妹が幼馴染み
今までのに比べて長くなってます。妹ちゃんが色々残念な子になってます。
そもそもアリーとこっちの世界で会ったのは2歳のときーーつまり1年前。
お母様の友人に俺と同い年の子がいるってことで、その子供を連れて来たのが最初か。両親と使用人以外とは会ったことが無かった俺にとっては、すっごい緊張する出来事だったんだよなぁ……。
「初めまして、リアーミュウ君」
そう言って微笑んだお母様の友人とやらは、お母様には敵わないながらも、かなりの美人だった。長い茶髪を後ろで一纏めにして、黒が滲んだ茶色の瞳でこちらをじっと見てくる姿に、緊張も解けて不覚にも見惚れてしま……って違う!俺には舞彩がいるもん!そもそも人妻に見惚れたりしちゃダメ!
そんな風に自分に説教をしていると、女性の陰から小さい白い塊が突進して来た。
「……ぇ」
それが何なのかも確認することもできずに、その場に押し倒された。ズドンッと凄い音がして後ろに倒れる。その際にお母様達が驚いたように目を見開く様子が目に入った。
打ったんだろう。痛む頭を押さえながら、今だ自分の上に乗っているその白い物体を睨む。その白い髪の毛に隠れて顔は見えないけど、恐らく同じぐらいの年かな。そう観察しつつ、文句を言おうと口を開くーー
「いきなりなにす……」
「おにいちゃん!」
が、俺の言葉を止めたのは聞きなれた声……いや、イントネーションだった。
「……おにいちゃん」
「……ま…………まい……?」
恐る恐る尋ねると、目の前の白い髪の少女ーー舞彩は嬉しそうに微笑んだ。
「うん!ひさしぶり、おにいちゃん」
それは、顔形が変わってもやっぱり舞彩は舞彩だ、ということを実感させられる笑顔だった。俺のよく見知った笑顔……安心できる笑顔。つられるように俺も笑ったけど、いろんな感情が溢れだして涙ぐんていて、しっかり笑えてたか自信ない。
ちなみに、後日なんで顔も年も変わってるのに俺だって気づいたのか聞いてみると「愛の力だよ!」って、満面の笑顔で答えられた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ーーそれじゃあ行ってくるわね」
「「いってらっしゃぁい」」
この世界での舞彩の母親と一緒に出掛けるというお母様を見送り、改めて舞彩を眺める。
家の防犯については、魔術で結界を張っているから大抵のことは大丈夫らしい。それに使用人とお父様もいるしね。あ、そういえばこの世界には『鍵』という考えがない。魔術がある以上鍵なんかなくても問題ないんだろうけど……なんていうか魔術様々だね。
「……?お兄ちゃんどうしたの?」
「いや、やっぱり容姿が変わったなぁと思ってさ」
舞彩は髪の毛が黒から白銀になってたり、目の色は透明感のある青になってたり、と前世とはかなり変わっていた。まぁ顔立ちに関しては、まだ幼いからよくわかんないけど、整ってるのは分かる。
「そうだね……でもそれを言うならお兄ちゃんもじゃない?」
「まぁ、ね」
俺はといえば、大きく変わったのは目の色だろう。髪の毛は変わらず黒だけど、目の色は違う。かぎりなく赤に近い紫で、光の入り加減で赤にも紫にも見える。
「綺麗だなぁ……」
ベッドの上に座って伸ばしている俺の足、太ももにポスッと頭を乗せて、うっとりと呟く。
ってか……俺からすれば舞彩の目も綺麗なんだけどな。
光を反射してキラキラと耀く青い瞳。なんだったかなぁ、確か……
「……あ。ブルージルコン」
「へ?」
「んー……お前の目がね」
「何?ブルージーン?」
「…………何それ?」
「むしろ私が聞きたいよ!?」
惜しいのか惜しくないのか、微妙な間違いをする舞彩を暫くからかった後。拗ねてしまうと困るので、正解を伝える。
「ブルージルコンね」
「ブルージルコン?」
「そ。今のお前の目と同じような色してんの」
「へー……綺麗なの?」
「とっても」
へー……、と頻りに頷いている舞彩の目をもう1度見る。
「……うん」
何百種類とある宝石でも、人の目にピッタリの色なんて滅多に無いけど、俺が知ってるものの中ではそれが一番近い……気がする、かな?
「じゃあお兄ちゃんの目は……」
「んー?」
「……」
「あれ?おーい……?」
そう言ったっきり黙りこんでしまった。顔を覗き込むと何かを必死に考えてるーー思い出してる?
「うーん……なんだったかなぁ?ねぇ、お兄ちゃん」
「はい?何が?」
「あれぇ?思い出せない」
「何が……?」
何を思い出そうとしてんのか分かんないと、俺には何もできない。多分、目の色と宝石に関係すると思うんだけど。
「んー……ま、いっか!」
「……あ、そう」
良いんだ!?
勝手に自己完結してしまったことに内心ビックリしながらも置いておく。いっか、ニッコリとした笑顔でこちらを見てくる姿が可愛いし。
「だって綺麗なのは綺麗なんだから。それでいいの」
「ふーん……」
そんなもんか。
「リアム、アリー」
納得していると、扉が開いてお父様が入ってきた。視界の隅に、舞彩がピンっと背を伸ばすのが入って噴き出しそうになる。
「あ、おとうさま」
「ははは……アリー。そんなに緊張しなくても良い」
「だって……りょうしゅさまなんでしょ?おにいちゃんのおとうさま」
そう。舞彩の言う通りお父様はこの土地の領主。21歳と若いながらも子供の世話をして、領主の仕事をして、剣術の稽古して。忙しい毎日を送っている。
まぁ最初のはお母様や使用人が中心だし困らないと思うけど、領主の仕事がまぁ大変そうで……。毎日6時間ほど執務室にこもっては、書類と葛藤していて。尊敬するよ、本当に。
「まぁそうだが……息子の友人にまで、そんなに緊張されると悲しいな」
手近な椅子に腰掛けながらお父様が呟く。お父様やお母様、舞彩の両親は俺達と話すとき、大人を相手するのと同じように話す。普通なら3歳児でそれを理解すると気味悪がると思うんだけど……何故か彼らは全然気にする様子を見せない。
「ぅ……はい」
「まぁ良いさ。ところでお前ら暇か?」
「うん、まぁ」
「はい」
「よし、なら書斎に付き合え」
軽い調子で言われた言葉に、思わず舞彩と顔を見合わせる。
ついこの前、舞彩と2人で屋敷内の探検をした。3年間、この屋敷で過ごしてるといっても行ったことの無い部屋も多いから。その時に、書斎だけは入ろうとしても入れなかった。後になって知ったけど、書斎は魔術によって徹底管理されていて、魔力が照合されない限り入れないらしい。
俺はお父様に連れられて入ったことがあるけど、舞彩は無い。
あの書斎の凄さを見せてあげたかったなぁ……って思ってた矢先のこれだ。
「うん!」
「はーい!」
即答する。
さぁ舞彩!この屋敷の書斎の凄さを、とくとご覧あれ!!
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「わぁぁあぁぁあぁーー……」
「よく息続くね……」
書斎に移動して早10分。その圧倒的な本の量と威圧感に、舞彩の口は塞がらない。ずっと間抜け顔で天井……とくっついている本棚の数々を仰ぎ見ながら、息ともつかぬ声を吐き出している。
書斎は、円形の3階構造になっている。壁に本棚、部屋の中心に丸い本棚。ちょうど上から見たらドーナツのように見えるけど、壁際にある各階の細い通路から、真ん中の本棚を囲むようにある細い通路に橋が延びているから、どっちかって言ったら分けられたドーナツかな。
部屋の広さ的にはそこまでじゃないけど、高さのお陰で随分な大きさに見える。
お父様はいない。や……いるにはいるけど、書斎に入った瞬間に「部屋に帰るときは声をかけろ!」とだけ言って、必要な書物を持って奥の部屋に駆け込んでいった。速かったよ、本当に。
「凄い……」
「でしょー!」
舞彩の口からこぼれ落ちた言葉に俺がフン!と胸を張ると、やっと現実に戻ってきたアリーが苦笑いした。
「なんでお兄ちゃんが自慢げなの」
「良いの!俺の屋敷でもあるんだから!」
細かいことは気にしちゃダメ!
「えー?……あ、そういえば書斎に着いたら調べたいことがあったんだ」
「調べたいこと?」
「うん。あのね、お兄ちゃんのお母様……エリューラ様って『白犬族』なんだよね?」
「おん。お母様が言ってたし、実際に耳あるしね」
「何でお兄ちゃんには耳がないの?」
「……うーん?」
そういや何でなんだろ?今まで、それについて疑問に思ったことは少なくないけど……そんなもんか、で終わってたし。
周りを見渡してみる。
本の山がたくさん……なら。
「調べてみる?」
「うん!でも、あるのかな?」
「こんなに沢山あるんだし、1つぐらい関連書籍はあっても可笑しくないっしょ」
「確かに!」
感心したように言うけど大体、書斎に着いたらっつったのは舞彩なのに。いや……単にそこまで考えがなくって、学校の図書館みたいな感じを想像してたのかも。
そこまで考えて、大きさから何まで似ても似つかないな、と笑ってしまう。
「どうしたの?」
「んー?いやね……や、まぁ探そっか」
「……?うんっ」
あまりにも多すぎるから、手分けして探すことになった。舞彩が1階の円柱、俺が壁側を探す。高すぎて上の方まで見えないから、椅子をいちいち移動させないといけない。それでも見えないところが多いけど、続き物が多いから大丈夫っしょ。
「えーっと……種族……白犬族……」
「あったー?」
「いやー、無いね。お前は?」
「ううん、見当たらない」
「上の階かね」
「かなぁ?」
結局1階では見つからずに2階に上がる、と。
「あ。あったよ!お兄ちゃん!」
「お!マジで?」
「うん」
舞彩の手の中にあったのは、確かに『白犬族の謎』と書かれている本だった。
題名が安直すぎるのは置いといて……
「よし。ナイス、舞彩!」
「えへへ」
片手で本を受け取って、もう片方の手で舞彩の頭を撫でる。嬉しそうに笑う舞彩に、こっちまでほのぼのしてくる。
「何て書いてあるの?」
探すために持ってきていた椅子に座って、本を開く。興味深そうに舞彩が身を乗り出してきた。
「えっと……ちょっと待ってな」
「はーい」
右手をピンっと伸ばして『よい子の返事』をする舞彩に苦笑いしながらページをめくる。
「あったあった。このページだわ」
「……読めない」
「うん……要約すると、単純に子孫を残しにくい種族らしいね。80%の確率で生まれてすぐ亡くなっちゃったり、無事生まれて育ててても病気になっちゃったり。同じ種族同士だと子供ができにくくて、他の種族とだと白犬族の血が極端に薄くなる……?これか、俺は」
「じゃあ、お兄ちゃんは奇跡の子なんだ?」
「んー?あんま実感無いけど、稀少なのは確かなのかな?」
「凄いね!」
「そだね」
本当に凄い……。
生まれたときに、お母様が嬉しすぎて泣きそうになっていた理由がやっとわかった。
「じゃあさ、そもそも何で白犬族っていうの?」
「んー……?」
パラパラと本を捲って、名前の由来について書いてあるページを探す。
「あ、あった」
最初の方のページに載ってた。
「えーっと、白犬族は雪が多く降る地域に住む種族である。普段は髪の毛も耳も、尻尾も全て金色だったり黒色だったりするが、雪の中で戦うときは周りの風景に溶け込むために全て白色になる。雪が降っている時は基本白系の服を着るため、全身真っ白になる。そのため白犬族って呼ばれた……って書いてるよ」
「へー……じゃあ火山帯とかだったら、黒犬族とか赤犬族とかあるのかな?」
「さぁ?」
てか赤犬族って……なんか怖い。
「お兄ちゃん……」
「ん?」
さっきまで元気な声だったのが、急に何かを我慢するような声になったことを不思議に思って舞彩を見ると、頭を押さえて真っ青になっていた。
「舞彩……っ!?」
つい立ち上がった拍子に大量の本の山が目に入り、頭が痛そうにしている理由に思い当たる。答え合わせをしようと舞彩を見ると、青い顔色に合わないぐらいパッチリとした元気な目と目があった。
「……本に…酔った」
「……」
やっぱり、とは言えなかった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
神崎 舞彩はバカ。
と、言ってもこれは勉強に限るけど。前世の十数年の中で、テストは20点以上を取ったことが1度もないってだけだし。
それでも色々、本人なりに工夫はしていたけど……全部空回りしちゃったんだよね。
英語の成績を上げる!って言って一晩中、何の単語かも分かってない英文を流して寝て寝不足とか。
数学の勉強!って言って、そもそも掛け算で躓いたり。
国語の勉強!って言って、夕方から難しい本を読もうとして次の朝までぐっすりだったり。
etc...
「方法が極端すぎたんだよねぇ」
「え?何か言った?」
「いんや、何でもない」
「そう?」
お父様に断って、ここは俺の部屋。
無駄に広いベッドに二人並んで座り、俺は書斎から借りてきた本を、舞彩は部屋にある紙に絵を描いていた。
……ニヤニヤ笑いながら。
「さっきから何ニヤニヤと描いてんの?」
「えっとね、ちょっと待って……」
そう言われてから10分。
「できた!」
「ん~……」
「ね、ね。見て、お兄ちゃん!」
言われて顔をあげると、満面の笑みを浮かべた舞彩が紙を広げていた。
その紙を見て、思わず硬直する。
「……」
「これがお兄ちゃんで、こっちが私!」
「うん。まぁ、それは分かるけど……」
まぁ……舞彩が描いてたのは、俺と舞彩の姿。めっちゃ上手い。舞彩は勉強がからきしでも絵は凄く上手で、賞とかもたくさん取ってた。
この絵は無駄にその能力が使われてるな……。
でも……でも!
「なにこれ」
「結婚式!」
結婚式……うん、結婚式ね。それもまた分かるよ。お前、絵は上手いし凄いリアルに書かれてるから、一瞬だけ写真かと思ったし。それは置いといて、そりゃまあウエディングドレスっていったら結婚式しか無いけど……。
「なんで……なんで俺がドレス着てんの……っ!!?」
そう、結婚式の絵の中でドレスを着てるのは舞彩じゃなくて俺。男の、俺!
「え……だってお兄ちゃんの方がドレス似合いそうじゃん?」
……そんな当然のような顔して言わないで。
はい、最初とかなり内容が変わってしまいました。すみません。基本的な流れは変わってないと思うんですけど……。
とにかく、内容を楽しんでいただけたら幸いです。