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都市ヘルカイト⑧ 暇をもて余した元魔王と元勇者の遊び..


 呪いの枷から数日。エルフ族長に破壊した事を報告書を送った日、俺は仕事で帰りが遅くなった。


「ただいま」


「おかえり。遅かったね?」


「ギルドのルール作りと新しいギルド長を見つけたから教えてたんだ」


「へぇ~誰?」


「飛竜デラスティ。幼いが強いからな」


 飛竜デラスティ。あの、黒髪の小さい男の子で可愛い子。ショタコン火竜ボルケーノと住んでいる子だ。昔に助けてもらった恩がある。俺は寝ていたが、ネフィアがお世話になった相手。小さな体に大きな志。中々にいい青年だ。


「あの子が………そうなんだ。ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」


「はいはい。飯にする」


「ぶぅ~」


「はいはい。膨れない膨れない」


「ぷしゅー」


 リビングの椅子に俺は座る。ネフィアが料理を暖め直し、「今日は乳が入ったのでシチューにしてみた」と台所で話をする。 皿に入れ、パンを焼き。俺の目の前に用意する。一人分。


「いただきます。ん? 一人? お前は?」


 テーブルには一人分しかない。


「先に食べちゃった」


「そうか…………寂しいな」


 一緒に飯を食べてきた。今さらだが、当たり前が恋しい。


「えっ? 寂しいの?」


「こういうのは二人で喋りながら食べるのがいいんだよ。いや………俺が仕事で遅くなっただけか」


 わがまま言ってはダメだ。俺が悪い。


「ごめんね。待てば良かったね………実は悩んでたんだ~帰ってから食べるかなぁ~って」


「悩むかぁ? 早く食べても問題ないよな……悪いの俺だし」


「うん、でもね……うん」


 ネフィアはテーブルに両肘をつけて顔を横に向けた。笑みを向けながら一言口にする。


「美味しい?」


「うん、美味しい」


「そっか、良かった……」


「……えっと。眺められると食べづらい」


「ごめんなさい。トキヤが美味しそうに食べてるの眺めたかったの。だから先に食べちゃった」


「ぐふぅ!? げほげほ!!」


 俺はむせる。予想外の言葉に喉の変なところへ入ってしまった。


「ト、トキヤ!? 大丈夫!! 水いる!?」


「あ、ああ。大丈夫、大丈夫。このシチュー砂糖混じってるよ」


「えっ? そんなことないけど?」


「いや、いや………気のせいだ」


「ふふ、面白い人」


 やめてくれ。可愛いのはわかる。悶えそうだ。


「あの。ネフィアさん。あっち向いててくれませんか?」


「やーだ………好きな人を見ておきたいの」 


 俺は胸焼けを心配しながらご飯を喉に入れる。味なんかわからない。好意が熱すぎる。


「ご馳走さま」


「お粗末さまでした。紅茶、新しいの淹れるね」


「お、おう………」


 ときたま、恐ろしいほど可愛い仕草の日がある。今日はきっとそういう日だ。うん。旅してる時はまぁ仲がよかったがここまで過激な好意はなかった。


「ねぇ!! トキヤ………我は魔王!! ネフィア・ネロリリスなり!!」


 唐突に威張った。紅茶を淹れながら。


 その姿やしゃべり方で俺は「ピンッ」と頭の中で閃き、返しの言葉を放つ。


「魔王!! 俺は勇者トキヤ・ネロリリスだ!! 尋常に!!」


「待った!!」


「どうした? 乗ってやったのに?」


「名前、ネロリリスが同じだとただの親族の喧嘩だよ」


「そ、そっか………こだわるなぁ」


「台本で矛盾はだめ」


「そういえば………お前は元女優だった」


 一時期、劇場で歌い踊っていた。才能はあるが、熱意はない。しかし、本当に恐ろしいほどの才能だった。とにかく歌が卑怯なのだ。表現が他を逸する。声を演じるではない声を作るのだ。


「じゃぁ………俺はお前を倒す勇者だ!!」


「……………余が思うほどしっくりこないな」


「ええ~」


「我が求む勇者とは違う。なんか……うん」


「魔王、お前を倒し世界を救ってやる!!」


「おっ!!…………おほん。お前かが? 冗談は寝てから言え!!」


 けっこう面白い。だが、物足りない。


「うーん。物足りん。ネフィアの声が軽すぎるし、なんか違う」


「トキヤも勇者らしい声じゃない………そう!! 俳優の時は役になりきらなければならない」


「じゃぁ………勇者むりかぁ」


「ええ、そこで諦める~?」


「ランスロットなら勇者だよなぁ」


「ああ、確かに………」


「俺はどっちかっと言うと…………」


 紅茶を啜りながら少し考えた後、俺はワルノリで演じる。


「俺が魔王だ。勇者よ…………長い間お前を観察させて貰った」


「あなたが魔王だったの!? そんな!!」


 もちろんネフィアは乗ってくれる。


「ククク、仲間ごっこは楽しかったか? はははは!! 所詮愛など弱い者が言う戯れ事…………叩き潰し、殺す、力が全て!! 弱き者なぞいらぬ!! 戦うために必要なのは!! 力なり!!」


「それは違う!! 愛があるからこそ戦える!! 愛があるからこそ、人は立ち、勇気を振り絞れる。たとえ負けようと!! 何度だって立てる力!!」


「がはははは…………愚かなり勇者!! 死んだら何もないだろ?」


「いいえ!! 愛が残る!! たとえ朽ちても護るために取った剣は必ず次の愛へ繋がる!! 必ず未来が来る!!」


「………話は平行線か。仲間だった事を考慮し側近にでもと思ったが暗殺しとくべきだったな!! 愚かな考えを持つ者なぞいらぬ!!」


「…………あなたは愛を知らないだけ」


「ああ? 知らなくていいそんな弱い心を!! さぁ勇者よ決着だ!! お前の言う愛が所詮幻想だった事を教えてやろう!!」


「言葉は不要ね。わかった!! 見せてあげる!! 私の愛を!! あなたを愛する力を!!」


 熱演。とにかく、熱く演じた。


「………おほん」


「………うーむ」


 二人して腕を組み。首を傾げた後に頷く。


「「しっくりくる!!」」


 俺たち、生まれた所。間違えたのかもしれない。逆だったらきっと。変に上手く行っていた気がしたのだった。







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