都市ヘルカイト⑩ 木の下に埋まる呪物、ネフィアの膝枕..
年の終わりが訪れた。時が経つのは早いなと感慨深くなる日々をすごし、昨年は商業都市で年末年始を迎え、あれから1年もたって幸せだった事を噛み締める。
「ふぅ、今年の厄は今年のうちに落としましょう」
一応、依頼された聖職者の仕事と屋根裏のゴミどもを掃除するためにユグドラシルの木の元へ集めた。穴を掘り、その穴に投げ入れる。盾、剣、貴金属等肌に触れる物が多く人を不幸にするために作られた物もある。
「ネフィアお姉さん………あの。私の所に埋めるのやめて欲しいんですけど」
「ワンちゃん禁止令出すよ?」
「…………ぐすん」
「ご主人………ユグドラシル殿泣いておられるが………」
「大丈夫。そのまま埋めないから……ね?」
「うぅ………ワンちゃん」
「ご主人………お情けを」
「まぁ!! 待って大丈夫だから!!」
最近、私が飼っているドレイクを本当に気に入ったようだ。ワンちゃんの手入れもしたり、一緒に寝たりとする。土竜とドリアードは相性が良いのだろう。ワンちゃんが私の服を引っ張る。不安なのだ。
「まぁその………見てなさい」
私は気にせずに背中から炎の翼を広げ、そして掘った穴に向けて叫ぶ。
「フェニックス!!」
背中から火の鳥が現れ、穴に入り。呪いの物品を燃やす。そして私は歌を詠う、鎮魂歌を。それを見ていたワンちゃんとユグドラシルが大人しくなり、私の声に聞き惚れた。穴の中は全て溶け合い、呻き声も聞こえなくなる。依り代が無くなったために全ての悪霊が諦めて、苦しむ魂も解放されてフェニックスに混じっていく。
「ささっと、転生しなさい」
歌を終えフェニックスが雪がかかった木を溶かしながら旋回しゆっくり空へと上がった。そこで、小さな火種たちに分裂し、もっともっと空へと上がる。あとは女神に任せよう。
「お姉さまスゴい!!」
「さすが、ご主人」
「一応、聖職者ですから無理矢理怖い物を成仏させる事が出来るんです。後は埋めましょう」
「うん!! 私も、彼らには落ち着いて成仏して欲しいから………私の下で静かに眠って欲しいな」
最初は嫌がってたユグドラシルちゃんも納得してくれたようだ。土を戻し、呪物だった物が埋まった。
「良かった~ワンちゃん禁止令出なくて。ねっ? ワンちゃん」
「ええっと………あまりご主人の元を離れるのは………」
「ワンちゃん………」
「ええ!! 嬉しゅうございます!!」
「ワンちゃ~ん♪」
見た目が大きくとも中身はまだまだ子供。例え胸が大きく。色んな雄が金持ちの姫を狙っているとも知らずに無邪気にドレイクと戯れる。
「ワングランド。余が命ずる………ユグドラシルちゃんのお守りを任せよう」
「ご主人!? 捨てるのですか!?」
「ちがーう!! ユグドラシルちゃんは幼い。お父さんも仕事で寂しいでしょうから………私が必要になるまで一緒に居てあげて」
「あぁ~よかった。捨てられるかと思いました。ワン」
「あのね……私が言うのもなんだけど誇りってないの? エルダードラゴンでしょ?」
「誇りは翼と共に捨てた」
「ワンちゃんかっこいい!! かっこいいよぉ!! ワンちゃん!!」
「ご主人。嘘つきました。ちやほやされる今がいいのです。凄く」
「え、ええ。まぁうん………今がいいのですね。じゃ~私は帰りますね。晩飯の支度しなくちゃいけませんから。晩飯には帰ってくるのよ?」
「はい!! お疲れさまでした!!」
「ご主人、わかったよ」
私はドレイクを置いてその場を後にした。
*
「ただいま」
「おかえり。私にする? 私にする? 私にする?」
「めぇ~しぃ~」
「4択目を用意するとは………まぁ今日は鳥の香草焼きです」
「それで………いい匂いが」
「ええ」
トキヤが帰ってきたのをいつものように迎える。ドレイクはご飯を食べ終わるや、ユグドラシルの元へ。一緒に年を越すらしい。そして、ご飯を食べ終わり。食器を片付けているとトキヤが耳かきを用意しテーブルに置いた。一言も喋らないが何をして欲しいかがわかる。
「待ってね。水洗い終わったら」
トキヤはすでにソフィーで正座をして準備していた。
「そんなに期待されても………ただの耳掻きでしょ?」
「果たしてそうか? お前ならわかるんじゃないか?」
「…………わかるけど」
自分の太ももの軟らかさは知っている。婬魔以前に男だったからだ。女性の暖かさも軟らかさも彼を誘惑する武器である。ただの耳掻きでも、男と女では感じ方が全く違う事を本能で理解する。
「男のときに一度も味わったことないもん」
「そっか………残念だな。めっちゃいいぞ」
「そうなんだ」
「早く」
「もう、急かさない」
手の水を拭き取りエプロンを脱ぐ。スカートを折り曲げて短く調整して、生足で出来るようにする。テーブルにある耳掻き道具を持ってソフィーに座った。
「やっと来たか。頼むぞ」
トキヤが頭を私の太ももの上に置く。手は右手だけ太ももを触る。
「あー軟らかい。いい匂い。もちもちすべすべ~胸も下から見えるのもいいなぁ~」
「トキヤ………耳掻きしなくても膝枕ぐらいするよ?」
「あのな……これで耳掻きして貰うのがいいんだよ。わかるだろ?」
「気付いたら女の子でした。わかんないです」
「ああ~にしてもいいなぁ~」
「最近、本当に変態さんだね」
「最近、本当にかわいいからな。お前が」
「嬉しい」
頬に手を置いて笑みを彼に向ける。
「本当に可愛くなった。出会った時から」
私は綿の先で耳を綺麗にする。トキヤの風の魔法を使えばすぐに耳掻きは終わるはずなのに彼は欲に忠実だ。
「痛かったら言ってね」
「わかったよ、ネフィア。それより年末だな」
「うん。そうだね………何か話したいから耳掻き頼んだんでしょ? な~に?」
「やっぱ、わかるんだな…………あれから1年だ」
「1年だね。色々あったね」
「色々あった。一番楽しい1年だ。2年前は死にかけたのになぁ~今回は危ない事はあったけどなんとかなったな」
「2年前が本当に辛かったけど………今ではいい想い出」
「おれは、2年前から予想外なのはこんなに好いてくれるとは思わなかった事かな?」
「トキヤ格好いいから仕方ないね」
「そりゃ~モテるし~モテるし~」
「嘘……じゃぁないよね。知ってる? 紫蘭さん………トキヤの事を………いいえ何でもない」
「………やっぱり?」
昔にトキヤと一騎討ちした女性。強く気高く逞しく。私にも影響を与えた人の一人。居合いが得意な人で私もアレンジした技を持っている。
「うん。わかってたの?」
「いや。ここで初めて確証を得たよ………畜生」
悔しがる彼。それを見て私も悔しい思いになる。何故あのとき止めなかったのかを………今になって少し後悔した。今なら話を出来るのに。
「胸、そこそこあったし………綺麗だったのに」
「鼓膜刺すぞ」
「冗談だって!! 冗談!!」
「愛した女性を愚弄した。怒るよ?」
「すでにめっちゃ怒ってる!!」
「はぁ………片耳無くていいね?」
「待ってくれ!! ネフィアの綺麗な声と歌が聞き取りづらくなるのはイヤだぁ!!」
「くぅ……ま、まぁ許しましょう」
ごめんなさい紫蘭さん。こんなこと言われたら怒れません無理です。ニヤケが止まりません。
「はぁ………甘いなぁ私。こっちの耳はいいよ。反対向いてね」
「へい」
トキヤがくるんっと寝返り打つ。トキヤの顔の向きが少し……あれですが。気にせず耳掻きを行う。
「ああ、めっちゃ見える。スカートの中」
「いちいち口に出さない。手元が狂うよ?」
「仕方ねぇだろ………太もも気持ちいいし今度は可愛い下着も見れる」
「ごめん。今本当に危ないから少し黙ろうか?」
「………釣れないなぁ」
「後でいっぱい聞いてあげるから」
「頼むぞ」
私は夢中で彼の耳を掃除する。ちょっとハマったかもしれなかった。
*
深夜。商業都市のように年末らしいことはこの都市はまだないらしく私たちはすぐにベットに横になる。逢瀬に関しては耳掻き後に押し倒された。
「トキヤ。起きてる?」
「起きてるぞ」
「まだ、おやすみ言ってなかったね」
「横になっただけだしな」
「…………今年最後です。何かないですか?」
「おう、おやすみ」
「起きたら殴るよ?」
「いやいや………姫納めしたし。何もないよね?」
「男に戻ろっかなぁ~」
「戻れるの?」
「願えば………ごめんなさい。無理です」
「だろうな~」
「むぅ。どうしてわかるの?」
「だって、俺のこと好きなうちは無理だろ」
私は肯定しない。枕に顔を埋める。
「ネフィア恥ずかしいか?」
枕に沈めたまんまで頷く。
「俺も恥ずかしいが。言わないと落ち着かないんだ。しっかり聞いてくれよ」
「ぷふぁ!! トキヤ~甘い」
「お前の方が甘い」
「…………じゃぁお揃い」
「そこが甘い」
深夜のテンションは何故か変になる気がする。月明かりに照らされた好きな人の表情を間近で見続ける。飽きることがなかった。
「ねぇ、美人は3日で飽きて。ブスは3日でなれるって知ってる?」
「知ってる」
「飽きた?」
「慣れはした」
「そ、そう………」
「だけど、慣れたからこそ。こうやって………」
私のおでこに彼の唇が触れる。
「大胆になれる」
「むきゅ~」
私はその大胆さにまだ慣れないようだ。家に落ち着き変わったのだきっと。余裕もある。
「ネフィア。すまん………眠気が来た」
「そ、そうなんだ。私は今ので鼓動が早くなちゃった」
「ん………ああ。本当にすまない。先に寝るわ」
「………うん。その………手を握って」
「ああ………」
「おやすみ。トキヤ………起きたら一番におはよう言うね」
「うん…………すぅ」
私も目を閉じる。彼の大きな手の感触を感じながら。明日に希望を持って夢に潜るのだった。




