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大帝国城塞都市ドレッドノート②皇帝と魔族の姫..


「顔を上げよ。同じ王ではないか?」


 私は言われるまま顔を上げる。


「元魔王と言いました。すでにその身分は捨てております。いえ、譲位いたしました」


 囚われている私に何の用事があるのかが知らないが私の元にこの帝国の頂点を築いた人が目の前に立っている。


「ふむ。俺の名前はグラム・ドレッドノート。我が帝国へようこそ。ネフィア姫」


「はい。厚遇感謝します」


「皮肉に聞こえるな?」


「いいえ。とんでもございません」


 皮肉だ。ちょっとだけの……抵抗。拐っておいて厚遇と言う。


「…………変わった女だ。衛兵長」


「はっ!!」


「全員を連れて外へ。自由行動だ」


「し、しかし!! 危険では!?」


「手枷をつけているだろうが。それに………老いてもまだ女に負けるような非力ではない‼」


「…………畏まりました。衛兵を数人扉で待機させときます。なにかありましたらお声をお掛けください」


「うむ」


 衛兵たちが皆部屋から出ていく。それを確認後、皇帝陛下は向かいの席へ座わった。


「ふぅ………全く。固いやつらだ」


「私は当然の対応だったと思います」


「まぁよい。これでゆっくり話が出来る………」


 椅子に座った瞬間深いため息を吐き疲れきった顔を私に見せた。今さっきの風格はどこへやら。ただの歳を取ったおじいちゃんに見える。


「はぁ………もう歳で長くはないと言うのに。威張ってしまう」 


「………」


「意外な顔をしているな」


 意外しかないでしょう。こんなこと、奴隷のように落ちぶれている私に重要人物が会いに来てるのだから。


「まぁ理由を話そう。ベットで横になっていると聞こえてきたんだ歌が…………それも悲しい歌が。最近は聞かないが聞けば禁止されていたのだろう」


「………はい」


「禁止は取り止めよう。そこで、明るい歌でも聞きたいと思い訪れた」


「陛下、来ていただき嬉しゅうございます。ですが…………今は明るく楽しい歌は歌えないと思います」


「そうか。無理か………いや。そうだな、考えればそうか」


「申し訳ありません。陛下」


「では代わりに、この老いぼれの話し相手でもしてはくれぬか?」


「はい、喜んで。ここには何もありませんから」


 私は少しだけ笑みを溢す。変わった出会い方だった。最後に皇帝陛下を見れる機会はもうないだろう。彼は使用人を呼び何かを持ってくるように指示を出した。


「手枷も外せ」


「ダメです。私自身もそれは………」


「どうやって私が用意させた物を飲む? ネフィア姫」


「すいませんでした。ありがたくいただきます」


 私に使用人が手枷足枷を外す、それを持って使用人は部屋を出た。数分後、見覚えのある木の実とクッキーが皿に乗せられて私と皇帝陛下の前にお出しされる。木の実に穴を開けてグラスに注ぐ。芳醇な香りが漂う。


「これは魔族の都市で手に入ったと聞く。世界樹の木の実だ。中には酒がある」


「世界樹ですか?」


「知っているだろう。世界一大きい樹である。生命力に溢れた樹だ。伝承でしか知らないか?」


「いえ…………その…………陛下」


「ん?」


「商人と言うのは嘘でも言って買わせようとします。だから………」


 陛下が顎を撫でる。


「世界樹の木の実ではないのだろう。やはりな………ではなんだと言うのだ?」


「はい。この木の実は女の子の頑張りで実ってます。亞人、樹の精。ドリアードの木の実です」


「ドリアードとは?」


「木が本体の種族です。私の故郷の大きな大きな木がドリアードです。彼女はユグドラシルと言う名前です。私の友人の娘ですね」


「そうか………魔族の実か。優しい味だ」


「ユグドラシルちゃんは優しい女の子ですから」


 口に含むと仄かな甘さと芳醇な香りが広がり。美味な甘い白いワインだった。驚く、どうやって作ってるのだろう。何か……懐かしさも感じる。


「懐かしい味です」


 拐われて数日しかたっていないと思う。なのに何年の前のことのような気持ちになる。


「魔国はどう言った場所だ?」


「色んな種族が自分の土地だけで引きこもって住んでいます。色んな方が居て、色んな方が自由を謳歌しています。纏まりはないですね」


「纏まりはないのに何故、帝国は長年支配下に置けないのだろうな?」


「時間の問題でしょう」


「…………時間か。ははははは」


 陛下が寂しそう笑い、立ち上がり窓の外を見る。


「最初は小さい地域だった」


「………?」


「老いぼれの昔話だ聞いてくれるか?」


「処刑がある日までなら」


「そうか………では………聞いてくれ。誰も老いぼれの話を聞いてはくれぬのだ」


「聞いてはくれませんか?」


「………ああ」


 陛下の背は大きく見える。私は彼の若き日の背を見る。夢の中のような錯覚が襲ったのだった。


 荒野をドラゴンの紋章が書かれた旗と剣を掲げる。馬に乗り声を荒げて先頭を走る。多くの敵と対峙し倒して来た。四方八方を駆け巡る旗の光景を。


「……ん」


 目を擦ると今さっきのは幻だったようだ。


「どうした?」


「私は夢魔と言う種族です。短い間、夢を見ました。広大な土地を駆け巡り………征服していくお姿を。皇帝陛下、あなたは初代ですか?」


「いかにも初代だ」


 私は目の前のお祖父様に尊敬の念を持つ。これを彼は一代で築いたのだから。





 帝国の歴史は深い。1000年以上前には帝国になる前の国があったと言う。ここまで大きくなったのは500年。色んな戦いの中で大きくなったのだ。


「500才ですか?」


「…………そうだ」


「人でそこまで生きられるなんて………それにお若く感じます」


「魔物や病気をしなければ生きられるが………中身はズタズタだ。私もそう……長くはない。意味なく生きている」


「意味ですか?」


「自分の手に負えないと判断し白騎士黒騎士四方騎士を作ったが………気付けば城に閉じ込められた。長い戦が奴らに力をつけさせた。ただただ何も出来なくなっていき。そう………前線へ赴く事も。仲間と約束し最後の一人となって全てを見届けて逝こうとしたが……………つまらない国になった。今は偽物のワシの影武者が動かしている。親衛隊なんてワシの監視役だ」


 つまらない国と彼は言う。私には立派な国にしか、おもえないのだけど。彼は「つまらない」と言う。


「目指すべき物は?」


「この大陸を統一すること。全ての国に我が国旗を立たせるのが夢だった」


「………時間が足りないですね。それは」


「そうだ。昔ほど若くは無く。力も失った。老いては夢だけが先走り………結局。諦める事になった」


「後継者は? 後継者に夢を託すのはどうでしょうか?」


「魔族でありながら。魔国を心配せずに助言か?」


「今は魔族の前に……友でしょう。胸の内をはなさってくださってます。この場だけは……ですが」


「友か……何年ぶりに聞く」


「お立場が違うのでしょう」


 誰にも言えない事を。皇帝だからこそ。弱い姿は見せず。ただただ王を演じるために生きてきた。そんな彼の最後の時間に私はいる。


「友と呼べるものはみな病に伏した。最後に残ったのは自分だ。ゲホッ………」


 陛下が膝をつく。そして何度も何度も咳を吐く。私はゆっくり近付き彼の背中を撫でる。少しだけなら魔力は使えるだろう。痛みぐらいは癒せそうだ。


「!?」


「確かにもう。体はボロボロですね…………痛くはないですか?」


「………落ち着いた。魔族でありながら癒し手でもあるのか?」


「これは、ある人がいつもいつも無理をするので出来るようになりました。鎮痛だけですが」


「………そうか。ネフィアと言ったな」


「はい………」


「男はいるか?」


「申し訳わりません………います」


「そうか。素晴らしい姫だ。男はきっとそれ相応の強さを持っているのだろう」


「はい」


「聞かせてもらえぬか? その男の事を」


「はい!! ですが先ずは発作を落ち着かせましょう」


 私は肩をお貸しし椅子に座らせた後に使用人を呼んだ。お薬と暖かい湯を頼む。


「ふぅ………ふぅ………」


「あまり無理はなされてはいけませんね」


「ああ。全くだ」


 私は体を拭く用に置いていただいているタオルで陛下の汗を拭った。


「全く………いい女だ」


「それは弱っている時に見れば誰だっていい女に見えますよ?」


「違いない………」


 発作が落ち着くまで私は陛下の背を撫でるのだった。






 俺は陛下の病室が変わったことを聞き、移った先に眉を潜める。だから、問いただしに部屋を訪れる。


「魔王、陛下をどうした!!」


「………何でしょうか?」


「処刑の取り止め!! そして………厚遇を約束された。陛下を魅了したのか?」


「魅了したかと言われればしたのかもしれません。ですが………こればっかりは私は引きません」


「なにぃ!?」


「ご老体を邪険にして………功労者を煙たがって………確かに野心はあるかもしれませんが………話し相手ぐらいは出来るでしょう!!」


 俺は驚く。この前まで死にそうだった彼女が元気よく歯向かってくる。燃えるように激しい思いを見せた。


「話し相手ぐらい………するさ」


「………私は陛下を尊敬する一人です。それ以上もそれ以下もない」


「尊敬!?………魔族でありお前が!?」


「ネフィアとして………王を尊敬して何が悪いでしょうか? 元魔王だったからこそ………苦労がわかる。私には出来ない事をやってこられた方だ」


「……………聞きたい」


「何でしょうか?」


「もし。陛下が『魔国を滅ぼす』と言うのなら。お前の意見は!!」


「賛同します。反対します。話をします」


「…………」


「私たちは口があるのです。言葉を交わせば何がしたいかを理解できる。それに………昔の帝国はひどいながらも優しかった」


 何を言っているか理解が出来ない。だが、一つだけわかった事がある。


「現魔王を殺したが………」


 「拐ってしまったのは悪手だったのではないか?」と思ってしまう。


「………殺したのですか? 彼を?」


「強かったが俺のが強い。偽勇者が失敗作なら。女神が言う、完成された祝福が俺だ。当たり前のことだ」


「帝国の勝利ですね。トップがいないので」


「何故、余裕なんだ」


「…………トキヤ以外はいりませんから」


 恐ろしく歪んでいる。そして、一本芯が通っている。そう……強い。


「偽勇者のどこがいいんだ? 君を護れはしなかった」


「全て」


 ハッキリ言葉を言う。とりつく島もない。真っ直ぐ見つめる彼女の視線。凛々しく立つ姿は美しい。


「…………陛下にくれぐれも悪さをしないように」


「はい」


 俺は踵を返す。頭を押さえながら。






 数日間、私は陛下と同じ時間を共にした。彼は胸の内を全てを吐き出すように昔話を話してくれた。彼と言う長い歴史を刻むように私に話をする。覚える。


 それはまるで英雄譚。私は話にのめり込んだ。一瞬でもトキヤを忘れるほどに。全てを話せた訳じゃないが…………陛下の顔が若い夢を持った青年のように見える。幻覚だったが確かに見た。


「魔王………いや………元魔王か。問おう。ネフィア姫ならどうやって世界を手に入れる?」


「世界もなにも興味は無く。近くの愛しい人の世界だけで十分です」


「………それはいい。もしも手に入れなければ……そやつが手に入らないなら? どうする?」


 誘導。聞きたいのだろう。値踏みされている気がする。


「もし、そうだったなら…………出来ません」


「出来ない?」


「…………はい。魔国を統一しそれで終わりです。ごめんなさい何も案がないんです。おぼろ気にただこうすれば良くなるとしか思えないんです。熱意が出ないです」


「ネフィア。私から一つ。老人の忠告をいたそう」


 陛下が腕を組み笑う。


「王とはなんだネフィア? 王はどうやってなる?」


「国民が決めて………『この人なら』と思う人ですね。力もある才能もある。王になる能力者です」


「違う」


「?」


「私は一切能力なんてない。手にした剣がたまたま聖剣であり。それを振るう力があっただけだ」


「ですから力があった………」


 陛下が首を振る。そして指を上にあげた。


「ネフィア・ネロリリス。王を選ぶのはこれだ」


「天井ですか?」


「ククク、笑わせる。もっと上。天だ」


「???」


「わからぬか? 王とは天が決める。故に王だと」


「それの意味は…………誰が王になるかわからない? ですか?」


「そうだ。例え、何があっても王になるやつは王になる。何も知らない奴でもな‼」


「女神が決めるのですか? 女神は………ひどい人です」


「違う。女神なぞ信じない。だが………俺は王だ」


 強く笑みを出す。


「悔しいのはお前の言う素晴らしい英国。魔族亞人の統べる国を我が帝国に与し。旗を掲げる事が出来なかった事だけだな」


「大丈夫。誰かかが魔王のいない魔国を統一しますよ。人間は………私の夫は強いです。強いですから」


「ククク。ああ、晩年になり枯れたと思っていたが楽しいなぁ………世界の話は。やはり壁の外こそ理想郷なり」


「お気持ちわかります。ですがそれもまた知れるのは強さをお持ちゆえです」


「世界は昔は狭く感じたが………愚かだった。世界はまだまだ広く飽きさせない。ああもう一度………若き力が欲しい程に。さすればまた駆けたものを」


 楽しそうに愛しいという陛下に相槌を打った。確かにそれは一種の楽しみだろう。否定はしない。


「ネフィア嬢。あとひとつ聞こうと思っていた。ランスロットは元気か? たまたま剣を抜けてしまった若者だが。剣に選ばれた。遠い孫、養子の子だか気になる」


「元気です。亞人を妻に持ち日々を生きてます。一応はご友人ですね」


「そうか………理由あって王にはなれなんだ。しかし、英魔国に取られた逸材。真の白騎士だった。友達と言ったな?」


「はい、旦那様の親友ですから」


「そうか。わかった。そういう事だな」


「ランスロットさんは帰ってきませんね。妻を溺愛してますから」


「ふむ。今の偽物の候補者よりずっと良かったのだがな。奪われたなら仕方ない」


 聞けば剣はすり変わっているらしい。実物は消えた。


「これもまた。天が決めるか………」


「ありがたいお話。ありがとうございますですが…………囚われの身。いかせる日があればいいですね」


「お前の言う彼はやってくる。そして………婿王子トキヤと戦うだろう。奴は強い。お前の愛しい騎士は勝てるか?」


「勝ると信じたいです…………」


「まぁワシも賭けるとしよう」


「私の彼にですか?」


「いいや」


 陛下は不敵な笑みを溢し私を見るだけだった。
























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