世界樹を探す旅の途中で変わりゆく都市を観光..
私は久しぶりに家の倉庫に眠っている武具を取り出す。埃は被っているが錆びる事なく。埃を払えば輝きを見い出だす事が出来た。昔にトキヤが私のために用意した鎧で所々傷がある。
「姫様の鎧ですね」
「ええ。必要になると思うの」
私は濡れた雑巾で埃を拭き取り。準備を行った。純白のドレスのような鎧で貴重な金属の白金の混合鋼で作られている。宝石と同じように非常に高価な物。
「………こんなに高価な物が必要だったのかな?」
「トキヤご主人の趣味でしょう。それによく似合っておられました。ただ………目立ちます」
「だよね。目立つよね」
鎧を拭き終わり、乾かす。今度は寝室から剣を用意し鞘から抜いて刀身を見る。刃こぼれせず。頑丈な剣だ。名前はただのロングソード。しかし、火山の石か何かを混ぜて鍛え直し。炎が揺らめく魔法の剣である。
「姫様の剣。他にもっといい物がある気がしますが?」
「見た目は至って普通ですが思い入れが違います。トキヤに初めて貰った物です。例え魔剣の方が強くても。私の剣はこれだけです」
刀身を優しく撫でる。炎が揺らめき慌てて鎮火させる。
「それよりも姫様とか。ネフィア様とか呼び方コロコロ変わりますね? 姫様でもないですし」
「そう言えばそうですね? ただ………どれもネフィア様ですし、わからないです」
私は首を傾げる。夢魔の能力だろうか。
「それより出発はいつですか?」
「明日早朝」
「わかりました。寝てきます。飛んでいくので体力を温存します」
「ドレイクでいいのよ?」
「速く行って速く帰ってくるべきです」
「そうだね。ごめん、ユグドラシルちゃんに会いたいよね?」
「違います。トキヤどのが心配でしょう?」
「…………大丈夫です。トキヤには休んで欲しいので」
「無理されてませんか?」
「だから!! 大丈夫ですって!!」
「わかりました。では………休んでます」
「はい」
まだ日は明るいがワンちゃんは部屋の真ん中で座り込み目を閉じる。私は彼の頭を撫でる。
「いつもありがとう。ワンちゃん」
「………どういたしまして。姫様」
「私も寝るね。体貸して」
「どうぞ」
私もドレイクに体を預ける。やんわりした暖かさ。
「ふぁ~私も疲れちゃいました。夜まで寝ます」
「はい。起こしましょうか?」
「大丈夫ですよ」
目を閉じ、私は昼寝をするのだった。
*
寝過ごした。ワンちゃんも寝過ごしたらしく項垂れていた。気付けば深夜であり。準備も途中。気持ちよく寝すぎた。
「まぁ何とかなるかな?」
「何とかなりますか?」
金袋に硬貨を詰め。食糧や水を入れたリョックにワンちゃん用の荷物も用意する。
「トキヤがいれば。全部してくれたのに」
「いや………ネフィア様。しっかり準備しましょう」
「………水がいるの大変ね」
考えてみればトキヤは水を用意できるので大分荷物が食糧多めに詰めたのだがバランスを考えないといけない。私は昼間に買ってきた本を開く。
「初心者冒険ガイドはふむふむ」
「深夜で今更それを読まれますか?」
「わぁ!! 見て!! 都市アクアマリンの絵があります!! 懐かしいですね~今大事にしまっているネックレス。ここでトキヤさんが買ってくれたんですよ~」
「ネフィア様。準備…………」
「はっ!? ごめんなさい」
つい懐かしい風景に見とれてしまった。
「えーと。冒険に必要なのは護衛を雇わないといけないらしいです」
「ネフィア様。それを見せてください」
「どうぞ」
「ふむふむ。異国観光名所………ネフィア様。初心者冒険ガイドではないですね。あと令嬢用ですこれ」
「えっ? 本屋の店主がこれ進めたよ?」
「ネフィア様。トキヤ殿と旅行行くと思われてます」
「…………わぁお」
そう言えば店主に言ってなかった。トキヤが寝たきりだと言うことも噂も広まってないようだ。
「えーと。ネフィア様」
「はい」
「必要な物言うので準備して下さい」
「はーい」
「ヤバイです、トキヤご主人。めっちゃ不安です。トキヤご主人は本当に素晴らしい冒険者だったのですね」
ワンちゃんが何故か天井を見つめる。首を傾げながらイチゴジャムの瓶をリュックに入れる。
「ネフィア様。イチゴジャムはダメです。それは調味料です。不味くてもしっかりエネルギーが取れる保存食が重要です。イチゴジャムは保存食ではないです。保存が効くジャムです」
「1個だけ!!」
「ネフィア様。何個入ってますか?」
「………」
「ネフィア様。1個だけです」
「………わかった」
「トキヤご主人さまあああああ!! 起きてぇええええ」
*
出発は遅くなった。日が登り早朝ではなくて昼になってしまう。理由は私では準備不足と判断され、しっかり準備したらこんな時間になってしまった。
ドラゴン化したワンちゃんの背中に乗り、門をくぐった。
「ネフィア様、どちらへ? 皆様には伝えられましたか?」
衛兵の一人に止められ。ワンちゃんが振り返り私は馬上。犬の上で降りずに話をする。
「伝えといて。世界樹探しに行ってきます」
「えっ? えっ? せかいじゅ?」
意味がわからないと言う風に竜人の衛兵が首を傾げた。
「すまん。ネフィア様は冒険がしたいそうだ。他の方にも伝えてくれ………申し訳ない」
「ワンさん。そうですか………わかりました」
衛兵が避け、道をあける。
「いい旅を。ネフィア様ワン様」
「うん。行ってきます」
「うむ。ネフィア様。しっかりつかまっていてください。じゃぁ飛びます」
ワンちゃんが走りだし翼を広げ羽ばたく。魔力が散り浮力を得て空を飛ぶ。
とんだ瞬間、世界がみるみる広がっていった。何処までも続く山々緑の木々に舗装された道路に都市の大樹。空から世界を見るのは地に這うものでは絶体に見られない絶景。私は手を広げて体で世界を感じとった。
「ネフィア様。危ないです!!」
「そう?」
「落ちたら死にます」
「わかった。ん?」
背後を見るとユグドラシルちゃんが壁に立っているのが見えた。見届けに来てくれたのだろう。
「………ワンちゃん。ユグドラシルちゃんが寂しそうに見てる」
「根付いたドリアードの宿命です。それに………寂しさを知っている事は幸せを知っている事です。恵まれています」
「ワンちゃん?」
「なんでしょうか?」
「ユグドラシルちゃんの事になると饒舌だね」
「そんなことはないでしょう?」
「本当に? 私には特別な感情があるように見えるの」
「それは一番、背に乗せてきましたから」
「そうなの?」
「はい。まだ幼き木ですからね。あれでも」
まるでお兄さんのように優しい言葉。保護者のような優しく声。
「それよりも先ずは何処へ向かいますか?」
「そうですね。トロールの住む街でいいでしょう。そこから名も無き商業都市。都市オペラハウスから未知の場所。妖精国ですか? そこへ向かいましょう」
「わかりました。1日でつくでしょう」
「速い!?」
私は声を張り上げて驚きを表現した。気分を良くしたの上機嫌でワンちゃんが尻尾を振る。
「何にも邪魔されませんから。ドラゴンなので速いです。まぁ友たちより遅いですがね。走るのは誰よりも速いと自負しておりますが」
友とはヘルカイト達でなのでしょう。考えてみればワンちゃんは地竜。飛ぶより走る事の方が得意だろうと思う。
「空は美しいですね」
「ええ、翼をありがとうございます。ネフィア様」
「私は何もしてないけど?」
「いいえ。長き時より貴女とであった時から癒えて来たのでしょう。我の翼は貴女と共に」
「感謝するのは今までずっと私を乗せてくれたことですよ。王、ワン」
「その名前………私が間違った鳴き声だったのですが。自分の鳴き声になってしまいましたね」
「ふふ。ドラゴンぽくないですね」
「ええ。ワンちゃんですから」
二人で話ながら旅が始まる。世界樹を探す旅が。
*
「見えてきました。ネフィア様」
夕暮れ、茜色の空に照らされながら。トロールの治める農村にたどり着く。トロールの空を色んなドラゴンが飛び交い、交差したり色んな所へ飛び立っていく。近くへ行くと一匹のグリーンドラゴンが私達に近づき並んで飛びながら声をかけてくる。
「見慣れないドラゴン…………ドラゴンですよね? 都市ヘルカイトからですか?」
「勿論だ。我の名前はワン・グランド。地竜だ。そして背にいる方はネフィア様だ」
私は空は寒いと言うことで防寒用のローブを着込んでいる。フードを後ろにたくし髪を靡かせる。
「ああ、これは。ネフィア様にエルダードラゴンのワン様。ワン様が復活されたり。ネフィア様が帝国から帰ってきた事は聞いておりました。トロール都市へ着陸ですね」
「ええ」
「では、私の後ろへ。続いて降りてください」
「わかった。ついていこう」
都市を大きく旋回し。都市の中心部に大きな広場と白い十字の線が引かれ。数匹のドラゴンが降り立っているのが見えた。数匹のドラゴンがそそくさと場所を空け。案内役のドラゴンが降り立ち。手を振る。
自分達もそこへ降り立ち。私はすぐに背から降り立つ。
「すぐ避けてください。次が来ます」
そう言うと私たちは避け。荷物を持ったドラゴンが降り立った。
「では、トロールの都市へようこそ。それではいい旅を」
そう言うとまた。彼は名前を言わずに空に飛び立ち。空で待機しているドラゴンに指示を飛ばしていた。私はそれを魔法で聞くと。着陸順番を教えているそうだ。そう………彼はここの指導する立場らしい。飛着の指揮を取っているらしく。盗み聞けば順番待ちをせず私たちを先におろしたのは重役だったからとの事。申し訳なくなる。
「ネフィア様。だいぶここはドラゴンに馴染んでますね」
ドラゴンからドレイクの姿に変え周りを見ている。大きな木箱に色んな字で中身が書かれていた。それをドラゴンが背負い都市ヘルカイトへ向かって行く。トロールも荷物を運んでは倉庫に入れたり出したりし、「物が違うや足りないや納期はまだか」と口論したりしている。忙しそうだ。
「トロール族は人間を受け入れないのですけど………異種族は違うみたいですね」
トロールは元々、ドラゴンを力強いカッコいい生き物と思っていた節があり。そこまで怖がっている訳じゃなかった。巨体も合わさり馴染んでいる。
「行商です。ユグドラシル商会の印と旗がありますね。ユグドラシルの実も置いてますね」
木箱に絵が書かれ何が入っているのかわかりやすくなっている。
「宿屋を探しましょう。それにしてもトロールは本来は外来者を入れない場所なんですけどね」
私が都市に引きこもっている間に大きく変わった物だ。
カンカンカンカン!!
大きな大きな鐘の音が響く。
「終了!! 倉庫に入れて終わり!! 夜が来る!!」
一人のトロールが鐘をならしながら叫ぶ。皆が荷物を木の倉庫に入れ。ドラゴンも降り立つ。私たちはその光景を眺めていた。あまりの統制が取れた動きに驚きを隠せず。見ていてスゴい事しかわからなかった。
「おや? まだ居られたのですか? すいません、ちょっと着替えます」
あの誘導員をしていたドラゴンが最後に降り立った。すぐに人の姿へと変化する。好青年の全裸。すぐに置いてあった服を着る。そう言えば、ドラゴンは裸だよねぇ~と思う。
「女性の前でお見苦しい所をすいません」
「いえ。こちらこそすいません」
本来淑女は目を逸らすだろう。しかし元男の体だった事とトキヤに慣れてしまったために男の裸は大丈夫だ。どちらかと言えば女の体の方が少し恥ずかしくなる。いまだに自分の体にドキドキする時もあるぐらいに。
「お名前。聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、失礼!! お伝えしてませんでしたね。ユグドラシル商会支店長グリンドラ・トロールです。種族はトロールです」
「んん? トロールですか?」
「ええ。生まれはグリーンドラゴンですがトロールに婿入りしましたので。ネフィア様の旦那様も人間から婬魔族になったでしょう?」
「えっと…………」
「都市ヘルカイトで初めての異種族婚姻であり種族を変えられたと聞いておりました。いい制度と思います」
私の知らない所でトキヤが婬魔族になっているのに驚きながら。本当に私自身が無知なのを思い知らされる。いつからそんなものが。
「なんで、こんなの知らないのでしょうか?」
「ネフィア様………トキヤご主人説明されてましたよ。ですが、ネフィア様は『そんなのどうでもいいから愛して』と仰って怒られてましたね」
はい、私がアホでした。だって、興味がなかったんだもん。
「ですのでトロールです。ネフィア様。あと………宿をお探しなら私どもの商会が用意する宿舎にご案内しましょうか?」
「いいのですか?」
「はい。社会見学とかどうでしょうか? そして参考に気づかれた点など仰っていただければと思います。タダでご飯と宿を用意させていただきます」
「えーと………いいでしょう!!」
「いいのか?」
「ええ!!………トンヤ様のご友人ですから!!」
私たちは彼についていく。色んな話を聞きながら私はあの「トンヤと言うオークはスゴいなぁ~」と思うのだった。
*
農業都市は栄えていた。都市ヘルカイトからの通商拠点であり。壁の中は色んな種族で溢れている。都市ヘルカイトと変わらない場所と化していた。
昔は農村だったような気がするが様変わりしすぎて戸惑ってしまう。トロールの男性が猫耳の獣族と仲良くしているのも驚き。都市ヘルカイトよりも異種族で仲がいい場面が多い気がする。
「ワンちゃん。ここ都市トロール?」
「ネフィア様。長く住んでいましたが自信がありません」
「だよね」
「ああ、そうですね。様変わりしました。都市ヘルカイトは温泉も湧いてますし行商も多く。ここも昔は辺境地だったのが今では商業区になってます。一部トロールからの反発もあったのですが………まぁ交渉の末にトロール族長とヘルカイト様の契りで終結しました。ネフィア様のお陰ですね」
「んんん??」
「二人の共通点でしたし。まぁ色々ありましたから」
「確かに知り合いですけど…………私のお陰ですか………うーむ」
本当に何もしてない気がする。道路とかヘルカイトの鱗をあげただけだった気がします。
「そそ、ここの住人証明書はヘルカイトの鱗なんですよ。ヘルカイト様には申し訳ないですが無償で剥がせてもらってますね」
「そうなんだ」
「めっちゃ痛いだろうなぁ~。アイツ、丸くなったなぁ~」
ワンちゃんが染々する。まるでおじいちゃんのように。
彼に私たちはついていきながら大通りを通っていくと新しい大きなお屋敷が見える。トロールと蜥蜴男の衛兵に挨拶を済ませると屋敷を案内してくれる。私はある知識でこれが集合住宅と言うものだと理解する。中は宿屋そのものだ。
「この寮は私のような都市ヘルカイトに実家を持つ者の仮の寝床です。フロントに鍵を借りて寝泊まりするだけですね。では、ご飯がまだでしょうからこの奥に酒場があり繋がっています」
彼はフロントに鍵を受け取り、私たちに手渡す。魔法で触れるだけで開けられると説明してれた。
「では最後に私の実家にようこそ」
「実家?」
「ここが実家なのか?」
「ええ。酒場もここも私が経営者で家です。嫁は酒場のママさんですね。私が頑張って口説いて口説いて口説いて………やっと首を縦に振ってくれましたよ」
「へぇ~」
「それでは失礼します。こちらに業務改善案を記入下さいますようお願いします」
「わ、わかりました」
紙とペンを渡されて私は悩む。どうしろと。
「何卒、ユグドラシル商会をご贔屓お願いします。姫様」
「え、ええ………」
私は何故か知らない間にユグドラシル商会の重役みたいな感じになっていたようだった。一応、感想だけ書いておこうと私は決めるのだった。感想と言っても感謝の言葉を書くだけだけどね。
*
荷物をそのままでトロールの都市から私たちは旅立つ。考えてみればここで準備してもよかったかもしれない。思ったよりも近い場所に都市があるものだ。
「トロール族長。いなかったね」
「ええ、ですが。まぁヘルカイトのように立場があるので忙しいのでしょう」
一応、トロール族長に挨拶に行ったが不在だった。何故か兵を纏めて魔国首都へ出向いたらしい残念な気分のまま。ワンちゃんの背中に乗りながら会話を続ける。
「次は商業都市だね」
「はい。ネフィア様」
「変わってるかな?」
「変わってるでしょう。トロールの都市が変わったように」
「驚いたね」
「ええ、驚きました」
私は申し訳ないが少しだけワクワクする。ここまで変わっているのだ。きっと………他も沢山変わっているだろう。トキヤには申し訳ないが帰るのは遅くなりそうだ。
「ワンちゃん!! 行きましょう!!」
「はい。ネフィア様」
速度が増し、ワンちゃんが勢いよく空を駆ける。新しい都市へ向かって。




