巨大肉食獣と巫女
第四話です。
よーし。
俺はあかっぱらを逃がした後、南にあるという村へ向かう準備を始めた。
いろいろあったが、きれいさっぱり忘れることにする。
全てが俺の一部になるのだ。きっと。多分。
まずは、道中の食料をどうするかだ。この水辺は食料が豊富にあるが、向かう先はその限りではないはずだ。
ここで採れた果物や水を持ち運ぶ背負子を作ることにしよう。
バリケードにも使った蔦と、軽めの枯れ木を集める。ここは本当に食材も資源も豊富だ。
クロッキー帳に枯れ木を描画し、消しゴムを使って加工する。薄い板状にしてみた。
すげーな。ほぼ理想通りに加工できる。絵の技術があってよかった。
板を組み合わせ、蔦で固定する。理想に近い背負子が完成した。
水の持ち運びだが、背負子と同じように木を加工し、容器を作ってその中に入れてみる。
うむ。どうやら漏れない。水を飲んでみると、木の風味がわずかに感じられていい感じだ。
ここまでやって、作業時間は実質描画時間に等しい。つまり一時間も経っていない。
すげーわ。クロッキー帳。
太陽の位置を見ると、おそらくまだ昼前だろう。
背負子の荷物を詰め込み、南に歩き出した。
太陽の上ってくる方角が東だと信じて進む。異世界らしいし全然違うのかもしれないが、他に頼れる指針がないので信じるしかない。
あっ……いや、待てよ?
数十分後
名前:太陽
年齢:1000億歳
職業:恒星
力:?
知力:?
説明:惑星アークが属する銀河の中心にある恒星。アークから見て東から登り、西へ沈んでいく。多くの地域で神として信仰されている。
弱点:寿命 ブラックホール
ダメもとだったが、太陽を中心に空をスケッチしたら情報が出てきた。
やはり、地球と同じように太陽が昇る方角は東からのようだ。
アークっていうのがこの地球的な星のことなんだろう。偶然に新しい情報を得てしまった。
……太陽の情報欄にも力・知力があるが、もう少しきっちり描けば数値がはっきりするんだろうか。
結構どうでもいいな。
とにかく今は村を目指して進むのみだ。
目指せ平和なお絵かきライフ!!
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あれから数時間たった。
全く森を抜ける気配がない。
なんだか木がどんどんデカくなっている気がするんだが。
これって森の深部に向かっちゃってるんじゃないか。不安が頭をよぎりまくる。
あの神様は確かに南って言ったよな……聞き間違いじゃないはず。
大体いろいろ説明を省きすぎなんだよな、あの神め。問答無用で異世界送りにされるし、後出しで肉食獣の存在をチラつかせるし。ホントダメダメな神様だわ。
このクロッキー帳と鉛筆は確かにすごいけど、俺は日本で平和に絵を描いていたかったよ。
ちょっと前に過去は振り返らないと宣言したような気がするが、不安と一緒に不満もあふれ出してきた。
そんな時、前方に狭いが拓けている場所を発見した。
数時間ぶりに浴びる太陽の光が気持ちいい。ここで少し休憩にするか。
ここまで特に触れていないが、俺は今裸足である。あの神が屋内から転移させたものだから、靴を履けなかったのだ。
ただ幸運なことに、森の中は地面がほとんど苔むしており、フカフカで気持ちいい。
砂利道じゃなくてよかった。今も苔に覆われた大きな石に腰かけ、足裏で感触を楽しんでいた。
とその時、
「ここに来てはなりません!人間の殿方!」
「うぉ!?」
いきなり声をかけられた。心臓止まるかと思ったぞ。
俺の後ろの森から、全体が白系の色でまとめられた民族衣装っぽい服を着た女の子が現れた。
「ここは危険です!早く非難を!」
え え なんだ?
「ここはラルウァが日光浴に使う場所であり、入ることが禁じられているのです!」
「ら らるうぁ?」
なんだそれ。
女の子がはじかれたように森の一点を見つめだした。……なんか俺不味いことをしてしまったんだろうか。
「あぁ……来てしまいました。ど、どうしましょう!」
一気に青ざめていく女の子。さすがに鈍い俺でもだんだんわかってきた。
危険・日光浴・ラルウァというおそらく呼称……これは。
その時、女の子が見つめていた方角から、木の枝を折るような音がかすかに聞こえてきた。
やばいな、なんか来てるぞ!
「ラルウァです!走って!!」
女の子が一気に駆け出す。慌てて後に続く!
ちらりと先ほどまでいた場所を振り返ると、ライオンにドラゴンの頭をくっ付けた様などデカい生き物が、太陽のもとに躍り出たのがちらりと見えた。
巨大な肉食獣……こいつだわ。
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全速力で少女の後に続き走り続け、息が切れ心臓が爆発しそうな頃合いでようやく立ち止まった。
少女と二人、息を調える。
「だ、大丈夫ですか。お怪我はないですか?」
「いや、俺は大丈夫。そ、それより、助けてくれてありがとう」
この子いなかったらまず死んでたからな。ホント有難い。
「い、いえ!私も通りがかりにたまたま見つけて……よかったです。声をおかけして」
「本当に助かった。君この辺の子?」
「えと……」
おーっと……警戒させてしまったか。まあそうだよな。俺みたいなおっさんとこんな森の中で二人きりは恐いよなぁ。
俺はまだ20代だし、お兄さんで通ると思ってるけどな!
「ごめん。答えなくていいよ。それよりここって安全かな。もう少し離れた方がよくないかな」
さっきの場所から10分くらい走ってきたが、あのデカブツならすぐに追いついてきそうだ。
「あの、えと、風下に向かって逃げたので、見つかっていないと思いますし、まず大丈夫だと思います」
なんだそれ。有能かよ。
「でも、移動した方がいいのは確かですね。ラルウァの巡回ルートからもう少し離れましょう」
とりあえず、この子について行ってみよう。
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パチパチと炎がはぜる。
俺はなんとさっきの子のお宅にお呼ばれして、晩御飯をいただいていた。
お宅といっても岸壁に空いた横穴だが。
「何にもないんですけど、あり合わせですみません」
「いやいや、とんでもない」
あれから一時間ほど歩いてこの場所へたどり着いた。
到着してすぐに、女の子はテキパキと夕食の準備をはじめた。
手持無沙汰な俺はナイフを借りて、背負子の果物の皮を剥いたりしながらボケッとしていた。
何か手伝おうとすると、やんわり断られるのだ。
「座って待っていてくださいねっ」
笑顔を添えて言われると、それ以上何もできなかった。
そうして今に至る。
たき火を挟んで向かい合い、雑談しながらの食事。
この感じ、本当に久々だな……
「いかがですか?お口に合うでしょうか。」
「めちゃくちゃうまいよ。料理上手だねぇ」
えへへと笑う少女。これは癒される。
そういえば少女とか女の子とかって、この子の名前聞いてなかったな。
「改めて自己紹介させてもらっていいかな。俺は葛北といいます。よろしく」
とりあえず俺から名乗る。
「あっ!も、申し遅れましたっ。私はフィナと申します。よろしくお願いします。クズキタさん!」
フィナっていうのか。外人っぽい名前だ。見た目日本人と外人のハーフっぽい感じだけど。
この子小動物みたいで見てると和むよなぁ。あの神に荒らされた心が浄化されていくようだ。
「あまり聞くべきじゃないかもしれないけど……フィナさんはどうしてここに?」
ちょっとずるい聞き方だな、我ながら。
「わ 私はこの森に派遣されたラルウァを鎮める巫女なのです!」
「今日も、ラルウァの行動範囲が変わっていないか確認していました。そのときにクズキタさんを見つけたんですっ」
「さっきの場所は、ラルウァが毎日必ず日光浴に訪れる場所で、本当に危険なんですっ」
「ど、どうしてクズキタさんはあの場所にいらっしゃったんですか!?」
フィナちゃんがわーっと喋った。あまり人と喋り慣れてないのか、かなりぎこちない。
どうしよう。正直に話すべきか。ていうかこの子巫女なのか。ラルウァを鎮めるってどうやるんだ。
「俺は南の村に向かっている途中で迷ってしまって……。そんな場所とは知らず、あそこで休憩していたんだ」
嘘は言っていない、と思う。
「そうだったんですか。……本当に通りがかってよかったです」
いい子や。
「フィナちゃんは巫女って言ってたけど、どうやってあいつを鎮めるの?」
祈りをささげるとかかな。
「あ、はい!鎮める……というか追いかけっこをするのです!」
「お 追いかけっこ?」
「はいっ。かれこれ5年は逃げ続けています!」
5年!?
「先代の巫女は10年は逃げ続けたといいますから、私はそれ以上を目指しています!」
は?
どういうことだ。
「あーっと……その先代の巫女は、あー……。どうなったの?」
「それはもちろん」
マジか異世界。
「ラルウァに食べられました!」
マジか異世界!
2/7改稿しました