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不思議の国のネフィア③ 女神に見捨てられた勇者たち..


 路地裏から逃げた先。大きな道路に出た。無闇に走っている訳じゃないがいるのは敵だらけ。町並みは変わらず。車は止まり、人も止まり。そして一様に皆が私を見つめた。そんな異様な光景が続いた。


 そして、次第に囲まれる。町全体の人が私たちを捕まえようと集まるのだ。そう騎士団を一人で相手をするもの。各々が武器を用意して待ち構える。剣だったり、槍だったりと主人公が持っているであろう武器を構えて。


「何故………裏切った千家」


「小鳥遊さん………一緒に『演劇やろう』て約束したよね?」


「千家………お前!!」


「小鳥遊さん!! お願い考え直して!!」


 知り合いだったクラスメイトや町内会の人たちが得物をぶら下げながら説得をする。


「小鳥遊………言葉は無視しろ」


「わかってる………ええ。わかってるから何も言わないで………」


「優しさは握りつぶせ。自分のために、トキヤのために」


「…………」


 彼らの前に時也が立ちふさがる。逞しい背中に既視感がある。


「や、やるつもりか? こんな数を!!」


 一人の男性が叫ぶ。その気持ちをわからんでもない。数の優位は大きい。しかし、私の知る彼はそんなの関係ない。


 ブゥン!!


「それがなにか?」


 彼の右手から大きな剣が産み出される。何度も見た両手剣。ツヴァイハンダーを片手で持ち上げ、相手に突き付けた。


「こっちは姫様を帰えさなきゃいけない。押して通るぞ」


「………時也」


「小鳥遊、大丈夫。俺が何とかする」


「……いっつもそう」


 彼のいつもの台詞を聞きながら私は彼の横に立つ。集団を眺めながら。


「護られるだけの姫様はやめましたよ。とっくの昔に」


「………そうだった」


 ブワァ!!


 私の背中から炎の奔流が始まり翼を形作る。服も翼の炎に包まれ、姿を変える。


 白く、ドレスのような4枚の花弁のようなスカート。胸が開いた鎧。頭にカチューシャのような兜。防御力なんて無視した容姿だけを重視した白金の鎧。私がトキヤから戴いた鎧を着こなし、火剣を抜く。


「夢だから、夢なら私の十八番です」


「………さすが小鳥遊。元魔王だったな」


「いいえ。そんな肩書き捨てました。今はトキヤの伴侶です。では行きましょう」


「ああ、行こうか」


 二人で敵に向かって走る。怖じ気ずいた人達を無慈悲に蹴散らしながら。私は進む。





 苛つく。私は眼下に広がるしもべ達に苛立ちを覚える。高いビルからある二人を覗き込む。夜景が綺麗だがそんなのは今、興味はない。


「勇者になろうとしたのに。情けないわね」


 落ちぶれても元は魔王を倒す気だった者たち。各々が戦ってきた筈なのに。彼らを倒すことが出来ない。


「足や手を切り落とすことも出来ないの?」


 眼下では悲鳴が聞こえる。痛みで「死にたくない」と言った恐怖が彼らを阻害している気がする。


「しかたない。本当に使えないわね………彼ら」


 鎌を構え直し、私は白い翼を広げ滑空した。





 目の前の人達が尻すぼみして、私たちを避けていく。誰も武器を振ろうとはせず、悲しく私たちを見るだけだ。笑顔はない、悲痛な。天国でも行けず、地獄へも落ちず底辺を迷っている者たちの姿がそこにあった。


 大きな道路を過ぎ、学校の近くまでやって来る。しかし、まだ人はいる。


「………小鳥遊ストップ」


「な、なに?」


「あいつだ」


 目の前に制服姿で羽を広げて降り立つ女性。『心』と言う名前の女の子が立ちふさがり。彼女の周りの泥が人の形を作った。


「やめてくれ!! 戦いたくない、消えたくない!! 命令しないでくれ!!」


「お願い!! 消えたくないの!!」


 泥で作られた人が剣を構えながら叫ぶ。


「彼等を捕まえなければこれからも暗い底辺のままよ。この世界も壊れ、死ぬのに、なにを怖じ気づいてるの?」


「死にたくない!! 死にたくない!!」


「だ~か~ら~戦うのでしょ?」


 女王は笑いながら手を向けて言葉を発する。


「死ぬ気で戦いなさい。命令よ」


 空気がピリッとする。嫌がる人々が私たちに向かって走る。『やめてくれ』と叫びながら。それを時也は無視をしない。


ギャンッ!!


「ストームルーラー!!」


 風を纏わした剣を横に振り、家や塀等を吹き飛ばし、斬撃をお見舞いする。無慈悲に相手を切り刻み。辺り一帯が赤く染まる。しかし、また人は増える。犠牲者が増える。時也がその集団に飛び込み一人を掴み、振り回す。


「うるさい………死にたくない死にたくない………ああ? もう死んでるだろ俺らは。忘れたか?」


「ひ、ひ!?」


「ここは底辺な世界だ。もう落ちることはないんだ」


 男を吹き飛ばし、また。剣に風を纏わした。私はつい、叫んでしまう。


「やめてぇ!! もう!!」


「小鳥遊!?………やらなくちゃ殺られんだぞ!!」


「殺すことはない!! 吹き飛ばすだけでいい!! 道を作って!! 走り抜けるから!!」


「………ストームルーラー!!」


 時也が一閃し、人の波に道を作る。赤い赤い道を。


「小鳥遊、何度も言う。優しさはいらない。さぁ!! 行くぞ!!」


「ぐぅ………」


「ふふふ、今期の魔王は優しいのねぇ~いいえ元魔王かしら。じゃぁ優しいあなたに教えるよ」


「………な、なにを?」


「聞くな!! 耳を塞げ!!」


「あなたが居なくなればこの世界は終わる。夢が覚めてしまう。何もない暗い底。そう、彼も消えるわ。いいえ…………殺す。あなたに味方した彼は消される」


「!?」


「戯れ言だ。戯れ言!!」


「本当でしょ? あなた………おかしいのよ。死ぬためになんで彼女を助けるの?」


「と、時也?」


 私は彼の顔覗く。覗いて、胸が高鳴る。彼は私が覗いてること知り……こっちに優しい笑みを向けた。


 懐かしい顔付き…………そう、最初のあのときの顔。黒騎士団を倒した時の彼を思い出す。


「ま、まって!! そんな!!」


「小鳥遊………行くぞ!!」


 私の腕をつかみ走り出す。そして、詠唱が始まった。


「其は風を支配し、使役する魔術士である。故に、今ここに風の征服者として我が操る!! 操られよ風よ!! 我が使命のために!!」


 大気を揺るがす大きな詠唱。そして、世界が真っ白になる。


「絶空!!」


 私は強く強く引っ張られながら全てを吹き飛ばした白い世界を走り抜けた。そして、白かった世界が明ける。


 走り抜けたとき、誰一人追いかけては来ない。それを確認し私は腕を振り払う。


「どうした?」


「どうしたじゃない!! 死ぬってどういう事!!」


「…………そのままの意味さ。この魂も消える」


「ぐぅ!!」


 だから、その顔やめて…………その覚悟を決めた顔………やめて。貴方は本当にトキヤみたいだよ。


「うぅうぅ………」


「泣くなって。偽物が消えるだけだから」


「だって……偽物でも………トキヤです」


「…………泣くな!!」


「は、はい!?」


 すっごい大きい怒声で体が反応した。


「泣くなら帰ってから奴の胸で泣け」


「あっあぅ………」


「逢いたいだろ?」


「あ、逢いたい」


 顔を伏せながら、私は願望を口にする。


「なら。行こうか」


「…………」


 私は私のために彼を利用する気がした。罪悪感を抱く。悪いことをしているような気がして足取りが重い。そんな中で切り抜けた先、学校の校庭に私たち到着をした。到着を待っていたのは、またあの女王。彼女だけ待ち伏せる。


「逃げられないわよ」


「しつこいな。どうやって………」


「空を飛べるの天使だから」


「そうか………女王さん。一騎打ちでもどうかな?」


「嫌よ。あなたたち二人を倒さずともそこの女の足を切り落とせばいいもの」


「そっか………」


 時也が魔法で私の耳に伝える。音の魔法。


「俺が切り込んだら、屋上へ上がれ。迎えが来るはずだ。鋼の迎えがな」


「で、でも………」


「大丈夫、絶対に帰す。彼の元へ」


「………うぅ」


「じゃぁ行け!!」


 彼は剣を担いで彼女に斬りかかり、私は目を閉じて走り抜けた。




























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