冒険者
久しぶりの改定です。すみません、私生活が忙しくて不定期になります。
無事、婚約者となった俺と舞彩。そんな中お父様が衝撃の事実を告げる……!
……なんちって。
一瞬スパークした頭の中で意味わからない言葉の羅列があった気がするんだけど。……気のせいかな。
「言ってなかったんですか?」
「……悪い。伝え忘れてた」
素直に謝るお父様に、大人達の呆れた視線が突き刺さる。部屋の端にいる使用人達も、どこか視線が冷たい気が……。
「エリューラ様、逃げないでください」
「ギクッ」
サヤさんの視線がそっと目を逸らしていたお母様に向く。ってかマジでギクッて言ったよ。
無言の圧力を受けている二人は置いといて、隣で物を詰め込んでいる舞彩を見る。
「ま……アリー」
「ほむぅ?ふぁーひ?」
「あー……先に飲み込んじゃって」
もぐもぐ……ごっくん。
言った通り飲み込んでから舞彩が口を開く。
「なぁに?」
「お前、お母さん達から何か聞いてた?」
「ん~……あぁ、一緒に住むこと?」
「それそれ」
「うん、聞いてたよ?まさか今日になるとは思わなかったけど」
「あ。そうなの……」
声が落ち込む俺を不思議そうに見る舞彩を置いて、もう一度お父様達を見る。俺の目もジト目になってるだろうなぁ……。
「お母様……?」
「いや……まさか、こんなに早いとは思ってなかったのよ」
「そっちじゃなくて」
「それならなぁに?」
「もし今日、婚約をしなければアリーと離れることになってたの?」
「あ」
あ?そんなに大事なこと伝え忘れてたの?
「お……お兄ちゃん?」
「なぁに、アリー」
「どうしたの……?」
「いやぁ……そんなに大事なことを伝え忘れてたんだなぁって」
「そっか、あはは……取り合えず落ち着こう?」
何かマジのトーンで言われたんだけど。
「申し訳ありませんリアム様。まさか伝えていないとは思わず……」
「え……!?あ、いや……ち、違うよ?サヤさん達じゃなくて……」
突然サヤさんに謝られて、しどろもどろになる。
「ごめんね、リアム」
「悪いな」
「~~っ!……はぁ、もういいよ。済んだことだし」
そう全員に謝られると気まずいよ、本当に。
「……なぁに、アリー」
ツンツンと肘で俺をつついてきた舞彩をジトリと見る。俺の視線を受けた舞彩はニヤリと笑った。
「優しいね、お兄ちゃん」
「……そんなんじゃないよ。ただ気まずいだけだし」
「そっかぁ」
そんな「素直じゃないなぁ分かってるよ」みたいな目を止めて、舞彩!何か恥ずかしいんだけど!
「本当にごめんね」
「もういいってば」
「そう?まぁそう言うなら……それにしても、また随分と急だったのね。もう少し先だと思っていたんだけど」
「はい、私達もその予定だったんですけど……なんか話が変わってしまったみたいで」
「そうなのか」
「ええ。あちらの予定がーー」
俺達を置いてお母様達が話をする。
俺は話で中断されていた夕食を再開しながら、気まぐれに話に耳を傾けてみた。
「ーーだけど寂しくなるわね、あなた達がいなくなるなんて」
「あぁ、ずっと4人でいたからな」
「別に永遠の別れって言うわけじゃないんですけど……でも、やっぱり寂しいですね」
「えぇ、冒険者時代からずっと一緒にやってきてましたしね」
ん……?
「あれは楽しかったよなぁ」
「あなたったら毎回のように罠に引っ掛かりそうになるんだもの。いつもアヤンが大変そうだったわね」
「仕方ないですよ、僕1人しか盗賊のスキルを持ってなかったんですから」
「そうですね、ダンジョンに入るときはいつも頼りっぱなしでした」
んん?
「……冒険者……?」
気づけば口から自然と言葉がこぼれていた。
「ん?あぁ、冒険者ってのは世界を巡って色んな依頼をこなしたり、ダンジョンに潜って宝物などを探したりする奴等のことだ」
いや、それは知ってるけど。
お父様の説明を補足するように、お母様が少し自慢気に胸を反らしながら口を開いた。
「私達は昔、4人でパーティを組んで旅してたのよ!」
「はい、私が魔術師でアヤンが剣士および盗賊……罠の感知とかをする役です。彼の場合剣士より盗賊の方が主でした。それからガルハ様が剣士、エリューラ様は弓使いを主にして魔術も使ってましたね」
「へー……強いの?」
「僕達自身では何とも言えないけど……でも結構、上位のランクでしたね」
「わぁあ!凄い!」
「ありがとう」
冒険者かぁ……。
「してみる?お兄ちゃん」
「いいな、それ」
「いいわね!」
「2人が良いなら……」
「ええ」
なんか決まっちゃってるんだけど……?本人が口を出す暇もなく話が進む。話の早さに呆然としていると、舞彩が俺の顔を覗き込んできた。瞳が少し不安そうに揺れている。
「お兄ちゃん、嫌……?」
「いや、別に嫌ってわけじゃなくて……むしろ楽しそうだなとは思うけど」
「じゃあやってみようよ!」
「……良いかもね」
そう言うと舞彩が嬉しそうに笑った。笑顔のまま俺の回りをスキップしだす。
「やったぁ!お兄ちゃんと一緒に冒険者!」
「ふふっ、良かったわねアリー」
「うん!」
そんな会話をするのを聞いて、俺も何だか楽しみになってきた。舞彩があまりにも嬉しそうにするから、感化されちゃったかな。
「まぁ……年齢的にも今すぐってわけではないが、直に話そうと思っていたことだ。今回はちょうど良かったな」
そう言いながらポンっと俺の頭の上に手を乗せたお父様を見上げると、ニヤリと笑った。
「冒険者は楽しいぞ、自由だしな!その代わり危険も伴うし何か起こっても自己責任のところもあるが」
「リアムが冒険者をしてみたいなら、少しずつ戦い方を教えてあげるわ。本当はもう少し後のはずだったんだけど……」
「ハハハッ、まぁ仕方がないさ。どちらにせよ、お前には1度、経験を積むために冒険者になってもらうつもりだったしな。少しぐらい時間がずれたって構わんさ」
「そう言えばそうね」
そう言って笑う2人に疑問がわく。
「お母様達って今は冒険者してないの?」
「あぁ、してないな」
「でも一応、冒険者の資格は持ってるのよ。時々訓練して腕が鈍らないようにはしてるし、ガルハなんて領主なのに昔と変わらず毎日のように剣を振るってるでしょう?」
お母様の問いかけに頷く。お父様が毎日剣を振るってるのはよく見ていた。
「それに、ガルハは空いた時間があったら森に行って魔物と戦ってるもの。剣の腕は全くと言っていいほど変わってない……どころか上達してるんじゃないかしら」
ふーん……お父様って、前から凄いとは思ってたけど本当に凄いんだな。
「……あ、もうこんな時間ですか」
アヤンさんの声で時計を見ると、もう随分な時間だった。
「そうね。じゃあ、そろそろ私達は帰ります」
「あ、そこまで見送るわ」
「じゃあアリー、行こうか。リアム様、おやすみなさい」
「おやすみ、お兄ちゃん」
「うん、おやすみ」
パタン……と扉が閉まると、そこには俺とお父様だけが残された。
「リアム、もう言葉づかいは気にしないことにしたんだな」
「……うん。ばれてる人に続けることほど滑稽なことは無いよ」
「そうか」
その言葉のあとに暫く沈黙が続く。それを破ったのはやっぱりお父様だった。
「俺は……いや、俺達は、お前達が何だろうと関係ない。俺達はそれぞれお前達の親だ。何があろうとお前達の味方だ。何故そんなに多く言葉を知っていて、大人の会話に入れるほど頭の回転が速いのか。一般の子供じゃあり得ないぐらい勤勉であること。アリーがお前のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ理由。他にも諸々と。それを言いたくないのなら言わなくていい。だから……」
そこで一旦言葉を区切り、
「そんなに警戒しないでくれるか?」
そう困った顔で言われてやっと気が付いた。どうやら俺は自分でも気づかないうちに気を張っていたらしい。
その言葉で肩の力がスッと抜けた。
「……ごめんなさい」
多分、傷ついたと思う。何をしたわけでもなく実の息子に警戒されるんだから。
シュンとしていると、さっきと同じように手が頭の上に乗せられた。そのままガシガシとかき回される。
「気にすんな。その様子だと無意識だろう?」
「うん……」
「だろうな。別に気にしてないさ」
ほっと気が緩むと眠くなってきた。ふぁ……と欠伸をすると、体が浮き上がってお父様が俺の椅子に座り、その膝の上に俺を乗せた。背中をポンポンとリズムよく叩かれる。
「眠いんだろ?寝とけ」
お母様とは違う堅い手。あの言葉を聞いたお陰か物凄く安心する。どこかで欲しかった言葉。今はまだ話す覚悟が無いけど、いつかまた……。
そのままお父様に身を預け、そんなことを考えながら俺は夢の中に落ちていった。
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リアムが寝たあと暫くして、部屋の扉が開いた。顔を出してリアムが寝ているのを確認したエリューラは、そうっとガルハの方へ歩いていく。静かに席に着き、リアムの寝顔を優しい目で眺める。
「かわいいわね」
「ああ、色々あって疲れてたんだろうな。あっという間に寝付いた」
同じく優しい目でリアムを見ながら頭を撫でるガルハ。
「こうしていれば年相応なのにねぇ」
「だな」
「あれ問題無さそうだった?」
「あぁ、大丈夫。こいつは間違いなく俺たちの子だ」
「良かったぁ」
「少し変わってるがな」
端から聞いたら何のことか分からない会話でも、この夫婦の間では繋がっているらしい。
ほっとしたようにエリューラが呟き、それにガルハが苦笑する。
「ところで……ねぇ、さっきサヤ達とも話したんだけどね。リアム達にーー」
続けられた言葉にガルハはゆっくりと目を見開き、「早いな」と呟く。
「まぁね、だけど良いじゃない、この子達だもの。元々リアムも自分なりに進めているみたいだし」
「だな。流石、俺達の子だ」
二人で顔を見合わせてクスクス笑う。
余談だが。
食堂では暫く、使用人達が近寄るのを躊躇うのほど甘い空間が広がっていたらしい。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。