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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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日本への帰還

帰って来れたんだ……やっと、日本に帰って来れたんだ……。

星の見えない空、アスファルトで固められた大地。東京に住んでいた頃は息苦しくさえ感じる事もあったのに、今は涙が出る程懐かしく思えてくる。眠らない街の灯りが涙でにじんでいく。


「それで、これからどうするんだ?」

 ボルフ先生の言葉で我に帰る。俺の目的は日本に里帰りする事ではなく、アミの虫垂炎を治す事だ。


「ちょっと待って下さい。今、ダチに連絡しますので」

 スマホを取り出して、谷に電話を掛ける。

(メールも着信もなしか……なんか、寂しいな)

俺が居なくなって一分しか経っていなかったから、誰からも連絡が来ていないのは当たり前なんだけども、十数年異世界に行っていた身としては凄く寂しく感じてしまう。


「丈治、こんな夜中にどうした?悪いけど夜勤中だから長話は出来ないぞ」

 スマホから聞こえてきたのは、もう聞けないと思っていた友人の声。ジョージじゃなく丈治と呼ばれるのが堪らなく嬉しい。谷は夜勤か。これは運が良い。


「知り合いが腹痛で倒れたんだ。今から診てもらえるか?」

 零れ落ちそうになる涙をグッと堪えて、一気にまくしたてる。ちなみに、谷は素人が病気を決めつける事を嫌っているので、虫垂炎の事は伏せておく。


「腹痛で倒れただ?それなら今日の当番医の所に行け」

 至極まっとうな答えだ。谷は自分の患者の為に夜勤をしているのだから。


「ちょっと訳ありの外国人なんだよ。金は俺が払うから助けてくれ。頼む、お前だけが頼りなんだよ」

 これでもかってくらいに、必死に懇願してみる。谷を頼るのは医者としての腕が確かなのもあるが、身元不明の外国人を受け入れてくれる病院は中々ない。

受け入れてもらうには、保証人の信頼が大事だ。俺が保証人なら、谷が病院を説得してくれるだろう。


「……取り敢えず、病状を話してみろ。預かり金を持って来れば、診てやるから……虫垂炎の疑いがあるな。虫垂炎なら五十万は掛かると思うから、取り敢えず十万は持って来てくれ」

 良かった。これでアミを助ける事が出来る。安心した所為か、体中から力が抜けていく。同時になんとか、堪えていた涙腺が崩壊してしまった。


「あじがど。本当にあじがど……お前がダチで良がっだ。あじがどう」

 もう、涙声でぐたぐたである。


「おい、お前泣いてないか?良いから早く連れて来い。お前の知り合いなら、野郎だろ。病棟に連絡を入れとくぞ」

 溢れ出ていた涙が一気にとまる……俺の可愛いアミを野郎扱いだと……。

「うぉいっ‼アミは中一の可愛い女の子だぞ。男性患者と同じ部屋なんて、神が許しても俺が許さん」

 アミみたいな美少女は入院したら、病院中が色めき立ってしまうんだぞ。もし男性患者がいる部屋しか空いていないのなら、お兄様が二十四時間付添人(ガードマン)をするのが条件だ。


「中一の女子で、外国人だ⁉お前、やばい事しているんじゃないだろうな」

 確かに、日本にいた時の俺とは無縁過ぎる存在だ。異世界の妹と言うより、人身売買をしたって言った方が説得力あると思う。


「身内だよ、身内。名前はアミ・アコーギ。それじゃ頼むぞ……医者に連絡がついたので、動きます。大通りにあるコンビニで金を降ろした後に、タクシーを呼びますんで」

 説明をしといて、あれだけど異世界生まれの同行者達にはチンプンカンプンな内容だと思う。


「ジョージ様、あの山のように高い建物はなんですか⁉それに夜だと言うのに昼間のように明るいんですね‼あの信じられないような速さで走っている箱はマジックアイテムなのですか?」

 サンダ先生も一息つけたらしく、初めてみる大都会東京に興奮しまくりです。人間の姿に偽装したサンダ先生はプロレスラーなみにごつく、かなりの迫力がある。外国人の格闘家か軍人さんと言った感じである。


「あの建物はビルって言います。都心に行けばもっとでかいやつがありますよ。マジックアイテムじゃなく、自動車って機械です」

 高層ビルやエンジンの詳しい構造なんて説明出来ないから、大雑把に答える。


「ここがあんたの生まれた世界なんだね……大人の姿のあんたか……なんか、変な感じがするね……何でもないから見るな」

 カリナは何か誤魔化すようにプイッと向こうをみた。気のせいか、頬が赤くなっていた感じがする。

(カリナは耳と尻尾が見えなくなっただけか……こうして見ると、モデル顔負けの容姿をしているんだよな)

 しかも料理が上手く、気立てが良い。オリゾンに戻ったら、カリナの気持ちにきちんと向き合おう……そして、自分の気持ちにも、きちんと向き合おう。


「だーかーらー、アタイを見るなー‼……なんだい、普段は全然見てくれない癖に」

 まずい、さっきからときめきまくりである。カリナさん、おじさんドキドキが止まりません。


「ここがお兄様が本当にいるべき場所……ご、ごべんなざい。わだじが病気になっだぜいで、お兄様の夢をごわじだんでずね」

 アミは泣きながら、俺に謝ってきた。虫垂炎の痛みでも泣かなかったのに、俺が日本に戻れなくなった事を泣きながら謝っている。


「おれが自分で選んだんだから、気にするな。それと、こっちでお兄様って呼ぶのは禁止だ。丈治さんかおじさんで頼む。サンダ先生もオデットさんも様は付けないで下さい」

 リーマンが様付けで呼ばれるのは、客の時くらいだ。同行者から様付けで呼ばれていたら、違和感ありまくりで目立ってしまう。ボルフ先生とカリナに関しては、普段の言葉遣いで大丈夫だけど。


「私はお仕えしている家のお嬢様を丈治様に助けて頂いた事にしますので、様は外しません……それよりジョージ様、少しお酒をお控え下さい。足元がおぼついていませんよ。何かあったら、どうするのですか?」

 オデットさんの言う通り、今の俺は千鳥足である。でも、サラリーマンが取引先から注がれた酒を断るのはまずい……俺も、酒は嫌いじゃないし。

若い子に言っておく。ノミニケーションは大事なんだぞと。まあ、飲みの場を楽しめない奴は、こっちからお断りだけど。


「こっちの世界は、安全なので大丈夫ですよ。それじゃ、俺に付いて来て下さい」

  ……まじか。体が異常に重いし足元がフラフラする。運動不足によるメタボとアルコールのコンボが、こんなにも影響があるんだ。今さらながら中年太りだったんだなと実感してしまう。


(そりゃそうだよな。向こうの俺は毎日鍛錬をしていた十代の少年。こっちの俺は運動不足のメタボおじさん。しかも今日は空酒だったし)

 飲んでいた時は何も感じていなかったけど、いきなり酔っぱらった体に戻った身としては体の動きに自信が持てない。

 足元に気合を入れて、歩き出す。こっちの世界には魔物や夜盗はいないから、多少足元がおぼついていなくても大丈夫だと思う。

営業の田中、お前が変な事を言うから現実になったじゃないか。榕木丈治、三十五歳。ただ今三人組の少年達にからまれています。


「ジョージだ。本物のジョージがいるぞ」

 やんちゃな少年が、俺を見て嘲笑(わら)っている。ああ、ジョージだぞ。それが悪いかと、心の中で反論しておく。今の俺は貴族じゃなく、非力なサラリーマンだ。無用なトラブルは穏便に回避するのが一番だと思う。


「本当だ?キモっ」

 茶髪の女の子の顔にはありありと、侮蔑の表情が浮かんでいる。キモいおじさんだって、自分でも分かっているけど、地味に傷付くのでやめましょう。今の俺は大人だ。少年達の悪口はスルーしておく。

(待てよ、この状況使えるんじゃないか)

 今にも掴みかかろうとしているボルフ先生達を手で制して気付かれないように、スマホのボイスレコーダーを起動。

 

「マジだ。おじさんジョージだぜ。ジョージ、お前の家、金持ちなんだろ?俺達に分けてくれよ」

榕木さん、お疲れ様です。親爺狩りならぬジョージ狩りに合わないようにして下さいね……そんな田中の忠告も虚しく、見事にジョージ狩りにあっている。

田中のあの言葉は俺への心配もあるが、社員がトラブルに巻き込まれて、キミテの売り上げに響く事を心配していたのだろう。ジョージのモデルになった社員が少年に恐喝されたなんて、世間に知れたらマスコミが放っておかない。何かあるとゲームが悪いと言われるこの時代だ。おもしろおかしく書きたてられて、大バッシングに繋がってしまう危険性もある。

(ジョージ狩りにあって不安なので、辞職させて下さい。これなら辞表をすんなりと受け取ってもらえる筈)


「こんな遅い時間になにしているんだ?親御さんが心配しているぞ。さあ、早く帰りなさい」

まっとうな言葉であるが、少年達は怒りを感じるだろう。


「ジョージの癖に説教なんて生意気なんだよ」

案の定、一人の少年が俺に殴り掛かってきた。でも、その動きは無駄が多くかわすのは、たやすい筈……だった。運動不足+アルコールのコンボで、足元がもつれて、顔面にクリーンヒット。思わずうずくまってしまうと、二つの影が飛び出してきた。


「おい、餓鬼共……随分と楽しい事をしてくれるじゃねえか」

 ボルフ先生は俺を殴った少年に、顔が触れ合わんばかりの距離まで近づき睨みつけている。


「どうやら、お仕置きが必要なようですね」

仲間を助けようとした一人の少年の前にサンダ先生が壁のように立ちはだかり、じっと見下ろしている。ボルフ先生とサンダ先生に殺気の籠った目で睨まれた少年達は、ただ怯えているばかりだ。その目には涙すら浮かんでいる。

俺は彼等を情けないとは思わない。平和な日本に住んでいて殺気を感じる事はまずない。ましてや先生達は、幾つもの修羅場を潜りてきた戦いの玄人だ。それとオデットさん、素人の女の子をマジ睨みするのは止めましょう。茶髪の女の子は恐怖の余り、体をガタガタと震わせている。


「その辺で止めておきましょう。ここで時間を無駄にする訳にいきませんし……でも、無罪放免ってのもなんだから、名前と年、親が何の仕事をしているか言ってもらうよ」

 三人は高校生で、彼等の親は一流企業に勤めている事が分かった。そしてラッキーな事に、一人の親がうちの取引先の重役なのだ。


「分かりました。ジョージさ……ん、殴られた所は大丈夫ですか?痛むようでしたら、ジーオヒールを掛けますが」


「痛みはありますけど、このままで大丈夫です。さて、タクシーを呼びます」

ここで回復してしまったら、元も子もない。むしろ痕が残った方が、都合が良いのだ。


……まさかコンビニを楽園(パラダイス)に感じる日が来るとは。預かり金を降ろす為に入ったコンビニの品揃えに圧倒されていた。

(おにぎりがある‼インスタントラーメンもコーラもあるぞ。スナック菓子に鯖の水煮缶、納豆にチョコレート……全部喰いたい‼)

そう言えばコンビニで飯を買おうとしていたんだよな。あれだ、これは谷への差し入れだ。病院で買えない物もあると思う。


「おい、その子大丈夫か?病院に連れて行ってやるから早く乗せな」

 見ると親切なタクシー運転手が、オデットさんに声を掛けていた。


「ありがとうございます。今、同行者がお金を準備していますので、少し待っていただけますか」

オデットさんはそう言うと俺を見た。当然、コンビニの視線は俺に集中する訳で……何も買わずコンビニを後にした。

(あれ?オデットさん日本語が分かってなかったか?)

 

幸いな事に同じ会社のタクシーが近くにいたようで、二台に分かれて病院に向かっている。一台は俺とアミ・カリナが乗り、もう一台にはオデットさん・ボルフ先生・サンダ先生が乗っている。


「アミ、もう少しだから待ってろ。今、お……れのダチが治してくれるから」

 危うくお兄様と言いかけたのを俺と言い直す。兄妹だけど、俺とアミは似ていない。しかも今は年齢差が二十歳以上あるので、お兄様なんて言ったら、特殊な趣味の人にしか見られないと思う。アミは俺の目を見ると、弱々しく頷いた。きっと、声を出すのも辛いんだと思う。

 タクシーの中から谷に電話をしておいた事が幸いして、玄関前に待機していてくれた。


「良く我慢したね。もう大丈夫ですよ。患者をストレッチャーに移して……丈治、お前雰囲気が変わったな」

 そりゃそうだ、異世界で十三年間必死に戦ってきたんだから。




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[気になる点] ここまで楽しんで読んでたけど いきなり日本に行くってのはちょっと急展開すぎてついていけなかった
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