都市ヘルカイト⑫ 残された天国の塔..
年始から一ヶ月まえにギルドで重大な発見があった。北の凍れる大地より少し下、腐竜ナスティが治める地より西側。都市ヘルカイトから北側に不可思議な砂漠地帯がある。その、砂漠地帯で塔が立っていると目撃証言があがったのだ。新しいダンジョンである。
未開地と思われた場所に文明の利器があり、都市ヘルカイトの冒険者は我先にとそこへ殺到。しかし、多くの者たちは帰ってこず。帰って来た者もあの塔はヤバイっといい。二度と向かうことはない。それをまた聞き………冒険者たちが無謀に立ち向かった。
年始から一週間。その塔について緊急の会議がギルドで行われた。あまりに不思議な塔の調査をヘルカイトが指示したのだ。そして私たちは集められたのだった。私は紅茶を人数分。ギルドの獣人の受付とリディアと共に準備する。
「クッキー焼いてきたのもあります。今日はリディアが焼いてきました」
「お姉さま。紅茶4人分」
「はーい。わかったわ」
「すいません!! 私が準備しますから」
受付の女の子の制止を聞きながらもテキパキと用意する。
「ネフィア、リディアさん。こっち側、作戦練る側な。主力だからな」
「えっ!? 私!! 洗濯物そのままで来ちゃいましたよ!!」
「お姉さまと一緒で私もです!!」
「おい!! 言ったじゃないか!!」
「いいえ!! ただ、『ギルドに来い』と」
「私も、お茶出しかと……」
「リディア。すまない………君の助けが必要だったんだ説明不足だったよ」
「は、はい!! ランスのためなら!!」
「ちょっとチョロくありません? リディアちゃん」
「お姉さまが言うのは『おかしい』と思いますよ? 鏡をお持ちしましょうか? それでじっくり眺められてください」
「ネフィア、そうだぞ。お前もチョロいぞ」
「そんなことは!!」
「ネフィア。俺の膝に来るか?」
「はい!!…………い、いや!! 違うんです!! 口が勝手に!!」
私はチョロくない。チョロくないっと自分に言い聞かせる。ただトキヤが好きなだけなの。
「おい。早く座れ!! 話ができん!!」
「す、すいません。領主さん」
私が怒られてしまった。仕方がなくトキヤの膝の上に座る。もちろん姫様座りだ。
「ネフィア。わざわざ俺の所に座るなよ……」
「言い出したのはトキヤです。顔がよく見えますよ。格好いい、お顔が」
「ああ~ええっと」
「何度も何度も見ても飽きません」
「そっか………ちょっと照れるな」
「おい!! お前ら二人の世界へ行くな!! 会議だろうが!! ふざけるな!!」
「ネフィアのお姉さん。僕、久しぶりに会ったけど変わってないね。それより悪化してるよ」
デラスティに飽きられ、またまたヘルカイトに怒られたが、ここを動く気はない。ヘルカイトは溜め息を吐きながらそのまま話をし出す。
メンバーは皆顔見知りで統一されている。領主ヘルカイト。腐竜ナスティ。飛竜デラスティ。人間のランスロット。蜘蛛女リディアだ。容姿で言うなら巨体の男。中性的な麗人の女性。小さな子供。帝国の王子。蜘蛛の亞人となり、多種多様な容姿を持っている。
「では………会議を始める」
ヘルカイトが重々しく口を開いた。
「…………」
しかし、じゃべらない。鼻を掻く。
「………うむ」
今度は腕を組み、首を傾げて悩んでる。
「……………………う~む」
話が続かない。
「えっと……」
「都市ヘルカイトの北。天国の塔についての会議です。領主に代わり私がお話をさせていただきます」
「……………おう」
「ヘル。何か話すかを考えておくのよ。普通」
「………………」
私は直感する。すでにヘルカイトは尻にしかれつつある。いや………地頭の良さが決定的な差を広げてしまっている。流石、隠れて農場経営してたお方である。
「冒険者失踪が続いている現状。野良の冒険者では探索できない物と思われるわ。空からは見えず。歩き蜃気楼のように立つ塔。非情に強力な魔法がかかっている。塔自体が魔法具と見て間違いがない」
「あの、質問いい?」
「ネフィア? 何か?」
「どうして今になって? 長く住んでいたのでしょう?」
「空から見えないのよ。それに砂漠に入って少ししてから中心に塔が見えるようになる。危険なモンスターも多い中で見に行く者はいませんでした。私も危険な地域としてライン引きしてたの」
「空から頂上は?」
「まって。質問はあとで。最後まで話をするから」
腐竜が壁に張ってある地図を用意し赤い印と範囲を書く。
「赤い印は塔がある場所。ラインは魔法攻撃とガーゴイルが現れるラインよ。今までいかなかったのはこういうのがあって危なかったからよ。頂上も目指したいですがすでに冒険者の竜人に被害が出てます。塔も障壁で壊せません」
「本当に塔自体がアーティファクトだな。神具かもしれない」
「トキヤ~そんなものあるわけないよ~」
「ネフィア。お前は一回見ている知っている」
「えっ? なんかありましたっけ?」
「一番始めにお前を連れ去ったアーティファクトが神具だ。魔国から一瞬で時空転移を完了させた羽。あるんだよ…………俺らに予想が出来ない物が古くからある」
「ええ、詳しいですね。私たちの時代にもありました。そこで、集めた理由がもうお分かりでしょう?」
腐竜が皆をジーと見た。
「グハハハ!! そうだ塔を破壊する!!」
「我々によって塔の探索!! 危険物をほったらかしに出来ないわ。ヘルは黙って」
「は、破壊………ワシは破壊がいいと思うぞ?」
「ヘル、黙る。破壊できなかったでしょ?」
「……………」
「外と中に別れて探索する。パーティは外は私たちドラゴンが。中はあなたたちにお願いするわ」
つまり、私とトキヤ。リディアとランスロットが中を探索するとなる。
「いいかしら? 報酬は商会から沢山いただける。目的は野良の冒険者の安全のために探索」
「嫌です」
私はトキヤの膝上から降り、部屋を出ようとする。
「どうして? 報酬は約束されているわ」
「聞けば危険な場所であり、荒事は男のお仕事でしょう。私は家で帰りを待ちます。トキヤなら大丈夫でしょうし」
「イチゴジャム沢山買えるわよ」
「物で釣られるわけないでしょ?」
「ネフィアさん。僕からもお願いします」
「ごめんなさいランスロットさん。大人しく家を守ります」
「ネフィアお姉さま。私からもお願いします」
「リディア。別に男に任せてもいいと思うわ」
「領主命令だ」
「では、処罰をどうぞ。か弱い女性ですよ?」
私のワガママにデラスティが呆れる。
「ネフィアお姉さん。竜姉みたいな事言うんだね」
「うーん…………ごめんね。家でのんびりしたいの」
何故ここまで引き留められるのか疑問に思う。皆がトキヤを見つめ。彼が立ち上がり私の肩を掴む。
「トキヤがいれば大丈夫。信じてる」
「俺だけではダメだ。お前の力がいる」
「いる?」
「ああ、俺はお前が必要だと判断したから呼んだんだ。それに長い間、戦ってきた仲間であり最高の相棒であり嫁であるお前と一緒じゃないと嫌なんだ。頼む………ネフィア。俺と共に来てくれ」
「はい、喜んで!! 期待に答えます!!」
「「「チョロ!?」」」
全員が机を叩き私を指差して文句を言う。
「ちょろくない!! ただ、好きな人に頼まれたら断れないでしょ!!」
「ネフィアお姉さま………それがチョロいっと言われるんです!!」
「まぁ、これで大丈夫だな。ありがとうネフィア。嘘じゃないからな………一応」
トキヤが鼻を掻く。
「大丈夫、知ってるからね。真面目に見つめてたもん」
「ネフィア………」
「トキヤ………」
「はい!! そこのバカップル!! 席につくの!!」
ナスティに怒鳴られて私は渋々、用意された席に座るのだった。
*
次の日。塔の真下に私たちは集合する。荷物等をヘルカイトが背負って運んできた。馬車は砂漠では砂に足をとられてしまう。しかし、ドラゴンは途中まで飛んでこれるし荷物も持って貰えた。本当に便利でいつか空が「竜の荷物運びばっかりなったりして」と思う。
「よし、行くぞ」
トキヤの声かけに足を踏み入れる。砂漠だが非情に寒く、入口に入った。
「荷物は中に入れとくぞ」
ヘルカイトが荷物を塔の入口の中に置いておく。屋根があるところで保管。非常食の薫製された肉等や携帯の回復薬が入っている。リディアが大きいバックを背負い。それを見てナスティが皆を見渡し話始めたた。
「ヘルカイトと私。デラスティは私と外から攻略します。行きますよ」
「はい!! ナスティお姉さん!! 僕頑張るよ!!」
「うんうん………性悪火竜のボルケーノが育てたと思えないぐらい、いい子ね」
「ワシが育てた」
ヘルカイトが胸を張る。嘘は言っていない。
「竜姉の悪口言わないで欲しいけど。来なかったから……仕方ないよね。あと兄貴のお陰だよ!!」
「おう!! 坊主!! 立派になったな!! がははは」
「ヘルみたいになっちゃダメよ」
「………おい。お前、ワシに惚れてるんじゃないのか?」
「ダメな所も好きなだけよ。にしても火竜が来なかったけども頑張りましょ」
人の姿から3人、形を変える。紅い、鋭い牙の犬歯を持つヘルカイトと4枚の翼を持ちながらツギハギの細身の紫のドラゴン。そして、二人より小さく手が翼になっているワイバーン。ワイバーンは置いてある剣を拾い上げ脇に挿す。比較してわかる。ドラゴンとワイバーンの体格差。しかし臆する事なく一緒にいる。それは実力が認められているからだろう。
実は私は知っている。今はあのワイバーンがここの誰よりも強いことを。
「では、行きましょう。中の探索、任せました!!」
「デラスティ。落ちるなよ」
「兄貴こそ」
ぶわっ!!!
砂が舞い上がり。3匹の魔物が空を飛ぶ。そして塔からガーゴイル達が現れ、激しい空中戦を繰り広げる。私たちはそれを横目に階段に向かう。
階段も冷えており。暗い。
「よし。パーティのリーダーを決めるぞ」
「贔屓ではないけどトキヤ」
「トキヤさん」
「トキヤだね。僕は前線、張るからね。君は遊撃だ」
「…………了解」
トキヤが地面にみんなの役割を書く。
「ランスロットが全ての攻撃を防ぐ盾役だ」
「そのつもりです。昔からの戦い方ですね」
「ああ。俺は2番手。アタッカーを努め、側面や機動力で翻弄。背後からでも仕留めるし、急遽の盾役もこなす………まぁ臨機応変だ」
器用貧乏と言えばいいが結構便利なのだ。
「私は?」
「ネフィア、お前は聖職者として回復魔法を主体に後方支援を頼みながら魔法で支援が主だ。リディアは絶対回復役だ。ネフィアの攻撃時も回復だけを重視してくれ」
「わかりました」
「一応、登っていくが危険と判断すれば降りる以上!! 質問は!!」
「トキヤ!! 先に魔法の先行は?」
「そうだな。索敵はネフィアに任せる」
「わかったよ」
私の肩に火の鳥がとまる。
「よし、行くぞ」
トキヤが剣を構え。ランスロットが盾を構え。私は火の鳥を構え。リディアが杖を構える。
目の前の階段から自分達は上へ上がるのだった。
*
「…………また来たか。我が塔に」
塔の外と中で激しい戦闘の音が響き渡り我が塔を揺るがす。杖で地面に叩き作成していたガーゴイルとゴーレムを起こして向かわせる。
状況を見るために視覚を伝達出来るゴーレムとガーゴイルを動かして様子を伺った。
外の状況は3匹のドラゴンが飛び。ガーゴイルを次々に砕く。中は恐ろしいことに火の鳥がゴーレムを溶かす。土属性は火に強いと言う常識を無視したような状態だ。その魔法の主は二人の男に護られゴーレムの攻撃が届かない。
「…………ふむ。精鋭か」
我は階段を登り屋上に出た後。冬の晴天の下で縁に立ち眼下遥か下を覗く。
「起動」
杖を叩き、塔に指令を出す。迎撃のために石でできた槍が塔から生え下方に向いた。そして、それは勢いよく打ち出される。
「何人たりとも頂を到達させない」
せっかくここまで伸ばしたんだ。横取りなぞさせない。これだけの槍の雨なら外の敵は大丈夫だろう。
「問題は中」
目的はわからないが冒険者なら、何も無いと言えば帰るだろう。殺せないなら説得するまで。我は塔に自分の声を響き渡らせた。
*
私たちは階段を上がる。上を目指す。ゴーレム等、魔造の魔物がそれを阻み続ける。
「なげーな………しかも多い」
「トキヤ!! ちょっと来て!!」
「なんだ!! 目の前のゴーレムを!!」
「ちょっとだけだぞ」
私は彼を呼び寄せ、近付いて来たところ顔をつかんで深く彼の唇を奪う。
「んぐ!?」
「んっ………ん!!」
「ぷは!! ネフィア!! 今は戦闘中!!」
「遊んでない!! 大丈夫!! まだ、燃える!!」
離れ叫ぶ。トキヤからいただいた魔力で継続戦闘が出来るようになった。
「フェニックス!! まだ燃え尽きるには早いわ!!」
ゴーレムの真下から火の鳥が舞い上がりゴーレムを溶かしながら頂上へ続く階段を上がっていく。
「ネフィア………お前、魔力は無尽蔵か?」
「トキヤが居る限り燃え尽きないの!! 私の炎が取りこぼした魔造の敵をお願いします」
人型のゴーレムとは違い。蜘蛛のような魔物が壁をはい廻る。冒険者の死体を蹴り飛ばしながら、ランスロットが剣を振り剣撃を飛ばす。
「たとえ、聖剣の贋作でも。意地を見せろ‼」
剣が光りを放ち。剣圧が飛んでいき蜘蛛を真っ二つにする。
「はぁ……多いですね」
「ネフィア……上は?」
「音的にまだ………沢山」
「お姉さま。休憩しましょう!! ここで蜘蛛の罠を張ります」
リディアが蜘蛛の糸を張り巡らして部屋を作る。そこで、リュックから薬品を取り出して彼女は魔力を補充した。私の魔力も残り少ない。冒険者の死体を祝福し燃やて供養したためだ。フェニックスの維持は違う力だが………音で探知する魔法と歌による強化魔法は魔力を必要とした。
「はぁ………あとどれくらいなんだ?」
「僕も驚いてます。敵の多さに」
「ランス。大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。戦場より気楽ですから」
「それを言ったら楽だな。俺の魔法………厳しいな。土属性は本当に魔法防御が堅い」
魔法の相性が悪い。私の炎が通るのは規格外だからだと自負している。自信もある。
「外はどうなんだろうな?」
「音が激しいからまだ戦ってるんだと思う」
窓は解放されている。そこから光が入り、フロアを照らす。階層は何層にも重なり続いていた。宝はない。解放された場所から音が聞こえるだけである。激しくぶつかり合う音。粉々に砕けた石が落ちるのが窓から見えた。
「先に………外が頂上へつきそう」
「ああ………!?」
ひゅうううう!!
外の風景に岩の槍が混じり出す。
「外は激しいな。攻撃受けているじゃないか」
「………早くあがろう」
外はあまり進めないかもしれない。
「………何故、お前達は登る」
「!?」
「ネフィア!! 何処から聞こえた!!」
「ネフィアさん。リディア。僕の後ろへ」
「大丈夫です。この巣はそうそう破れたりしませんランス」
「声の主は…………上から」
皆が上を見上げる。浮遊した瞳がギョロと私たちを見つめた。魔法具だろう。
「何故、上を目指す。宝なぞない、冒険者よ」
「………お前は誰だ?」
「我が名はアバオアクゥー。リッチだ。我の塔になんのようだ冒険者!! お前らが望む物はない!!」
「えっと………お家ですか?」
私たちは顔を見合わせてばつが悪い気持ちになる。人様の家に忍び込んで暴れている。怒られる。
「…………いいや。ここは天国へ至るために造っている塔だ。用がないなら帰れ!!」
「天国へ? 天国があるのか?」
「僕もちょっとビックリですね」
「天国?」
「そうだ、天国だ。お前らに関係はないだろ有限な生者よ………帰れ」
「………確かに関係はないですね。トキヤさん」
「ああ、なぁ教えてくれ。何故この塔を作った? 何故………冒険者を始末した? 荒らされたくないからか?」
瞳がギョロっと上を見上げる。
「聞いてどうする?」
「………俺らが来たのは知らない物の探索と冒険者の安否。あとは危ないものかどうかと判断しに来た。宝が目標じゃない」
「危ない物なら?」
「近寄らない。他の冒険者は生きてるか?」
「お前らが一番高い位置まで来た」
「なら………私が供養したので全員ね………」
これ以上、上には冒険者はいないらしい。生存者ゼロだった。
「さぁ、降りろ。天国への道を邪魔をするな」
「…………私たちのここへ来た理由を話しました。次は天国へ行く理由を」
「……………ふん」
瞳が目を閉じて黙り込んだ。何故か………悲しい気持ちになる。何故一人で、こんな塔を。
「リッチ、俺達は帰る。問題はないだろ」
「ああ、帰れば何もしない」
「ネフィア、火を戻して…………」
「嫌だ」
「ネフィア!!」
「話しなさい理由をアバオアクゥー」
「何故話す必要が?」
「天国を目指す理由は死ぬためですか?」
「…………それがどうした。我はリッチなり。死ぬことはない。死に場所を求めて何が悪い」
「何故死のうと?」
「……………」
私の魂ではない心が反応する。勘が働く。
「知らん………」
「ネフィア!! 帰るぞ‼ 他人の家だろ‼」
「ええ、でも寂しい家です」
愛の女神が囁く。「行けと!! 高みを上れと!! 翼を広げろ」と囁き、心を燃やす。
「頂上に居るのですね」
「………それがどうした?」
「直接会いに行きます」
「………愚かなり」
「ええ、愚かです。しかし、理由を知りたい」
「ネフィア!!」
「ごめん。皆は降りて、ここからは一人で行く。あれぐらい……行ける」
「…………その顔。行くんだな。ランスロット、リディアさん。ありがとう、降りてくれ」
「…………いいえ。最後まで付き合います」
「夫と同じです」
「だっそうだ。ネフィア」
「………ありがとう」
「愚かなり!! 何も無いと言っておる!!」
「ありますよ、きっと」
私は本能のまま頂上を目指す。誰かが寂しく呼んでいる気がして。




