都市ヘルカイト⑱元魔王の1日..
朝、小鳥が囀ずる中で私は起きる。隣の寝坊助さんの頬にキスをしたあと。一階へ降りて玄関へ行き。牛乳瓶2本と卵2個を受け取り台所に立つ。朝イチに毎日届けてくれるのだ。お金の集金は月終わり。停止するなら手紙を箱に入れればいいと、凄く優しいサービスが開始されている。生乳は腐りやすいため、その日に飲む。
「ありがとうオークさん。すごく助かるなぁ~」
制度を作ったユグドラシルのお父さんに感謝しながら炎でパンと卵を焼く。塩コショウという調味料を手に入れたのでそれをまぶした。
「ふぁあああ~おはよう」
「おはよう。今日は起きてきたね?」
「ん?………まぁたまには」
「最初は私の方が寝坊助だったのに」
「無理してたんだって」
「知ってる。知ってて………言ってる。何度も言ってる」
「なんだよ………しつこいぞ」
「何度も愛されてたなって思い出すのはダメ?」
「……………朝からノロケはダメ」
「ほっぺにキスするのは?」
「ダメ」
「えっ?」
トキヤが台所まで来た。肩を捕まれトキヤが屈んで唇を軽く重ねる。
「おはよう。目が覚めたよ。今度からは口にしな」
「ううぅ………眠れる姫様は逆ですよ~」
なんとも朝からバカな事をしてると思っているが………愛おしいから仕方がない。
*
お昼時。シーツの取り返え。洗濯後、トキヤはソファーの上で二度寝をしていた。スヤスヤと。
ぷにぃ~
眠っている旦那様のほっぺたをつつく。思ったより柔らかく。そして起きない。
「ふふ……起きないね」
穏やかに無防備に寝る顔はだらしなく。そして………可愛かった。男の可愛いとはへんな話だが。ギャップっと言う素晴らしいものがその顔にある。
「………ずっと眺めていたいなぁ~」
好きな気持ちを抑えられない。
「…………昼までちょっと眺めてよう」
好きな人の見るお仕事………あったらいいのになぁ。
*
パスタでの昼食後。紅茶を飲みながら一服する。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした。朝も食べたのによく入るね?」
「美味しいから? 太ったしなぁ………あとで剣を素振りしようかな?」
「トキヤ………私の約束は?」
「ああ~ええっと膝枕か」
「うん」
ソファーに座るトキヤ。足を組まずに待っていてくれる。食器を洗い、手を吹き急いでソファに向かう。
ぽんぽん
「それでは………失礼します」
「そんなに畏まらなくても」
「ふぁあああああ!?」
「ど、どうしたいきなり!?」
「見上げたら好きな人の顔が近くに!!」
私は顔を手で隠した。ちらっと指を開けて確認し目を閉じる。
「ぶふぅ!?………まぁ……うん、ヤバイヤバイなんで俺が膝枕で悶えそうになってるんだよ!!」
「トキヤしゃん!! スゴい!! 女性でも好きな人の膝枕は楽しめます!! 発見です!!」
「ああ、わかった。黙ってな。落ち着いたわ」
頭を撫でられる。撫でられた箇所はムズ痒くて気持ちをいい。優しい手つきで私を幸せにする。
「むぅ………もっと良さを知っていれば。しっかりもっとやれてたのに」
「大丈夫、これから好きなだけ出来るぞ」
「………そうだね」
気持ち良く………少し眠気が来た。
「ん………ん………」
「眠い?」
「うん………」
「寝ていいぞ」
「うん…………」
私は目を閉じて暖炉から反対側に寝返りを打ちトキヤの方へ向いた幸せな匂いがしてすぐにいいゆめを見れそうだった。
*
「ん!?」
私は目覚める。トキヤの膝枕から飛び起きて時計を見た。夕方だ、ご飯の用意をしなくちゃ。
「ごめん!! トキヤ!! ずっと………膝枕………ごめん……すんぅ……」
「おいおい……泣くなって。大丈夫。可愛かったかったし寝てしまったのは俺もだ」
トキヤが優しく人さし指で涙を拭う。
「でも………ごはん」
「今日は外で食べに行こう」
「えっ?」
私を抱き寄せて手を握る。姫様を扱うような優しさ。
「一緒にどうですかお嬢さん?」
「…………はい」
断れる筈もなく私たちは外食することにした。
*
行く場所は決まっているようで私はただ彼に後ろからついていく。
「どこ行くの?」
背中に声をかける。
「洒落た店とか、そんなの俺には無理だ。ランスなら………あれだが………だから。ごめん………酒場でいい?」
「トキヤ………私は妻です何処へでもついていきますよ」
「お、おう……どうも」
「それよりも………一つ忘れてますよ」
「なに?」
「…………」
彼の裾を引っ張る。あまり彼はその行為をしない。だから………私からお願いしようと思う。
「お手て………お留守にしてます」
「そうか。すまなかった………」
彼に手を握って貰い、並んで歩く。
「好き……」
「外だぞ控えろ」
「うん………でも、好き」
私は彼に対して我慢は出来ないようだ。
*
酒場はギルドだった。カウンターで隣の合わせで座り頼むのはピザと言う小麦粉を平たく丸く延ばしてトマトやチーズをもろもろを乗せて焼いた料理。それを葡萄酒でいただくとツマミにもなって美味しい。値は張るが美味しいので気にしない。
「ふふふ………懐かしい」
「何が?」
「いっつも酒場でごはん食べてましたよね」
「冒険者のときか」
「そう………沢山あったね」
「まだこれからだろ? 末長くってな」
「信じてる? 末長く」
「信じてる。お前が一番」
「トキヤ……ここ外だよ?」
「酔ってるな………色々と。ネフィアにも?」
「ふふ、本当に酔ってる」
コト!!
「ん?」
虎柄の獣人店員が枝豆を出してくれる。
「サービスしとくよ。仲のいいご夫婦さん。ギルド長も女には目がねぇなぁ」
「ありがとう」
「どうも………いい女だからな」
「ちがいねぇ」
「もう………そんなに褒めて。なにも出ませんよ」
店員とトキヤが笑う。私もつられて笑ってしまった。そして…………曲が聞こえる。
「雇ったのか? 歌い手」
「いいや、ありゃ~勝手に歌ってるだけだな」
「そうか………ネフィアのが聞きたいな」
「わかった………じゃぁ歌うね」
私は本の中で知り得た歌をうたう。皆が聞いてくれて酒場が静かになり、酒が回るまでアンコールをせばまれるのだった。
*
酒場を俺は出る。ネフィアを背負って。歌は凄くよかった。あんなにも昼寝をしたが、色んな歌をうたい………疲れて寝てしまった。
「んんん…………」
背中に女性特有の優しい匂いと柔らかさを感じる。
「………本当に可愛い」
苦労して手に入れた宝は大きく。俺の心を満たす。
「トキヤ………大好き」
「全く……夢でも俺かよ」
でも、全く悪い気はしない。
「ときやぁ~ん…………んんんん………愛してる」
「ああ………愛してる」
俺も酒が廻ってしまったらしい。寝言に付き合ってしまった。
「愛してるんだから仕方がないか………」
「イチゴジャムを自制しろ」と言うが………自分も自制出来てないと思いつつ帰路を歩くのだった。




