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大帝国城塞都市ドレッドノート④囚われた姫と道半ばで倒れる王子..


 俺は彼女に惚れている。それに気がついたのは拐ってから時間が経ってからだった。


 女神に処刑を依頼された時のモヤッとした感情も今となっては理解が出来る。


 俺には記憶トキヤとしての記憶がある。黒騎士で戦って来た記憶も全て。しかし……穴が開いている記憶がある多々ある。


 運命の相手を占う記憶。ネリスが占いで出てきたと言う。そこまではいい。その後の記憶がない。その日から、記憶の一部欠落があり。何かを考えたが、何を考えていたかわからない。


「………」


 与えられた屋敷のベランダで夕暮れに彩られた城を眺める。一室を見つめ…………耳を澄ました。


 空から歌が降ってくる。そんな表現しか出来ない状況が生まれる。陛下のために今日も歌っているのだろう。耳を澄ませる。ベランダから見える使用人たちも耳を澄ませている。


 貴族街は今日も…………彼女の声に惚れるのだ。今日は力強い声で歌っている。昨日は切なそうに歌っていた。色んな声を演じて魅了させてくる。元気になりつつある。


「……………ネフィア」


 記憶の穴に彼女の影がある。実際に一目見たとき自分は好みだと思った。しかし、それ以上に体が彼女を求めた。俺は作られた。しかし、さほど気にしなかった。だが…………ネフィアに出会った瞬間。俺を奴と違う事を彼女が示した。


 奴は女神を裏切った勇者であり。偽物は奴だと思っていたのだろう。心の底で。だが、結果は。


「俺が偽物だった」


 彼女は俺を避ける。彼女は俺をトキヤと見ない。同じ筈なのに何もかも違うと思われている。


「トキヤじゃないなら俺は何なんだ?」


 自問自答が心の中で渦を巻き。答えを見失う。地に足がついていない感覚。何もかも俺は………違う。


「くっそ………」


 ネフィアはきっと。俺には笑顔を見せない。だが。


「無理やり笑わせる」


 奴を倒し命乞いをさせて俺の物にする。作られた記憶の穴を埋めたいために。おれは………ネフィアに嫌われよう。奴を倒して。


「来たわよ」


「わかった。準備しよう」


 囁く声は悪魔の声だった。





 懐かしい光景。懐かしい匂い。懐かしい場所。長年住んでいた故郷に俺は帰ってきた。


「ワン。速足で運んでくれてありがとう。普通の馬ならもう1ヶ月かかっていただろう。帰り道はわかるな…………ユグドラシルが待っている」


「トキヤご主人。待ちます」


「………いや。これ以上は」


 草むらにワン・グランドが座り込む。ここを動きませんと言うように。


「ありがとう。ワン・グランド。ネフィアを連れてくるから帰りは一緒に帰ろう」


「はい………期待してます」


「…………本当に昔はすまなかった。俺はワガママでさ」


「御主人。鋼竜の記憶は過去。今を大事にしましょう」


「そうだな。じゃぁ行ってくる」


「…………ええ。謝るのは自分です」


 ワン・グランドが頭を下げる。


「一緒に戦えず。臆し、ここで待っている事しかできない事を」


「ワン。帰るとき足はいるだろ? しっかり休んでな。それが仕事だからな!!」


「………はい」


 俺は剣を担ぎ。ローブを深く被り。壁の外の集落へと足を運ぶ。壁の方法で抜けられる。そう、ヒビが入っている場所から抜けられるのだ。


「待ってろネフィア…………お前を失うのは死と同じだ」






 私は歌い終え窓を閉めようとしたときだった。


「楽しそうに歌うじゃないか」


「えっ!?」


 聞こえてきたのはいつもいつも隣で耳元で聞いていた声。間違うことのない私のたった1人も旦那様の声だった。


「待ってろネフィア」


「と、トキヤ!?」


 鉄格子の窓に乗り出しながら私は壁の上に立っている人影を見る。軽装で大きな剣を携えた姿が目に映る。嬉しい、でもそれ以上に心配になってしまう。


「トキヤ…………逃げて罠よ」


「ネフィア。罠だからって逃げると思ってるか?」


「………」


 思ってない。


「ネフィア。わがまま言っていいんだぞ」


 風が私の頬を撫で。髪を靡かせる。


「トキヤ………お願い。私をここから奪って」


「ああ。何度も何度も奪ってやる。俺の姫様だからな」


 壁から飛び屋根伝いに彼が走る。私はあまりの嬉しさにその場にしゃがみこみ。嗚咽と共に涙を流す。


 いつだってそうだ。魔城から救ってくれた。盗賊ギルドからも救ってくれた。黒騎士からもいつだって彼ならやってくれると私は信じている。


ガチャ!!


「ネフィア。来たらしいな………ついてこい。会わしてやる」


「………近寄らないで。彼が来るの」


「ああ」


 部屋に偽物のトキヤが入ってくる。そして私の手を引っ張る。力が抜けて抵抗できずに私を担ぐ。


「離して!! 下ろして!!」


「………動かない癖に元気だな。まぁいいそれも今日で最後だ」


 担がれたまま私は部屋出る。


「何処へ!!」


「玉座の間。借りている」


 廊下を歩き、王が謁見するための場に私はつれてこられる。そして、大きな鳥籠が吊るされどういう原理かそれが降りてくる。私はその中でゆっくり肩から下ろされた。力が入らず横たわる。


「昔は罪人を吊し上げ。皆で議論するため道具だったらしい。魔力があれば未だに動く」


「………」


 睨み付ける。弱っている事が悔しい。


「入れ。そして見届ければいい。俺が勝つからな………どうやっても」


 鉄格子の鳥籠は閉められ、ゆっくりと上がっていく。昔は周りに玉座の間は広く聴衆が集まり罪人を晒して罪を議論しあったのだろう。しかし今は私を閉じ込める篭だ。


「トキヤ………」



 私はただただ下を見るだけで何も出来ない。忌まわしき呪具によって。







 あいつがやって来る。大きな大きな閉じていた玉座の門がゆっくり開かれ、一人の男が入り込む。


 幻影のようにそこにいたのか姿を表し風が玉座を巡った。姿を消していたのか騒ぎにもならずここまで来た。得意な事は知っているし、昔ほど無差別ではなくなった。


 ネフィアを知っている。奴は弱くなり、奴は強くなった事を。


「トキヤ!!」


 鉄格子からネフィアが叫ぶ。声に喜びを含ませてるのに嫌味を感じた。


「姫様がお世話になったな。引き取りに来た」


「残念だがお引き取りください」


「それは相談できんな」


「知ってる」


 シャキン!!


 俺は両手剣を抜き構える。同じ剣じゃない。クレイモアという形の剣だ。


「………問答無用か」


「お前は彼女を取り戻そうとする。俺はそれをさせない。それだけだ」


「分かりやすくていいな」


 奴も特徴な両手剣を構える。ツヴァイハインダーという両手剣だ。幅広の剣より細く長く突きも出来る剣。


「トキヤ………」


「ネフィア。待ってろ………目の前の幻影。消してから降ろしてやるよ」


「うん………」


「…………」


 俺は唇を噛み。近付いて剣を振るう。玉座に間に激しい金属音が鳴り響く。衛兵が来ないのは奴が音を消して漏らしていないからだろう。玉座に来るのは不貞な輩のみ。だからこそ好都合。「彼女に。俺の強さを見せつける‼」と息巻いて戦う。


ギィン!!


「………つえぇじゃねぇか偽物」


「………弱いじゃないか本物」


 打ち合うからこそ分かる力の差。やはり俺の方が上だ。奴が一筋の汗を流し、地面に触れた瞬間。距離を取る。奴が息を吐き肩に剣をかけた。隙があり、入っていけそうな構え。だが俺は知っている。何故か俺には出来ない業。


 ある女性から盗み取り。腕を持っていった業。居合い。大きな剣で何よりも速く誰よりも早く切り下ろす業。


「…………小競り合いで勝てないのが分かったからこそ。苦し紛れ」


「…………」


 答えない。


「お前は勇者として未完成。所詮魔術士であり何もかも中途半端だ。だが俺は違う」


 俺が叫ぶと同時に玉座の間に女性の声が響く。悪魔の囁く声。女神の声が響き渡る。


「祝福されし完成をとくと見なさい。元勇者」


「…………なら飛び込んで来いよ」


 透き通る。落ち着いた表情。苛立ちを覚えるが俺は我慢する。これだけは本物に敵わない。だが他なら。


バチバチバチバチバチ!!


「と、トキヤ!! 構えを解いて!!!!」


「チッ!!」


稲妻(ライトニング)


 トキヤが構えを解き横に飛ぶ。


ドゴーーーン!!


 玉座の間に雷鳴が轟く。瞬速の雷がトキヤを追うが柱に阻まれ、地面に吸われる。俺は剣を構え追いかける。剣に電流を流しながら。


「祖は風の………」


稲妻(ライトニング)!! 遅い!!」


 雷が手からはとばしり奴の唱える時間を削ぐ。構えを解かし、無理矢理剣の戦いに持ち込むため踏みしめ、地面に雷を流し速度をあげた。


 風の魔法の真空を作る魔法は厄介だが。唱える時間を削げば問題ない。剣を振り、雷を打ち出す。青い雷の光が一瞬で奴を包もうとする。


「絶空!!」


青い稲妻(ボルテックス)!!」


 奴が手をかざして緑の魔方陣と白い壁。全てを拒絶する真空の壁を作る。何も通さない事を魔方陣に命じているだろう。


 しかし、雷は貫通して、かざした左手に蛇のように絡みダメージを通す。左手を焦がし、痺れて使い物にしない。そこへ俺は剣を振り下ろす。


 ガッキン!!


「完全に空気を遮断はできてないみたいだな」


「くぅ、ほざけ……このまま呼吸出来ないように………」


青い稲妻の剣 (ボルテックスソード)


 鍔迫り合いから雷を生み出し。まとわりつかせる。


「ぐぅ!?」


「お前は甘くなった!! 城の衛兵に気を使ったのが死因だ!! 無駄に魔法を使った事をな」


 一歩離れ、剣を振り下ろす。手が痺れて剣で防ごうとしても遅く。鮮血が飛び散る。深く切り下ろせた。


「トキヤああああああああ!!」


 彼女の悲鳴と共に血が地面に絨毯に染みを作った。奴は驚いた顔と不敵な笑み浮かべて倒れる。


「ふふふ、はははははははははははははははは!!!」


「いやぁあああああああああああああああああ!!!」


 女神の高笑い。ネフィアの悲鳴が玉座の間に満ちていく。


 首を落とすために俺は剣を振り上げるのだった。






 












 







 

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