都市ヘルカイト⑯ 過去の余、未来の私..
隣家にある夫婦ではないが新しい住人が増えた。連れ去り事件の依頼をこなしている時に出会った二人である。名は異世界の人間のリューク・ハーピーとアルビノで白い翼を持ちハーピーの群れから追い出されたシエル・ハーピーだ。
私が彼らの住居を買い与え、世の中の事をリュークにはすでにお話しした。ちょうど異世界の事を知っているために違い等を教え込み。「なんとか順応してくれれば」と思う。ハーピーは魔物だったのでハーピーには人の生活を教え込んだ。
それが5日間続き。リュークは冒険者見習いで生計を立てて貰う所まで知識を蓄えた。好きな人のために頑張って貰おう。そして彼は必ず異世界へ戻らないといけない使命もある。
「はぁー終わった………」
やっと解放され。リビングのソファに寝転ぶ。
「やっと………なんとかなりました」
何も知らない二人は大変だと思うが仲良く頑張って貰いたい。私みたいに。
「あぁ………そっか」
私も昔、無知だった。
「トキヤとエルミア姉さんに教えて貰ったんだよね………私も…………ふふ」
そう考えると今では教える立場。成長を感じられる。目を閉じて昔の自分を思い出しながら幸せを噛み締めた。
「ありがとう………トキヤ………私の王子さま」
疲れから眠気に襲われたのだった。
*
暗がり。夢の中。何もない場所で私は不思議に感じた。何故なら私が見ようとした夢ではなかったからだ。
「うーむ。私が姫でトキヤが王子さまの夢のつもりが…………誰かの夢に入ってしまったようですね」
昼寝している誰かだろうか。
「誰だ………余の夢に入り込んだ奴は」
声が聞こえる。誰だろう。聞き覚えのある人の声だ。中性的な甲高いような少年の声。
「ん?………んんんん!?」
周りが明るくなり王宮の一室に様変わりした。そしてその声の主に私は驚きの声を上げる。
「わ、わたし?」
「はぁ? 誰だ、お前!!」
金髪のショートヘアーの青年が指を差して憤る。中性的な美しさがあり、少年婦で人気になりそうだ。自分自身に言うのもあれだけど。
「お前の夢か!! 忌々しい夢魔め!!」
「あなたも夢魔ですよね?」
「な、なぜそれを!!」
向こうは私が自分自身と思っていない。私は少しの時間で理解した。これは夢で過去の自分と繋がったらしい。「自分自身だとこういう事があるんだなぁ~」と思う。
「いや、私ですし」
「何を知っているか知らないが出ていけ!!」
「やーだ」
「ふてぶてしい奴だ!! だから夢魔は嫌いなんだ」
「私は大好きですよ? 素晴らしい種族です」
「何を言うか!! 淫乱な下級魔族だぞ!!」
「例え淫乱だろうけど。一人の男だけに淫れるなら。それは愛と言ってもいいです」
「……あ、愛だと!? 浮わついた言葉を口にするな!!」
うわぁ~昔の自分を見るとなんと痛い子か。可哀想。口を押さえて指を差して笑う。
「まぁそれより。魔剣ネファリウス貰った?」
「あれは最初から余の物だ」
と言うことは戴冠式後で勇者トキヤが来る1ヵ月前ぐらいの私だろう。
「そうね。あなたの剣、趣味が悪いわぁ~」
「な、なに!! この剣の何が悪い!!」
夢の中に魔剣が召喚される。黒い刀身ダサい。
「あなたみたいな非力の少年が持つのには大きすぎます。まぁ………捨てるでしょうけど」
「何を言う………変な奴だ。お前は余を知っているようだが? 何者だ?」
私は意を決めて話す。
「私はネフィア・ネロリリス。元の名をネファリウス。あなたの未来の姿が私よ」
「はぁ~寝言は寝て言え。いや、今は寝て夢を見ているな」
「信じれないよね~勇者に女にされて、護って貰って訓練して。愛して結婚して。家で逢瀬を重ねてるんだなんて」
「はぁ!? 世迷い言を!!」
「好きな童話は姫と竜と騎士の物語。騎士に憧れ。姫様にも憧れ。そして…………魔王で自由を手に入れたいと願う」
「!?」
図星っといった表情。私自身なんだからわかる。
「小さいときはいつも一人で閉じ込められ。いつか出られる事を夢見ていた。そしてやっとそのチャンスがやって来た。身の丈を越えた役職だけど。どうにか生き延びようとね」
「くぅ!! 黙れ!! 夢を覗き見たな!!」
「私だからわかる。本当にあなたは私になる。安心して幸せになるから。夢は叶うから!!」
昔の自分は押し黙る。
「叶う………しかし!! 女にされるとはいったい!!」
「勇者にね。今度会うはずよ。運命の相手に」
「くぅ………勇者が運命の相手だと!! 気色悪い」
「ふふふ…………すーぐ惚れるわよ」
「私は認めない!! お前が未来の私なんて認めない!! 夢でも斬り刻めばもう二度と夢に現れないだろう!! 斬ってやる!!」
魔剣を構え、素早く振り下ろす。単直な真っ直ぐな剣筋。私は後ろへ避けて夢を操る。
一瞬で世界が暗転。そして現れる故郷。都市ヘルカイトの壁の上。大きな木が見え、激しい山々の中心にある都市の情景が写される。
「!?」
「未来の私に今の記憶はない。今日、あなたを倒して夢を忘れさせないといけない」
「くぅ!!」
「恐れないで。未来を信じろ……我が過去よ」
白金の鎧に身を包み。背中に大きな炎翼を羽ばたかせる。脇に差した剣は炎のブロードソード。それを抜き放つ。壁の上に魔力が流れ火の粉が上がる。
「つっ!? 熱い!! これほどまでに炎の魔法と剣を!?」
「これ、勇者から頂いた最初のプレゼント。いい剣よ」
つい、ノロケてしまう。目の前の魔王が震える手で魔剣を構えた。私は走り魔剣に向けて剣を振る。
キャン!!
「なっ!?」
剣が吹き飛び。昔の自分の手が痺れている。私は剣を納めて歩き。彼女の腹に拳を叩き込んだ。
「ぐふっ!?………強い………本当に………余なのか?」
「うん。私よ………でも起きても記憶はないわね」
「そうか………でも。幸せなんだろ?」
「幸せになるよ。いいえ………幸せにしてくれる人が現れるの」
「…………うん。今日は悪夢を見なくて良かったよ」
昔の自分は素直になり影が薄くなって消える。夢で死んだら夢の記憶はない。そんなルールはないが私が消した。昔にそんな夢は見ていないから。
「ふぅ………ちょっと。疲れた」
ちょっと休むつもりが………昔の自分に会うなんてね。でも………本当に。
「幸せ………ありがとう。トキヤ」
壁の上に腰をかけながら。想う。
感謝しても感謝しきれない。そして愛してる。
また、いっそう愛が深くなった。
*
勇者が来る。一人だけ来る。最強の強者が。
「トレイン!! みな………逃げたのか………」
「はい!! 魔王さま!! では………自分も逃げます」
部下が逃げた。仕方がない自分は対峙しようと思う。しかし、何故だろう…………心の底でワクワクするのは。
「殺されるかもしれない筈なのに………なんだ?」
気にしてもしょうがないが………悩みながら勇者が来るまで玉座に座り。勇者を待つ。 ここは魔国の都市。魔王城の玉座の間。誰の玉座?もちろん余である。
今日、命知らずの勇者が目の前に立っている。他の部下は勝手に逃げ出した。使えないやつらだ。
そして勇者。ここまで来る者。衛兵等では敵わないであろうとも考えられた。
「初めてだ。わざわざ敵国に潜入し我を倒そうとする者が現れるとは」
玉座から立ち上がり。魔剣を肩に担ぎ赤い絨毯を歩く。人間は勇者と言うものを輩出し、余を倒そうとする。それが伝統なのか、使命なのか知らないが。無様と思う。一人で来るのだから。




