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都市ヘルカイト⑳① 聖樹ユグドラシル誘拐事件..


 朝、まだほんのり寒さが残るが段々と春の暖かい日差しが都市を照らす日。ユグドラシルの木の下でユグドラシルちゃんとワンちゃんと私で集まる。ユグドラシルちゃんが呼んだのだ。見てほしいものがあると。


「ネフィア姉さん!! 見てみて!!」


 彼女は年相応の女の子のような仕草でぴょんぴょん跳ねる。大きな実った胸がはね上がる。体に似合わず心は幼女。体は大人な子。


「なーに? 木の根っこ使って呼んで」


「見ていて!! ワンちゃん、お手」


 ドレイクに手を出す。ドレイクが右前足で手を置く。


「良くできましたぁ!! 次はお座り」


 ドレイクが座る。座ったドレイクの頭に手を置き撫でる。


「よしよし。次は立って3回まわって、ワン!!」


 ドレイクが立ち上がり3回まわった。


「わん!!」


「ワンちゃん良くできました!!」


 ユグドラシルが抱き付きスリスリする。ドレイクは今はドレイクだが。元はヘルカイトと同じドラゴン。プライドは捨てたとは言っていたが流石に………いえ………尻尾めっちゃ振って喜んでる。まぁそんなことよりも。


「スッゴーい!! スッゴーい!!」


「でしょう!! ワンちゃん頭偉いね~」


 わたしはしっかりと芸が出来る事に驚いた。


「ワン!! いや、言葉わかるし。簡単だけどもこんなんで喜ばれるとちょっと………ええんですかお二人さん簡単で!!」


「ねぇ!! ユグドラシルちゃん!! 私も私も!!」


「ネフィア姉さんにお手」


 私はユグドラシルの手に手を乗せた。


「はい!! 違うよ!! 私もお手したい。ふふふ………」


「クスクス………」


 二人で今の流れを笑ってしまう。そうじゃない、そうじゃない。


「じゃぁ………ワンちゃん、お手」


「ワン!!」


「良くできました」


 スッゴい、楽しい。


「おねさま!! 次私!! おちんちん!!」


「えっ!? ユグドラシルお嬢さん!?」


「ワンちゃんおちんちんですよ!!」


「ご主人!?」


 何故か渋るワンちゃん。私たちは首を傾げた。


「ワンちゃん?」


「難しい?」


「ワン!! どうにでもなれ!!」


 お座りし腹を見せて、両足を合わせる。それを上下に振りおねだりのように見えた。あまりの可愛さにユグドラシルが抱きつく。


「ワンちゃん!! 偉い!! 偉い!!」


「ワンちゃん。おやつ、何食べたいですか? ご褒美です」


「ご主人。大丈夫………お腹一杯です。こんなのでご褒美貰うのがスゴく辛いです」


 ワンちゃんは何故か遠慮する。気にしなくていいのに。


「ネフィア姉さん!! これでお金貰えるんゃないですか?」


「そうですね!! 芸を仕込んで売ればいいんです!!」


「そうそう!! おこつがい稼げますね‼」


 流石、商人の娘。お金の話だとすぐに真面目になる。


「竜人も見世物でもすれば儲かりますね。帝国で」


「お金必要な竜人に助言ですね。体を売ってこいと」


「………あんまり変なこと言うなよ」


 背後から声がし、振り返る。そこには呆れた顔をするトキヤさんがいた。


「あっ!? トキヤさん!!」


「トキヤお兄さん、こんにちは」


「トキヤさん。おサボりですか?」


「ああ、おサボりだ」


「ネフィア姉さん。トキヤさんは荒事担当です。喧嘩の仲裁役や竜人同士のぶつかり合いを止めるのがお仕事で、治安維持の衛兵の監視もしてます」


「えっ…………そうなの? いっぱい殺してるのかと」


「おい!! 俺をなんだと思ってるんだ!!」


「脱法殺人鬼」


「………よし、ネフィア。深く話し合おう。夫だぞ、一応な?」


 今まで仕事に関して聞いてこなかったから驚いただけで怒られそうになる。なんでぇ。


「ネフィア姉さん………そんな酷いこと言っちゃダメですよ………お兄さん、お仕事でここに来てますし」


「そうなの?」


「ああ、そうか。ユグドラシルちゃんは知ってるのか?」


「うん」


「なら、話が早い。帝国で世界樹を探しているっと噂が流れてるんだ。帝王は全く気にしてないらしいが……貴族がなんかやってるんだろ」


「世界樹?」


「そうだ。世界樹の何かを持ち帰り献上すれば金と名誉、上級階級が貰える」


「へぇ~でも。世界樹なんて何処にあるんですか?」


「わからんから探してるんだ。一応………ユグドラシルちゃんは世界樹じゃぁ~ないけど勘違いする馬鹿もいるし気を付けなって忠告に来た」


「知ってるよ!! お兄さん!!」


 ユグドラシルが大きい胸を張って威張る。こう、仕草は本当に子供だ。


「大丈夫です!! 治安いいですし」


「まぁ一応な……じゃ!! またな」


 トキヤが離れていく。私はその前に聞こうと思う。


「今日は遅くなりますか?」


「大丈夫。普通」


「わかりました。ワンちゃん帰りましょ。ご飯の支度しなくちゃ」


「はい、ご主人」


「バイバイ!! ワンちゃんまた明日!!」


「ワン!!」


 トキヤが仕事に戻っていく合間に私たちも家に帰る。夕飯を作るために。




「あの子が………この木の本体か」


「可愛いな。さすが世界樹の女神。立ち入り禁止を無視したかいがあるな」


「いつ拉致を行う?」


「人が消えたらだ」


「なら………今だな」


 俺たちは彼女の前へ躍り出た。






 夕飯の支度も終わり。あとは焼くだけになった。今日はカルデラ湖に住むマスっぽい魚をおかずにする。ムニエルだ。


ドンドン!!


「ん? はーい」


 この時間に誰だろうか。


「こんばんは……あっ。トンヤさん」


「こんばんは娘は来てませんか?」


 玄関前にカンテラを持った恰幅のいいオークが立っていた。娘とはユグドラシルの事だ。トンヤとユグドラシルは本当に親子であり。異種族の交配でも生まれる奇跡を起こした。そう、愛の深い御仁。そんな人が顔を出したのだ。


「いいえ、来てません。ワンちゃんの小屋は?」


「おりませんでした…………何処へ行ったのでしょうか? 噂があって心配です」


「………勝手に一人で出掛けたりしますか」


「いいえ。いつも一人ですが………この時間まで遊ぶ場合は教えるようにしつけてます」


 私は胸騒ぎがした。


「噂は最近?」


「噂は一月前からですね。ここへ伝わったのが最近です」


「………」


 噂が伝わるのは帝国からの冒険者が来て広める筈。


「音渡し…………だれか!! 聞こえる!! ユグドラシルちゃんがいない!!」


 私は目を閉じて音を出す。都市中に音を伝えた。少しだけ音を拾い聞こえるのは驚いた声と一緒に「何だって!?」と空に叫ぶ人々の声。ユグドラシルちゃんに聞こえていたら。現れるかと思ったがそんなこともない。


「この都市にいない!!」


「ど、どういうことですか!?」


「ユグドラシルちゃんにも呼び掛けしたけど反応がないの!!」


「そ、そんな!!」


 玄関前に隣家の人たちや、近くにいたのだろう人々が集まる。


「ユグドラシルたん!! 居ないんですか!?」


「どういうことです!!」


「ユグドラシル!? いったいどこに!?」


「姫様!! 俺の娘は!?」


「…………拐われた」


 集まった人々が騒ぎ出す。ユグドラシルはすでにこの都市の守り神みたいな所もあり、可愛いので慕われているのがわかった。そして………都市の象徴でもある。


バサッ!! ズサァアアアアアア!!!


 空からドラゴンが降ってくる。ヘルカイトだ。


「ネフィア!! 今の話は本当か!!」


「ヘルカイト領主様!! 本当です!! 何処にも居ないんです!!」


 理由を話す。私は全力で声を都市に震わせたがユグドラシルの帰ってくる声が聞こえない。


「一大事です!!」


「ネフィア!! 全都市に伝達!! ユグドラシルが拐われた!! 探せ!!……………この都市を見守る木の精だ!! 何度も何度も助けられてる!!」


「わかった!!」


 私は声を出す。「拐われたユグドラシルを探せ」と。





 夕暮れどきに都市に響く声が俺たちの耳に入る。馬車で待機していたがこんなにも早くバレてしまった。


「畜生!? なんだなんだ!?」


「もごもご!!」


「大丈夫だ!! まだ特定されてねぇ!!」


 緑の髪の女の口を布で塞ぎ、手を縛っている。逃げることはできない。木の実も葉も手に入れた。後は帝国に送るだけ。


「馬車を出せ!! 明日出発は取り止めだ!! 危ないが夜走る!!」


 夜は強い魔物が多い。視界も悪いが捕まっては元もこもない。走らせる。


バシン!!


「ヒヒーン!!」


 鞭を打ち、馬を走らせた。勢いに乗り西門にたどり着く。ゲートはまだ閉じておらず衛兵が立っているだけ。


「ん? なんだ?」


「なっ!? 危ない!! 止まれ!!…………もしかして!!」


 人の姿をした衛兵が叫ぶ。


「止まれえええ!!」


ボゴッ!!


 衛兵の一人がボコッと馬に蹴られて死ぬ。あれは死んだ筈だ。


「とまんじゃねぇえぞ!!」


「わ、わかってる!!」





「ぐへ!?」


「相方大丈夫か!!」


「大丈夫、痛いだけ………くっそ!! どうする!!」


「俺らで追いかけるか?」


「いや!! 持ち場を離れるわけにはいかない!! 咆哮を上げよう!! ヘルカイト様を呼ぼう!!」


ガオオオオオオオオオオ!!







ガオオオオオオオオオオ!!


 西門で竜の咆哮が響く。


「何かあったんだ!! ワンちゃん!!」


「ご主人!!」


 ヘルカイトが飛び立ち。私たちも走り出す。一部の人は手分けして探す手筈になった。西門には私たちだけが向かう。ワンちゃんに並走し駆けていく。


「ご主人!! 乗れ!!」


 並走から、背中に飛び乗りワンちゃんが駆ける。飛び上がって屋根を突き進み。西門の営舎に到着した。二人の竜人の衛兵が駆ける私たちに叫ぶ。


「怪しい馬車が通っていきました!! そのままで追いかけてください!! ネフィアさん!!」


「体張ったんですけど無理でした!! ヘルカイト様みたいにすぐには竜になれないですし!! とにかく!! 走っていきました!!」


「わかった!! ヘルカイト!! 空から!!」


「おう!! 何処のどいつだあ!! 我が領土でひとさらいなどを!!」


 空でヘルカイトが咆哮をあげて周りが震える。魔物たちも叫びに反応し飛び立つ。


「ご主人!! ユグドラシル殿の匂いです!!」


「当たり!?」


「匂いを追いかけます」


 そのまま舗装された道を駆ける。加速し、風を切る。私は意識を集中した。


「やべー!? ドラゴンの咆哮だ!!」


「何故ドラゴンが!?」


「上見ろ!! ドラゴンが追いかけてくる!!」


「逃げろ逃げろ!!」


「ワンちゃん聞こえた?」


「はぁはぁ!! ご主人………しっかり捕まって!!」


 私は首にしっかり捕まった。振り落とされそうなほど激しく駆ける。腰に衝撃が強くちょっと辛い。


「ご主人!! 見えた!!」


「ヘルカイトは?」


「ワシも見えた!! 先回りする!!」


 爆走する馬車が見える。荷物を引いているのか速度は遅い。追い付けたのはそれが理由だ。


「ユグドラシル!!」


「畜生!! 追い付いてきた!!」


「弓を引け!!」


 二人の人間が弓を構え私たちに向かって撃ち込む。


「そのまま………ワンちゃん。加速して」


「わかった!! ご主人!!」


 炎翼を展開しフェニックスを打ち出す。炎に矢を包み、機動をそらした。後方へ火の鳥が離された。追い付けないらしい。


「飛び移りたいけど………」


「ご主人………飛ぶよ!!」


 ドレイクが急加速し、跳躍。体を捻らせ馬車の荷台に飛び込んだ。


「ぐへっ!?」


「ぐあああああ!!」


 飛び込んだとき私は荷台に転がり。ドレイクも二人の人間にぶつかりながら荷台を滑ってくる。ユグドラシルが拘束され転がっているのにぶつかった。


「畜生!? 乗って来やがった!! んあっ!?」


「ワシの領地でなにやってるんじゃあああ!!」


 ヘルカイトが立ちふさがり。馬が驚いて2頭両方が転倒する。


「あっ!? ワシ!! やっちまった!?」


 転倒し、馬車も転倒。私たちが吹き飛ばされる。ヘルカイトは…………待ち伏せの仕方を間違えた。道を塞いでしまい。ヘルカイトに馬と馬車が叩きつけられる。馬車の荷物も外へほおり出された。


「えっ!? う? キャアアアアアアアアアア!!」


「ご主人!! ぐげええええ!!」


 ヘルカイトを飛び越えて地面を転がる。めちゃくちゃ痛いのを回復魔法で和らげて立ち上がちゃ。泥だらけになりながら怒る。


「ヘルカイトおおおおおおおおお!!」


「ヘルカイト!!!!!」


 ワンちゃんと一緒に叫んだ。


「わ、悪かった。それよりも!! ワシの領民は!!」


「そだった!! ユグドラシル!!」


 土の道路に拘束されたユグドラシルが転がっている。ピクリともしない。


「ユグドラシル!!」


「ユグドラシル殿!!」


 近付き肩を持ち上げる。ダラリとし、全く動かない。


「えっ!? うそ!! うそ!!」


「ユグドラシル殿!?」


「どうした!?」


 私は冷や汗が出る。もしかして…………殺されてた。


「やっと追い付いた!! 皆さん私の娘は!?」


 ドレイクに乗ってオークが現れる。焦った顔で。


「……………」


「どうしたんです!! あっ………」


 私は顔を背けた。


「ゆ、ユグドラシル…………あ、ああ。どうして………」


「わ、わしが………間違ったばかりに………」


「………うぅううう………ごめんよ………父さんが悪かったから!! 目を醒ましてくれ!!」


 オークの顔が涙で濡れる。そして………膝が崩れるのだった。





 私たちはトボトボ都市に戻ってくる。ヘルカイトは一足先に帰っているはずだ。


 私たちは無言。オークは生気を失い。ユグドラシルの亡骸を抱き締めながらここまで来た。


「はぁ…………」


 外傷はない。だから回復魔法も効果はなかった。今さっき、まであんな笑顔だったのに………


「ぐし……ぐし……ユグドラシルどのぉ………」


 ワンちゃんと私は泣きながら都市の西門を潜った。日はすっかり落ち。竜人の衛兵がカンテラで照らしていた。その照らしていた姿に私たちは足を止める。


「おかえりなさい。ワンちゃん。ネフィア姉さん。父さん」


 出迎えがユグドラシルちゃんだった。鬼灯の実の形をしたカンテラを持っている。


「「「えっ?」」」


 全員ですっとんきょんな声が出てしまう。


「へへ………こんな沢山の人に心配されるし。その………こんなにも泣いてくれるなんて嬉しい」


「ユグドラシル!? ユグドラシルなのか!! お父さんだよ!! わかるか?」


「う、うん。ごめんなさい…………その………うん………」


「どうして!?」


「ユグドラシル殿!? えっ? この亡骸は?」


「あの………私の本体。あれですよね?」


 ユグドラシルが大きい木を指差す。


「そのぉ………体はえっと………実なんです」


 私たちはユグドラシルに抱きついたのだった。






 次の日


「ワンちゃん!! 貸してくれるのネフィア姉さん!!」


「ええ。もう………あんな騒ぎはこりごり」


「同じくですユグドラシル殿………ご主人っと言えばいいのですか?」


「ええっと。ユグドラシルって呼んでワンちゃん!!」


「はい!! ユグドラシル」


「………任せたねこの子」


「はい、ご主人」


「主人はあちらですよ?」


「いいえ、ご主人はご主人です」


「うん!!………譲るよりその方が私もいいと思う。ワンちゃんはみんなの物!! でも!! 私が一番だからね‼」


 何事もなく。彼女はこの都市を謳歌する。なお、もう1つの亡骸は彼女のファンの一人の高値で取引され抱き枕になったらしい。やましいことはあると思うが。親子はお金で売ってしまった。


「ワンちゃん、お手!!」


「わん!!」


 でも、気にしてないようだし。私は悩むのをやめるのだった。






「ランス………今回の事件はやっぱり………」


「ええ、そうでしょうね。伝説に頼らないといけないほどに生い先短いのでしょう」


「だよな………じゃぁ跡取り出てくるな」


「いいえ。出て来てませんね」


「どうして?」


「皇帝陛下を延命する手段を考えてますから」


「そっか………」


「世界樹を探す理由はそうなんでしょう。義父上はもう………」


「…………………荒れるな」


「ええ、荒れますね。帝国か……世界か」








 




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