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あの木~なんの木~気になる木~ ..


 綺麗な湖のほとりで根っ子が湖から這い出ている所に腰かけ、スカートを捲り清い水に足をつける。日差しは強く暑い。時期が違う感覚だが。私は気にせず足をつけて熱を取る。


「あのー木~なんの木~気になる木~」


 私は何処かで聴いた事がある歌を口ずさむ。昔、とある世界で流れていた曲で今の状況に良く似ていた。


 そう、これは夢だ。時期も違うし私は今、商業都市にいる。服も違い白いワンピースで寝ている。今のように鎧を着ていない。


「名前の知らない木ですから」


 私は待つ。背後の木の存在を。彼女の夢の中で彼女を待つ。


「ご機嫌ですねネフィア嬢。面白い歌です」


 背後から声が聞こえる。懐かしい声であり私は少しだけ感傷に浸った。エウリィ・ドリアード。オークを愛した枯れ木。私は振り替えると本当に彼女の姿に見えてしまう。しかし、違うのだろう。


「エウリィ・ドリアードではないですよね?」


「はい、私は名も無き木です。世界樹と呼び。マナの木と呼び。ユグドラシルとも呼ばれています」


「すごい鮮明な夢ですね。驚きです」


「何千年も見てきた光景です。ずっと………私はここにいます」


 隣に彼女は座る。足は木の木目と根っ子で出来ており緑髪のドリアードらしい姿だった。本当に枯れた彼女に似ている。


「どうして私を呼んだんですか?」


「…………私はきっと。斬り倒されるでしょう」


「誰に?」


「私を求める人達に斬り倒され。剣を奪われるかもしれません」


「剣?」


「あれです」


 彼女は指を差し、根っ子に刺さっているロングソードのような剣を指を差した。


「あれ? なんですか?」


「剣です」


「剣ですね」


 ピチョン!!


 うん。剣だ。うん。そんなことよりも。


「わぁ~魚が跳ねた!!」


「本当ですね~」


 穏やかな時間が過ぎる。この清い聖域は夢でもスゴく清らかであり美しく。落ち着ける。トキヤは胸糞が悪いと言いそうだ。気分が悪くなると。


「ちょっと!! 二人とも!!」


「ああ、エメリア」


「エメリア姉様も夢を見てるんですか?」


「そうよ!!………世界樹の女神マナ。彼女を呼んだ理由ぐらい話なさい!!」


「…………?」


「首を傾げないで………なんで私が突っ込まないといけないのよ」


「?」


「ネフィアも真似をしない!!」


 私は焦るエメリア姉さまに笑みを向けてクスクス笑い。マナと呼ばれた世界樹と目線をあわせてお辞儀をする。


「始めまして。ネフィアです」


「ネフィア嬢の事は遠い娘から聞いております。私はマナと名乗りましょう」


 なんとも緩い空気が流れる。それよりも。


「トキヤは大丈夫なの?」


 ピリッとした空気に変わり私はエメリア姉に伺った。


「どうなの?」


「だ、大丈夫よ。寝てる」


「そう………良かった」


 フッと息を吐いて足をバタつかせる。置いてきてしまった私の大事な人。起きる気配はないようだ。


「彼はまだ乗り越えられないのでしょうね。私より楽しみにしてましたし。私もまだ尾を引いてますが。トキヤがいればそれでいい。割りきることが出来ました」


 流産は辛いけど。割りきることは必要だ。生きているから。続いているかぎり。ただ恨みは残る。私は聖人ではない。


「流石。ネフィア嬢は芯がお強い。あなたならあの剣を抜くことが出来る。抜いてください」


 強くはない。泣いたし悲しみ、なんとか立ち上がっただけ。それよりも剣が気になり出した。


「あの剣………抜けないの?」


「ええ。多くの方があの剣を抜こうとした。でも抜けない。選ばれた者しか抜けません」


「何処かで聞いた剣に良く似ていますね。聖剣と魔剣に」


 そう。王を決める剣と魔王を決める剣に似ている。選ばれた者しか抜けない使えないと言う点が。


「似ているでしょう。昔々にこれを模倣し人間の名工は聖剣を作り。これを元にドワーフは魔剣を作った」


「えっ?」


「名も無き名剣です。私が意思を持ったときには既に刺さっていました。使い方も何もかもわかりませんが。『選ぶ』と言うことはわかります。そして………危険な事も」


「ネフィア。帝国に旧き人類の生き残りがいます。それらがこの剣を欲しています。彼らに渡る前に抜かなければなりません。思ったより重要そうです」


「抜けるか抜けないかわからない物をどうしろと?」


「私はネフィア嬢なら抜けると信じてます。そしてユグドラシルちゃんに渡すことも」


「渡す?」


「はい。次の世界樹を選ぶ剣。鍵みたいな物だと私は思います。わからないですが」


「…………うーむ。一応向かうけど。抜けるかは試すだけだから」


「ありがとうございます。もし抜けたら………ユグドラシルちゃんにヨロシク言っておいてください。私の種子からやっと………次が産まれたのです」


「やっと?」


「長い長い時間がかかりました。やっと………役目を休めそうです」


 私は首を傾げながらエメリア姉様の方へ顔を動かす。


「ネフィア………魔力、マナの本質は知ってますね?」


「自然を摂理している物。私たちが息を吸い取り組み魔法を使うために必要な物」


 トキヤが言っていた事。4つの元素がありそれは全て「マナから産み出せる」と言う。


「そう。魔法使いはこれを元に魔力を産み出し魔法を使う才能がある者よ」


「でっ? それが?」


「鈍いですね」


「鈍いね」


「鈍いですよ。私は?」


「「「………」」」


 沈黙。穏やかな水の音が聞こえる。


「世界樹は半分の魔力を産み出し世界に供給してるのよ」


「へぇ~」


「わぁ~すごーい。私」


「ええぇ………マナ。あなたも驚くの?」


「大部分私だったんですね。皆さんも魔力を精錬するから『もう安心』と思いました。老いてますし」


 マナの女神が笑顔で「そうなんだー」と言うとなんとも気が抜けそうになる。


「何となく知ってましたけど」


「何となくなのね……」


「まぁもう。私の役目は終わっていると思ってましたから」


「役目?」


「そうです。私が生まれた理由は人類抹殺です」


「ふぁ!?」


 私は驚きのあまりに湖に落ちそうになる。剣を探して腰に手を当てるまで夢だったことを忘れるぐらいに慌てた。


「大丈夫ですよ。ネフィア、その気はないでしょう。そしてあなたは人間にも味方するのね」


「はい。役目、出来なくなりましたから安心ください」


 何故だろう。表情に清々しさがある。剣を納めた。


「えっと………」


「私はドリアードとして目覚めたの千年前。それまでは何もなく。全てを毒に染め。生き物を全て殺そうとした昔の自滅生態兵器です。殺した数は今までの誰より多いでしょう。皆さんが魔力と言うのは本来は猛毒でした。体を腐らせる嗜好性を持った魔法です」


「毒? 私は生きてます」


「はい。長い年月は荒野でした。しかし、ゆっくり草木は生えマナに耐え抜き逆に利用し少しづつ順応していきました。気付けば生き物も生まれ………気付いたらここはこんなにも綺麗な世界へと姿を変えたのです」


「そ、そうだったんですね。これが………」


 私は背後の大樹を見る。今の私たちにとっては普通でも遠い昔は違ったらしい。


「何故そのお話を?」


「ネフィア嬢はお悩みを聞いてくれる人と聞いております」


「聞くだけなら……」


「私はただただ壊そうとした。でも、気付けば私の周りは緑豊かになり。色んな生き物が生まれ………私を楽しませます。私は何でしょうか? 今までずっとマナを生み出して来ましたが………良かったのでしょうか?」


 彼女は悩んでいる。彼女は答えを求めている。


「ただ役目を行っていただけですが。多くの未来を奪いました。だけど妖精やエルフが悪神ではなく善神として崇めてくれる。すごい罪悪感があります」


 罪悪感と言った。彼女は懺悔している事に私はこのときに理解する。


「そうですか」


 昔は私も懺悔室で懺悔したもんだ。ならば相槌を打ち。話を促す。


「私は善でしょうか? 悪でしょうか? 人を殺そうとした。でも、気付けば生き物を生かし変化を促す存在。生き物に魔法の元をあげる存在へと変わってしまいました。私はどっちの悪ですか善ですか何でしょうか?」


 彼女は私に答えを求めた。エメリアを向くと首を振る。


「私は肉体は無く。この世界の住人ではないので問いに答える事が出来ません」


 そうか、私はこの世界の生き物だから彼女は聞いたのだ。そう私は代表者のような立ち位置。ため息を吐く。悩んでしまうために。


 代表で語っても良くないだろう。難しい。しかし、マナの木は答えを待っていた。


「マナ姉さん。私の事を殺そうとしますか? 私の愛しい人は人であり、殺そうとしますか?」


「いいえ? どうしてそんな事を?」


「では、マナ姉さんは私の友達です」


「…………」


 マナの木は驚いた顔をする。そして友達………友達と呟き。再度私を見た。


「そうですね。今の私は皆さんを倒そうとしていません。なら………悪ではないのでしょう。例え昔に非道な事をしていたとしても。私のバックアップも生まれ。育った事を聞きました。満足です。ありがとうございますネフィア嬢。ありがとうございます」


 何か納得した表情で私の手を握り世界樹は目を閉じる。その瞬間に夢は終わりを告げた。


 私はワンちゃんにもたれながら起き夢を反芻する。


 彼女はあの問いで何を満足したのかわからなかったが良かったと思うのだった。











 




 







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