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お絵かき好きの異世界道中  作者: 昼夜紀一
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俺の魔法と彼女の心

漢字がお絵かき魔法として効果を発揮する。


これはヤバい。できることが一気に広がる。


俺は実験に集中するため、なるべく急いでフィナちゃん宅まで戻る。


こういう気持ちが急いているときにとんでもないミスをやらかすんだ、と自分に言い聞かせながら移動したが、早く漢字の効果を試したくてかなり雑な警戒っぷりだったと思う。


幸いにも、ラルウァやほかの肉食獣に出会うことなく戻ってこれた。




帰ってきてすぐに思いつく限りの漢字を描いてみる。


「……こ、これは……」


繰り返しになるが、ヤバい。パワーバランスが一気に崩れるぞ、コレ。


まず、漢字のもたらす効果だ。


大まかに分けて3種類の効果があった。



一つ目は、現象を起こすものだ。仮に【現象型】としておこう。


これには、『風』や『熱』、先ほど確認した『光』などが当てはまる。


五感で感じることのできる現象を引き起こすことが可能だ。



二つ目は、物理的にその漢字のあらわすものに変化するもの。【変化型】である。


『火・炎』(現象に含めるべきか)や『砂』、『水』などがこれにあたる。


実験しながら分かったのだが、クロッキー帳から切り離した紙は水に入れるとふやけるし炎に投げ込めば燃えるが、クロッキー帳にくっついている状態だと外界からの影響を全く受け無い。


何が言いたいかというと、紙を切り離すかどうかで効果時間が変わる場合があるということだ。


『火』や『水』などを切り離した紙に描くと、『火』の場合は紙を燃やし尽くした段階で消え、『水』の場合は紙がふやけ描いた字が判別できなくなったところで水が止まる。


使う状況によって使い分ける必要がありそうだ。



三つ目は効果を対象に付与するもの。【付与型】だ。


効果型はさらに《紙そのものに効果を与えるもの》と、《紙の触れたものに効果を与えるもの》の二種類に分けられる。


このような理由から、【効果型】は他二種の漢字が一文字で使えるのに対し、二つ以上の漢字を用いる場合が多い。


例えば、『硬』と描いておくと紙そのものが鉄板のように硬くなるが、ここに『付与』と描き加えて対象に紙をあてがうと、対象が硬質に変わる。


大きな葉っぱの上に『付与・硬』と明朝体で描いた紙を乗せたところ、葉っぱがカチカチになった。



以上三種類の魔法には共通点がいくつかある。


〇いずれも漢字部分が判別不可能なほど消えたり汚れたりすると効果を失う。


〇効果は描き上げたのち、俺が「発動」と念じることで発揮される。俺が任意で効果の発動と終了を決めるのは、描いた紙やそれに準ずるものが視界に入っている場合にのみ可能。


〇一度効果を終了すると描いた文字は紙ごと消失する。


〇レタリングである場合、普通の文字に比べて明らかに効果が大きくなる。というより、俺のイメージ通りになる。


例えば『火』をレタリングで描くと、炎の大きさや色合い(つまりは火の温度)が俺の描いていた時のイメージにかなり近くなった。普通に書くと小さく赤い火が出た。俺の字は汚いけど、こうも露骨に効果に差が出るとショックだ……。書道の達人ならもっと効果をイメージに近づけることができたんだろうな。


ちなみに、俺は明朝体とゴシック体の基本的なレタリングができるが、どちらでも効果は変わらなかった。




しかしアレだな……。


紙を切り離したり手元から放しても効果は発動するし、視界内なら任意で発動可能。描いた文字


の効果もより取り見取り。


再三繰り返すが、ヤバい。事前に準備が可能な状況なら、俺はこの世界で敵なしだろう。


とりあえず、有用そうな漢字をできるだけ思い出して書き留めておこう。漢字ってすぐ忘れちゃうからな。こっちでは使うこともほぼないだろうし。


あらかた書き出したら、書き出した漢字を優先度順にレタリングしていこう。


これは、下手すると明日にはラルウァとの戦いに決着がつけられるかもな!


俺はフィナちゃんが帰ってくるまで夢中で漢字を描きまくった。



まだ見つけられていない効果があるのかな。あるなら早く見つけたい。



え、体を鍛えないのかって?……明日からまたやりますから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィナちゃんが帰ってきた。


「え、な、なんですかこれ!」


フィナちゃんの目の前にあるのは家だ。俺が『家』とレタリングで描いた紙から出てきた。


この魔法ほんとヤバいわ。


でも驚くのはまだ早いぜ!


「どうぞフィナ様。中へおあがりください。」


俺はテンションが上がり使い慣れない言葉遣いをする。アホみたいだが今は楽しくてしょうがない。


「え?え?」


促されるままに家に入るフィナちゃん。


家の間取りは1K。そう、俺が日本で住んでいたアパートの間取りそのものだ!


だって一番イメージできたのがコレだったんだもの!


「こ、これはなんですか。お台所ですか?」


「そう!これは蛇口と言ってですね、この取っ手をひねると……」


「み、水!?金属の管からお水が出てます!」


たまげるフィナちゃん。いいぞ!ナイスリアクションだ!


「フィナお嬢様、続きましてこちらをご覧ください」


フィナちゃんはお嬢様にランクアップした!


「こ、これは……お、お布団ですか?なんだかふかふかですけど……」


俺は勢いよく布団をめくる。ちなみに『寝具』と描いたら出てきた。これも俺の愛用だった寝具一式だぜ!!


「どうぞ横になって感触をお確かめください」


なんだかわかってない表情のまま布団にくるまり枕に頭を乗せるフィナちゃん。


「こ、これっ……!私の実家のお布団より寝心地がいいですっ!!」


そうかそうか!それはよかった!!


「お手をどうぞマドモアゼル。外をご案内しましょう」


「は、はいっ」 


暴走する俺に少しづつ追い付いてくるフィナちゃん。


俺の目は正しかった……。さすがは俺の惚れたフィナちゃんだな!!


フィナちゃんと一緒に外に出た。フィナちゃんの視線が森側を向いた瞬間に、俺は指をはじきながら一言!


「発・動!」


轟音とともに、森とフィナちゃんの住居がある岸壁を分かつように頑丈そうな壁が出現する!


フィナちゃんが帰ってくる前に『壁・大』と描いたレタリングをいくつか用意し配置しておいたのだ!


フィナちゃんはお口あんぐり!そんな君も素敵だ!


「な、なにが……これはクズキタさんの魔法なのですか!?」


「うん。なんか、そうみたい」


「えぇぇぇ!?」


フィナちゃんは驚きを通り越して若干引き気味だ。


「色々実験してみたら俺の魔法がかなり使えることが判ったんだ。この魔法を使えば、もっと早くラルウァを倒せるかもしれない。」


俺はいい表情をしてたと思う。


「改めて作戦会議をしよう。フィナちゃんと協力すれば、明日には……」


そこまで俺がアツく語ったところで、フィナちゃんの様子がおかしいことに気付いた。


「ほ、ほんとに?でも、こんなことって……。ゆっ、夢かな。夢だよね……」


「フィナちゃん……?」


フィナちゃんはうつむきながら何かしゃべっている。


ど、どうしたんだろう。


「ク、クズキタさんは私を助けてくれる。里も……。ほ、ほんとかな。今度は、今度は……」


フィナちゃんの独り言が止まらない。


何と話しかけていいのか分からない。


「なんでもっと早く……なんで今になって。ク、クズキタさんは助けてくれる!で、でも!!」


フィナちゃんの呼吸がどんどん荒くなる。この症状は前職で何回も見た。


パニックによる過呼吸だ。マズい!!


フィナちゃんの呼吸はどんどん激しくなり、胸を押さえながらうずくまる。


俺は急いでクロッキー帳に『紙袋』と書きなぐる。ボロボロの紙袋が出てくる。


隙間を手でふさぎながら、袋状のそれをフィナちゃんの口元に持っていった。


過呼吸の応急処置だ。


「くそっ!」


なんで俺は『袋』って書いておかなかったんだ!!


「フィナちゃん落ち着いて……。空気はたくさんあるからね。落ち着いて息をして……」


俺は気持ちとは裏腹に、必死で静かな声で話しかける。


過呼吸は周りがあわただしくなると激しくなることがある。まずは俺が落ち着くんだ……っ!。


「今日の晩御飯何にしようか。またあとでクロッキーしようね」


俺はフィナちゃんの背中をさすりながら、気持ちをそらすために話しかけ続ける。


ごめん、フィナちゃん!


ごめん!!


俺はさっきまでの浮かれ切った俺を張り倒したい気持ちでいっぱいだった。

お読みいただきありがとうございました。


話の食い違いがあったので、前話の最後部分を変更しています。

いた文字が自動で光りだすのではなく、発動と念じなければ効果を発揮しないようにしました。

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