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都市ヘルカイト⑯ 過去の余、未来の私..


 隣家にある夫婦ではないが新しい住人が増えた。連れ去り事件の依頼をこなしている時に出会った二人である。名は異世界の人間のリューク・ハーピーとアルビノで白い翼を持ちハーピーの群れから追い出されたシエル・ハーピーだ。


 私が彼らの住居を買い与え、世の中の事をリュークにはすでにお話しした。ちょうど異世界の事を知っているために違い等を教え込み。「なんとか順応してくれれば」と思う。ハーピーは魔物だったのでハーピーには人の生活を教え込んだ。


 それが5日間続き。リュークは冒険者見習いで生計を立てて貰う所まで知識を蓄えた。好きな人のために頑張って貰おう。そして彼は必ず異世界へ戻らないといけない使命もある。


「はぁー終わった………」


 やっと解放され。リビングのソファに寝転ぶ。


「やっと………なんとかなりました」


 何も知らない二人は大変だと思うが仲良く頑張って貰いたい。私みたいに。


「あぁ………そっか」


 私も昔、無知だった。


「トキヤとエルミア姉さんに教えて貰ったんだよね………私も…………ふふ」


 そう考えると今では教える立場。成長を感じられる。目を閉じて昔の自分を思い出しながら幸せを噛み締めた。


「ありがとう………トキヤ………私の王子さま」


 疲れから眠気に襲われたのだった。





 暗がり。夢の中。何もない場所で私は不思議に感じた。何故なら私が見ようとした夢ではなかったからだ。


「うーむ。私が姫でトキヤが王子さまの夢のつもりが…………誰かの夢に入ってしまったようですね」


 昼寝している誰かだろうか。


「誰だ………余の夢に入り込んだ奴は」


 声が聞こえる。誰だろう。聞き覚えのある人の声だ。中性的な甲高いような少年の声。


「ん?………んんんん!?」


 周りが明るくなり王宮の一室に様変わりした。そしてその声の主に私は驚きの声を上げる。


「わ、わたし?」


「はぁ? 誰だ、お前!!」


 金髪のショートヘアーの青年が指を差して憤る。中性的な美しさがあり、少年婦で人気になりそうだ。自分自身に言うのもあれだけど。


「お前の夢か!! 忌々しい夢魔め!!」


「あなたも夢魔ですよね?」


「な、なぜそれを!!」


 向こうは私が自分自身と思っていない。私は少しの時間で理解した。これは夢で過去の自分と繋がったらしい。「自分自身だとこういう事があるんだなぁ~」と思う。


「いや、私ですし」


「何を知っているか知らないが出ていけ!!」


「やーだ」


「ふてぶてしい奴だ!! だから夢魔は嫌いなんだ」


「私は大好きですよ? 素晴らしい種族です」


「何を言うか!! 淫乱な下級魔族だぞ!!」


「例え淫乱だろうけど。一人の男だけに淫れるなら。それは愛と言ってもいいです」


「……あ、愛だと!? 浮わついた言葉を口にするな!!」


 うわぁ~昔の自分を見るとなんと痛い子か。可哀想。口を押さえて指を差して笑う。


「まぁそれより。魔剣ネファリウス貰った?」


「あれは最初から余の物だ」


 と言うことは戴冠式後で勇者トキヤが来る1ヵ月前ぐらいの私だろう。


「そうね。あなたの剣、趣味が悪いわぁ~」


「な、なに!! この剣の何が悪い!!」


 夢の中に魔剣が召喚される。黒い刀身ダサい。


「あなたみたいな非力の少年が持つのには大きすぎます。まぁ………捨てるでしょうけど」


「何を言う………変な奴だ。お前は余を知っているようだが? 何者だ?」


 私は意を決めて話す。


「私はネフィア・ネロリリス。元の名をネファリウス。あなたの未来の姿が私よ」


「はぁ~寝言は寝て言え。いや、今は寝て夢を見ているな」


「信じれないよね~勇者に女にされて、護って貰って訓練して。愛して結婚して。家で逢瀬を重ねてるんだなんて」


「はぁ!? 世迷い言を!!」


「好きな童話は姫と竜と騎士の物語。騎士に憧れ。姫様にも憧れ。そして…………魔王で自由を手に入れたいと願う」


「!?」


 図星っといった表情。私自身なんだからわかる。


「小さいときはいつも一人で閉じ込められ。いつか出られる事を夢見ていた。そしてやっとそのチャンスがやって来た。身の丈を越えた役職だけど。どうにか生き延びようとね」


「くぅ!! 黙れ!! 夢を覗き見たな!!」


「私だからわかる。本当にあなたは私になる。安心して幸せになるから。夢は叶うから!!」


 昔の自分は押し黙る。


「叶う………しかし!! 女にされるとはいったい!!」


「勇者にね。今度会うはずよ。運命の相手に」


「くぅ………勇者が運命の相手だと!! 気色悪い」


「ふふふ…………すーぐ惚れるわよ」


「私は認めない!! お前が未来の私なんて認めない!! 夢でも斬り刻めばもう二度と夢に現れないだろう!! 斬ってやる!!」


 魔剣を構え、素早く振り下ろす。単直な真っ直ぐな剣筋。私は後ろへ避けて夢を操る。


 一瞬で世界が暗転。そして現れる故郷。都市ヘルカイトの壁の上。大きな木が見え、激しい山々の中心にある都市の情景が写される。


「!?」


「未来の私に今の記憶はない。今日、あなたを倒して夢を忘れさせないといけない」


「くぅ!!」


「恐れないで。未来を信じろ……我が過去よ」


 白金の鎧に身を包み。背中に大きな炎翼を羽ばたかせる。脇に差した剣は炎のブロードソード。それを抜き放つ。壁の上に魔力が流れ火の粉が上がる。


「つっ!? 熱い!! これほどまでに炎の魔法と剣を!?」


「これ、勇者から頂いた最初のプレゼント。いい剣よ」


 つい、ノロケてしまう。目の前の魔王が震える手で魔剣を構えた。私は走り魔剣に向けて剣を振る。


キャン!!


「なっ!?」


 剣が吹き飛び。昔の自分の手が痺れている。私は剣を納めて歩き。彼女の腹に拳を叩き込んだ。


「ぐふっ!?………強い………本当に………余なのか?」


「うん。私よ………でも起きても記憶はないわね」


「そうか………でも。幸せなんだろ?」


「幸せになるよ。いいえ………幸せにしてくれる人が現れるの」


「…………うん。今日は悪夢を見なくて良かったよ」


 昔の自分は素直になり影が薄くなって消える。夢で死んだら夢の記憶はない。そんなルールはないが私が消した。昔にそんな夢は見ていないから。


「ふぅ………ちょっと。疲れた」


 ちょっと休むつもりが………昔の自分に会うなんてね。でも………本当に。


「幸せ………ありがとう。トキヤ」


 壁の上に腰をかけながら。想う。


 感謝しても感謝しきれない。そして愛してる。


 また、いっそう愛が深くなった。





 勇者が来る。一人だけ来る。最強の強者が。


「トレイン!! みな………逃げたのか………」


「はい!! 魔王さま!! では………自分も逃げます」


 部下が逃げた。仕方がない自分は対峙しようと思う。しかし、何故だろう…………心の底でワクワクするのは。


「殺されるかもしれない筈なのに………なんだ?」


 気にしてもしょうがないが………悩みながら勇者が来るまで玉座に座り。勇者を待つ。 ここは魔国の都市。魔王城の玉座の間。誰の玉座?もちろん余である。


 今日、命知らずの勇者が目の前に立っている。他の部下は勝手に逃げ出した。使えないやつらだ。


 そして勇者。ここまで来る者。衛兵等では敵わないであろうとも考えられた。


「初めてだ。わざわざ敵国に潜入し我を倒そうとする者が現れるとは」


 玉座から立ち上がり。魔剣を肩に担ぎ赤い絨毯を歩く。人間は勇者と言うものを輩出し、余を倒そうとする。それが伝統なのか、使命なのか知らないが。無様と思う。一人で来るのだから。










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