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都市ヘルカイト⑳②女神エメリアの降臨とネフィアの新しい命..


 ある日唐突に私に神託が降りた。「聖樹ユグドラシルの下で待つ」と。今日もきっとユグドラシルは遊びにでかけている。閉鎖され都市の住民しか立ち入りを認可されていない場所で私は待った。


 あの連れ去り事件から数日後。皇帝が病に伏したと聞いた。連合国との戦争も控えている噂もある時期に私は胸騒ぎがする。しかし………そんなことを気にする必要はない筈なのに気になっていた。


「もう、魔王では無いのですから気にする事もないのに」


 大きい大樹を見上げそろそろ花が咲く時期だと思う。駆け足で過ぎた日々に何度目かの想いを馳せて。


「…………あぁ………こんなにも彼を愛するなんてね」


「それが愛ですよ。ネフィア・ネロリリスさん」


 凛とし、透き通る美声で芯の通った声。何度も何度も励まされた声に私は振り帰らず言葉を聞く。出会いなんて唐突だ。私の夫みたいに。


「嫉妬、増悪、性、絶望とも強く結び。人を殺める毒にもなる素晴らしいものです」


「優しさ、感謝、夢、希望とも強く結び。人を生かす薬にもなる素晴らしいものでもありますよね」


 私は振り返る。振り返えった先にキラキラと魔力が反応し空気を輝かせ乱反射させていた。服装はまるで今からでも、舞踏会にでも出るかのような優雅な純白のドレス。


 しかし、舞踏会に出るお上品な服装ではなく露出が多い服で男を絡めとるような妖艶さも持っていた。大人な女性。優しく、包みこむような柔らかそうな体。婬魔と変わらない容姿に見える。


 また、胸は大きく開き谷間を全て見せ、後ろからはスカートは長いが前は短く綺麗な白いソックスと足を魅せる。背中からは白翼がはためき、魔力の羽が舞い散った。長い髪はウェーブがかかり、教会の女神像にそっくりである。


「女神エメリア様。はじめまして」


「ええ、はじめまして。ネフィア・ネロリリス」


「女神さま………」


「はい」


 私は胸のうちを明かす。ちょっとばかり言いたい。


「女神って破廉恥なんですね? 淑女よりも遊んでそうな感じですよ。その姿」


「初対面の女神を前にそんなことを普通に言いますか? あなた」


「尊敬してます。でも………どうみても服装が男受けを全面に出してます」


「………………」


「破廉恥」


「まぁその……理由あるんです」


「大丈夫です!! 愛の女神さんなんですから!! 私も婬魔ですからわかります!!」


「そうです。一重に愛といっても明るいものじゃないです。目を瞑りましょう」


「愛欲ですね!! 愛欲に訴える服装ですね!!」


「…………」


「さすが女神さま!! 男を釣るツボを知っていらっしゃいます‼」


「…………………ああああもう!! そうです!! 男の劣情も愛には欠かせないのです!! そこから始まる愛の物語もあります!! あなた!! 思ったこと言わないで!!」


「さすが愛の女神さま!!」


「…………はぁ。女神を前にして恐れ知らずね」


「だって………お姉さまみたいな人ですから。婬魔っぽくて親近感沸きます。女神さま私と同じですよね?」


「そうよ!! 婬魔と一緒で……淫れたのも好きなの!!」


 顔を赤らめて女神が悔しそうに言い放った。


「私も大好きです。性欲は必要ですよね?」


「もちろん」


「さすが女神さま!!」


「むぅ。清く正しくあろうと思ったのに」


「無理ですよね? 色恋沙汰は楽しいですよね。腐竜の良かったですよね?」


「楽しい。良かった………何年も何年も諦めていてのあれは美味しかったです」


 私と女神に向けて両手を掴む。


「ユグドラシルのお母さん」


「悲愛でしたが………奇跡を起きましたね」


「吸血鬼と幼女」


「長い間、一人ボッチだった二人が………輪廻を外れ。長い時を一緒にっと言う願い。受けとりました」


「天国の塔」


「不死者に会わせましたよ!! 今はもう………悔いはなく転生してるでしょう」


「蜘蛛姫と王子さま」


「貴族の重圧から解放され。魔物に愛する心を持たせた。正真正銘の王子さまです」


「…………仮面の男」


「過去虐げられていた二人。でも、助けられ、一人はもう一人を愛で助け。仮面の中の男を目覚めさせました」


「マクシミリアン」


「あれは………その………私が消えてた話なのでごめんなさい。でも………いつか黄泉で出逢える事を約束しましょう」


 私は今まで見てきた恋愛沙汰を話す。女神はそれを糧にしていた筈。手を離す私たち。


「女神は目覚めた」


「深い愛によって」


「色恋沙汰は」


「女の嗜み」


 二人でハイタッチをする。しかし、まだ感触はなかった。幻影のように。





 私はお家に招き入れる。非常に目立つ女性で皆が見ていた。「騒ぎになるかな」と思ったが私を見た瞬間に普通に何事もなく生活に戻っていった。誰とも聞かず関わらない。自慢したいが………触らぬ神に祟りなしっという事だろう。


 家につき、椅子に座ってもらう。フワッと女神は座りスカートの中が見えた。やっぱり恥女ですよトキヤさんこの人。


「私はまだ、信仰は浅く。長時間現世に留まるのは無理です。消えるときは一瞬です」


「大変ですね」


 何となく理解できている。女神の法則も構造も頭の知識に刻まれていた。それは誰の知識だろうか。


「お茶どうぞ」


「ありがとう………でも、飲めないんです。体がないので。精神体みたいな物で精霊と同じような状態なんです」


「知ってます。でも、お気持ちです。お供え物です」


「………お気持ち………ありがとう」


 ニコニコ、暖かく包み込みそうな微笑み。男なら一瞬でコロッと行くだろう。無防備そうな微笑み。


「腹黒そう………男を釣るために」


「!?」


 女神の顔がピリッと固まる。


「ごめんなさい。私もこんな、なのかなぁって………ぶりっこ演じてる訳ゃないですけど。ひんしゃく買いそうで」


「えっと!! あれです!! 男受けしそうな女性は女性の敵もたいなのです!! だから……女の性としてなので!!」


 何か隠して居るように焦る。


「敵ですね?」


「み、味方です!! お願い!! 信じて!!」


 この女神可愛い。しどろもどろで説明するなんて。知ってるのに。


「冗談ですよ。私は聖職者………裏切る事はしません。ただ………ええ。ちょっと緊張してるのでしょう」


 私は首についているアクアマリンの宝石を握りしめる。昔にトキヤがくれた物。トキヤがいないときはいつもつけている。寂しさが紛れるのだ。


「ごちそうさまです。もっとトキヤさんを愛してあげてくださいね」


「もちろんです。女神さまは愛をいただくんですね?」


「ええ、それが糧になります。信仰者の愛で私は潤うのです。感謝してるんですよ。目覚めさせてくれたから……………」


 「それはどうかな?」と私は思う。聞こえた声に導かれてここまでやって来たのだ。操られてきっとここまでこれた。


「違うわ」


「えっ?」


 女神が目を閉じて申し訳なさそうに喋りだす。心を読まれたらしい。


「私にあなたを操れる能力はないの………今も過去も」


「で、でも……」


「助言だけ………応援だけ……しか………出来なかったの。だから!! 切り抜けたのはあなたたち二人の力だから!!」


「女神さま?」


「ごめんなさい………女神と言っても………何も出来なんです。まだ……やっと姿を取り戻しただけ……ん!?」


 私は恐れ多いかもしれないが女神の頬に手を伸ばした。綺麗な顔に私と同じ綺麗な髪。感触はないけど。暖かく感じる。


「3人の力です。ありがとうございます。見守ってくださって」


 私は微笑み返す。実際、あの助言でどれだけ救われたか。女神も私の手を上から触れる。


「暖かいですね………ネフィア。あなたに憑いて良かった」


「女神様に会えてよかったです」


 二人でクスクス笑い合う。


「ええっと………時間もないですから。私が知り得た情報をあげようと思います」


 女神の笑みが消し、沈黙。私も両手を添えて大人しく座った。黙って話を聞く。


「あなたの見てきた疑問に答えます。人間が信仰する女神が本当にいます」


「…………」


 見てきたことを思い出す。私が思い描く神とヨウコ嬢をたぶらかした女神と本の中に失敗した勇者を詰める女神は違う事を。


「本の中を覗きました。あれはあなたが行ったことですか?」


「違うわ。私……そんなこと出来ないの」


「じゃぁ……世界を牛耳ってる人がいるんですね」


「ええ、帝国の教会。人間の女神様ね」


「トキヤを導いた女神………」


「いいえ。トキヤさんは決別した。勇者である以外は何でもないんです」


「この世界はおかしいです。なんであんなに魔王に殺意が?」


「人間至高の女神が人間の繁栄を願ってなにが悪いんです?」


「…………魔族にとっては邪神ですね」


「ええ。歪んでるんです。この世界は色々な勢力が過去からもやって来ます。あなた、落ち着いてますね? 普通なら世迷い言で驚くのに」


「私は自分で考えるのは苦手なんだと思います。感情が先に走ってしまうこともあって………世迷い言でも本当の事でもわからないんですよ。トキヤさんに任せっきりなんです。今だって………トキヤさんの帰りを待ってます」


「彼に判断を任せると?」


「彼の判断なら死んでも悔いを残さないように我慢できます」


「愛?」


「愛」


「…………」


 女神が目を閉じて口元が緩む。そしてその綺麗な唇から物語が紡がれる。


「ある所に…………一人の男性がいました。男性は愛国心が強く。軍に入り日の丸の国を隣国から防衛する任務についていました。そしてその戦いで命を失いました」


 ああきっと、この物語はトキヤの物語なのだろう。


「頭に一発の銃弾。そして、暗転。そこから姉は彼を拾いました。幾多の勇者が失敗する中、今度は彼を転生させる………つもりでした」


「つもりでした?」


「彼は満足していた。国は残りました。だから………一つの能力を選びました」


「なんですか!! 知りたいです!! 彼の強さはやはり!!」


 何か能力がある筈。


「全てを忘れ。1から生まれ落ちる能力」


「えっ?」


「前世を忘れ。女神を忘れ。ただ………生まれ落ちただけです」


「それって能力?」


「能力です」


「…………じゃぁ何もないわけだ」 


 少し、格好いい能力ではないので残念なようで。「彼らしいな」と思う。そう考えたら堪らなく愛おしい。前世を捨てる潔さも。


「私は深淵でそれを見ていました。能力を言い切った彼は格好良かったです。だから彼に憑りついた」


 最初っから私についていた訳じゃないんだ。


「彼は冒険者の親の元に生まれ落ちました。結果、誰も到達出来なかった魔王を倒す直前まで行けた初めての勇者になりましたね」


「初めて?」


「ええ、初めて。みんな帝国で死んだり。魔王を倒すことを諦めたり。オペラ座を作ったりとね。誰も魔王に到達は出来なかった。どうして彼だけが到達出来たか………知ってるよね?」


 それは占いの結果を信じたからだ。それだけでここまで来た。


「『彼女』に恋をしたからよ」


 歪んでいるほど彼女を追い求め。誰とも変わらない者が勇者となった。


「ええ。夢の誰かを愛したから」


「…………いまだに出会ってないですけどね」


「だけど、お陰であなたはここにいる。私も占いであなたに憑依を移すことが出来たわ。暗がりでずっと寂しかったしね」


「…………はい。勇者の占いで導いたのは感謝します」


「う~ん、何度も言うようだけど………私は何もしてないの。私が操って私を目覚めさるために行動なんて私はしてないわ。教会で、女神像作ってほしいなぁ~ぐらいよ………それも。やっとの力で」


「じゃぁ……じゃぁ!? あれは全部!?」


 占いからのトキヤの道は険しい。あんなのを洗脳せずに歩ませるなんて。それを私は。


「…………奇跡って信じますか?」


「………信じてます」


「全部、あなたの運だけで起こった奇跡です」


「…………じゃぁ。本当に」


 私は何故か涙が溢れてしまう。赤の他人の空似でここまで。そして………奪い取った。二人への罪悪感が満ちていく。思い出そうとは思ってなかった。思い出したら………絶対。おかしくなる。


「喜びなさい。その愛は女神を越えます。彼自身、女神を裏切り続けている。誰よりも深く愛しているから」


「………報われますか………彼。会わせてあげたい………彼女に………」


「たぶん会うでしょう。そして……いいえ。予想は口に出すべきじゃないね」


「………女神さまは占いの人をご存知ですか?」


「あなたでしょう………でもわからないんですよ。あなたであってあなたではない。何が違うかわからない。答えは彼しか持てない」


「………私は酷い女ですね」


「酷いのも愛です。だけど………目を瞑りなさい。忘れなさい」


「どうして? 彼は忘れられない!!」


「いいえ。忘れられなくても。諦めるしかなくなる事が起きてる。あなた、健康に気を付けなさい」


「ふぇ?」


「イチゴジャム。食べ過ぎはダメよ。感じてるでしょ?」


 私は体が変なのは知っていた。女神が来るからの変調だと思っていた。椅子から立ち上がる。涙を拭って腹を擦り、お腹の当たりに熱が生まれていることに気が付く。


「奇跡って信じますか?」


「女神さま………ありがとうございます」


「いいえ。これは授かり物。異種同士は難しいですが愛があったからこそです。おめでとうございます。これで彼は逃げれません。私が出来る女神らしい事ですね」


 暖かく、女神は微笑み。私はその場に崩れ落ちて涙を流す。女神が頭を撫でた感触がわかり………ゆっくりとその暖かみが消える。女神は帰っていった。


「うぅ……うう………」


 トキヤには全く言わなかった。欲しくなかった訳じゃなかった。だけど………デキるなんて思ってもいなかったし。それを悲しむのも嫌だった。


「ありがとう………女神さま」


 私は泣きながら、お腹に触り続けた……ずっとずっと。


















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