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妹と一緒に異世界転生!  作者: 奇々怪々
1章
9/38

お出掛け

長編につき注意、です。

「「「行ってらっしゃいませ」」」

「「行ってきまぁす!」」

「それじゃあ、屋敷のことお願いします」

「お任せください、お気をつけて」


多くの使用人に見送られて、屋敷を出た。ズラッと並んでる光景は何か壮観だったわ。

お母様がメイド長のルアーさんと話している間に、靴を履き替え……ない。

思わず履き替えそうになったけど、違うんだった。この世界では、寝るときとお風呂に入るとき以外、靴をぬぐことがない。

便利だけど、思わず履き替えそうになるなぁ。


「リアム」

「ん?」

「お兄ちゃん、行こっ!」

「あぁ、うん。行こっか」


そんなこんなで庭の外に出ると、空気が変わった様な感じがした。実際はそんなこと無いんだけど、何か気分的に?

ってか……


「屋敷、大きすぎない!?」


木が端々に使われている、壁が白い2階建ての屋敷。広い庭の外から見ると、その大きさがよく分かる。

思わず大声を出した俺に対して、舞彩は頷き、お母様は首を捻った。


「そうかしら?」

「あー……私もこの屋敷に来たときビックリしたよ。今、自分がこの屋敷に住んでるのが信じれないもん」

「分かるわぁ……驚いた。大きいとは思ってたけど、まさかここまでとは」

「ふふっ……驚くのもそこまでにしてね。行きましょう、これからもっとビックリするわよ」


屋敷の前に停まっていた馬車に乗って街の入り口まで行く。


「ありがとうございました」

「え……あ、どうも」


お礼を言ったら何か驚かれたんだけど。どしたんだろ。


「お礼をきちんと言う貴族が珍しいのよ」

「へぇ……」


そっか。イメージでしかないけど、されて当然みたいな感じでふんぞり返ってるのが多いのかな。


「さ、行きましょう」

「「はぁい!」」

「あ、二人ともローブのフードを被ってね」


自分もローブのフードを被りながら言うお母様の言葉に従って、今朝もらったお揃いのローブのフードを深く被る。

隣を見ると、舞彩も浅く被っていた。


「でも、どして?」

「あ、それ私も気になってた。お母さんが被るようにって言うから被ってたけど……」

「そうね……これは、この前ガルハ達が警戒してたのと同じ理由なんだけど、魔術の1つに、相手の容姿や動作を完璧に模してしまう物があるのよ。これは背丈とか関係無しで発動できる魔術でね。魔力で認識をする冒険者カードや学生証などの身分証のない限り、外に出るときは基本的に警戒しておかないといけないの」


私の場合は冒険者カードはあるけど、混乱を招かないため念のためにね。

少しお茶目に続ける。


それにしても……大変だなぁ。

これは、冒険者にならない限り外では決して気が抜けないか。

あ。でも俺、舞彩に化けられたらすぐ見抜ける自信あるわ。

まぁ、それは置いといて。


「その割には……あの時お父様達、ずいぶん簡単に警戒を解いたよね」

「そりゃあね。アリーちゃんは兎も角、リアムは屋敷の外に出たことが無かったんだから。模そうと思っても模せないわ、それこそ魔人以外には」

「ふーん」

「そっか、だから警戒を早く解く代わりに凄い剣呑な雰囲気だったんだね」

「そういうことよ」

「でも私はあまり警戒されなかったよ?」

「……そういえばそうね。どうしてかしら?」


数秒考え込んだのち、「あっ」と声をあげた。


「どしたの?」

「そういえば盗賊の魔術に、指定してある者が化けられていたら見抜けるものがあったわね。それにアリーちゃんを登録しておいたのかも」

「えっ!?」

「そんな便利なのがあるの!?」

「えぇ。ただ、これは今言った通りに事前に登録しておかないと発動しないし、ある程度近付かないと行けないから、万全とは言い難いのよね」

「そうなんだ。残念……」

「でも、有るのと無いのじゃ随分違うと思うよ」


主に安心感とか。

俺、魔術使えるようになったら真っ先にこれ覚えようかなぁ。


「他にも欠点はあるんだけど……まぁ便利なのに変わりないわね」

「へぇ……」

「あ、ここよ。私のオススメのお店」


説明を聞きながら歩いてたら、いつの間にか着いていた。

外見だけ言うと喫茶店のような感じ。ていうか、まんま喫茶店じゃない?


「わぁ!綺麗だね、お兄ちゃん」

「うん、オシャレな雰囲気」


ゆっくりと寛げそうな音楽がかかってないのが残念だけど。

でも、それを除いてでさえ満点。何か喫茶店のお手本みたい!……何がお手本か分かんないけど。


「二人とも、入らないの?」

「あっ!」

「ヤバい、ぼーっとしてた」

「俺も」


あまりのオシャレさに少し気圧されてたな。


「いらっしゃーーあ!久し振り、エリューラ。今日は子連れ?」


近づいてきた店員さんは、フードを被ったままのお母様を簡単に見抜いた。その店員さんにお母様はフードを少しあげてニコリと笑う。


「えぇ。街に出てみようってなってね」

「そうなの?よいしょ、と……。こんにちは、初めまして。私はクノハっていうの、よろしくね」


わざわざ俺達の視線の高さに合わせてくれた。顔は、美人というより可愛いって感じかな。

ぱっちりした目にかからない程度で揃えてカットされた前髪。天パなのかな、2つぐくりにされた長すぎない茶髪がクルクルしてる。

じっと見てると、隣から耳を引っ張られた。


「ってぇ!ちょ、みみ!わるくなったらどうしてくれるの!?」

「おにいちゃんが、ほかのひとみるからダメなの!」


突然始まった喧嘩に呆然とするクノハさん。と、首を捻って。


「お兄ちゃん?エリューラ、この子達って兄妹なの?領主の子は一人息子だ、って聞いた気がするんだけど……」

「いいえ、幼馴染みよ。会ったときからそう呼んでるから……私もどうしてその呼び方なのかしらないけど、お兄ちゃんのように慕ってるのは確かね」 


おおぅ!婚約者とは言わなかった!

流石に、面倒事が起こりそうなのが嫌だったのかな?


「幼馴染み……良いなぁ!」

「そうね。ところで、そろそろ席に案内してもらえないかしら?」

「え、あ。ご、ごめんね!直ぐに案内するから!」


慌てて俺達を席まで案内するクノハさん。ちょ、足元躓きそうで怖いんだけど!

ハラハラと見るこっちの心情とは別に転けることなく無事に俺たちを席に案内した後、誰かに呼ばれて奥へと引っ込んでいった。


「フード、外して良いわよ」


席につくなり、お母様がフードを外しながらそう言う。


「え、良いの?」

「えぇ。ここは死角になっていて、店内からはほとんど見えないし、この窓ガラスは特殊で、外からじゃ中にいる人の顔が見えないから。それに、注文をとったり運んできたりする店員は、クノハが人を選んでくれるからね」


その言葉から、クノハさんに対する信頼が見てとれた。それにしても……


「見えない?」

「どーして?」

「うーん……そういう魔術?」

「……ふーん」


お母様も分かってないのか、苦笑いで言うから、それ以上追求する気は出てこなかった。


「そういえば、クノハさんってだぁれ?」

「あぁ……ここの娘さんよ。昔からの友人。来る度にこうやって長話しかけて、お母さんに怒られちゃうの」

「じゃあ今呼んでたのがお母さんか」

「えぇ。ところで、どれ食べたい?」


そう言いながら、お母様の向かい側に並んで座った俺達にメニュー表を渡す。


「うーん……どれがオススメ?」

「そうねぇ。新商品の……ストルのソースがかかったカップケーキや、グープとマスカトのパフェはどうかしら?」


ストルっていうのは苺みたいな味の果実。真っ赤じゃなくて白なのが特徴的なんだよな。グープとマスカトは、そのまま葡萄とマスカットに似てる。違うのは、粒々で繋がってるんじゃなくて、サクランボみたいに2つの実が繋がってるところかな。


で、こういうときはやっぱり……。


「私パフェ!」

「じゃあ俺はカップケーキで」


こうやって分けるのが一番だよね。


「よし。じゃあ飲み物はカフェモカでいい?」

「うん」

「いいよー」


何でか、カフェモカとかコーヒーとかはそのままなんだよね。変なの。


ウォンウォンウォウォン♪


「へ?」

「え、何この音」


突然鳴った音に、反射的に肩が跳ねてしまう。


「魔ベルよ」


お母様の手元を見ると、何かの装置みたいな物に水晶玉っぽいのが嵌め込んであった。


「ここに魔力を少し流し込むと、店の奥まで音が響くようになってるのよ」

「へぇ……」

「すごぉい!」


魔力が無い地球で科学が発達したように、この世界では魔力を使った便利品が発明されてるんだなぁ。

大方、勇者とやらに案をもらったんだろうけど、それであっても完成した人を尊敬するね、俺は。


「お待たせしました」


雑談をしていると、すぐに頼んだものが来た。


「わぁ……おいしそう!」

「ほんとだ、おいしそうだねー!」


見た目は、まんまパフェとカップケーキだな。机の上に置かれた途端に目を輝かせる俺達にお母様が苦笑する。


「あらあら。そんなに身を乗り出さなくても、どこにも行かないわよ?はい、どうぞ」

「いただきまぁす!」

「あはは……いただきまぁす」


まずは自分が頼んだ分を一口……


「おいしいっ!」

「んん~っ……!さいっこう!」


味は葡萄やマスカットより少し酸味が強いかも。でも、パフェのクリームがとても甘くて、良い感じにマッチしてる。

味が混ざらないようにカフェモカを飲んで。


「お兄ちゃん、ちょっとちょうだい?」

「ん。はい、どーぞ」


パクリ、と俺が差し出したスプーンを口に含む。


「これもおいしい!はい、お兄ちゃんもどーぞ」

「ん」


パクッ


「あんまーっ!」

「でしょー?」


こっちはとことん甘い。

正直、甘いのが苦手な人だったら卒倒してそうなレベル。

ところどころ残っているストルの粒を噛む度に、なんとも言えない甘さが舌に絡み付いてくる。

少し甘すぎる気がするけど、これも美味しい。


「美味しいなら良かったわ。連れてきた甲斐があったわね」

「うん。ありがとう、お母様」

「ありがとー!」

「いーえ、どういたしまして」


優しげに目を細めて笑う。その笑顔が次の瞬間、悲しげに揺らいだ。


「ごめんなさいね、リアム。赤ちゃんの時に、ほとんど外に出してあげることが出来なかった。普通ならもっと外に一緒に遊びに行くはずなのに……」


突然の謝罪にキョトンとしてしまう。


「どして?」

「え?」

「どして謝るの?」

「え、えーと……?」


困らせるだけになるけと、本当に分からない。どうしてお母様は謝ったんだろ?


「だって俺は楽しいよ?アリーと一緒に本を読んだり、庭で遊んだり。別に街に出てくることだけが楽しいことってわけじゃないでしょ?」


ちょうどこの場所は他の席から死角になっていて、店員もあまり来ないから、口調を気にせずに気兼ねなく話せる。

しばらく呆然と俺の言葉を脳内反復しているお母様の肩を、回り込んだ舞彩が軽く揺らしたことで戻ってきてくれた。


「え……あぁ、そうなの?」

「うん。ね、アリー」

「うん!」


今だ理解が追い付いてない様子のお母様に返事をする。


「だからね。今日は外に連れてきてくれて、ありがとう」

「ありがとう!」

「……ふふっ…そうね。そうよね」


突然笑い出すお母様を、舞彩が嬉しそうに見ている。


「リアム……本当あなたには、いっぱい助けられてるわね。あなたが言うなら私は気にしないわ。これからたくさん遊びに行きましょう。あの人も楽しみにしてるのよ、二人と遊びに行くのを」

「うん、いっぱい遊びに行こう」

「うん!」


こういう時に反復しかできないのが悲しい。

……もっと語彙力つけないとな……。




「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま!」

「ごちそうさまです」


三者三様の『ごちそうさま』をしてティータイムは終わりを告げた。フードを被り直してお会計へ。


「あ!どうだった?うちの新商品!」

「あぁ、それはこの子達が食べたの」

「おいしかったです!」

「甘くておいしかったよ!」

「そっか、よかったぁ!」


ホッと安堵の溜め息を吐く。

……なんか、自分が勤めるお店だからって大袈裟だなぁ。


「あれ、私が考案したの」

「そうなの?」

「うん。この間、やっと認めてもらえて。でも、いざメニューとして出したら緊張しちゃって」


でも、と続ける。


「今、美味しいって言ってもらって安心しちゃった」


なんか分かるかも。俺の場合は身内だったけど、初めて舞彩にご飯を作ったときすっごい緊張したもん。不味かったらどうしよ、なんて。


全体的に花が飛んでる雰囲気のクノハさんに代金を渡して店を出る。


「また来たいねー!」

「うん、また来ようね」

「そうね、また来ましょう。けど、次に街に来たときは、別のお店も紹介するわ。他のお店も知っておいた方がいいでしょう?」

「やったー!」

「じゃあ今日はもう帰るの?」

「いいえ。そうね……服屋に行ってみない?」

「服!?」

「良いね!」


舞彩が可愛い服を着ている様子を想像してウキウキしてくる。


「遠いの?」

「いいえ、すぐそこ……着いたわ」

「はやっ」


本当にすぐそこだった……。


「んー?」

「なんか……普通の家?」


扉の横に、木で作られた服マークが彫ってある看板以外、周囲にある普通の家と変わりがない。


「でも中は広いのよ」


そう言いながらお母様が扉を開ける。


「え!?」

「は!?」

「ね、広いでしょ?」


中は外観からは考えられないほど広かった。


「えっ、えっ?」

「はぇ……あ、魔術?」

「正解。さすがね、リアム。でももっと驚いてくれても良かったのよ?」

「……十分驚いてるよ」


ただ、前に空間魔術についての本を見たことがあるからある程度分かっただけなんだけど。

今度は何も言わずフードを脱ぐお母様に合わせて、俺もフードを脱ぐ。混乱している舞彩の肩を叩いてフードを脱がせた。


「いらっしゃいませ、エリューラさん」


声をかけられて見れば帳場の机の上に、一人の女性が座っていた。持っていたたくさんの紙の束を机におき、机から下りてこっち側に歩いてくる。

鋭い藍色の瞳に、青みがかった黒髪を背中に流している。


「あ。久し振り、マロちゃん」


吹き出しかけた。


「ちょ、アリー!肩震わしちゃダメ……!」

「だって……だって……!」

「分かるけど……!我慢……!」


堅物そうな女性に対してマロちゃんって……。ヒソヒソと会話を交わす俺達をチラリと一瞥して、ギッとお母様を睨み付けた。

俺らはピタリと会話を止める。

怖えぇぇえぇぇ……!


「お久し振りです。いつも言ってるでしょう!マ、マロちゃんは止めてください!」


怒ってながらも律儀に挨拶するって真面目だなぁ……。

お母様はその睨みと言葉を馬の耳に風と受け流し、ニコニコと笑ってる。……いやに機嫌が良いな。

その態度に言っても意味がないと悟ったらしい女性が、溜め息を吐きながらこちらを見た。


「……ところで、このお二人のお子様は?」

「えっとね、私の息子のリアムとその幼馴染みのアリーちゃん」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「初めまして。ここの店主の代理をしてます、マロニエと申します。よろしくお願いします」


クノハさんと同じようにしゃがんで視線を合わせてくれる。挨拶をして立ち上がると、帳場に戻りながらお母様に視線を向けた。


「今日はどのようなご用件で?」

「ちょっと服を見てみようと思ってね、顔出しただけよ。この街の服屋でここが一番馴染み深いからね」

「それはありがたいですね。まぁ、私はここでデザインしてるんで、ゆっくり見て行ってください」

「そうさせてもらうわ」




言った通りのんびりと店内を見てまわる。途中で舞彩が良い服を見つけたから、どうせならと着てみることになった。


「あなたは良いの?リアム」

「んー?良いよ、屋敷にいっぱい服あるし」


実は、俺の部屋の隣の部屋に大量の服がある。今着れるものから、確実にまだ着れないよねって物まで。

俺が産まれるってことで、お母様がはりきって集めさせたらしい。


「あはは……でも、してみたい格好とかないの?」


つくづくお母様は、俺のイメージの貴族って感じじゃないよね。てか、そんなこと聞かれても……俺はもともと服装とか凝るタイプじゃ無いんだよなぁ。

舞彩にさせたい服装なら沢山あるけど。


「んー……別に無いかなぁ?」


結局こう答えるしかない。


「あらぁ?そんな淡泊な……誰に似たのかしら?」


ブツブツと呟く。無視して店内を見渡してると、ちょうど店の奥から舞彩が出てきた。


「まぁ!可愛いわよ、アリーちゃん」

「ありがとう!お兄ちゃん、どう?似合ってる?」

「う、うん!可愛いよ、アリー」

「本当!?やったぁ!お兄ちゃんに可愛いって言ってもらえた!」


なんかそれ俺が普段言ってないみたいじゃん。ほら、お母様も苦笑いしてる。


着替えた舞彩の格好は、シンプルな淡い水色のワンピースだった。

襟はそこまで開いてなくて、鎖骨が見えるか見えないかぐらい。対称的に長袖は浴衣や着物のように、ふんわりと開いている。

膝丈は膝の少し上。


うん。舞彩の髪や瞳とあって、なんか……天使、みたい。


「可愛いよ、アリー」

「えへへ」

「あら。……へぇ……」


意外そうな声が聞こえてそっちを向くと、マロちゃんさん(笑)がアリーを興味深そうに見ていた。


「げ……」

「お母様?」


ひきつった声が聞こえて隣を見上げると、お母様が「まずい、やばい」みたいな表情をしていた。


「……」

「あの、マロニエさん?」

「……」

「え、あの?」

「……」

「お、お兄ちゃぁん……」

「いや、何があった?……マロニエさん?」

「……」

「マーローちゃーん!!!」

「「……っ!!」」


うるさっ!

でも、その大声で意識を取り戻したらしい。


「エリューラさん」

「なに?」

「何ですかこの天使!!」

「…………はぁ……」


取り戻した……よね?

お母様が溜め息を吐く。この様子だと、いつも通りなのかもね。


「……あの、アリーさん?」

「は、は、は…い…?」


何度も吃りながら返事をする。


「そうですね。今はまだ成長期に入るので無理ですが、身長が安定したらまた来てください。貴女に似合いそうな服をたくさんデザインしておきます!」

「ほ、本当ですか!?」


嬉しそうだなぁ、舞彩。そりゃ女の子だもんね。自分だけの服をデザインしてもらえるって聞いたらテンションも上がるよ。


「っ!?」


なんかゾワッとした!なに!?

バッと顔をあげるとマロニエさんと目があった。


「リアムさん」

「へ?はい、何でしょう……?」

「貴方も、です。一緒に来てください」

「え、ぼくもですか?」

「はい」

「……分かりました」


少し腑に落ちないところを感じながら返事をする。


「ふふふふふ……良いですね。たくさんの案が浮かんできます。ふふ……ここまでスムーズに案が出るなんて久し振りです……!ふふふふふふ!」


恐いんですけどぉお!?

舞彩が俺の腕にしがみついてくる。見れば顔色が真っ青になってる。


「……はぁ……」


お母様。何ですか、この人。


「……デザインの腕は確かなんだけど……性格に難があるのよ」

「この人も昔からの友人?」

「えぇ……」


疲れたように答えるお母様に、少しだけ同情する。昔からこのペースに連れ回されていたとなると、そうとう疲れてただろうなぁ……。


「マロちゃん、これ会計して」

「え?」

「だからマロちゃんは……まぁ良いです。じゃあ会計はこちらで」

「いや、え、エリューラさん?」

「買ってあげるわ。じゃ、二人はフード被って先に出てて」


言われた通りフードを被り直し、外に出て待つ。


「買ってもらって大丈夫かなぁ……」

「大丈夫なんじゃね?仮にも領主の妻でしょ?」

「そうかな。……それにしても」

「……うん」

「「怖かったぁ……」」


同時に呟いた途端、扉が開いてビックリする。


「いい買い物したわぁ」

「それは良かったです。私もいい案がたくさん浮かびました」

「……それは良かったわ」

「お気を付けて帰ってくださいね。リアムさん、アリーさん。また来てください。たくさんデザインして楽しみに待っています」

「は、はーい」

「また来ます」

「じゃあねー!」

「はい、また」


手を振って別れる。なんか……舞彩の服(良いもの)は買えたけど疲れたなぁ。


「あの、エリューラさん」

「なぁに?」

「服、ありがとう!」

「いえいえ。女の子だもんね。オシャレしたいでしょ?」

「……うん!」


少し照れたように微笑む舞彩は、ついさっき買ったワンピースの上にローブのフードを被った姿だ。ちなみに、もともと着ていた服は袋に入れて俺が持っている。

鼻歌を歌いながらお母様は先を行き、俺達はその後をゆっくり歩く。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「あれ……」


微妙な表情で舞彩が指差した先には、首輪を付けて引っ張られている男性がいた。一切、抵抗の様子が見られない。……当然、喜んでる様子もない。ただただ無表情だった。

その首輪に繋がる鎖を引っ張る男性は、そうとうイラついている様子で、乱暴に歩いていた。


「オラ!歩け!足があんだろうが!」

「……」

「返事しねぇとは、遂に口すらなくなったかぁ!?」

「……」

「おいっ!」


ガッ……!


思いっきり蹴りあげた。周囲の人も助ける様子を見せない。蔑んだ目で男性を見下ろしていた。


「……あれじゃ、歩けるわけないじゃん」


男性は足が変な方向に向いていた。それを見て眉間にシワがよる。


「……ほんとにね」

「……最悪。酷いもの見た」

「……ていうか、お兄ちゃん。アレ何?」

「奴隷よ」 


いつの間にか戻ってきていたお母様が答える。


「奴隷?」

「えぇ」


お母様の説明によると、奴隷には五種類あるらしい。


捕虜奴隷ーー戦争で負けた国の人がなる。基本的に捕虜として捕らえられてた奴。


負債奴隷ーー借金を負って、奴隷として働くことで国にお金を支払う。これに関しては国が決めたところに行かせて、支払いを終えたら解放される。暴力などの一切が禁止されているなど、奴隷というより使用人に近い。


孤児奴隷ーー親がいない、親に捨てられた子供がなる。戦時や飢饉が起こると増える。買うのはそういう趣味の人が多いから、成長すると解放されるのが基本だけど……なんせ生き方が分かんないから、借金負って奴隷戻りだったり……餓死したりするらしい。


犯罪奴隷ーー犯罪を起こした奴がなる。軽犯罪なら期限付き、重犯罪だと無期限らしい。期限が来ると国の役員が解放するらしい。


亜人奴隷ーー亜人の奴隷。子供の亜人が捕らえられてなることが多い。ただ、普通に暮らしている亜人じゃなくて……路地裏でダメになりかけてる奴を連れてきたり、亜人の国から拐ってきたり。亜人の国と戦争が起こると、ここぞとばかりに増える。亜人の場合は捕虜奴隷や孤児奴隷、犯罪奴隷っていう区別はない。


負債奴隷と軽犯罪奴隷を除いて、奴隷商で奴隷紋が施され、決して主人に逆らうことはできないようにされる。奴隷紋には色々な設定を行うことができて、需要に合わせて奴隷商と主人にのみ変更可能。奴隷紋の禁止事項に触れた場合、全身に致死量に至らない程度の電流が走る。


負債奴隷と軽犯罪奴隷に関しては、主人に逆らうことはできないのは一緒だけど、奴隷紋の変更は国にしかできない。それ以外の者が変更した場合、重犯罪に分類されて奴隷落ち。

どうなっているのか分からないけど、奴隷紋の変更は感知される。


奴隷は全員、首輪をつけられる。この首輪は種類があって、主人が選ぶ。扱いの違いを表しているらしい。この首輪の種類によって、お店などに入れたり入れなかったりする。負債奴隷と軽犯罪奴隷には、国から特別に支給される。


「今説明するのはこれくらいかしら」

「……うわぁ、酷い」

「闇……」

「そうね。ところで、だけど」


そう言うとツカツカと、今だ奴隷を蹴り続けている男性に近づいていった。


「えっ、ちょっ!?」

「エリューラさん!?」


慌てて後を追いかける。


「大体、てめぇのせいd「止めなさい」……あ″ぁ!?」

「え!?」

「はぁっ!?」


勇敢にもお母様は、怒り狂う男性の肩を掴んで止めた。


「誰だ、お前……?」

「……」

「おい」


一見部外者に見えるお母様に止められたことで、少し冷静になったらしい。奴隷の男性を蹴る足を下ろして、お母様を見下ろす。


「ここは往生よ。奴隷の躾をするのなら別の場所で、ね」

「は?げ……ッちっ…わ、わりぃ」


謝ったけど、その前に舌打ちしましたよー、その人。


「いぃえー。他の通行人の邪魔になりそうだったからね」

「……止めてくれて…助かった」

「ふふっ。素直にお礼を言える男性は素敵ね。さて」


そこで息を大きく吸って、周囲に群がる人達に一言。


「あなた達も!これは見世物ではないわよ!」


人々はハッとしたように、そそくさと足早に去っていった。暫くして、いつも屋敷から見ているような人通りになるのを待ち、お母様は俺達と男性二人を道の端に寄せた。


「ちょっと良い?」

「あ…あぁ」


俺達を訝しげに見ていた男性だけど、お母様に声をかけられると挙動不審になって返事をする。


「少し貴方の奴隷、借りるわよ」

「は?」

「足、治すために出てきたんでしょ?」

「あぁ」

「私が特別に無料(タダ)で治してあげるから」

「……助かる」

「いいえ。少しその子達と待ってて」


言われてこちら側に男性がやって来る。なんというか……服装からして大分良いところの出だろうね。


「お兄ちゃん。何でエリューラさんは治療してるのかなぁ?」

「さあ?不憫に思ったわけじゃないだろうし……分からん」

「「うーん……」」

「おい」

「ん?」


真意が分からなくて二人で唸っていると、なんか男性に偉そうに声かけられた。


「お前らは何だ?」

「は?」

「えーっと?」


質問の意味が分からず、疑問符しか出ない。しばらく黙っていると、男性が舌打ちをして聞き直した。


「お前らはあの人の何だ、と聞いている」

「あぁ……そういう意味」

「で?」

「ボクはあの人の子です。で、こっちがボクの友だち」

「………………子?まさか……あの人は結婚してるのか!?」

「してるよ?」


領主と。


しょぼん……と落ち込む男性が可哀想に見えてきた。もしかしなくても、フードで顔も見えないはずのお母様に惚れたとか?


「あの」

「ふぅ~、治ったわ!」


慰めようと声をかけようとすると、ちょうどお母様の方が終了したらしい。声があがった。

沈んでいる男性に首を捻りながら、お母様がこっちに来る。


「ごめんね、二人とも。待ってもらって」

「ううん、大丈夫」

「うん。お兄ちゃんと一緒だったから、全然大丈夫だよ!」

「あら、そう」

「……助かった」

「いいえ。こう言っては何だけど……無茶は止めてね?」

「今後は気を付ける」


変わらないな、こりゃ。

反省の色が見えない男性を置いて、馬車がある場所を目指す。

……男性の名残惜しげな視線を受けながら。


「ねぇ」

「どうしたの?」

「何で助けたの?」


気になってたこと。舞彩も頷く。

主語が無くても繋がったらしい。お母様は納得、というように大きく頷いた。


「大した理由は無いわよ?ただ、あのまま放っておいたら路上で死体が出てたでしょ?」


平然と言う姿に、一瞬絶句した。

そうか。奴隷の説明を聞いて感じたけど、この世界は奴隷がいる、死体が普通に出る、魔物も…いる。以前よりも『死』と近いんだ。


空気が重くなる。


「ところで。二人とも何も買わなくて良かったの?」

「へ?あぁ、うん。特に何も無かったから」

「私は服買ってもらったから!」

「そう?」


そうこう話しているうちに、馬車に着いた。


「屋敷に帰る前にちょっと寄ってほしい場所が……」


御者に何かを伝えてるお母様を横目に馬車に乗り込む。


「楽しかったけど疲れちゃったね」

「だねー」

「もう少しよ。最後に良いもの見せてあげる」


乗り込んできたお母様が言った言葉に首をかしげる。


「良いものってなぁに?」

「見てからのお楽しみよ」

「えー!」


俺も「えー!」って言いたい。でもお楽しみっていうんだから、内緒なんだろうな。


ゴトゴトと揺られながら進む。


「フード、外して良いわよ」


そう言われて、すでにローブは脱いでいる。


「お兄ちゃん、お尻痛い」

「うん、俺も」

「慣れてないからね。慣れたらどうってことないわよ」


そう言うと同時に、ガタン……と馬車が止まった。


「着きましたよ」

「あら、もう?下りましょう」

「うん……っ!?」

「はぁい……わぁ!」


下りた瞬間、刻がとまった。


「綺麗……」


綺麗。そう、綺麗。

もはやそれ以外の言葉が見つからない。


反対側の山々の間に、大きな真っ赤な太陽が沈んでいく。


時間が緩やかに進む。


太陽が沈むと共に、少しずつ星々が輝き始めた。


「ねぇ、お兄ちゃん」


隣にいる舞彩が、小さな声で話しかけてきた。


「私達は幸せだね。1度苦しい思いして死んじゃったけど、こうやって裕福なお家に生まれ変わって。毎日愛情を受け取って。これを幸せと呼ばなければ何を幸せって言うのか」

「……」


空を見上げる舞彩は珍しく大人びた表情をしていて、とても綺麗だった。


ーー何があっても守ろう。


自然とそう思う。


あのときは失敗した。

失敗なんて軽い言葉じゃ済まないけど。

……許せない、けど。


ギリッと、手を握りしめる。


もし、もし、あの時。お風呂に行く前の違和感を信じていたら。絶対に部屋に行っちゃダメって言っといたら。もしかしたら、舞彩だけでも守れたかもしれない。……なんて、ありえないけど。


守りたい。

でも……。


『死』が身近らしいこの世界では、なおのこと思ってしまう。少なくとも表面上は『平和』だったあの世界でさえ守れなかったのに、この世界で守れるのか……って。


それでも。

いや、だからこそ。


舞彩が今を幸せだって言うのなら、それなら、この幸せな時間を、舞彩を、絶対に守りたい。


今度こそ絶対に、何があっても舞彩だけは。

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