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お絵かき好きの異世界道中  作者: 昼夜紀一
2/13

クロッキー帳の可能性

第2話です。よろしくお願いします。

「これはすごいな。本当にすごいなぁ」


俺は神様からいただいたクロッキー帳に、これまた神様からいただいた鉛筆で目につくものを描きまくっていた。


満面の笑みである。


とにかくページも芯も消費されないというのは便利すぎる。


特にクロッキー帳は本当にすぐなくなるので、いつも節約して使っていたのだ。


何体も重ねて描いたり、画面が黒くなってきたら白で描いたり……


そういった今まで当たり前だったものから解放され、夢中になっていた。


神様はマジ神!


そして、夢中になりすぎて日が傾きかけたころになり、ようやく気付く。


飯は?寝る場所は?金は?


ここは地球じゃないらしいんだよなぁ。いや、神様の言うことを信じるならだけど。


とりあえず食べ物と寝る場所を確保したい。空腹と疲れ、睡眠不足はよい絵を描くにあたって天敵である。


最優先は食べ物。まずは水場を探すか。


なんだかものすごく冷静にこの状況に順応し始めているが、自分でも変だと感じる。


無限のクロッキー帳&鉛筆を貰ったことで、すべてを水に流せそうな自分がちょっと怖い。


「おっ!」


そんなこんなで彷徨っていると、水辺を発見。池以上湖未満な感じだ。運いいな俺。


湖畔を歩いていると沿って立つ木々に果物が生っているのを発見。


食糧問題が早々に解決してしまった。


神様はこれを知っててここに転移させてくれたのだろうか。そうだと信じたい。訳のわからん神様だったが、なんの当てもない場所へほっぽりだすような無責任な神ではなかったと信じたい。


寝場所はと散策を続けると、巨木に人が数人入れそうなうろを発見。樹洞っていうのかな。


そこに入ってとってきた果物を食べる。なんだろう、このものすごいフィット感は。


俺ここで暮らすわ。




じゃねぇよ。俺の血と涙の貯金残高はどうお絵かきにつぎ込めばいいんだよ。


こんなことになるならもっといい筆をバンバン買っておけばよかった……


最近はデジタルで描くことも覚え始めて、液晶タブレットが欲しくなってたところだったし。


くそう。神様め。今度会ったら文句言いまくってやる。どうにかして元の世界に戻れないものか……


はぁ。とりあえず絵でも描くか。


クロッキー帳を開くと、そこに何かが浮かびあがった。


【どう?落ち着いた?こちら神様です】


どうやら神様からのメッセージらしい。


こんなことできるのかよ。クロッキー帳はメールボックスかよ。


【ちょっと補足しておこうと思って。いきなりでびっくりした?】


びっくりしたけど、それ以前に俺がおかれてるこの状況にびっくりしすぎてて、大したびっくりに感じてないよ。


それにまたびっくりだよ。


【君さっきから絵を描きまくってるけど、その横に出てきたステータス全部無視してるでしょ】


ステータスってこれか。




名前:ベニオニガワラダケ


年齢:0歳


職業:きのこ


HP:5


MP:10


力:0


知力:0




そういえば、さっき神様を描いた時より情報が多いな。年齢と力・知力はなかった気がする。


【さっきも言ったけど、描きこむ量によって情報量は増えるから】


言ってたっけ?言ってたんだろうな、多分。


【そこは歩き回るだけで暮らしていけるくらい食べ物が豊富なんだけど……】


うむ。実感してます。


【大型の肉食獣がいるの忘れてたんだよねぇ】


に 肉食……


【よかったよ。まだ食べられてなくって!】


は?はあああああああああああぁぁぁっぁぁっぁ!?


え どういうこと


【うっかりしてて。ごめんネ!】


「うっかりじゃねぇー!」


思わず浮かび上がる文字に向かって叫んでしまった。


いやでもしょうがない。これはしょうがない。今の俺が肉食獣に襲われたら一発アウトだ。


絵ばっかり描いててここ最近はろくに運動してない。5分走ったら息切れを起こす自信がある。


【とにかく!君が今いるところからうかつに出ちゃだめだよ!】


「おま……どういう」


それじゃあ自由に絵が描けねーだろうが!!


【ここから南に歩いていくと村があるから、そこまでいけばとりあえず安全だよ!】


安全だよ!ってアホか!そこに至るまでどうやって安全を確保すればいいんだよ!


だめだこの神様。意味が分からん……。無限クロッキー帳&鉛筆プレゼントはこっちに飛ばされてもギリギリ許せるくらいうれしかったけど、それ以外ホントダメ。マジ無理。


【というわけで、描いた絵の情報をうまく使って、生きて村にたどり着いてね!】


……目が覚めたら全部夢なんだ。きっと……


【ここからはもう私は君に干渉できないから。今もこっちの神様に見張られながら文章送ってるし……。あとは自力でファイト!だよ!】


許せねぇこの神……せっかく整えたお絵かき環境を根こそぎ奪った挙句、いきなり命の危機とか……


【身を守る手段も付与してあげたかったんだけど、攻撃手段にあたるものは禁止されててねぇ。文句はこっちの神様に言ってね!】


ああぁ!?お前がいらん事せんけりゃあ俺が命かける必要もなかったんじゃボケ!ブチくらすぞ!!


いけん……また方言が出てしもうた。


落ち着け俺。いつもの冷静な自分に戻るんだ。


「……とりあえず村まで行ってみます」


【クロッキー帳に話しかけてる姿って面白いね!あとちょっとかわいそう!】


この神もう許さん。


【クロッキー帳と鉛筆をう・ま・く使って、頑張れ~!】



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


神との通信が途切れてしばらく放心した後、改めて状況のヤバさにビビる。


もう絶対様なんてつけてやらない。あの神め……。


……悔しいが、クロッキー帳から得られる情報が生き残るためのカギになりそうだ。


とりあえず、どの程度描き込めば情報が変化するのか一通りやってみよう。


最悪今日はここで野宿だな。頼むから来るなよ大型の肉食獣!!


そういえば文句言い忘れたな……。肉食獣についてももっと聞いておけばよかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



約一時間後、一枚のスケッチが出来上がった。


名前:アオシラカバ


年齢:521歳


職業:木


HP:3500


MP:4000


力:50


知力:2000


説明:葉が青いシラカバ。長寿で魔力を多く宿すため、魔法道具の材料として用いられる。珍しいため原木でも高値で取り扱われる。


弱点:干ばつ・大型草食動物・人間etc


一時間のスケッチで説明と弱点が加わった。これはそこそこ便利な情報だな。


肉食獣の生態が分かれば遭遇を回避できる可能性が出てくる。


ただ問題が一つ。絵にするためには実物を見なくてはならない。視界の範囲内に肉食獣がいる必要があるわけだ。


アホかと。こん情報のなんが便利なんか。


遭遇を是が非でも回避したいのに、わざわざ探しに行く必要があるとか意味わかんない。


……ダメだな。ちょっと煮詰まってきた。スケッチの続きでもして頭冷やそう。


はあ……。現実逃避、現実逃避。


しかしこのアオシラカバのスケッチはなかなかいい出来だ。もう少し描き込んで作品にしてしまうか。


となると消しゴムが欲しいが、今は神からもらった鉛筆のペン先とは逆側にある小さなものしかない。


普段でも全く使ってなかったけど、これも無限に使えるのかな。


試しに少しスケッチを消してみる。


消しゴムの減り具合を確かめようとしたとき、前方からミシミシと嫌な音が聞こえてきた。


「え」


なんだ?アオシラカバの幹にあんな傷なかったが……


いつの間にかできた傷を起点に、太い幹が音を立てて傾き、


やがて完全に折れ曲がり、大樹はその葉を地面に着けてしまった。


今度はなんだ一体。


お読みいただきありがとうございます。

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