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都市ヘルカイト⑳③二人の距離..


 家でくつろぎながら俺は悩んでいた。最近、ネフィアが昼間は機嫌がいいのだ。聞けば女神に会ったらしい。イチゴジャムもあまり食べない。昔は一瓶を1日で消していたのに。


「春よ~遠き春よ~瞼閉じればそこに~愛を~くれし君の~なつかしき声がする~♪」


 台所で窯を見ながら歌を謳う。機嫌がいい日はいつも何処で知ったのかわからない歌を謳う。料理を忘れて謳うことに熱中する日もあり。それで失敗する日もあった。その日は涙を流してしょげるのを慰めたりして自分の機嫌がよくなる。女の涙はいいものだと思いながら。


 ただ最近は、ため息を吐いたり。悩んでいるのが見てとれた。夜の行為も最近は断られている。機嫌がいいのか悪いのかわからない。そう不可思議なのだ。


「ラザニア出来たよ」


 窯から大きな、平たく四角いお皿を取り出す。炎は炎の鳥のさえずりとともに彼女の体に吸い込まれる。あっつあつのお皿をお皿の上におき、小皿も用意する。テキパキと料理をする嫁に感心した。


「うまそう……」


 知らない料理も多く、懐かしさを覚える料理も多く…………こんな飯がうまい嫁を大事にしたいと思う。


「いただきます」


「いただきます」


 手を合わせる姿は少女のようで大人なようで………俺に対して甘い微笑を浮かべる。最近はレシピ本を出版し都市に貢献したのと一緒にお金をいただいているとか。


「………ネフィア。俺に隠し事ない?」


 その事で悩んでいるかもしれない。にしても小皿に分けたラザニア………めっちゃうまい。ひき肉はなんの魔物だろうか。いや、今はネフィアの隠し事だ。


「ため息が多い。俺でよければ相談に乗る。お、女の悩みはわからんがな」


 声が震えてしまう。生理の相談は辛い。わからない。


「ん?………ごめん!! 何か喋った?」


「えっと。ため息が多い。俺でよければ相談に乗る」


「あっ………うん。うん。そうだね」


「?」


 やっぱり何かを隠してるし、それでモジモジしている。あまりの可愛さに頭が蕩けそうだ。気を付けろ奴は元魔王。可愛さ攻撃で殺されかねない。


「トキヤ………『可愛さ攻撃で殺されかねない』とか………そのぉ………変なこと言わないで……意識しちゃう」


「口に出てたか………すまないな」


 心の中で恥ずかしさを我慢し叫ぶ。


「…………」


「…………」


 ネフィアが下を向いてモジモジする。沈黙が支配するが何故かこの空気の甘さに胃がもたれそうだ。これはいけない。ラザニアの味がしなくなる。


「「あ、あの!!」」


「………」


「………」


 俺は「くっそ!! なんでタイミングが合うんだよ!! まーた!! 沈黙だ!! 沈黙してしまうじゃないか!!」と考えながら強敵を前にしどろもどろいになる。最近の嫁は可愛い。可愛い過ぎるんだ。


「くぅ………可愛い可愛い過ぎるんだ!!………畜生………」


「と、トキヤ。口に出てるよ。恥ずかしいよ? 家だからいいけど……」


「………すまん。外で頭を冷やしてくる」


 俺は食事を残したまま立ち上がり。部屋を出て階段を上がって屋根上に向かう。屋根へ出たとき、ユグドラシルが魔力で輝いてるのを見ながら夜の風に当てられる。


 火照った体が冷め体育座りをした。ああ、辛い。何故だ………この前まで普通だった。だけど………色っぽさがネフィアから出ている。


「変わった………そう」


 天真爛漫は落ち着いてきて、少女が大人になろうとしている。そんな………感じ。いつも俺がいない所での凛々しい姿を見れる。そう大人になった。


「…………何が変わったんだ?」


 俺は悩む。夜の風を感じながら。いつも悩むときの癖で屋根に寝そべった。





「はぁ…………」


 私はお腹を擦る。女神から伝えられ、あれから数日。トキヤに何も言えず。相談できず困っている。


「なんでだろう………」


 怖い訳じゃないんだ。それよりも嬉しい。だから………彼の顔を見ると見惚れてため息が出るし、見惚れて何も考えられなくなる。


「あああ!! こんなんじゃただの恋する乙女です!! 女神の餌です!!」


 頭を押さえる。トキヤも悪い。可愛いとか言うんだから。


「………ええっとええっと。早く言わないといけません………でも言葉が出なくなるんですよねぇ~」


 どうしようかと、悩んだとき………そういえば春が来て丘が綺麗だと聞いていた。


「よし!! 勇気を出してそこで告白しよう!! 待ってね。お母さん頑張るから」


 お腹を擦りながら。決意を固めた。





 やばい………屋根から降りられない。悩んだが悩んだが………何故かわかるのは愛してる事ぐらい。何が俺はしたいんだろう。空を見上げながら胸騒ぎだけが心を焦がす。


「トキヤさん。ご飯冷めちゃいますよ」


「あ、ああ。すまないな………ご飯中に抜けてしまって。不味かったわけじゃないんだ。美味しいが………何故かな……恥ずかしさがあったんだ」


「………へぇ~」


 ひょこっと窓から顔を出す嫁さんにビクビクしながら喋る。


「トキヤ………隣いい?」


「いいぞ………」


「ちょっと冷たいからすぐに要件済ますね」


「お、おう」


「………じゃっぁ。キスしよっか」


「…………おう」


 嫁が目を閉じて待つ。俺はドキドキしながら何度も重ねた唇を奪った。深く深く。


「ありがとう………愛してる」


「おう………」


「ねぇ、トキヤ。次の休みいつ?」


「………明後日休もうか」


「うん。お願いね………色々伝えたい事があるから」


「わかったよ。覚悟しとく」


「うん………きっと驚くよ」


 金髪を靡かせ。彼女は笑った。





 言った、明後日デートすると。私は食器を片付けながら歌を謳う。


 嬉しいことは沢山。可愛いことも沢山。


 これからも、いつまでも二人で幸せになれる事を信じる。


 奇跡って信じますか?


 私は、今が奇跡って信じます。


 お腹を擦りながら。女神に祈る。


 明後日………告白が出来ますように。




 

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