一束
――木々を縫う風が心地よい、小鳥の囀りすら子守唄に聞こえる、暖かな木漏れ日は揺り篭のように……つまり眠いのだ。わざわざ俺が昼から出向くこともなかったのではないか? などと愚痴ったところで新人訓練が終わるでもなし……そういえば正午から三時間ほど新人共には狩りを続けさせているがどうなっただろうか? 上体を起こし、インベントリから双眼鏡を選び覗き込む。ふむ……デスや敵前逃亡をしたものが大半のなか、まだ五~六人がしぶとく残っているようだ。まぁこの程度篩にかければ問題はないだろう。手馴れた動作でメニューアイコンを呼び出し、エクイップからアヴァロンの鍵と表記されたアイテムをタッチする、サブアイコンに膨大な数の武具の固有名称が並んでいきそれをスクロールしていく。M40A3と表記されたアイテムを二回触れると目の前にアメリカ海兵隊御用達の狙撃銃が姿を現す。
「あ……どんな銃か気になる方はグーグル画像検索をご利用下さい。……メタいな。」
――カメラ目線でメタ発言をした直後とは思えないほど真面目な顔でスコープを覗き込む。狙うはゴブリンイーターと呼称される二メートルほどのやや大きめの花だ。まぁ花と言っても美しさなど欠片もない蓮コラもどきみたいなモンスターだ。ネームドモンスターだけあってここらのモンスターの五倍くらいは強いがその程度といったところだ。レティクルを花弁やや下方の茎の膨らんだ部分にあわせる、息を深く吸い込むと周囲に一瞬の静けさが広がる。
「それであれだけいたニューフェイスが三名にまで減ってしまったと?」
「最近の若いやつらは気合が足りとらんってことだな、うん。」
「百回デスペナ食らわせますよ?」
「このやたら白いのは茜、アカネなんていかにも赤そうなアカ名の癖にヒーラー装備のおかげで真っ白だ。ただしステータスはマジック、レジストを差し置いてストレングが高いと言う殴りヒーラーだ、おかげで戦闘後は名前のとおり鮮血で赤く染まっている。なんて恐ろしいやつだ……こんなやつを採用したやつ出てきて俺に謝れ。」
「最終判断はあなたが下したんですけどね。」
「こ、こいつ俺の考えてることを読みやがった?!」
「思いっきり口走ってましたよ。」
「なん……だと?!」
――このあと清楚系お姉さんアバターに摂関されることにちょっと目覚めかけたのは別の話だ。
「二人とも、ニューフェイスが困惑してるのでラブるんでしたら引っ込んでてくださいね。」
「「ラブってない!!」」
――盛大にハモってしまった。俺の威厳とかそうゆうのが損なわれていく気がする。
「この見るも怪しく、聞くも怪しい格好の危ないのがウチの参謀、樹だ。すべてのステータスをマジックに振ると言うマグ一強時代からのプレイヤーだがソロ活動に限界を感じ始めウチに来た食わせ物キャラだ。少し前に入ってきた恵というソーサラーの教育を押し付けていたので最近は姿が見えなくて安心していたというのに……殺気?!」
――後方で樹が召還した石像が大降りの斧を振りかぶり、マスターからのゴーサインを待っている。これ以上余計なことは言うまい、絶対に言うまい。
「とまぁ、これが俺たちアヴァロンのメンバーだ。タンク兼物理アタッカー兼団長の俺。マジックアタッカー兼参謀の樹。殺戮マシーン兼自称ヒーラーの茜。質問は?」
「殺戮マシーンとはどうゆう意味かしら?」
「まんまじゃないか、ストレングスが物理アタッカーである俺より高い茜さんや。」
「百回コロス。」