兵長が素早く手枷を外し。一言二言謝罪を口にする。そのあとに数人の衛兵を連れて出たあとに扉を閉めた。閉めた瞬間氷が張り出し閉じ込められる。衛兵長、「あんなに謝るならしなければいいのに」と思った。


「ククク、これで二人っきりだ」


「私もいまーす。お久しぶりですね」


 ぬるっと私の背後から恥ずかしげもない娼婦の格好の破廉恥な女神が姿を現す。


「エメリア姉。今までどこに?」


「あなたの中で寝てました。ふぁあ~」


「そうだったんですね。おはよう」


「うん、おはよう」


「………ずるっ。ずびび」


 雪の姫がマントで鼻をかむ。そして、強く震えだす。


「ふぅ………寒いな。炎の魔法お願いできないか? もう………耐えられん」


「どうぞ」


 魔法で生み出した大きい火玉を床に置く。それにしゃがみながら暖を取る雪の女王を見ながら………思わず。「なんだこの大人っぽいのに可愛い人は?」と思う。


「えっと………自己紹介いいですか?」


「あたたかい………ああ」


「ネフィア・ネロ・リリスです」


「雪の姫ニンフ。妖精国にようこそ。あとエメリア。お久しぶり」


「お久しぶり」


 私の大きい火の玉の周りで暖を取りながら会話を続ける。暖を取る姿は雪の女王ぽい威厳もなにもあったものじゃないが。


「多くの事を聞こうと思いましたがその前にひとつ………雪の妖精なのに寒いの苦手なんですか?」


「苦手だ。力も強くて………寝てたら勝手に雪は降るし。氷も生まれるし。氷の妖精じゃなく。妖精で誰も女王やりたがらず私がやっている状態だ。演技だよ。遊びたいが………仕方ない。あ~あたたかい」


「エメリア姉。そうなの?」


「そうですよ。妖精の本分は自然からの発生。自由でありイタズラや悪さも無邪気で行う迷惑な種族です。長い間、この世界で魔力が濃い場所で生まれます」


「そう。自然と一体であり自然と魂が融合し具現化したのが私たち。あと、魔王………無礼講でいいでしょう?」


「すでに最初の威厳、消えちゃってます。なんで私が行く先々で皆さんこう。ゆるいんですかね?」


「ネフィア。鏡見ましょう。あなたが一番ゆるいです」


「どうぞ、氷の鏡」


 そばに氷柱がたっている。それは磨かれた鏡のように反射をする。


「わぁ~スッゴい綺麗なお嬢さん。誰だろー」


「白々しい!! ネフィア!!」


 エメリアが私に文句を言う。いいじゃん別に綺麗なんだから。


「元男だからこその感想です。仕方ないです。トキヤの愛する素晴らしい肢体。あああ………尊い」


 鏡の前で自分は自分の姿をチェックする。鏡の自分は満面の笑いを向けた。はい、かわいい。小悪魔的な感じでトキヤを釣れる筈だ。トキヤの好みを把握してる私には死角はない。あるとすれば飽きさせない様にしなければならない。


「………満足しましたか? 魔王殿」


「満足しました。しかし、トキヤがいないので心は真冬です。凍えそう」


「魔王の恋人でしたね。女神の勇者であった彼を魔王が誘惑し勧誘し最強の盾と剣として使役させる。しかし、次第にその背中に見とれ………」


「ちょっと違うわ。勇者が先に誘惑し、結果的に勧誘を促したのよ」


「相思相愛ですね。本当にシンデレラストーリーで羨ましい限りです」


 私はこの雪の女王が何故か私たちと変わらない女の子の表情を見せた。女性とはかくも誰でも恋愛事が好きなのだろうか。男だった私には答えがでない。


「まぁ………駄弁るのはこのくらいで。おほん」


 雪の女王がひとつ咳を放つと真面目な表情となる。


「妖精国首都ニンフへようこそ。魔王殿………話は風の妖精やエルフ族長グレデンデ。オペラハウスのゴブリン達から聞いておる」


 胸を張り、話始める彼女は今さっきまで暖を取っていた姿とは違い。姫の風格が見える。これが本当の姫の姿。私は彼女と目線を合わせる。


「私はあなたをずっと待っていた。我ら大いなる母。世界樹からの伝言で」


「世界樹に会いに行きます」


「………そうですか。やはり『何も知らない』と見えますね。しかし、これも運命でしょう。剣を預かり次第にここにもう一度来ていただきたい」


「わかりました…………抜けるかわかりませんよ?」


 含んだ言い方に私は首を傾げながら不確定な話を行う。


「抜けるでしょう」


「………エメリア姉もそう思う?」


「思います」


 この確信は何処から出ているもだろうか。


「魔王」


「元魔王です」


「魔王ネフィア。地図は衛兵長に指示してある」


「言い直さないんですね………」


「私はあなたが魔王になると思っております」


「………皆がそう言うからですか?」


「いいえ。何となくです。オペラ座の有名女優さん」


「ん?」


 私は唇に人差し指を当てて首を傾げる。


「知らないわけはないのです。何故ならば演じ歌う魔王の公演しているときに。あの場にいましたから。妖精は遊びに貪欲なんです。飽きやすく熱しやすく冷めやすい。死がほぼ無く。長い時を過ごすには娯楽が必要です。しかし………あの歌声は冷める事を知りません。あの憎きヨウコ様との甘ったるい演技は本当に叫びたくなるほど胸焼けを感じました。百合はいいものです」


 私は頭を下げる。


「あ、ありがとう」


 唐突にベタ褒めでむずかゆくなる。あの時、あの場所で姫は見ていたのだろう。だた………ヨウコさんを憎きと言っている。憎い理由はエリック大好きだったからだろうか。


「あれも良かった。オペラ座の怪人も素晴らしかった。望むならキャストをご本人でお願いしたい」


「ヨウコさんを『憎き』と言ってませんでした?」


「女優としてなら。彼女は素晴らしい。しかし!! その女優として劇壇にあがってオペラ座の怪人と親しくなり!! あまつさえ結婚するのは他の妖精や私から夢を奪う行為です!! 役者は劇場外でも役者で有り続けてください!! 他の妖精はヨウコ様ならと諦めてますが私はまだ許しませんよ!!」


「お、おう………」


 やっばい予想通り。私はやぶ蛇つついた。これ熱烈なファンだ。


「オペラ座を見たときの悔しさは……本当に………叫びたくなるほどでした。しかし………いい演技だった」


 納得できる所と納得できない所で悩んでいるのだろう。本当に人間味が強い妖精さんだ。


 ドンドンドンドン!!


 扉の外から大きく金槌で叩かれているような激しい金属音が響く。氷が溶け、衛兵長が扉を開けて二つの紙と羊皮紙を持ってくる。


「地図と羊皮紙でございます」


 氷が張り付いているテーブルにそれを置く。この周辺の地図らしく。一ヶ所に丸の印が描かれていた。きっとここがマナがいる場所だろう。


「ここへ向かってください。これは妖精国の通商証明書になります」


「わかった。ありがとう」


 地図を丸めて受けとり。一枚の四角いプレートもいただく。名前が記入してあり冒険者ギルド発行のプレートによく似ていた。


「もし、事情を知らないものがいればこれをお見せください。では失礼します」


「ありがとう。エルフ族衛兵長ソネル」


「いえ」


 衛兵長が去り。羊皮紙とインクだけが残った。


「地図は貰いましたし。すぐ向かってみようとおもいます」


「魔王、そんなに急がなくでも大丈夫。明日でも大丈夫でしょう。別件で話があります。エルフ族長からもし魔王に出会うなら説明をお願いされていたのです」


「ん?」


 私は凍った椅子を溶かして座る。エメリアも同じように座るふりをする。


「この妖精国の知識を教えするように言われておりました。妖精国支配者はエルフ族長です」


「えっ!? 族長支配下なの?」


「妖精が国を治めるのは無理です。考えてみてください。子供みたいな我々自由な者は国を必要としません。しかし娯楽は欲しい。なのでエルフ族に居候しているのです。魔力が濃いために生まれた私たちは遠出も出来ずここでしか生活できません。故に妖精国と言っても私たちは森を護る程度しかできません」


「じゃぁ何故姫なのです?」


 やれないのではと思う。


「一番強く、誰もやりたがらなくて私になった。昔の私は拗らせていました。雪の妖精なら落ち着き、まるでお姉さんのように演じ。そう………クールに決めれば格好いいと思っていました。恥ずかしいですね若気の至りとは。故に気付けば引き受け、妖精の纏め役になり。四季を司る妖精の監視者となりました。元が雪の妖精だったので冬が一番は強いです。黒歴史です」


 私とエメリアは顔を天井に向ける。黒歴史に心当たりがありすぎてありすぎて辛くなったのだ。愛の女神もそうだろう。


 最近で黒歴史と言えばトキヤを呼ぶときに昔、初めて素で「おとうさん」と言ってしまったのは恥ずかしかった。彼はただただ旦那の違う呼び方だろうと思っただろうけど。ああ、なんで思い出すかな。


「お二人とも悶えてどうされましたか?」


「禁句を聞きました」


「私もです」


「黒歴史ですか」


「恥ずかしい過去は多いです。男と思っていた時が一番恥ずかしい」


「いえ、男でしたよね?」


「エメリア。黙って」


「…………」


「まぁ、それは置いといてですね。私は仲介人のようなものとお考えください、魔王。そして本題です!!」


 妖精の姫が非常に緊張した面持ちで私に近付く。私も緊張して何を喋りだすのかを聞き逃さないようにまっすぐ彼女を見つめた。


「………本題は」


「本題は?」


「………その羊皮紙にネフィアさんのサインを」


「………」


「………」


「………」


「ダメ?」


「………いいですけど。気が抜けました」


 本当に妖精は無邪気だった。





 寒さで耐えられなくなった姫の提案で暖炉のある部屋に移動する。いつもはそこに住んでいるらしいが一応私が来ると言うことで玉座にいたらしい。


「寒くて冬眠しそうでした」


「欠陥妖精」


「力の制御が効かないのです」


 妖精国、本の知識で知っていたのは綺麗な姫が治める。魔国とは違った場所と聞いていたが真相はただの魔国だった。メルヘンな見た目は妖精を楽しませるためにあるだけである。


「エルフ族長は有能です。妖精を従えています」


「従える? どうやって?」


「遊ぶのに金はいります。楽しむのにも」


「………借金?」


「作る子もいるでしょうが返しません。しかし娯楽は禁止されるでしょう。今の妖精の地位はエルフ族が持ってます」


「わっる~」


「ええ。遠い昔はですけど。でも長い時間が経つと慣れるものですし。オペラハウスへの国交もあるのが嬉しいですが行くには通行許可が必要で高いお金がいります」


「ふ~ん、でもまぁそうだろうね」


 お金を使う遊びは楽しい。例えば媚薬。あれも使えば夜長時間楽しめる物だ。なお……トキヤに効果はなかった。


「一度贅沢を知ってどうやって戻れと。気付いたときには私たちはエルフ族の居候から使用人になりました。ですので魔王様」


 とうとう様までついてしまう。魔王様だって。


「これからも魔王様であられる事を私たちは望みます」


「…………魔王じゃない」


「それも時間の問題でしょう。魔国では魔王はネフィア様となっている。エルフ族長がそう仕向けてます。止めに行かないとはそういうことです」


「エルフ族長が?」


 あの男は最初はこっそり魔王を狙う恐ろしい人物だったと思っている。現に今の魔国を操っている一人であるはずだ。グレデンデと言う名前はよく聞く。


「はい。実はすごく楽しいのですよ。どう転がるかわからない。どう成されるかわからない。やはり劇場もいいですが、今も中々楽しい。そしてこれからも。あの族長が笑顔を見せる日が来るとは思いませんでした」


「行かなくちゃいけないのか………止めに」


「ええ、エルフ族長から最後の伝達です。『魔城で待っている』と」


「まるで、私がここへ来ることを予見してましたね」


「予見してました。世界樹マナ様が。それはそうと今夜は泊まって行きませんか? ここにトランプがあります。お強いとお聞きしております」


「ワンちゃんがいるので………」


「使用人にお願いします」


「権限あるの?」


「エルフ族長不在は全権持っております」


 暖炉の前から立ち上がり彼女がテーブルからカードを持ってくる。エルフ族長不在………「実際、不在ばっかりでほぼ彼女が持っているものじゃないか」と思う。


「あっ私もやる。ニンフ入れて」


「エメリア姉。トランプ触れないでしょう?」


 エメリアが一枚のトランプを掴む。それをすっと引き寄せて私たちにジョーカーを見せた。


「触れる様になりました。少し力が戻ってます」


「イタズラ出来るようになったのかぁ………」


「しませんよ!? 妖精じゃありませんし」


「妖精をバカにしないでください」


「そうよ。エメリア姉より有能です」


「ふぅ、いいでしょう。トランプで決着つけましょう。いいですか?」


「いいですよ」


「いいでしょう」


「ふふふ。幸運値で女神に勝てると思わないことですね」


 私たちはトランプを配りポーカーで数試合勝負する事になった。公開手札は2枚。結果は………惨敗した。やはり女神は女神だったのだ。エメリアの胸の張る姿は威厳は感じられなかったが楽しく夜を過ごせたのだった。








 久し振りの世界樹の傘の下で私は樹を眺め彼女を待つ。すぐに彼女は姿を表さずに雪が降るこの風景をただただ見ていた。木々は白く染まり、世界樹の湖も凍り大きい雪が世界樹の枝から落ちてくる。バサバサと樹がうねって振り落とす。


「今日は寒波が来ました。ネフィア様」


「そうらしいね。お久しぶりです」


「ええ、お久しぶりです。エメリアお姉様はいないようですね?」


「幸運使いすぎて疲れてるでしょう。トランプと言う遊びをしてました」


「そうだったのですね。いつもいつも羨ましい事をされて………本当に羨ましいです」


「妖精とすればいいじゃない?」


「勇気を出して誘ってみます。それで…………また相談です」


「はい、いいですよ。私が答えられる事があるならば」


 マナの樹が私の隣に座り空を見あげる。


「生まれ変わりはあるのでしょうか?」


「あるよ」


 私は同じように空を見あげる。


「あるのですか?」


「ある、魂の輪廻。私が知っている生まれ変わりは旦那様含む勇者の人たち。彼らは異世界の人たちです。話せば長くなりますが私はそれを知っている。結論は『ある』のです」


「そうですか…………わかりました。今度、生まれ変わるなら………願わくば同じ樹で在りたいですね」


 私は慌てて隣の世界樹マナの少女を見る。それではまるで「死ぬ」みたいな言い方に背筋が冷えた。恐る恐る聞いてみる。


「マナ? どうしてそんなことを?」


「………ふふ。どうしてでしょうかね?」


 悲しそうな顔を向けて困った表情の彼女。


「ネフィア様………ネフィア。ありがとうございました。沢山の相談と沢山の悩みを解決していただいて」


「待って!!……んぐ!?」


 マナの手によって言葉を遮られる。


「ありがとうございます。友達と言ってくれたこと。ありがとう友達でいてくれたこと」


「んぐぅ!!………ぷはぁ!! 待って!! 何を言ってるの!!」


 紡がれる言葉をあまりにも不安感を持つのには充分だった。


「なに!! 今生の別れみたいな言い方を!! マナ!!」


「………別れです。剣抜いてくださいね。ありがとう。そして………さようなら。生まれ変わっても友達でいてくださいね。………さようなら」


「マナ!!」


 私は夢の穴に落ちる。涙を見せる彼女に触れようとした瞬間に穴に落ちたのだ。伸ばしたら手は届かず。私は友達の涙を拭う事が出来ずに………目が覚めるのだった。












 




 






 

























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