都市ヘルカイト③ 腐竜ナスティ..
領主の部屋外で私たちは待つ。泣いたと思ったらまた言い争いが始まった。「服着ろ!! 服着ない!!」と言う低レベルな争いだ。さぁ私は「竜って裸だよね」と思う。
「今、思ったけど。人の恋路を弄るのはいけないのでは?」
「えっ!? ノリノリだったのに、今言うのトキヤ?」
「だってなぁ………喧嘩してるし」
「喧嘩するほど仲がいいんだよ」
「そうだけど。引っ掻き廻す事はいけないだろ?」
「楽しくない? 私は楽しい」
「楽しい」
ここに畜生二人がいる。私とトキヤと言う名前だ。
「それにさ、ずっと前から。あんな感じだよ? きっと私は思うにずっと進まない気がする」
「二人の問題だしさ……」
「トキヤ。私も今までさぁ~そうなんじゃないかなって思ってたけど。実は愛のキューピットじゃ~ないかな? と思えるの」
「ああ、そういえば愛の女神の信奉者だったな」
「そうそう。それに!! 楽しくない?」
「同じ事を言うな!! 楽しいわ!! とくに二人を知っているから、よけいにな!!」
「じゃぁ!! 決まり!! 引っ掻き廻そう」
「わかったよ、お前に毒されて来た気がする。でっ案はあるのか?」
「冒険者の鉄則は情報収集ね」
「じゃぁ。お前はラスティと俺はヘルカイトと酒飲みに行くわ」
「よし!! 明日、報告ね」
「いいぜ、じゃぁ………行くぞ!!」
ドン!!
私たちは振り返り。領主の部屋へ勢いよく飛び込んで二人の間に割って入る。そして、私たちはそれぞれ説得し別れ。二人を別々の酒場まで案内するのだった。
*
新設冒険者ギルドの酒場に俺とヘルカイトは飲みに来る。ギルドの中は何処の都市とも変わらない作りになっている。
俺は葡萄酒を頼み。ヘルカイトは麦酒を頼む。ユグドラ汁酒もあるが、お上品すぎるので飲まない。他にも理由はあるが。
「はぁ……くそ。あいつめ!!」
「ヘルカイト。苛立ってるな」
怒りに身を任せ。ヘルカイトは麦酒を一気に飲み干す。
「いつも、いつも!! ふざけるな!!」
ドンッ!!
「まぁまぁ落ち着いて。素晴らしい麗人だろ?」
いい女になってる。それは確かだ。
「殺し合いして来た仲だ。それがいきなり『好き』て………はぁ。昔のあいつは強かったのに女々しくなりやがって。そうだ!! 元男だぞ!!」
「元男がどうした? 関係ないだろ?」
俺がおかしいのかと思うが、まぁ気にしない。
「関係ない? 馬鹿。ホモかよ」
「いや、元男でも大丈夫だって。世の中にはそれで結婚してる奴がいるしさ」
「嘘をつくな」
「いや、嘘じゃない。俺がそうだからな?」
「そういえば、そうだったな………疑うが」
一応、ネフィアが元男だった事は一部の人たちに周知されている。疑われているが。信じてもくれない奴もいるが。
「まぁ、だから。元男とか関係ないだろ?」
「………それはお前だけだ」
「そうかなぁ。まぁいい。俺の話を聞いてくれよ」
「なんだ? 聞こうではないか」
巨体が腕を組んで笑った。それを聞き、葡萄酒を飲み干して語り始める。
「ネフィアって最初は本当に男だったんだよ」
「いや、知ってるが?」
「だけど。俺やあいつが言わなきゃ信じないだろ?」
「そうだ!! まだ、疑っている」
「そう、誰から見ても女だ。かわいいからな………だけど。あれは努力で成り立ってるんだ」
「…………」
「皆はそこまで知らない。表面でしかな。内面は男だよ、やっぱ。ネフィアの容姿は俺好みだが。俺は内面まで拘りが一切なかった」
ヘルカイトが黙って酒を飲む。
「じゃぁ、何故。皆は一切疑いもせずに女と言うのか? 一番は容姿だが仕草も、話し方も全部女。全く非の打ち所がないからだ」
「それには同意する」
「でも、スゴく出来すぎじゃないか? 女として」
「…………それがどうした?」
「ネフィアは元男だ。女じゃなかった。だから、誰よりも女であることを努力する。内面や、色々な仕草は全部…………ネフィアの理想の女性像なんだよ。女はいい、努力せず女なんだからな」
俺は一呼吸を入れて捲し立てる。
「『その差は大きい』とネフィアが寝室で言っていた。生まれた時から疑わず女で居れるが。あいつは違う。ハンデがある。だがそれをも覆し、今だに努力を怠っていない。何故、そこまで努力が出来るんだと聞いたさ」
「何を言った?」
「『愛する人のために理想の女性を演じ続けますだ』てさ。まぁもう、演じると言うより素が出まくってるけどな!! はははは」
ヘルカイトが神妙な顔をする。
「まぁ、俺が言いたいのは。生半可な覚悟じゃぁ女にはならない。男に戻った方がましだ。それをしないのは、たった一つ。本気だからだよ」
「…………ぐぅぅ」
ヘルカイトの顔が歪む。悩んでいる顔だ。そりゃそうだ。落ち着いて考えさせればその行為がどれ程、大変かをわかる筈だ。理解してあげれる筈だ。
「だから、愛してやらなくちゃ~ネフィアの努力が報われない。あんなに可愛い女を泣かせる訳にはいかないだろ?」
ちょっと偉そうに気取るが。残念な事に何度も泣かせているし、女にしたのは俺の目的のためだったし、目的のために神薬を盛った。けっこう酷い事をしていた。しかし、人生わからないことで。夢を妥協し、ネフィアを嫁にした。何年も追い求めた答えは…………手に入らなかったが、これでいいのだろう。
まぁ今はヘルカイトに「女になる」て大変だと教え。情に訴えかけていく予定だ。
「……………あいつもそこまでか?」
「それはわからない。でも、並大抵で誰かのために女にはなろうと思わないな」
「うむぅ………」
「理由ぐらい聞けばいいじゃないか………ただ何も聞かずにダメって言うんじゃ諦めてくれないぞ。俺からは以上!! 我慢して話を聞け。天下の覇竜ヘルカイトだろ? 器の大きさを見せてみろ!!」
「…………鋼竜の糞坊主の癖に生意気な」
「鋼竜じゃない。今はトキヤだ」
「まぁ次回があれば、我慢しよう」
俺は振り向いてガッツポーズを取る。なんとか、話を出来るとこまで持っていけた。上出来だ。
「…………トキヤ。ドラゴンの滅びまで何をする?」
ドラゴンの滅び。懐かしい響きを聞いた。そう、エルダードラゴン以外に本当のドラゴンはもういない。他は全部ワイバーンの大型種だ。本当のドラゴンじゃないが便宜的にドラゴンと言っている。隆盛を保っていた本当の恐ろしい化け物ドラゴン、生物兵器の時代に飲まれ消えた。
いきなりの真面目な話で驚きながらも自分自身の考えを答えた。
「俺はもう、滅んだ。滅ぶその日まで暴れて、遊んで………結果。俺に滅ぼされた」
「そうか……」
「お前の滅びへの問いは?」
「滅ぶまで、覇竜ヘルカイトとして火山で力を示す。筈だった」
ヘルカイトが遠い目をし、深いため息を吐いた。滅びは必ずくる。諦めだ。だが、それまで何をするかをエルダードラゴンたちは決めたのだ。ある一部は「許せん」で暴れたが。
「今では都市と共に滅ぶその日までだ。先に朽ちるか、都市が朽ちるか。どっちかだ」
「いいんじゃないか? 土竜ワングランドは滅びるまでドレイクで怠惰で生きるだった」
「火竜ボルケーノは隠居し、その滅びの日が来るまで静かに過ごすだったな」
「水竜リヴァイアは滅ぶまで大海原を駆け巡り。海底で滅びを待つ。なお、たぶん死んでる」
「腐竜ラスティは………知ってるか? ワシは知らん」
「俺も知らない。だが、まぁ聞けよそれも」
「…………」
ヘルカイトが頭をかき、アクビをした。
「考えるとダメだ。眠くなる」
「じゃぁ、何も考えず。飲もうぜ」
「ガハハ、そうだな」
俺らは酒を浴びるように飲んだ。
*
私はトンヤと言うオークの商人が経営者として商談用に用意した酒場に入った。内装は個室になっており、防音もしっかりしている。
「あら、個室?」
「そうですよ~商談以外でも二人っきりで飲める場所で人気があるんです。他の店にも個室があるんですが………ここは会員制で一般では入れない所なんです。会員だからこそ一般客は少なく。盗み聞きもされにくいです。わざわざ私は用意しましたよ」
「徹底されているな………」
「はい!! 私の友人の店ですから!!」
「…………」
ラスティがシュンっとなった状態で顔を伏せて座る。道中も顔は暗かった。
「間に入ってくれてありがとう。あのまま、何も進まずに夜が明けていただろう………」
「まぁ今も『深夜で明けるまで飲み明かそうかな』て思ってます。あっユグドラ汁酒なんてあるんだ……」
メニューを見て驚く。あのオークの子は金のなる木だったらしい。私は葡萄酒を頼み。店員がワイングラスと共に瓶を用意してくれる。
葡萄酒をグラスに注ぐ。実はめっちゃここ葡萄酒は高い。高級品だ。それを用意するのはそれ相応の客人であるからだ。食糧問題解決策は二人の仲を良くする事だ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう………」
「元気出してください」
「そうだな。何度も何度も痛めても復活できるのがゾンビだな………結局、今日もだ」
「………」
めっちゃくちゃ暗い。どうしよ。
「えっと。暗い顔じゃ!! 殿方は靡きませんよ!! 楽しい事を考えましょ‼」
「元気ね。はぁ、本当に羨ましいわ。同じ元男として」
「ああ、うぅ~ええっと。まぁその、苦労しましたよ。いえ、今もですね」
私は笑みをやめ。真面目に話を始める。相手が話が出来ないなら聞いてもらうだけ、弱味を見せるべきだ。
「私は苦労しました。聞いてくれませんか?」
「ええ、話す気力がないからお願いするわ」
「じゃぁ。そうですね。実は私の愛しい夫様はまだ初恋を忘れていません。まだ、心のどこかで求めてます」
「初恋を? あいつ女々しいわね」
「えっと。女々しくはないですよ。だって初恋の女を探すために力を手に入れたんです。スゴく一途です。ですから、絶望はしました。好きじゃないんだって。だけど諦めませんでした」
「………それで? 夫婦に」
「はい、最後は私が勝ちました。初恋の人を越えた気はしませんが私は彼女より『いい女になってやる』て思ってますし努力します」
ラスティが羨望の眼差しで見つめてくる。
「這い上がれるなんて強いのね………私より」
「弱いですよ。でも、胸にある想いは誰より熱を持ち、誰よりも彼を愛してる自信を持ってます。だから、這い上がれるんです。自信があるから」
「自信………」
「はい。ヘルカイト領主の事。愛してないのですか?」
「愛してる」
私は糸口が見えてきた。ラスティの目に輝きが宿る。
「ふふ。私はトキヤに護ってもらい生きてきました。そのときの逞しい背中がカッコ良くて、いつもいつも危険な時に駆け付けてくれたんです。色んな楽しい事を教えてくれて。この首飾りが気になっているのを見て買ってくれたり。死にかけになっても私の事を気にかけたりと好きな想い出が沢山あります」
私は胸の首飾りを握りしめる。あの日々は私と言う女を作った想い出。宝物だ。
「私はきっと、どんな切っ掛けでも。絶対好きになったでしょう。好きが多すぎて多すぎて辛いです。だから、私は女になりました。大好きだから」
言い切る。とにかく私の胸のうちを放つ。そして、促す。
「ラスティさんはどうして? 女に? それに、彼との出会いも知りません」
「私か、私は………そうだな」
ラスティが天井を見上げた。私は心の中で叫ぶ。良くやったと。火を灯し治せたと。
「ドラゴンゾンビになる前はただのドラゴンだった。しかし、そう。ヘルカイトに殺されたなぁ」
「えっ!?」
「恨んださ。いたぶられて殺されたから」
初っぱなから好きになる動機がわからなくなる。背筋が冷えた。狂気なのかと。
「ヘルカイトに殺され、死んでも意識が残っていたの。だから恨んで恨んで。そしたら、気付けば立ち上がり。ヘルカイトに噛みついた。噛みついたけど全く歯がたたなかった。そして何千回殺されたかしらね」
「えっと…………えっと……………」
「ごめんなさい。もうちょっと聞いてて」
私は手を膝の上に置き。黙って聞くことにする。
「何回かで彼が逃げた。そっからよ、ヘルカイトにずっと挑み続けるの。死にながら再生しながらね。毒も吐き、相手の体力を削ぐ戦いをずっと。好敵手………気付けば仲間のドラゴンから、ヘルカイトを止めるためにお願いされたわ。絶対勝てないけど絶対負けない。時間稼ぎやヘルカイトが疲れて帰るまで私は彼と戦えた」
懐かしそうに楽しそうに話すラスティ。本当に好きなんだっと伺い知れた。
「ある日、彼と戦わず。会話をしたことがある」
「そのときは男?」
「ええ、男として。ヘルカイトは上から目線で何度も挑む姿勢を誉めてたわ。『もう、やめろ』て言われたわね。交流はそれからかしら。その日から戦う前に言い争って、戦って。疲れたら二人で喋って帰る。そんなのが何年も続いたわ。まぁ最後は戦うのも億劫だったわね。ただ会話してたわ」
相当、昔の話な気がする。百年単位の。
「そんなある日。『滅び』が金竜によって示された」
「滅び?」
「ドラゴン種が絶滅する。環境の変化によって純粋なドラゴンが居なくなると」
「えっ? でも?」
「今のドラゴンは昔ではワイバーンよ。そう、ワイバーンに生存競争で負けたの。多くのドラゴンが死に絶えた」
「ん? でも、ラスティさん。ドラゴン………」
「エルダードラゴンに子孫は居ないわ。私たちの代で終わり」
「じゃぁ、子を作れば……」
「それは追々話すわね。ドラゴンの絶滅はドラゴン同士の殺し合いが多くなり気付けば雌が減って数を減らしたあと。雌の取り合いで巻き込まれてまた雌が死に。そして今度はワイバーンが増えて、数で負けてたり。ワイバーンとドラゴンの流行り病で絶滅した。数が少ないドラゴンは病の適応力がある個体はおらず。ワイバーンは多様性によって数が減ったけど生き残ったの。生存競争の結果、ドラゴンみたいなワイバーンも生まれたわ」
「何故、エルダードラゴンは残ったんです?」
「知恵があった。病で生き残った。でも、残ったのが協調性もなく、個体が強く、子孫を残す気がしない奴ばっかりで自由に世界に分布したの。あとは生存競争を諦めた」
なんとも、驚きなお話だ。生物の本能は何処へ。
「皆は諦め。自分が滅びるまで皆が勝手に動いたわ。ヘルカイトは覇竜のまま、火山の主として『滅びるまで胸を張って生きる』と言ったのよ」
「ラスティさんは? 滅びるまで何をする予定だったんです?」
「………滅びが来ないのドラゴンゾンビだから」
「!?」
その、悲しい声に私は耳を傾けた。
「皆が自由に生きる中。いつか最後の『一人になる』て思ったら。寂しくなってね。ヘルカイトに相談に行ったの」
「それで…………」
「『喜べ、お前が勝者だ好敵手。俺はいつか滅びる。お前の勝利だ』って………ヘルカイトが初めて負けを認めたのよ。余計に悲しくなって寂しくなったわ」
ラスティが少し涙ぐむ。思い出したのだろう。心が揺り動かされた思い出を。
「そのときになって初めて。ヘルカイトの大事さに気づいた。好敵手であり、親友である彼は私の大切な人だった。『ずっと一緒にいたい。ずっと一緒に喧嘩したい。ずっと一緒に…………ずっと一緒に』って考えが強くなったの。そして私は答えを出した。滅びに対して」
「その答えをおしえてくださいませんか?」
「『ヘルカイトが滅びる前に彼のこの世界に居た証拠を残したい』と。『彼はいつかいなくなっても、形見があれば、我慢できる』って」
「残したい形見?」
「そう。記憶は私だけが持っている。だから、子孫を用意したい」
「えっと、自分が女になって?」
「いいえ、最初はね。色んな雌の生き残りに頼んだけどヘルカイトと逢瀬が『嫌だ』て言うのばっかでね。『じゃぁ自分が女になればいいや』て安直だったわ。まぁ他の雌も自己顕示欲の塊で『気に入らないから』てのもあったし。こんな奴らの子供とか、ヘルカイトに紹介したくなかった。だから殺して体を頂いた。体に馴染まないとすぐ子宮は腐った。でもワイバーンの雌なら多かったし、捕食ついでに色々試したわ」
ちょっとグロい説明を語る。口を押さえる。それは……やばい。
「そして、試していくと、やっと馴染んだものと言うよりこの体が出来ていたわね。誰の体だったかはもうわからないわ」
「その体でヘルカイトに会いに?」
「ええ、驚いてたわ。そして、『逢瀬しよう』と言ったら逃げられた。追いかけても、追いかけても」
そりゃ………逃げる。親友が次あったら女で襲ってくるんだ。怖い。もうちょっと考えようよ。
「途中、女になったことを後悔したわ。ヘルカイトが避け寂しい思いしたし。思った以上に生理も辛い。喧嘩しかしなくなった。『昔の私がよかった』とか、言われて泣いたし。でも、落ち着いて考えたとき。時間はあるし、『子を育てる環境を作ろう』と考え準備して、ヘルカイトから放れていったわ。その間に子宮はしっかり癒着して、女を感じれたし。『魅力がないから』と男っぽい麗人として振る舞いから全部変えていったわ」
「……………だけど。肝心な彼は振り向かない」
「ええ、振り向かない。だけど、親友として数回会いに来てくれた。もちろん男っぽく振る舞いをし、全ての準備をして万全ってなったときに。また、フラれた。女に見れないってね」
長く長く戦ってきた話を聞くと「報われてほしい」と思うようになる。
「………デリカシーないでしょ」
「ないねぇ~最低の男」
「むぅ……そこまで言う? 彼は素晴らしいわ」
「ごめんなさい」
怒られた。おい、ノロケルナ。
「で、でも!!…………そんなに想うならその想いを打ち明けて、彼にもう一回アタックしてみよう!!」
多分、情に訴えかけられる。今なら、性格が丸くなったっと言われている。今なら。
「……………無理よ」
「どうして?」
「それ、打ち明けて。それでもフラれたら………私、もうどうしようも出来ない………怖い」
ポロポロとラスティが涙を流す。私は深いため息を吐く。
「はいはい、あなたの想いはその程度ね」
「な、なによ!! その程度!? ふざけるな!! 噛み殺すぞ!!」
「何故、その勢いでぶつからないの? 100回フラれたら101回告白する。私はそうする。諦めない諦めきれないなら!! 1000でも100000でも告白し続けて心がへし折る!! ゾンビなら!! 相手が負けるまで戦えるでしょ」
ラスティがハッとする。
「多分言ったでしょ? ヘルカイトさん、ラスティさんの粘り強さに敬意を持ってたから『好敵手』て言ったのでしょう? 親友になれるのってね。尊敬出来る仲じゃないと無理。ラスティさん!! 頑張って!!」
「ネフィアさん………ああ、目が覚めたわ。ごめん、今日は帰る」
「告白します?」
「する」
「じゃぁ、伝えておきます。ユグドラシルの木の下で明後日に」
「ありがとう。えっと何故、明後日?」
「ヘルカイトさん。二日酔い予想です」
私はやり遂げた顔で彼女の背中を押した。なにもしてないが正直。「他人の恋路はスッゴい楽しい」と感じた。




