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お絵かき好きの異世界道中  作者: 昼夜紀一
9/13

お絵かきと同じくらい大事なもの

お世話になっているフィナちゃんの住居になんとか帰ってきた。


いつラルウァが飛び出してくるか、それが恐ろしくて可能な限り隠れて進んでいたら、かなり時間がたってしまった。


すると、帰ってきてすぐに、続いてフィナちゃんも帰ってきた。


「クズキタさんっ。よ、よかった……。ご無事なようで安心しました……」


俺と目が合うと、きれいな顔がくしゃっと歪む。


フィナちゃんが俺にしがみついて泣き出してしまった。


「ぅお」


思わず声が出る。


ど、どうしよう。とりあえず頭でもなでるか。いや、それはセクハラか!


「さ、さっきの場所にクズキタさんをお迎えに行ったのですが、いらっしゃらなかったので、も、もしかしたら、ラルウァにだ、だべられぢゃっだのがどぉっ」


ボロボロ泣きながら話すフィナちゃん。俺は混乱している!


「だ、大丈夫!それよりも、フィナちゃんは怪我とかしてない?」


「わ、わたじはだいじょうぶですぅ」


フィナちゃんがしゃくり上げるほど号泣していて、それに対応する俺も混乱状態。


「フィナちゃんよく頑張ったね!かっこよかった!」


慰めだか何だかわからないことを言いながら、フィナちゃんの肩を支えつつ、落ち着ける場所まで誘導した。


結局、日が暮れるまでフィナちゃんは泣きっぱなしで、俺の腕をつかんだまま震えていた。


俺は肩に手をまわしたり、背中をさすったり、セクハラとの葛藤に神経をすり減らし疲れ果てたが、ただそのおかげで、ラルウァの恐怖がかなり薄らいだ。


とりあえず、ラルウァのことを話せる状況じゃなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


火を起こしたのは大学時代にキャンプに行って以来だ。


あの時はライターがあった。それでも結構てこずったのだが、今回はフィナちゃん所有の火打石を使う。


悪戦苦闘しながらおがくずに火の粉を落とし、息を吹きかけ火だねを絶やさぬようにしながら、枯れ葉と小枝に火を移す。


火が大きくなったら小枝を足す。だんだんと枝を太くしていく。


しばらくたってようやく火が安定してきた。


はぁ、やっと俺自身は落ち着いてきた。


でもその間、フィナちゃんはずっと背中にくっついていた。




この子が今求めているのが何なのか想像はつく。


何かを失うのは恐いものだ。それが出会って数日の相手でも、この子が置かれてきた境遇を考えれば……


ずっと為すべきことだと自分を納得させ、いつ死ぬかという恐怖と戦いながら逃げ続けてきたんだ。


5年も。5年もだぞ……!




パチパチとたき火が爆ぜる音だけが聞こえてくる。




気付けばフィナちゃんは俺の腕の中に納まっていた。フィナちゃんはいつの間にか泣き止み、俺の体に頭を預けて眠ってしまった。




抱きしめちゃったよ……。10歳も下の女の子かぁ。ちっちぇなぁ。あと軽い。さすが妖精。


もう初々しさなんて残ってないと思ってたけど、超ドキドキする。気持ちが若返るわ。



……まだ20代だから。俺全然若いから。



でも、なんだろうな。人を抱きしめると、なんかこう、めちゃくちゃ安心するよなぁ。

人肌のぬくもりというか……。





一週間前の俺は平和な日本でお絵かきに勤しんでいたというのに……


神様に異世界に飛ばされ、クロッキー帳で妖精の女の子と一緒に巨獣と戦うことになるとは……




空を見上げると、満天の星空だ。ただ、星の並びに見覚えはない。


月は見えない。新月か、それともそもそも無いのか。




もう疲れた……。このまま寝よう。


腹は減っていたが、眠気が勝り、フィナちゃんを抱き枕にしたまま眠りに落ちた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



鳥の鳴き声がする。朝か。


目の前に顔があった。


「ひゃわぁっ!お、おはようございますっ」


「のわっ!」


近距離のあいさつに眠気も吹っ飛ぶ。


「お、おはようフィナちゃん。どう?落ち着いた?」


「は、はいっ。おかげさまで……」


俺にしがみついたまま真っ赤になってうつむくフィナちゃん。


あれだな、年下に幻想は抱かない俺だが、いいものは、いい!


いけんわ。今のでズキュンときてしもうた。


フィナちゃん可愛い!!妖精かつ天使!


しがみついたままうつむくなんてあざとすぎる!だがそこがいい!!


さらに性格もいい!


コロッと行っちまったよ、俺は。


「あ、あの、クズキタさん……」


俺の天使が囁いているぞ!傾聴!!


「ど、どこにも行かないでください……。ひ、一人は恐いの……!」




……




何を舞い上がってるんだ、俺は。


フィナちゃんを抱きしめる。


「どこにも行かないし、ラルウァも倒せるよ」


フィナちゃんが強くしがみついてくる。


「ラルウァを倒して一緒にこの森を出よう」


はしゃぐのはあいつを倒した後だ。


「は、はいっ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィナちゃんが朝食を作る姿を見ながら思う。


俺、寂しい少女の心の隙に付け込む最低な野郎だな、と。


自己嫌悪だ……。無垢な少女を俺色に染め上げたい願望はあるにはあるが、現実にすると罪悪感が半端ない。


いや、まだ手を出してないからセーフだ。きっとそうだ。


でも、惚れちゃったんだよなぁ……。


ほら、今もフィナちゃんがナチュラルに寄り添ってくるし。


めっちゃドキドキする。ホント久々の感覚。こっち来てから激動すぎる。


っていうか、腕とられて飯が食えん。


「食べさせて差し上げますねっ!」


骨付き肉を手を添えながら差し出してくれる。



……タガが一気に外れるくらい、5年っていう歳月はこの子を苦しめてたんだな……



そう思うと拒めない。あーんの状況は惚れちゃった身としては嬉しい限りだし。



今はこの気持ちは胸にしまっておこう。口にするのはラルウァを倒した後だ。


フィナちゃんにとっては一時の気の迷いかもしれない。


ただ寂しさを紛らわす存在かもしれない。


でも、おいら負けないよ?


必ず、フィナちゃんを真の意味で振り向かせてみせる!!



俺にお絵かきするのと同じくらい大事なものができた瞬間だった。


お読みいただきありがとうございます

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