妹が婚約者
何回かに分けての更新になります。
「お兄ちゃん、私と結婚してください!……もちろん本当の結婚式では、お兄ちゃんがタキシードで良いから……」
「いやいや。良いから、じゃなくて当然っしょ!てか何で残念そうなの!?」
「……やっぱりお兄ちゃんのドレス姿が見たい!」
「懇願されても無理!」
「えー!?」
もう何分もこの会話を繰り返してる。
何でこんなに舞彩が俺にドレスを推すのかというと……単に俺がお母様似の女顔だから。って言っても幼少期なんて誰だって女の子みたいな顔じゃん!成長したら俺だって!そもそも、あのお父様で将来女顔なんて、あり得ねぇだろ!
「コホンッ……冗談は置いといて、本当に!将来、私と結婚してほしいの。前では兄妹で結婚できなかったけど……でも、でも私は…ずっとお兄ちゃんと……っ!」
急だけど真面目な雰囲気で、冗談を言ってるわけじゃないのは分かる。でも、だからこそこいつは
「アホだってんだよなぁ」
「え?」
「婚約の申し込みぐらい俺から言わせてよ。お兄ちゃんだよ、仮にも」
今は違うけど。
「え、え?」
目を白黒させて混乱している舞彩の前に膝をついて、そっと手を差し出す。
「舞彩、俺と婚約してくれませんか?」
その言葉で、やっと状況が飲み込めたんだろう。困惑していた舞彩の表情に、バッと笑顔が戻った。
「もちろんっ!」
舞彩の手が俺の手に重なった瞬間、窓の外でババッと光が咲いた。
「……え?」
「……タイミング良すぎじゃね?」
あり得ないほどの絶妙なタイミング。
まさか、と思った瞬間……
「ひぁっ……!手、手が!」
「ぅあ……何、この手!」
窓から1…2…3……8本の手が伸びてきた。
ある予感と気味悪さに逃げることも出来ず、とりあえず手をとっていた舞彩を引っ張って後ろに隠す。
「クスクスクス……って驚いた?」
その手から聞き覚えのある声が聞こえてきて、舞彩は固まり、俺はやっぱりという何とも言えない表情になった。
「はい、合格ですよ。リアム様」
そう言いながら出てきたのは、サヤさん。それに続いて俺の両親と、知らない男性……恐らく舞彩のお父さん。
「何やってんの?」
「試験よ。何か起こったときにリアムがどうするか、っていうね」
「まぁ、お前なら大丈夫と思ってたがな」
「い、いつから見てたんですか!?」
そう、それが重要なんだよな。前の世界云々を聞かれてたらマズイ。ひじょーにマズイ。
「そうねぇ……リアムが、アホなんだよなぁって言ったところからかしら?」
「はい、そうですね」
舞彩と顔を見合わせて、ほっと息を吐く。それを目敏く見つけたお父様が、ニヤリと笑った。
「何だぁ?見られたら不味いことでもしてたのか?」
「あなた!なんて事を聞いてるの!?」
まぁ、ある意味マズイことだけど。その言い方は無いな。ポコパコと笑顔で叩かれているお父様に呆れた視線を送っていると、サヤさんと男性が近付いてきた。
「リアム様、会うのは初めてですね。僕はアヤンクス=サピネウス、アリシアの父です。アヤンと呼んでいただければ」
「初めまして、リアーミュウ=ウェーブです」
アヤンさんは、見た目だけで言うと役所勤めをしてそうな感じの男性だった。長めの青っぽい髪を後ろで1つにくくっていて、舞彩に似た透明感のある青い瞳は、知性的な光を放っている……ってあれ?
「白くない……?」
「あぁ。アリーの髪の事でしょうか?」
コクリと頷くと、疑問を持つのは当然とばかりに微笑んで言った。
「アリーの髪は僕の祖父譲りなんです」
「……ってことはアリーの曾祖父様?」
「……はい」
何で返答に時間がかかったのか、気にはなったけど大して深く考えずに舞彩を見る、とバッチリ目があった。……さっきから視線を感じると思ってたらお前か。
「っていうかお母様!さっきの光はなんだったの?」
今だお父様の頬を掴んで引っ張ってるお母様に疑問を尋ねる。……もう止めてあげて。そろそろお父様も涙目よ。
「あぁ、あれは魔術なの」
お母様の説明によるとーー
正確には、さっきの光は外でやったんじゃないらしい。
別の部屋の鏡とこの部屋の窓を繋ぐことが出来る魔術があって、少し工夫をするとマジックミラーみたいに、こっちから見ると何も異常が無いように見せることが出来るそうで。で……暫く見ていて、ちょうどいい場面でこっちからも見えるようにして光を見せる。なんで光が必要なのかっていうと、特に意味は無いらしい。ちょっとした遊び心ってさ。
最後に行き来が出来るようにして手を伸ばした、という仕掛けだったそうで。
簡単そうに聞こえるけど、実際は難しいと思う。
「って言うかリアム、途中で気付いただろうが。魔術だってこと」
「……まさかとは思ったけど」
そんなに凄いことだとは……。
「でも、どうして今日なの?」
「……女の勘、ですね」
「勘……?」
「はい。恐らく二人きりにしたら、こういう話をするでしょう……という勘です。あとはタイミングが不安でしたけど、ピッタリ合って良かったです」
勘……ね。ちょっと引っかかったけど、追及しても何も言わないだろう事は分かったので、何も聞かない。
「合格ってのはなぁ、何て言うか……婚約者に相応しいかのテストって言やぁ良いか?」
「って言っても不合格は1つだけよ。『なにか起こったときに女の子を盾にする』これは不合格ね」
「しないよ!?」
するわけないじゃん!失礼な!
「分かってるわよ、それくらい。でも……」
「ねぇお兄ちゃん」
お母様が何か言いかけたとき、チョイチョイと俺の服が引かれた。振り向くと舞彩が、ぐっと親指を立てて
「私はお兄ちゃんに盾にされても問題ないよ?お兄ちゃんを守れるなら」
……問題が増えるんで黙っててくれないですか?
予想通り、女性陣が黄色い悲鳴を挙げて、舞彩を抱き締める。
「リアム」
「お父様……?」
いつになく真面目な表情をしたお父様とアヤンさんが近付いてきた。二人とも剣呑な雰囲気を纏っている。思わず一歩下がりそうになった俺を、お父様が視線で制した。
「……マイ、とは誰だ?」
「………へ?」
舞彩、は…舞彩、だけど…。何でお父様が知って……。充分気を付けてたはずなんだけど。
そこまで考えたとき、ふ…とさっきの会話を思い出した。お母様は何て言った?
確か……
『そうねぇ……リアムが、アホなんだよなぁって言ったところからかしら?』
……ちょっと待て。
さらに前の、舞彩に結婚を申し込んだ時の言葉を思い返すと、思い当たる節がある。
『舞彩、俺と婚約してくれませんか?』
「ーーっ!!」
息を飲む。
ヤバイ、まずった。どうしよ。
そんな単語がグルグル脳内をさ迷うだけで、どうしたら良いかなんて案は見つからない。
……取り合えず誤魔化してみよう。
ダラダラと冷や汗を流しながら、むりやり笑顔を作った。
「あ、あははぁ……。誰だろーね……」
こんな言葉で誤魔化せるわけもない。お父様たちは鋭い目付きのまま、俺の事をじっと見つめる。
あまりの鋭さに逸らしそうになる視線を止める。なんか逸らしちゃまずい気がした。
しばらくそのまま俺のことを見ていたけど、突然2人がクスリと笑った。
「悪かったな、驚かせて」
「すみませんでした、リアム様。ですが少々確認しておきたいことかありましたので」
そう言って2人とも纏う空気を緩くした。安心して力が抜けた俺を、女性2人から解放されて近くに来ていた舞彩が支えてくれる。
「だ、大丈夫?お兄ちゃん」
「だいじょばない!うわーん……!助けてアリー!」
泣き真似をしながら、ここぞと舞彩に抱きつく。よしよし、と撫でてくれる舞彩。
これこれ!俺はこれが欲しかったの!
そんな俺の作戦?などお見通しとばかりに、お父様が大声で笑った。
「はははっ、本当に悪かったな」
「ううん」
「……最後に、1つだけ答えてくれ。お前等は誰だ?」
お父様が声のトーンを低くして問う。何でそんな質問をするのかと舞彩と顔を見合わせながらも、あまりに真面目な表情なものだから、その問いに答えた。
「リアーミュウ・ウェーブ」
「アリシア・サピネウス……?」
俺達の答えを聞いて、お父様がアヤンさんに目配せをする。アヤンさんがコクリと頷いたのを確認して、やっと本当に安心したように深い溜め息をついた。
「………?」
「…どうしたの?」
「や……何でもない」
ふと温かい視線を感じて振り向くと、お母様達が凄く優しい目でこっちを窺っていた。
あれを見ると、やっぱお母様達も気にしてたんだろうなぁ。
そう思うと申し訳なくなる。
……ごめんなさい。ただ俺は、この平和な時間を続けていきてぇの。
……こう考えてしまうこと自体が、『転生』のことを話したときのお母様達の反応を恐れてる何よりの証拠になんだろうなぁ。
そんなことを思ってしまって、せっかくの幸せな気分が、一瞬で地に落ちてしまった。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「んー?なぁに」
「……何で私、髪をかき混ぜられてるの?」
「……あー…癒し?」
「……えぇ…?」
いつのまにか舞彩の髪の毛を撫でまくっていたらしい。目の前の髪の毛は、そのせいでボサボサになっていた。
……後で直すから、ジト目やめて?
それからお父様達は、4人揃いも揃ってニヤニヤしないで。
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色々あったけど、無事に双方の親に許された婚約者になった後、食堂に移動して夕食を取ることになった。
「それにしても……こんなに早くリアムに婚約者ができて、しかもそれがアリーちゃんなんて。驚きね」
「あぁ。人生、何が起こるか分からんな」
ウンウンと頷くお父様とお母様。
「ですが良かったです。お二人のお子様になら、安心してアリーを預けれますから」
「ええ。この子をリアム様と離すのを不安に思ってたんです。少し寂しいですが……」
と、俺の隣でリスみたいに頬に物を詰め込んでいる舞彩を微笑ましくも寂しそうに見るアヤンさんの言葉に、疑問が浮かぶ。
「どういうこと?」
尋ねると、サヤさんとアヤンさんの視線が一気にお母様達に向かった。何か驚愕の視線っぽいけど……?その視線を浴びた二人はというと、お母様は視線を逸らして逃げ、お父様は頭をポリポリと掻いて、衝撃の事実を告げた。
「あー……言うのを忘れてたんだ。……取り合えずお前達は今日から正式な婚約者なんだが、婚約者となった二人は、どちらかの家で同居するんだよ。でな……あー、アヤンたちは……用事があって、しばらくこの領地を離れることになっててな…。……悪いッ!伝え忘れてた!」
パンッと手を合わせて謝るお父様。
場に沈黙が落ちた。
モグモグモグモグモグモグ……
……舞彩が物を食べる音以外、だけど。
今日から新年ということで、皆さんhappy new year!
今年もこの小説をよろしくお願いします!