都市ヘルカイト⑳④ 見つけた答え..
忘れた方へ
第42部ですね。
休日。ランスに言って休ませてもらった。春の冬から目覚めた魔物が跋扈する時期に休むのは「迷惑なのでは?」と思ったが。この都市は逆に魔物を狩り、食べる気でいるので魔物たちは危険を察して離れているので「そういうことはないか」と思い直す。
その結果、冒険者に混じり領民が旨い肉を求めて狩りにで続ける。冒険者だけ被害が出ているのは都市民の屈強さが伺えた。俺も参加を促されていて、春に狩り祭りを行う準備とかもお願いされている。
そんな時期なのか軽装で都市の壁の外を出歩くことが出来る。白いドレスのような白金騎士の私服に身を包んだネフィアに連れられて都市の北東側の山道を登る。軽快に登る彼女の後をなんとかついていく。
今日は剣を二人とも持たずに出てきた。魔法職で二人。大丈夫だろう。
「トキヤ!! こっち!!」
明るい声で彼女が呼ぶ。山道は整備され、丸太で階段を作り、上まで続いている。展望台として用意されているのかもしれない。
「待ってくれ………」
「遅いぞ。ト・キ・ヤ」
俺の名前を愛しそうに呼ぶ。最近、名前にも感情が乗っている。呼ぶ名前も甘く聞こえた。
木々の合間を抜け、山を登りきった先は丘が広がっている。春の日差しに照らされた色とりどりの花。丘の上はまるで花畑のように整備されていた。
「ヘルカイトが教えてくれたの。特等席だって」
「ああ、確かに………アイツが好きそうな場所だな」
「うん。悩んだりしたら来るんだってさ」
丘の上に立つ。すると目の前には都市ヘルカイトの全貌が確認でき、ヘルカイトが好きな理由が思い付いた。大きな樹に外周をぐるりと巻く壁。壁から離れて小さな大衆浴場の湯気が立つ砦。沸き上がる湯を採取し貯めておく水道。飛び交うドラゴン。小さな農場、牧場。全て見渡すことが出来る。
「ああ、ヘルカイト。本当に好きなんだな……この都市」
心地がいい場所になった都市が見える。
「好きだよね。私も故郷は大好き………この場所は天国の塔を見て作ったんだって。そして………地図に記入は来月になるらしい……展望台として」
「誰もいないのはそういうことか」
「うん」
一部しか知らない素晴らしい場所。静かな展望台から世界を見渡して彼女の肩を抱いた。
*
私は彼に体を寄せて時間を過ごす。太陽の日差しが暖かく世界を包み込む。
トキヤが肩を放して離れる。花畑を進み帰り道を進んだ。もう帰る気だ。
「ネフィア、風が強くなる。帰るぞ」
「う、うん………待って!!」
言わなくちゃいけない。だから、そのためにここへ来た。目の前の光景に目を奪われてる場合ではない。
「ネフィア?」
「待ってね………そこで」
後ろから愛しい声が私を呼ぶ。私は色々考える。なぜだろう………考える度に過去が全て思い出される。色んな出来事が想い出が胸に溢れる。
「えっと………」
今までの護ってもらった事などいっぱい感謝したい。
「ん………」
今までの沢山の優しさを感謝したい。
「…………」
今までの沢山の愛を叫びたい。
「……ふぅ」
私は多くの物を戴いた。感謝をしたい。「ありがとう」と言いたい。でも、言葉が多すぎてまとまらない。あれもこれもと止めどなく溢れる。
「…………時間ないよね」
家に帰ってから話そう、沢山。
私は丘上で振り返った。
そして私はずっと言わなかった事を、初めてその言葉を口にした。
*
風が騒がしく、荒れてしまう気がする。胸騒ぎもし、俺はネフィアから離れ帰ろうとする。
慌ててついてきてくれる事を期待しての行動。しかし…………彼女は前を向いていた。
「ネフィア、風が強くなる。帰るぞ」
「う、うん………待って!!」
呼ぶがそれでも来ない。ため息を吐いて手を延ばそうとした瞬間。
「ネフィア?」
俺は瞼に焼き付く光景を思い出した。
「!?」
この場所は初めて来た。だが知っている。
この場所は初めて来たが。いつもいつも探していた場所。俺は口を押さえる。
夢で何度も見た。何故、今になって思い出したのか。
「???」
彼女の隠し事に俺は悩んでおり。周りを見ていなかったからか。
「えっと………」
ネフィアが悩んでいる。俺は鼓動が速くなり。全身が硬直する。動けない。
「………ふぅ」
俺は幻聴が聞こえるほど記憶を思い出す。記憶なのに鮮明に思い出す。「彼女の名前は? 綺麗だった、綺麗な笑みで短い言葉を伝えたのに聞き取れなかった。なんであんなに綺麗に微笑むのだろうか? 自分に向かって。自分だけに向かって」と昔の俺の言葉が鮮明に昨日のように思い出せる。あの綺麗な情景を。俺は………そうだ。諦めていた。
「待ちなさい。その道は茨道よ。行くの?」
「………行きます。知りたいですから」
そうだ、知りたかった。厳しい道だとしても。「言葉と笑顔の意味を知りたい」と願ったのだ。
俺はここから始まった。全てを裏切ってでも彼女を救ってあげたいと思うようになった。なんでもやった。強くなるために魔王だとか関係ない、救うためだけに。
元から雲を掴む話だった。諦めもついた筈。忘れられなかったが諦めた。ネフィアを愛したから。
「…………時間ないよね」
胸がざわつき、世界が彩られる。春の太陽が彼女を照らす。女神のように。
丘上に、一人の女性が立っている。風に金色の髪を靡かせる背中姿。お腹を擦っていた。
そして彼女は振り返る。
困った表情からパッと明るくなり短い言葉を発した。たった………知りたかった言葉は3文字だった。
「あなた」と。
*
「うぅ……ああ。はは…………」
私は振り返り。想いを乗せ、恥ずかしさも含めてあなたと言った。
その瞬間。私の旦那様は膝を折り、花畑の中心で泣き始めた。
「えっ? えっ?」
いきなり、大の大人がはばからずに泣き崩れたのだ。笑いながらも、泣きじゃくる。子供のように。
「………」
何かあったかわからない。でも、悲しい涙じゃないのはわかる。
私は彼の元へ行き。黙って抱き締める。暖かい涙を流しながら私を抱き締める旦那様。
「ありがとう。ネフィア…………ありがとう」
「………うん。何がどうしたの? あなた?」
強く抱き締めながら泣き。掠れた声で言う。
「至った………夢に…………君を選んで良かった。愛してる………愛してるから………ずっと……愛してるから」
珍しく、恥ずかしげもなく。言い放つ。
「うん………よしよし。頑張ったね」
まるで大きい子供。だから………背中を擦ってあやす。ずっと……頑張ってきたんだから。いいと思う。
*
俺は膝から崩れた。放心し気が付いたら泣いていた。
ああ、そうか俺は雲を掴んだ。目の前が霞んだ。
なんて………大きい響きだろうか。愛しい言葉だろうか。そして、いるのかお腹に新たな命が。
全て………今までを事を内包した響きだった。
なんで微笑でいる理由も全て理解できた。あのときの俺に向かって微笑んだのではない。今の俺に対して微笑んたんだ。
だから………誰にも出来ない微笑みを向けることが出来るんだ。
ネフィアがゆっくりと歩いてこっちに向かってくる。微笑みながら。そして、ゆっくり抱き締め包んでくれる。
「ありがとう。ネフィア…………ありがとう」
俺はそれに、強く抱き締め返す。
「………うん。何がどうしたの? あなた」
掠れた声で言う。
「至った………夢に…………君を選んで良かった。愛してる………愛してるから………ずっと……愛してるから」
そう………君は俺だけの姫様だ。俺だけの。
「うん………よしよし。頑張ったね」
ネフィアは女神のように俺に優しくしてくれる。無償の愛を捧げてくれる。だから………俺は戦い続けられる気がしたのだった。




