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妖精国への旅立ち、そして世界樹の汚名....


「行くのじゃな?」


「はい。どうもありがとう。なんとか一晩は隠れられたよ………」


 何故か「捜せ捜せ」と大騒ぎになってしまった。本当になぜこんな事になったのかわからない。


「トキヤ殿がおらんと本当に苦労するのぉ~」


「うん………」


 私は金色のフワフワ尻尾を振るヨウコ嬢に挨拶を済ませワンちゃんの背に乗る。人払いを済ませた広場にワンちゃんが大きくドラゴンの翼を広げた。飛んでいけるなら飛んで行く予定だ。


「まぁエリックの旦那にあったらよろしく言っておいて欲しいのじゃ。帰って来いと」


「会うかなぁ?」


「わしゃぁ~会うじゃろうと思っとるよ」


「会ったら伝えておくよ」


「任せたのじゃ。あとはワシからの通達じゃ………一応妖精国は国交があるのじゃが不干渉の協定じゃ。まぁ大丈夫じゃと思うがの」


「ありがとう。自分の事は自分でなんとかするよ」


 ワンちゃんが強く羽ばたく。空へ舞い上がりオペラ座のより高く高く舞い上がった。空から見る都市はやはり大きく。オペラ座は綺麗な装飾がされ、誰も見えていない場所にまで綺麗に整えられているのがわかる。


「行けそう?」


「遠くにワイバーンの影がないので大丈夫です」


「じゃぁ………行こう!!」


 大きく旋回し、西へ向けて飛び立つのだった。





 ザァアアアアアアアアアア!!


 飛び立ち1時間後、雨雲が見え森に降り立ち。大きい木の下で雨宿りをする。ワンちゃんが翼を傘のようにしてくれて私は濡れずにいる。


「雨かぁ。本降りだね」


「ええ。ネフィア様もっと翼の中へ。濡れます」


「うん。ありがとう。水苦手なのに」


「いいえ、水が苦手ではなく泳げないだけです。濡れるのは大丈夫です」


「そっか………」


 私は荷物の中から防水用の皮マットを敷き。座り込む。雨の移動は体力も奪われるし非常に足元も悪くなり旅をするには危ない。雨音で音も消えてしまうため魔物の接近もわからない。トキヤは「闇討ちに最適」と言っている。なので野宿の準備を行う。トキヤなら雨でも風魔法で吹き飛ばし、寒さも感じさせずに歩くだろう。本当に冒険者として優秀だ。彼は。


「あんまり進めなかったね」


「すでに陸路では1日の行程が終わってますね」


「そんなに?」


「思った以上に森が深いです。陸路では非常に難しいでしょう。まぁ舗装されている道路であればもう少し行けますでしょうが」


「道路ねぇ………」


 妖精国への道路は無いらしい。いつも向かうのは妖精に「道を開けて貰っている」からと聞いた。故に冒険者はあまりこちらへ来ないのだ。なので未開地。私たちはそれに挑もうとしている。


「ネフィア様、ひとついいですか?」


「はい」


「マナ様についてです」


「どうしました?」


「…………背中にのせた感触や匂い等がどうもユグドラシル殿と同じ気がしました。ユグドラシル殿は世界樹なんでしょうか?」


「知ってるでしょ? 血縁ではあります」


「血縁です。ええ。しかし………うーむ」


「気になることでも?」


「気になるのは気になるのですが………ハッキリ言葉にできず困ってます。まぁ気のせいでしょう。会えばわかります」


「まぁそうだよね」


 一緒にいるからなにかを感じたのかもしれない。私にはわからない事を。


「…………ネフィア様はマナ様に出合う理由はなんでしょうか?」


「呼ばれたのが理由でしたが…………ユグドラシルちゃんが『寂しい』と言うように世界樹も寂しいでしょうから会いに行くだけです。会って、それで帰って、ちょうどトキヤは起きてるでしょうし。世界樹の葉貰ってもいいでしょうしね」


 きっといい薬の材料になるはず。


「ネフィア様は何故………こうも友人が多いのでしょうね」


「それは冒険者だからでしょう。外へ出ないと触れあいは無いです。私がワンちゃんに出会ったのも冒険のひとつですよ」


「あの時は強そうな二人だと思いました。無理矢理引っ張られそうで面倒だった事。生活に飽きていた頃だったのでドレイクとして『まぁ~ついていこう』と思いました。ネフィア様が非常に明るく輝いて見えていましたし………気付けば楽しい日々でした。そうですね色んな大地を踏み締め。旅が出来たのは良かった。そう………飛ぶよりも良いものです。鳴き声も犬真似で良かったですし」


 ワンちゃんの声が優しく懐かしむ声で語られる。


「トキヤ殿が疑問を持ってましたが。まぁトキヤ殿もネフィア様の毒気に当てられて細かなことは気にしてませんでしたから」


「毒気~?」


「ええ、毒気です。気が抜けるんですよ」


「気が抜ける~? ひどい」


「それは一番、ネフィア様がお気付きではないですか? トキヤ殿は………」


「うん。わかってる。そうだよね」


 私は膝を抱えて顔を沈める。昔のトキヤと今のトキヤを比べる。そして………わかる。


「迷いが多くて弱くなった。トキヤは」


 昔のトキヤは全て敵。自分以外敵であり、私を守るために何でも殺せるほど容赦は無かった。「全員殺す」で通していた。無理矢理にも。


「いつからだろう………彼は選ぶようになったのは」


 「生かす」か「殺す」か悩む。私の役に立つかどうかで人を選ぶ。そして………私の我が儘で剣を収めるようになった。


「実はトキヤ殿と旅の合間に全て聞いてました」


「何を?」


「彼の言葉、ネフィア様を救う時に話していたのは『俺はもう………満足した。目標も見れた。未練はひとつはあるが………もう満足してるんだ。これ以上………望むのは贅沢だったんだろう。多くを殺してきた報いさ』と」


「…………そうなんだ」


「はい。『ひとつは諦め切れない』と言ってましたが『それは贅沢だ』と悩まれてました」


「そっか………そうだよね。鈍るよね」


 本当にトキヤは迷いが多くなり剣を鈍らせた。いや………魔法を鈍らせた。


「無差別に殺さずに帝国へ来たし、魔国でも無差別に殺さなかった」


 トキヤなら。城ひとつは落とせる魔法ぐらい打てそうだ。しかし、それをしなかった。


「私は足枷かな…………」


「ネフィア様それは違います。それをする必要が無くなったと私は思います」


「必要が無くなったの?」


「はい、ネフィア様が強くなった。護る必要が無くなり、安心感から隙が生まれてしまったと思います。トキヤ殿は気を張る必要が無くなったのです」


「………そうだといいなぁ」


「ネフィア様。質問します。足枷だったとしてトキヤ殿の足を引っ張るとして離れますか?」


 それは勿論。


「離れない。しがみつく。捨てられないように手を打つ。余はトキヤが好きだ。私はトキヤが大好きだ。愛してる。足枷なら足枷になる」


 結局。私は我が儘でトキヤを困らせるのだ。


「でも………それが夫婦でしたね」


 我が儘でもトキヤは笑ってくれるだろう。抱き締めてくれるだろう。


「そういうことです。悩まれても結局は変わらないなら………良いのでは無いでしょうか? このままで」


「そうだね…………ごめん。ちょっと眠いや」


「はい。おやすみください」


「ありがとうね」


「お安い御用です」


 私は横になる。大木と翼が大雨を弾いてくれる雨音を聞きながら目を閉じて私は眠るのだった。







 世界樹の根本。大きな大木が大雨を防いでくれる。私たちは世界樹の傘の下でいつものように語り会うのだ。夢の中で。


ザアアアアアアアアアアアア


 滝のような雨を眺めながら。大きな葉の傘で雨をしのぐ。夢の中でも雨なのは少し気が滅入るかもしれないが私たちは濡れないので自然に響く雨音を楽しみながらのんびりした。


「眠くなる音ですよね、雨音」


「そうですね。ネフィア」


 私とエメリアとマナの三人で根っ子に座る。


「こんな日はいつも………あの日を思い出します」


「あの日?」


「私が生まれた日です」


「へぇ~聞きたい!! ね? エメリア姉様」


「聞きたいですね!! 私は知らない間に生まれてましたけど。世界樹の始まりはさぞすばらしいものでしょう‼」


「私、この冒険終わったらマナの世界樹のことを書いてみようと思う。きっと友達増えると思いますし教えて」


「はい。生まれる時はその………あまり良くない話と思います。それとネフィアさん。大丈夫ですもう寂しくはありませんし二人だけの友達がいいです」


「ワンちゃんは?」


「想い人………人? 獣? 龍?」


「「!?」」


 私とエメリアは顔を見合わせる。頷き言葉を合わせる。


「どうしたの?」


「どうしました?」


「えっと…………こう…………いい子だなぁと思ったのですが。そうですね。初めての男性だったからでしょうか? 紳士で優しく。飛びながら今までの人生を語ってくれました。安直でしょうが………世界樹の中へと引き込みたいと思ったのです。しかし、飛んでこそ彼の良さともわかってます。羨望…………何処へでも行けるのが羨ましく思います」


 ドリアードの種族は好みの男性を木に封じ込める習性があるという。彼女は本当に笑いながらワンちゃんの事を語る。


 モテるワンちゃん。実は都市ヘルカイトでも人気だったりする。まぁ愛嬌あるし撫でさせてくれるしね。


「まぁでも………叶うことはないでしょう。ユグドラシルでしたか………彼女の祝福が大きくて大きくて入れそうにありません」


 悲しそうな表情から嬉しそうな表情になる。


「本当に………会わせてくれてありがとうございます。満足です」


「うん………」


 私はなんとも言い難い。告白する前に相手がいると知っていたら「どうも難しい」と思う。私なら淫魔として寝取るが。彼女は諦める選択をした。


「ああ、美味しい。甘酸っぱいですね。美味しいです美味しいです…………ふぎゃあああああ!!!」


 隣の空気を読まない女神の頬をつねる。触れるみたいなので全力でつねる。


「痛い!! 痛いです!! 痛いです!! 強い!! ああああ!! ごめんしゃい!!……………ヒリヒリします。力強いんですから手加減してください」


「もう1回?」


「結構です!!」


「クスクス………大丈夫です。孫が幸せになるんですから満足です。それよりも………女神様……クスクス」


 マナが一連の行動に腹を抱えて笑いだす。


「情けない……クスクス」


「酷くないですか‼」


「他人を見て我が身を考え直す。私………もっと真面目になります」


「ネフィア!?」


「女神の威厳ないですね。でも私はいいとおもいます。こう………触れやすくて」


「私もいいと思います」


「………複雑です」


 エメリアが微妙な喜んでいいのか悩んでいる表情をしたあと、ため息を吐く。


「昔はこうじゃ無かったんですよ………みんなから慕われて………」


「あっそ。ねぇ~マナ姉さん。生まれた時を教えて」


「はーい。わかりました。追々お伝えしようと思ってました。この時代の始まる前の遠い時代を」


「…………怖い。この二人怖い」


「仕方ないじゃない。女神は慕われてたのは過去は過去なのだから。今は好奇心のが強い」


「では………私が生まれた時はガラスという鉱物のケースに入ってました」


 目の前の空間が歪む。そして彼女が見聞きした光景が広がって行く。私はある事件で異世界の世界を見たことがある。2回。1回は本の空想。2回目はゲート先の本当に異世界だった。


「数千年前ですね。二人には知ってほしいです。そして考えてほしいです」


 彼女は語る。生まれた日の出来事を。目の前は何処かの研究所だろうか。金属で出来た部屋であり驚くぐらいこの世界には似つかわしくない部屋だった。無機質な場所。白服を全身に着た二人の男がいがみ合っている。


「やめろ!! これを解き放つな!!」


「何故だ!! 俺たちはこのままでは負けてしまう!! それに次に行けるチャンスでもある!! あの解き放ったドラゴンも全て終わる!!」


「……しかし!! 少数を生かすのに多数を切れと言うのか!!」


「やるしかないだろ。何を怖じ気づく。もう終わりなんだよ!!」


「いや!! 終っちゃいない!!」


 世界樹の苗木の前に二人は争う。その中で一人の女性が現れる。苦渋の顔を見せながら。 


「皆、寝たわ…………私たちが最後」


 取っ組み合いをしていた二人が離れる。泣きそうな顔で下を向く。


「…………畜生」


「悔しいのはお前だけじゃない。我が国は敗れただけなんだ。ああ、悔しい!!」


「畜生!! 外ではまだ皆戦っている!! 諦めていない‼」


「残念だけど………防衛隊全滅したわ。もうじきここに来る。敗れたのよ」


 一人の男が崩れる。地面を強く殴り拳に切り傷を作る。


「…………わかった。使おう」


 立ち上がり、正気を失った顔を見せながら立つ。


「死ね帝国!! 死ね世界!! 全て消えろ!! 我々の恨みを!! 怨恨を知れ!!………こぽっ………」


 男は笑いながら、血の涙を流しながら、口から呪いの言葉を吐きながら。床に倒れる。非常に恐ろしい光景を私たちは眺めていた。


「全員死んだか。あとは………待つだけ」


 一本の緑に光る剣が現れる。そしてそれを木の根に差し込む。


滅び(ディストラクション)(オブ)疫病蒸し機(プレェィグスチーマー)さぁ………世界を終わらせる鍵よ。今」


 私たちは沈黙する。何とも言い難い光景が続いたからだ。何とも現実離れした内容に言葉がでない。


「ごめんなさい………」


「ちょっと待って!!」


「そうよ!! これ何!?」


「え!? エメリア知らないの!?」


「知らない!!」


 私たちは狼狽える。驚くのはエメリアが知らないこと。呼び捨てになるほどに私は彼女の顔を見る。


「エメリア。本当に知らないの?」


「私が存在するより前の事なんてわからないです。言っときますけど女神は万能じゃありません」


「…………滅び(ディストラクション)(オブ)疫病蒸し機(プレェィグスチーマー)


 私は悲しそうな顔をするマナを見つめた。


「私の本名です。このときから私は生まれ。そして、一度世界を終わらせました…………」


「そう、それがなにか?」


「!?」


 私は悲しそうな彼女に笑顔を向ける。彼女がこれを見せた理由を考えた。「知ってほしい」と言うより知らないで欲しい事だろう。だけど彼女は見せた。見せてくれた。


滅び(ディストラクション)(オブ)疫病蒸し機(プレェィグスチーマー)というのは知りません。私はあなたを『マナ』と呼ぶ」


 きっと後ろめたさがずっとあるだろう。仕方がないとも言える。不可抗力だ。


「ネフィア様………」


「大昔のお話でしょう。もう誰も覚えていない事なんて忘れちゃいましょう」


「恐れないのですか?」


「私には無害です。それに…………友達と言ったではないでしょうか? ねぇエメリア」


「ええ。ネフィアの言う通り。マナ………あなたは世界樹の女神です。それ以上それ以下でもない。滅び(ディストラクション)(オブ)疫病蒸し機(プレェィグスチーマー)と言う名は捨てましょう。可愛くありませんし」


「…………エメリアお姉さま」


「さぁ!! 手を広げて」


「ええ、手を広げて」


 手を広げる。釣られて手を広げるマナ。私たちは二人で彼女を抱き締めた。


「マナ、大丈夫。恐れない」


「大丈夫です。私たちはあなたの友です」


 二人で慰める。世界樹が嗚咽が聞こえ、私は頭を撫でる。


「一人で悩んでいたんですね。今もずっと」


「………はい」


 雨が止み、太陽が雲から顔を出し世界樹を照らす。キラキラと雫が輝き世界を彩る。


「………ありがとうございます。覚悟が出来ました」


 マナは泣き止み。笑みを溢し、何か決意を固めて太陽を見上げるのだった。








 







 





































 

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