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お絵かき好きの異世界道中  作者: 昼夜紀一
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巫女の役目

第五話です。

「食べられたって……あの怪物に?」


「はいっ」


えー……言葉が出てこない。


「私たち巫女はラルウァを鎮めるために里の子供の中から選ばれます」


「選ばれる条件は、里で一番健康で足が速く、賢いことですっ」


ちょっとドヤ顔のフィナちゃん。かわいい。




いやいや、じゃなくて。

日本の常識に染まってる俺には理解が追い付かない。


「その……逃げ回ってどうやって鎮めるの?」

あんまり聞きたくないけど聞いてみよう。


「はいっ。まず、毎朝ラルウァに会いに行きます。」


「!?」

もうすでにいろいろ質問したいが、話の腰を折るまい。我慢だ。


「ラルウァに会えたら、追いかけっこが始まります」


怪物が獲物を見つけたようにしか聞こえんのだが。


「大体お昼頃まで追いかけっこをして、逃げ切ればその日は私の勝ちです!」


「……逃げ切れなければ」


「食べられます!」


Oh……

ダメだ。何も言えない。

この子とは、持ってる常識が違いすぎる。


なんで食われるかもしれないことを毎日繰り返してるってことを、こうもイキイキ話せるんだ。


「今朝の追いかけっこはもう終わっていたので、クズキタさんを見つけたのはタイミングが良かったです」


「そ、そうなんだ」


「もし追いかけっこ中に出会っていれば、おそらく助かっていません」


そ、そうなんだ……




時代や場所が違えば、文化も風習も違うってことはわかっていたつもりだったが……


目の当たりにすると、どうすればいいか本当に困る。


アンデスの山から見つかる生贄の少女のミイラを思い出してしまうなぁ……


「フィナちゃんはすごいね。里で一番優秀だったんだ」

言いたいことは山とあるが、いたずらにこの子の価値観を傷つけるのはやめよう。


……逃げたともいうが。


「はいっ。あっ、いや、えと」

勢いでうなずいちゃって、慌てて謙遜……この辺は日本人っぽくて安心する。


「そ、そんなことないです。優秀な子は他にもいましたし……」


「あの化け物から5年も逃げ続けるなんて凄いよ。尊敬する」

俺なら開始一日も持たないだろう。




そのあとフィナちゃんといろいろ喋った。


ついつい色々言いたくなるのを我慢するのが大変だ。


フィナちゃんはこの森にきて5年、ほとんど人と喋っていなかったらしい。


マジか……よく俺に話しかけられたな。

絵を描いてる俺も、一週間家にこもりっぱなしで人と話さないだけで、コンビニ店員の「お箸はご入用ですか」に反応できなくなったりするのに。


でも、この子も久々に人と話せて嬉しそうだ。まあ、俺もだ。


あれ、そういえば普通に喋れてるな。

出会いの状況が火急過ぎて確認する暇もなかった。


喋れてるからいいか。あ、そういえば。


「フィナちゃん、日本って知ってる?」

一応聞いてみる。


「ニホン……ですか?」

うーんと悩むフィナちゃん。

どこかで聞いたことがないか、必死に思い出そうとしているっぽい。


ええ子や。


「ごめんなさい。聞き覚えがありません……」

申し訳なさそうだ。聞いたこっちが申し訳なくなってくる。


アークだもんな……。いいんだ。ほぼ諦めてた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それでは、クズキタさんは私が追いかけっこをしている間に森を抜けてください」


翌朝、俺とフィナちゃんは出発の準備をしていた。

神のいうところの南の村は、森を抜け、その先に広がる平原を半日ほど進んだ場所にあるらしい。


神め。中途半端に遠いんだよ!


「私はこのルートで逃げますから、その間にまっすぐ抜けてください」

フィナちゃんは俺のクロッキー帳に描かれた地図を指さしながら言う。


フィナちゃんの話を聞きながら描いた地図だが、上手いと褒められた。照れるわ。




……くそう。




「……例えばだけど、フィナちゃんが追いかけっこに負けたらどうなるの?」



昨晩聞けなかったことを思い切って聞いてみた。



「食べられますっ」

「いや、そうじゃなくて。」

思わずツッコむ。


「あっ。つ、次の巫女がここに来ると思います。」

うーむ……


「あいつをここに留めておかないと、フィナちゃんの里はどうなっちゃうの?」


……核心に迫ってみよう。


「……私の八代前の巫女が、里の近くに現れたラルウァをこの森に誘導したと聞いています」


「それ以来、私も含めて八人の巫女が追いかけっこをして、里からラルウァの目をそらして鎮めているのです」


語るフィナちゃんは決然としていて、誇り高く見えた。


「巫女が鎮めることを諦めれば、ラルウァは里へ向かうでしょう。そうなれば、里は壊滅します」


「その、ラルウァ……って倒せないの?」

……聞いてしまった。


「何人もの里の戦士がこれまでラルウァに挑みましたが、傷一つつけられませんでした」


「……倒してもいいのか……」

思わずつぶやく。


「倒せないので、巫女が鎮めるしかないのです」




フィナちゃんは自分の役目に誇りを持っている。

それは話していて十分に伝わってきた。


そして、とてもいい子である。


会ってまだ一日だが、こんなにいい子は会ったことがない。


俺には倒せる可能性がある。

ラルウァが里で祀られていて、倒してはいけないのであれば話は別だった。


でも倒していいのであれば……

「フィナちゃん、ちょっと見てほしい」


「は、はい……?」

いきなり俺の声色が変わったのでちょっと驚かせてしまった。


俺はクロッキー帳の、目の前にある大きな岩を描いたページを開いた。

今朝、出発の準備をしながら描いたものだ。


「もしかしたら、フィナちゃんの里を助けられるかもしれない」


一気に描いた岩を消す!


「え、え」


目の前の岩に大きな傷が一瞬で出来る!


何が起こったかわかってないフィナちゃん。まあ、そうだわな。俺もだよ。




「俺ならラルウァを倒せる」


多分、とつけたかったが、ここは勇気を出して言葉を飲み込む。


俺は絵を描き続けていたい。いたいが、自分の手持ちで誰かの命を助けられる手段があるのに、目の前で見て見ぬ振りができるほど、心が強くない。


くそぅ……。こんなことになるなんて。あの神許すまじ。


フィナちゃんはポカーンとしている。


俺はフィナちゃんと協力してラルウァを倒すための作戦を考え始めた。




俺一人で?無理無理。

読んでいただきありがとうございます。

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