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お絵かき好きの異世界道中  作者: 昼夜紀一
12/13

対ラルウァ その二

朝だ。いよいよ今日からラルウァとの本格的な戦いが始まる。


昨夜は温泉につかってリフレッシュできたかと思ったら、そのあとじわじわと筋肉痛になった。


さすが18歳、超回復半端ない。


実験をする予定だったが、痛みの回復のためと作戦に備えて寝ることにした。


明日はまたラルウァとご対面かぁ。俺は遠くから描くだけだけど……。


今までの人生経験から言って、こういう時は寝付けないのだが、あっさりと寝てしまった。


温泉+満腹感+疲労は睡眠促進効果大だ。横になったと思ったらもう朝ですよ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィナちゃんはもう起きて朝食の用意をしているようだ。


手伝いながら今日の作戦の確認をしないとな。


「おはよう、フィナちゃん。早いね」


「おはようございますっ。もう少しゆっくりされてても大丈夫ですよ?スープがもう少しかかりそうですから!」


「もう目が覚めちゃったから。俺も手伝えることないかな。」


「そうですね。じゃあ、ゴリンの皮を剥いていただけますか?」


「了解!」


初めて会った日は手伝わせてもらえなかったが、だんだんと信頼してもらってるってことかな。


あの時とやってること変わらんのだけどね。


「ラルウァの件だけど、基本的に実験の通りに進めて危険だと思ったら即退避、ってことで大丈夫かな」


「はいっ。大丈夫です。……欲を言えば逃げているときは時間経過に気を配れないので、何か時間が一目で分かるものがあればいいのですが……」


「本当は俺が合図を出したいんだけど、見つかったら逃げられないし……。何かいい方法がないか考えてみるね」


「私も考えます!なるべく時間を稼げるように頑張りますね!」


「うん。お願いします。でも、絶対に無理はしないでね!」


「はいっ。」


「危険だと思ったらクロッキー帳を使うけど、なるべくこれ以上ラルウァを刺激せずに作戦を成功させよう!」


「分かりましたっ」


朝食を食べ終わり、フィナちゃんと一緒に森へ向かう。


フィナちゃんはリラックスしているようだ。笑顔で話しかけてくる。俺も見習わないと。


フィナちゃんが森に先に入る。昨日はあちらから襲ってきたらしいので、ラルウァがいないか確認してくれるそうだ。ありがたや。


20分程してフィナちゃんが帰ってきた。


「ラルウァはいつもの場所にいました。大丈夫そうです!」


「ありがとう。じゃあ行こうか!」


フィナちゃんの先導で岸壁に向かう。情けないが適材適所。適材適所なのだ。


無事岸壁に着き、フィナちゃんはラルウァのもとへ向かった。


よしっ。


気合を入れて岸壁に作った階段を上がり、前回と同じ場所に陣取りラルウァを待つ。


待っている間実験をしようかとも思ったのだが、考えがまとまらずとてもじゃないができなかった。


まだフィナちゃんに襲い掛かるラルウァの姿が脳裏にこびり付いている。


気持ちが落ち着かない。まずは冷静になろう。


なろうと思ってなれるものではないが、身の回りの物をクロッキーしているうちに気持ちが静まっていく。


……しかしいい天気だ。この世界に来てからずっと晴れている。野宿の身としては有難い限りだ。この森は緑であふれているので、決して雨が降らないわけではないだろう。雨に濡れる森も雰囲気ががらりと変わっていいよなぁ。雨の中で絵を描くと、クロッキー帳のようなペラペラの紙では湿気でへにゃへにゃになる。神様にもらったこのクロッキー帳はそのあたりどうなのだろう。減らないが、水にぬれたら乾くとガビガビになるのだろうか。……また実験したい項目が増えたな。


そんなことを考えながら絵を描いていると、フィナちゃんが前回と同じように眼下に現れた。


き、来た。今からが本番。集中しろ!


前回までの気持ちの用意ができていなかった状態とは違う。一度経験したし、もう大丈夫だ。そのはず。多分。


鉛筆を持ち直し、前回描いたラルウァのページを開く。首と足部分を消しゴムで消したままだ。


しかし、改めてみると雑だな。これでよく傷がつけられたもんだ。


描きなおすかどうか考えながら状況を見つめていると、一向にラルウァが姿を現さない。


俺は万が一にも見つけられるわけにはいかないので、ほふく前進のような体制のまま森を見渡した。


フィナちゃんは岸壁に背中がつくギリギリまで森から距離をとり、一点を見つめている。


恐らくその先にラルウァがいるんだ。


俺は草木の少しの揺れも見逃すまいと目を凝らした。


その時、フィナちゃんの視線の先に大きな影がチラついた。




ラルウァは草陰から顔をほんの少し出す。周囲を警戒しているように見える。


前回傷つけられた場所だと覚えているようだ。


フィナちゃんは腰を低く落とし、いつでも動ける体勢をとり続けている。


俺は少し見えたラルウァの顔を夢中で描く。全体像ももちろん描くが、視覚・聴覚・嗅覚など感覚器官が集まっている顔は言わずと知れた生物の弱点だ。


フィナちゃんのピンチにちょっとした目つぶしができるかもしれないし、このまましばらく警戒し続けてくれれば、五感のいずれかを奪えるかもしれない。


ラルウァはそのまま5分ほど警戒を続けていたが、攻撃が仕掛けられることはないと判断したのか、唸り声とともにフィナちゃんに襲い掛かった。


「っ!」


俺は急いで全身像を描き始める。前回描いたものに加筆するのではなく、新しく描き直すことにした。前回の雑な絵に加筆するとかえって完成まで時間がかかりそうだ。


しかし、相手はものすごいスピードで動くので、描きづらいことこの上ない。


まずは大きく手を動かしながら、ラルウァの全身を再度観察していく。


四肢の筋肉の付き方や関節はやはりライオンに似ている。つまり大型の猫だ。


後ろ足は踵が地面についておらずつま先立ちの状態。筋肉は毛でおおわれていながらも、その盛り上がりがはっきりとわかる。


ネコに近いのは有難い。近所の飼い猫が俺の住んでいた部屋のベランダによく日向ぼっこに来ていたこともあって描きなれている。


イメージの強度は作品の出来に直結する。


その点、頭と尾は見たことがないし、もちろん描いたことのない形状をしているので、イメージを固めるので精いっぱいだ。


ここは割り切って、体を中心に描き、頭と尾は陰影をよく見て観察に徹する。


フィナちゃんのためにも早く完成させたいが、焦りは禁物だ。


急がば回れ。俺は今まで絵を描いてきた経験から、それがいかに的を得たことわざであるか理解しているつもりだ。


ラルウァは依然としてフィナちゃんを追いかけまわしている。


しかしフィナちゃんは余裕だ。こちらから見ていても、ラルウァから常に一定の距離を置いていることが判る。


接近してくるラルウァのスピードに全く負けていない。


前回はもう少し引き付ける動きをしていたような気がするが、より慎重に立ち回っているのだろう。



俺も負けていられない。


フィナちゃんが森へラルウァを連れ戻るまで、夢中で描き続けた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


フィナちゃんはきっちりと逃げ切り、再び森へ入った。集中していたのではっきりとはわからないが、最低30秒、もしかしたら1分近く逃げ続けていたかもしれない。


今回は前回ほどハラハラしなかった。


フィナちゃんの立ち回りを見ていると、安心して見れてしまう。


でも、そこに甘えてしまってはいけない。俺自身ももう少し計画を早められるよう努力してみよう。


俺はその場にとどまり、ラルウァのイメージを固めるため、絵をもう少し描くことにした。


記憶を頼りに、何枚かラルウァの頭や尾をクロッキー帳に描く。


顔はドラゴンなんだが、よく見ると、鼻の辺りは爬虫類ではなく哺乳類のように皮膚がむき出しになっていた。


首と体、体と尾のつなぎ目など、観察した結果を描いていく。


今描いているものは見ながら描いていないので、先ほどラルウァを観察しながら描いたものに加筆はせず、別のページに描いている。


想像で描いた部分のせいで傷つける威力が落ちたら、またフィナちゃんが危ない目に合うかもしれない。不確定なことはなるべく避けるべきだ。


分かる範囲で大体確認し終えた。


そうしたところで、作戦で興奮した気持ちもかなり落ち着いてきた。実際まだかなり怖かったからな。




よし、フィナちゃんの家に戻る前にもう少し実験してみよう。


まず一つ目は、俺自身が魔法を使ってるかどうかについてだ。


今まで俺は、クロッキー帳が魔法のキーだと思っていたが、俺の情報欄にお絵かき魔法の記述があった。


ということは、俺がクロッキー帳に限らず絵を描けば魔法は発動するのではないか。これを立証したい。


やり方は簡単だ。地面に目の前にある石を指でクロッキーする。あまり細かく描き込めないが、大きめに1分ほどかけて描いてみた。


描いたものの真ん中あたりを手のひらで消す。


「ピシッ」


本物の石の真ん中に亀裂が走った。




実験は成功してしまった。俺は魔法使いになったようだ。信じられんが。




そういえば神様が力を与えたのは、クロッキー帳じゃなくて俺の方だったな。


まさか魔法が使えるなんて思わないし、盲点だった。


これで万が一クロッキー帳を紛失しても、なんとかなりそうな気がする。


無限に使えるクロッキー帳は絶対に手放さないけどな!




次の実験はお絵かき魔法の説明文の中身についてだ。


昨日見た中に、想像力が豊富であれば魔法が増えることや技術によって効果が変わることが書いてあった。


今まで俺は見たものにしか効果はないと思い込んでいたが、想像で描いたものも何かしらの条件を満たせば魔法として機能するのではないだろうか。


ここで気になったのが技術という言葉だ。


絵は何も、アカデミックなデッサン力だけがすべてではない。それが大きな顔をしていた時代はカメラの出現とともに過ぎ去り、現在ではイメージやデザインの重要性は増すばかりだ。


俺は基礎力の向上のためにクロッキーしていたし、描いていた作品も写実寄りだったのでここまで実物の模写ばかりしていた。


イメージとデザインを重視して絵を描いてみよう。


とここで閃いた。


イメージとデザインが直結しているものが日本にはある。


漢字。漢字は象形文字。つまり、元は絵。


さらに、長い年月をかけ現在の形に整理されたものでもある。つまりデザインを磨き上げられたものだ。


……ちょっと試してみよう。


効果が判りやすいものがいい。


俺は明朝体でクロッキー帳に【光】と描いてみた。明朝体は前職で描きまくったので、特徴は頭に入っている。基本的に縦線が太く、横線が細い。横線の右端にはうろこが……


描き上げてみたが変化がない。何かこう、発動!とか言わないといけないのかな。


そう思った瞬間だった。


「うわっ」


描き終えた文字が輝きだした。眩しくて目を開けていられない!

慌てて手探りで文字を消す。




び、びっくりした……




……とりあえず実験成功っぽい。マジか。



読んでいただきありがとうございます。

※2/14 改稿しました。

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