都市ヘルカイト⑨ 帝国から送られた聖剣..
ある日、私たちの家にギルド長となったランスロットとリディアが遊びに来た。「遊びに来た」と言うより………なんとも。緊張した面持ちで玄関前に立っている。
「最近、魔国の呪われた品を『浄化されている』と聞きました」
「ごめんなさい。お帰りください」
「ネフィアお姉さま!?」
リディアが驚いた声をあげた。仕方ないの、もう持ってこないで欲しいだけなの。面倒なの凄く。
「ランスロット? どうした、うちに来て」
トキヤもちょうど帰って来ていた。トキヤはリビングから顔を出し仕事は終わったことをランスロットに玄関先で伝え合う。よくわからない内容で、こういう仕事は男の人に任せるに限ると思った。
「入れてやれよ。ネフィア」
「うぅ………ゴミ箱じゃぁ~ないんですよ~家は」
この前から、けっこうな量が魔国から届き。屋根裏に保管している。幽霊は出ないが屋根裏に上がると夜な夜な呻き声がする。「うるさい」と怒ってもだ。
「すいません。しかし………これを」
ランスロットが私たちに一本の装飾された綺麗な鞘に納まる剣を見せる。
「帝国から送られて来ました」
「ランス!? それは!!」
「ええ、僕も疑ってたんですが」
「ネフィア。上げろ………今回は呪物じゃない」
「わ、わかった」
トキヤの真剣な目に押されリビングへ案内する。紅茶を沸かし、クッキーと共にお出しする。
「僕はこれが好きなんです。美味しいですね。さすがはネフィアさんっと言ったところです。美味しい」
「お前、これを食べに来たわけじゃないだろ?」
「んん………分量も一緒なのに………私のより美味しそうに食べてる」
蜘蛛姫がしょんぼりし、ランスロットが慌てて言葉で取り繕う。
「いや、だから………ランス。嫁を慰めに来たわけじゃないだろ?」
「今は!! そちらより大事です!! リディア!! そっぽ向かないでくれ‼」
「ふん!! いいですよいいですよ………私のよりうまいですもん………悔しいですけど」
「えーと………あのね。社交辞令て言うのよ。リディアちゃん」
「…………ネフィア姉さんが言うなら。信じます」
「おれ、お前らに怒っていい?」
「トキヤ、大丈夫です。なんとかなりました」
「すっげー汗かいてるけど」
「大丈夫です。冷や汗です」
尻にしかれている帝国の元皇子さま。何故か少し「可愛いな」と思う。そして、その可愛いランスロットが剣をテーブルに置いた。なお、アラクネが私を睨む。内心を察したのだろう。牽制だ。
「でっ………ランスロット。帝国からこれが送られたのか?」
「はい。妹からお兄様にあげると言われ驚いています」
「本物だよなぁ……俺も何度も見たことがある」
「ええ、でも。こんなのがここにあってはいけません」
「ねぇねぇお二人。この剣ってもしかして………聖剣エクスカリバー?」
私は過去の夢で見たことがある気がする。その刀身は白金と金の輝きを放ち。「持つ者を勝利へと誘う」と言われる剣だ。
「ネフィア、知ってるんだな。そうだ、聖剣エクスカリバーだ。別名、王を選定する剣」
「そうです。僕は何故か抜くことができる。そしてこの剣で戦っておりました」
「綺麗な剣ですね。ネフィアお姉さま」
「ええ、鞘がすごく綺麗」
「何故送られてきたんだ?」
「それが僕にもさっぱり………」
「ランスロットが王だから?」
「いいえ、王位継承権は剥奪されている筈です」
「仲間殺しだからな」
「…………何故でしょう?」
聖剣を送られた理由を悩んでいる二人。
「偽物なら嫌味で贈るが………本物はないと困るのでは?」
「本物を偽物と交換させる事を考えたのです。しかし、本物を贈る方がおかしい。隠しておけばいいと思います」
「…………いや。お前に託す理由がある筈だ」
「妹ですよ?」
「絶対裏があるな………ああぁ。わからん」
「僕以外に抜くことが出来なかったのかな?」
「かもしれない。それだったら偽物を用意するな。でっ………安全に保管する。しかし、送って来たのがおかしいよなぁ…………いや!!」
トキヤが立ち上がりリビングを歩きながら考える。
「ランスロット!! 新しい王位継承権の候補者を探してるんだ!!」
「な、なんだって!!」
「偽物でも庶民はわからない。抜けばいい。新しい王の候補者の何人かを」
「そ、そうか………僕以外に抜ければ義兄上たちも王に」
「でっ、王位継承権がない奴に剣を渡すと紛失扱いだ。仲間殺しの『これが本物の聖剣』と言う言葉なんて誰も信じないし聞かない。たとえ本物でもな」
「なるほど!! 流石トキヤ!! わからなかったよ!!」
ランスロットも立ち上がりトキヤの肩を叩くきながら感謝していた。
私は本当に抜けないのか気になったので「ちょっと挑戦しよ」と軽い気持ちで剣を持ち、少し力を入れる。
スルッ
「えっ?」
「お、お姉さま?」
スルッと抜けてしまった。白金の光沢に金色の文字。あまりに綺麗で宝石のような刀身はシャンデリアに照らされて輝きを放つ。
そして、剣を持つ私に皆の視線が集まり恐る恐る剣を鞘に戻す。
「ぬ、抜けちゃった。ごめん………出来心で………ごめんなさい。そんな怖い顔で見つめないで………」
ランスロットとトキヤが鬼の形相で私を見つめる。泣きそう。軽い気持ちでだったのに。そんなに睨まれるなんて。
「ネフィア、もう一度抜け」
「ええ、もう一度」
「う、うん」
恐る恐る抜く。
スルッ
「……………」
沈黙がリビングを満たす。私はいたたまれず再度鞘に戻した。すごくいけない事をしているようだ。
「ネフィア、俺に貸せ」
剣を鞘に戻してトキヤに手渡す。スルッとトキヤも抜ける。
「ランスロット。リディアさんにも」
「あ、ああ。リディア抜いてみてくれ」
「は、はい………」
蜘蛛姫リディアに剣を手渡し彼女も引き抜く。スルッと。
「ランス」
「トキヤ」
男同士見つめ合い頷く。
「偽物だぁ!!」
「偽物です!!」
そして、二人は叫び合う。私はフッと気が楽になった。恐怖で出た涙を拭う。
「くっそ!! 騙された!!」
「妹です!! だまして笑ってるんでしょ、きっと!! 苛立ちますね!!」
「本当にな!! 偽物ならただの嫌がらせだよ!! お前に王位継承権なんかないぞ!! 『偽物で遊んでろ』て事だろ!!」
「これは許せませんね!! 寝ずに悩んだのは何だったのか………はぁ」
二人が帝国の姫の悪口を言い合う。嫌われすぎじゃないですか。あの子、今ならちょっと同情します。勝ちましたので。
「はぁ………どうする? その剣」
「偽物ですが業物なのは確かです。僕の剣にします」
「そうか………良かったな」
「まぁ贋作でもいい剣です。騙されましたし」
二人の会話を聞きながら。ふと、私は何故か剣の名前を思い付く。
「じゃ!! 名前はエクスカリパーですね!!」
「ははは!! いいなそれ!! 贋作らしい名前」
「いいでしょう、聖剣エクスカリパー!! ぐふぅ………なんですか、その気の抜けた名前………くす」
あまりの気の抜けた名前に皆で笑い合うのだった。
*
帝国黒騎士団執務室。
「黒騎士団長殿。選定の剣を抜くことが出来た人は何人でしょうか?」
「ああ、姫さま。20名ですね」
「………少ない」
「少ないでしょうか? 王位継承権を持つものが20名です」
「もっと用意しないと………」
「王位継承権が多いと争いになりますね」
「蟲毒っと言うのはご存知かしら?」
「ええ、ご存知です。姫さまは人間でそれを行うと?」
「そうよ。私はなれない。だから…………選ばないといけないの」
「何故そこまで?」
「ネフィア・ネロリリス」
「あの、元魔王でしょうか? 現魔王の方が厄介でしょう」
「………女の勘。いつか必ず帝国の大きな障害になる」
「考え過ぎでは? 現段階ですでに魔国は障害です。現魔王の手腕は本物でしょう。最初は考えましたが………譲位はされ、聞けば隠居しています。譲位なので魔国は安定しているでしょう」
「…………そうね」
「それよりも良かったのですか? エクスカリバーを送っても」
「あれを誰も抜けないのがいけないの。だから贋作を用意させ抜かせている。皆、喜んでるわ」
「隠すだけで良かったのでは?」
「万が一よ。抜けない事に痺れを切らし絶対誰かが偽物と交換する。爪が甘い人はすぐに本物が盗まれ偽物とわかっちゃう。計画破綻、王位継承権も振り出しよ」
「…………ほう」
「だから、帝国内に無ければ比較しようがない。それにお兄様がもし、『本物はこれだ』と言って誰が信じます? 気持ち悪い魔物と付き合う男の言葉をね。例え偽物だと知っていても。抜ける剣を聖剣と信じたいでしょうから、王位継承権たちは。現に既に聖剣の名声は堕ちてますしね」
「はははは…………腹が黒い。知ってましたよ。私も」
「そうなの? まぁ結論。王は剣が選ぶのでは無い。人が王を選ぶの」
「その通りで御座います」
「………まぁお兄様にあげたのは皮肉も兼ねてるけどね。お兄様じゃ、『聖剣があっても何もできない』てね!! ふふふ」
*
「我が名はネフィア!! いけぇ!! エクスカリパー!!」
ザッ!! しゅん!!
剣を両手で振り、大岩を叩く。剣は折れず剣撃、剣圧で岩が切れた。私は驚く、魔法剣だこれは。
「スゴいよ!! 贋作エクスカリパー!!」
「お姉さま!!私もやってみたいです‼」
「トキヤ、帝国は恐ろしい鍛冶屋がいるようだね」
「ああ。これは…………帝国がまた勢力拡大するな」
私はリディアに剣を渡す。そして彼女も大岩を一つ魔力を込めて叩く。またスパッと切れた。
「ランス!! 見て見て!! 私も出来ました!!」
「うん。見ていましたよ。いい太刀筋です」
「まぁまだアラがあるが筋はいい」
「流石、僕の奥さんです」
「俺の嫁のほうが良かったな」
「君は何を言ってるんだい?」
「お前こそ」
「…………」
「…………」
「決着をつけよう」
「いいぜ」
胸ぐらを掴み合う。私とリディアは頷く変なところで張り合うんだから。
「トキヤ!!」
「ランス!!」
仲良く、二人を見ながら一言。馬鹿馬鹿しい喧嘩を仲裁する。
「愛してる」
「愛してます」
「ん!? え、ええ………そうですね僕もです。すいませんトキヤさん」
「ちょ!?………ああ、悪かったな」
「嫁が一番でした。それよりも人前で言わない様にあれほど言ったではないですか。リディア」
「ああ、全くだ。人前で言わない!! 恥ずかしぞ!! ネフィア」
彼らは胸ぐらの掴む手を放し照れながら私たちに話しかける。恥ずかしさで喧嘩どころじゃない。リディアと私はニコッと笑い合うのだった。




